『夕立迷路・4』

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 何か変だった。
 蛇口から切れの悪い水滴がぽちゃんと篭った水音が鳴る中、向き合った形で神津君の腰に跨がった体勢のままゆっくりと舌を絡めあう。高校生同士ではラブホテルなど日常的に利用出来る筈もなく、こうして神津君と二人きりで入浴するのはあの遠足以来だった。しかも神津君は密着する体位があまり好きではなく…でもそういう事をするのだからそれなりの接触は当然あり、でも今日は何かが変だった。
 南国系らしい甘い濃密なバスバブルの香りの中、かすかな息が漏れる。挿入したままのものは積極的に動かないままでも十分に硬く猛々しいまま私を貫いていて、時折びくびくと動いて膣内をもどかしく擦りたてていた。少しぬるめの温度のお湯は身体を温めるには十分だけれど長湯するのにも問題がなく、ずっとこうして繋がったままお風呂に浸かっていても逆上せずに済んで…いや神津君ならのぼせていると評する状態かもしれない。うっとりとして、このままずっとこうしていたい。神津君に満足して貰わないといけないのに自ら腰を動かすと大切な空気が壊れてしまいそうで動けなくなってしまう。
 くちゃ。唾液の音までゆっくりとしていて、スローモーションの様に動く舌に神津君の舌の表面のざらつきがじわじわと伝わってくる。唇の端の薄い粘膜に感じるほんの少しだけ伸びかけた髭の感触…神津君も他の男子も男性なのだから髭は放っておけば生えて当然だし、そういう事の前に剃ってくれているのを見た事もあったけれど、何故だか少し肌に痛い髭の感触にぞくぞくとしてしまう。きっと私が髭を気にしているのを知れば即座に剃ってくれると思うけれど、でもそれすら惜しくて、何だろうか、異性として意識するよりももっと深い所で陶酔してしまっている。何だろうか。頭が回らなくて言葉が出てこないけれど最適な言葉がある気がする。
 貧弱な腕を神津君の首に回して、抱きしめると称するには少し絡め方の緩い体勢。病的の一歩手前な肉付きが足りない腕は見栄えが正直悪くて自分でも好きではなくて、バランスよく必要な所に肉がつけばいいのだけれど、どうすれば女の人らしい綺麗な身体になれるのか判らない。神津君は何も言わなくて、須藤君にはすぐに『もっと食え』と言われて、佐々木君は『そのままで十分いいんだから』と言われる身体。昇降口の彼女なら…とまた後ろ向きな思考をしかけて少し首を振る。
「どうした?」
 至近距離の神津君の問いに、唾液の糸が唇と唇の間に伸びた。堪らなく卑猥でぞくぞくと背筋がざわめく中、もっとはっきりと反応してしまう場所が神津君のモノを締め付けてしまい、かくんと身体が崩れそうになる。問いに答えないといけないのに、自分の中で解決法がない上に不愉快にさせてしまうであろう話をする事も出来ずに迷う頭の中が、神津君の軽い突き上げのたびに蕩けてしまう。まるで紅茶を吸った角砂糖が端から崩れて甘い塊がスプーンの底に溜まっていく様な、堪らない熱い疼きが身体の奥に満ちていく感覚に、気がつくと私は神津君の唇に唇を重ねていた。
 口の端の生えかけた髭の硬い感触。私をよく噛む滑らかな歯。いやらしい動きをしてくれる舌。少しミントの味の残る唾液。とても好きな声を囁いてくれる唇。すべて好き。
 唇に吸いついてちゅっと音が立つキスを繰り返すその下で、神津君の胸板と潰れる乳房の間で硬くなった乳首がくにくにと捏ね回される。神津君の腕が私の腰に添えられてぐっと引き寄せられると膣奥に傘の先端が押し付けられて圧迫感が増して、神津君と私の唾液にまみれた口で大きな声で喘いでしまう。神津君の性器は大きいから、抑え込まれると膣をみっちりと満たして更にその奥に突き入れられそうで怖くなるけれど、その逞しさはどこか野蛮で征服されているみたいで…ぞくぞくする。
 甲高いのに呂律の回っていない喘ぎ声が広い浴室に篭り、不定期な動きを繰り返す身体が波立たせる水音がばしゃばしゃと鳴り響く。結合部の周囲は私の愛液でぬるぬるとしていて、お湯の中でクリトリスや下腹部を神津君の体毛にゆらゆらと撫で回されてこそばゆい、でもそのすぐ奥の神津君のモノが一番圧倒的に気持ちいい。がくんがくんと跳ねてしまう身体は腰を押さえつけられているから小刻みに膣奥を突かれ続ける形になって、膣だけでなく尻肉も内腿も薄っぺらな腹筋もびくびく脈打って痙攣してしまう。
