6月9日 撮影9日目



天気がかんばしくない。
昨日から雨の具合が心配され、2通りの予定表が配られていた。
晴れれば幕張の「鳥たちの丘」での、修と少女とのシーン、
雨が降れば車の走りを中心とした撮影。
幕張に到着しても雨はおさまらず、雨予定に決定した。

両天(りょうてん)
撮影スケジュールはクランク・イン前にはあらかた組まれており、その日その日の
撮影終了間際に翌日の予定がスタッフに配られる。
室内の撮影ではあまり影響しないが、外のロケーションでは天気が一番の心配事である。
もし、大雨になって撮影不可能の事態になっても、天気に左右されない撮影に変更できる
ように、晴れの場合と雨の場合の2通りの予定があらかじめ用意されることを、
両天にかけるという。「両方の天気」と「両天秤」と掛けたことばだろう。
ロケ場所や俳優さんのスケジュールをうまく組み合わせ、全体のスケジュールを組むのは、
チーフ助監督である。

夜には天気にかかわらず、ゴルフ練習場のロケの予定が組まれていた。
雨でもやらざるおえないのは、俳優さんの予定や、ロケ場所の都合があってのことだ。
しかも、借りているゴルフ練習場には時間制限があった。
夜7時から10時半まで。営業時間中である。
シーンの内容は、船水(田口トモロヲさん)がヒットマンに狙われ、修が撃たれるシーン。
ページ数にして2ページの、拳銃発砲有りのシーンを3時間半で撮影しなければならない。
機材の搬入などの時間を除くと、2時間ちょっとだ。



監督が芝居の段取り、カット割りを説明するのを耳をこらすように聞くスタッフ、俳優さん。
早く撮らなければならない気の焦りもあって、監督の頭も時々混乱しているようだった。

「どういう順番で撮ればいいの?」
「どうとでもどうぞ、順撮りでも大丈夫です」

順撮り
撮影の効率を良くするため、普通はそのシーンでの同じ向けのカメラアングルを、カットを抜いてまとめて
撮影する方法をとることが多い。
たとえば、全部で10カットあるとして、カット1とカット3が同じ方向であれば、カット2を抜かしてカット1の
次にカット3を撮るといったことである。
「カット1OK!ひとつ抜いて次カット3でーす」ってなことだ。
そうしないと、ライティングや美術のセッティングなどを、いちいち変えなければいけないからである。
しかし、芝居のつながりを考えたりして、順番に撮影していくことを順撮り(じゅんどり)と言う。

何度も同じ撮影場所に行かなくてもすむように、一日に同じ場所をまとめて撮影するところを、
シーン1からラストシーンまでを順番に撮ることも順撮りという。

今日の場合は時間制限が厳しく、大急ぎで撮影しなければならなかった。
効率がいいようにとは言っても、カットを抜かずに順撮りの方が早い場合もある。
そこで、全体のカット割りを考え、カメラがどういう方向に向いてもほぼライティングを変えずに
大丈夫なような方法でライトをセッティングした。

撮影は驚異的なスピードで進行したが、残り2カットというところで10時半を迎えた。
ありゃ?あー・・・・
駐車場の水銀灯と、練習場の電気が消えた。
営業時間終了のための消灯である。
「もうすぐなんだよ、あと30分なんとかならないのかな・・」
「もうすでに何度もお願いして伸ばしてもらってて・・今も撤収の最中ってことになってるんです」

あの水銀灯か・・・
水銀灯と同じような色をライトで作ることになった。
練習場の中の蛍光灯はどうにもならなかったが、予定の撮影はすべて撮り切ることができたのであった。