 じゅるっと神津君が私の唾液を強く啜る。高校生同士でこんな卑猥なセックスをするのは狡い。私ばかり繰り返し達してしまって、こんなに激しくしてくれているのに達してくれないのはもっと狡い…神津君が満足するまで我慢したくてもこれでは我慢出来ない。
「きて……っ、こうづくん…っしゃせえ、して…ぇ……っ…ぁぅ…んっ……」
 とろとろの唾液が顎を伝っていくけれど拭えなくて、でもそれさえいやらしくて気持ちよくてだらしなくて、神津君の手の中で腰がかくんかくん跳ねる。
「玲、中出ししての欲しい?」
 神津君が少し強く下唇を甘噛みしてから問いかけてくれた。至近距離からの声にうっとりしてしまう。
「はい…っ、ほしぃ……のっ…こうづくんの、あついの…ぉ……っなかでだしてっ、ぁっ、あっ…おしりぎゅってつかんじゃ…だめっ、いっちゃ……うっ」
 キツく瞳を閉じる端から滲んでいた涙が頬を伝っていく。硬く存在を主張する乳首がむず痒くて神津君に噛んで摘まんで吸って欲しくて、胸を彼の胸板に擦りつけて刺激を求めてしまうけれど、もっともっとぞくぞくしているのは当然深く繋がっている場所だった。
 硬い。神津君のモノは鰓も血管もとっても卑猥で、口で愛撫させて貰うだけでうっとりして達してしまいそうになる。それが今私の中でぎちぎちに満たして膣奥をキツく圧してその更に奥を刺激する…ピルを飲んで避妊しているのに、神津君の射精が子宮口に押し当ててのものなのが堪らなく嬉しくて恥ずかしい。他の人の射精とは違う特別なもの。しかも今日はこれから他の人に射精される事はない。
 ぐじゅぐじゅに蕩けている粘膜が波打って神津君のモノに絡み付いて、奥を強く打ちつける抽挿を妨げそうなくらいにぎゅっといやらしく締め付けるのに、お構いなしに激しく私の腰を前後に揺さぶってくれる。その逞しさに、お湯の中で腰の奥から脚の爪先まで細かな電気が走って、喘いで端から唾液が垂れる唇を神津君の口が塞ぎ、せわしなく激しく舌が絡み合い歯が擦れる獣みたいなキスに頭が弾ける。
 びくんびくんと小刻みに神津君のモノが射精間際の脈動を繰り返し、鰓が膣奥を擦りたて、肉付きの薄いお尻から窄まりの辺りに神津君の袋が何度も当たり、溢れる愛液のとろみがこそばゆいくらい滑らかに結合部を撫で回す。神津君とだけのセックス。神津君だけの射精。神津君だけの時間で、幸せで狂いそう。
 出すぞ、とキスを続けながら神津君に宣言されて、ぎゅっと首にしがみついてキスの邪魔になってしまうそうな勢いで小さく何度も頷く私の唇を神津君の歯が軽く噛む。次の瞬間、私の腰を抱え込む手が力強く根元へと引き寄せ、神津君の全身がびくんと大きく一度跳ねて凍り付き、そして膣内で何度も猛々しいモノが脈打ち熱い粘液を子宮口に迸らせた。
「はああああ…ぅくんっ」
 溢れた声を口で塞がれ、神津君の腕の中で太くて熱いモノの脈動に合わせる様に全身が痙攣する。みっちりと満たしきった膣の奥で受け止める精液には体外への逃げ場がなく、どくっと迸ったものは押し付けられている子宮口へ、その奥へ注がれていく。お湯よりも熱い粘液が神津君のモノより更に奥でねっとり広がって沁みていくのは想像なのか実際なのか、腰の奥がびくびくと震え続け、体内の温かさに誘われる様に意識がすぅっと溶けていく。
 折角の神津君との時間なのにもったいない、そう考える私の腰からそっと手が離れて、ゆっくりと身体が崩れてもたれかかってしまう中、神津君の口元が少しだけ微笑んでいる気がした。

 結局眠ったまま神津君にベッドに運んで貰った後、いつも通りに…いや他の人との交代がない分もあっていつもよりもかなりハードで濃厚なエッチを退出時間寸前まで満喫して、神津君は多分満足してくれた様だった。
「雨、止んだな」
 恐らくはホテルに入った後相当な本降りがあったのだろう、水はけがよい筈の路面に乾いている場所はなく、側溝を勢いよく流れていく水音がはっきりと響いていて、空気は雨のおかげか少しだけ温度が下がっているけれどかなり蒸し暑い。日が長くなっている為、まだ外は明るくて、そんな状況なのにずっといやらしい事に耽っていた気恥ずかしさに顔を上げられない。
「……。あまり俯くな。露骨に何かやった後みたいで俺の方が恥ずかしくなる」
「え!? あ、ご、ごめんなさい…っ」
 確かに商店街ならばまだしもラブホテルから出たばかりの場所で多分赤面して俯いていたらそのまま過ぎるかもしれない。慌てて顔を上げた私は、神津君のずっと後ろにいる人物に気づいて凍り付く。
「香取君……」
 『学習会』の面子の一人と言う認識ではあるものの、七人の内の一人と考えるには少し違和感を憶え始めている男子だった。ラブホテルの小さな出入り口の路地を抜けると公園があり、そのフェンスにもたれてポケットに手を入れたままにやりと嗤うその表情は、同級生の中でも人気が高い雅な顔立ちを酷薄なものに変えていた。
 私の呟きが聞こえたのか、神津君が振り向き、そして香取君の視線との間に身体を動かす。
「予想通りに時間いっぱいまで入ったね」
 親しげでありつつもどこか揶揄う様なその声音に私の全身から血の気が引き、直前までの幸せな感覚が一気に足元が崩れていきそうな不安に変わっていく。
「――で、何の用だ?」
 ラブホテルの出入り口付近で話すのも流石に躊躇われるのか、神津君が私の手首を強く握って公園の入口へと歩き出す。直前の俯くまいという状況は恐らくリセットされただろう、いや俯かずにいられるだけの強さが私にはなかった。神津君と二人きりでラブホテルに入ったのを学習会…私を共有している人達に見つかってしまうのはよくない状態だろう。須藤君や佐々木君は笑って許してくれそうだけれど……。
「次、俺にやらせてよ」
 公園に入ってすぐ聞こえた言葉は悪い予感が的中した形だった。
 学習会の人にも色々な性癖がある。佐々木君の道具好きを始め皆嗜好があるを感じる中、多数決的に避けてくれている性的嗜好が存在する。――私を傷つけない事を前提に皆扱ってくれていた。でもそれが性癖に一致してないかもしれない、いや、前提に合わない性癖を神津君や須藤君に諌められているのが、香取君だった。
 成績優秀なこのグループの中でも香取君は変わった人である。親御さんが地元の有力者とは聞いているけれど、四月に入ってすぐにあった学習会の為に親御さんの経営しているマンション暮らしを始めてそこを使おうという提案は、越境組でアパート住まいの須藤君ならばまだしも学生らしい慎ましさに欠けていて却下された。最初の頃は私への扱いも他の人達と同じだったけれど、徐々に変わっていったのも感じざるを得なかった。
 彼は、他の人達と違って同級生の女子を共有して性的な玩具の様に大切に扱う意識が薄い。
 彼は、性的な奴隷を手に入れたがっていた。
 キスマークなどは跡がしばらく残って困りはしてもやがては消えてくれるから傷とは異なる。でも、性器にピアスを施したい、本気で鞭打ちをしたい、というのは私にとっては絶対に許してほしい行為だった…いや少し違う。もしもそれを神津君が心底望んで神津君が行うのならば悩んで悩んで迷った末に頷いてしまうかもしれない、でも神津君以外…例えば須藤君でも佐々木君でも私は拒絶してしまうだろう。私に優しくしてくれる二人ですらそうであって、同級生でなくクラスに紛れ込んでいる性奴隷の様に私を見ているのを感じる香取君には身体を委ねたくなかった。でも、神津君達の仲間だからはっきりとは拒めずにいたし、神津君達も香取君の過度な要求をしっかり抑えさせてくれていた。
「もう帰らないといけない時間だ」
「じゃあ明日でもいいよ。槇原使える時間たっぷり貰える方がいいしね。――まさか自分はマンツーマンで使うのに他の人間には使わせないとか言わないよね?」
「使うとか言うな!」
 神津君の強い口調に泣きそうになる。今泣いたら困らせてしまう…私は神津君の彼女ではないし、確かにずれてきているけれど香取君がおかしな衝動に駆られる原因は私にもある自覚があった。同級生の男子の言いなり状態で性行為を許す女子なんて普通ではない。神津君しか私の気持ちを知らないから、いやらしい異常な行為が好きな女子相手だからかなり酷い事も出来ると他の人が期待してもおかしくはない。
 神津君が庇ってくれるだけで、奇跡みたいに感謝したい。でも女の子として、香取君と二人きりで淫らな事をするのは怖くて仕方ない…恐らく他の人がいなければ彼の歯止めは利かず、後で私が神津君達に言う事の出来ない事をされてしまうだろう。でも二人きりでラブホテルに入った秘密が他の人に広められれば神津君に迷惑をかけてしまう。
「――い…、いいの…私、平気……」
「槇原!」
 蚊の鳴く様な小さな声しか出せない私の言葉を、痛いくらいに手首を握り、鋭い声で神津君が止めた。
「槇原の方が賢いよ。神津、俺が何もしないでただぼーっと待ってたと思う?」
「香取…お前……」
「大丈夫、変わらず乱行は続けられるからさ。俺にも槇原の所有権譲ればいいだけの話で。槇原もOK出してるし、野暮はなしだろう?なぁ?」
 至近距離で聞こえた声に私は反射的に見上げ、そして携帯電話の液晶画面に映されている神津君と私の姿に気づいてしまう。ラブホテルの出入り口とはっきり判る背景に息が止まる。ラブホテルに入る時の画像なのが一目瞭然だった。香取君は神津君と私が休憩している間、退出時間を待っていたのだろうか、その時まさに神津君に独占して貰えていた私を次に思うがままに玩具にする為の脅迫材料を手にして。
「もっといい物で愉しませてやるよ。学生のお遊びが馬鹿らしくなるブツとかね、いい所連れていって須藤のより大きな黒人の二本刺しとかね。槇原みたいなタイプは珍しくてウケるだろうけれど今のままでは駄目だな…俺が連れるにはそれなりでないと」
 香取君の言っている言葉が判らず、いや聞こえているけれど理解が出来ず、どくどくと激しく脈打つ自分の鼓動に揺さぶられている感覚に襲われる。何故ここで黒人などという単語が出てくるのか、ウケるとはどういう事なのか、連れてどこに行こうと考えているのか、私をどうするのかを既に決めているかの様な口ぶりに、知っている同級生の皮を被った怪物が目の前にいるのではないかと思えてくる。
「香取…君……?」
「槇原、帰れ」
 香取君と私の間に神津君が身を割り込ませた。
「おいおい神津、お前は馬鹿じゃないと思っていたのに何だよ」
「……。けじめの問題だ。俺は槇原の管理担当であってお前の要求を認めるワケにはいかない。――槇原、今日は帰れ。いや須藤の所に行って家まで送って貰え」
「でも……」
「言う事を聞け。俺はこいつに話がある」
 遠くで雷が鳴っていた。蒸し暑い空気が重く、また夕立が降るかもしれない。私の手首を握っていた手が離れ、香取君と私の間に完全に神津君が入り込むけれど、庇って貰える安堵感よりも神津君に悪い事が起きそうな不安と罪悪感で、彼の言葉に頷く事が出来ない。このまま放っておけば喧嘩が始まりそうな予感は気のせいで済むのだろうか…でももし喧嘩になって香取君の保護者が騒いだとしたら神津君が咎められてしまう。香取君から異常なものを感じるからこそ、神津君を守りたかった。
「平気だから、私は大丈夫だから、神津君こそ早く帰って」
「玲。お前まで俺を怒らせるな。これは俺のミスだ」
「玲!いいな飼い主か彼氏みたいな呼び方……」
 神津君の怒りを感じた次の瞬間、その背中が素早く動いて打撃音が鳴り、続いて人が倒れる音がする。全身から血の気が更に引いていく。
 何で神津君が先に手を上げるなんて事をしてしまったのか、私のせいだと思っていても男の人の暴力が怖くて膝ががくがく震えてその場に崩れそうになってしまう。神津君にミスがあったとすれば何だろうか、香取君を止め切れない事か、私とラブホテルに入った事なのか。そんな事よりも神津君が先に手をあげてしまった事がショックであり、そして私には非常事態に思えた。
「駄目、暴力は駄目…っ、わ、私、従いますから…っ香取君に従いますから!」
 恐らく香取君は殴られた事を許さないだろう。私の扱いで神津君が怒りを抑えきれなかったのならば、それは私自身の問題でもあるから…頭が回らない、とにかく殴ってしまった神津君を私が守らないといけないとしか考えられない。
 香取君の怒りを解く方法は、私には一つしか思い浮かばなかった。

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