<<某月某日のメールより>>

 
第一種裸エプロン免許
 ・大特裸エプロン・・・・・・・・フリル付きやレース付きの機能よりも
                 見てくれ重視のエプロンが使えます。
                 割烹着や白衣もここになります。
 ・大型裸エプロン・・・・・・・・お腹の辺りに大きなポケットの付いた、
                 運搬機能も兼ね備えたエプロンが使えます。
 ・普通裸エプロン・・・・・・・・一般に用いられる殆どのエプロンが使えます
 ・普通裸エプロン(AT限定)・・止めヒモがマジックテープのものに限ります
 ・けん引裸エプロン・・・・・・・目を離せない子供などをヒモで繋げて使う
                 時に必要な免許です。
 ・大型二本止め裸エプロン・・・・前かけタイプでかつ総面積1200平方センチ
                 メートル以上のエプロン
 ・小型二本止め裸エプロン・・・・前かけタイプでかつ総面積1200平方センチ
                 メートル未満のエプロン

※第二種は営利を目的として裸エプロンを使用する場合に必要です。

裸エプロン使用法に基づく点数制度
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酒酔い裸エプロン                             15
麻薬等裸エプロン                             15
共同危険行為等禁止違反                       15
無免許裸エプロン                             12
大型裸エプロン無資格使用                     12
仮免許裸エプロン違反                         12
酒気帯び裸エプロン                            6
過労裸エプロン等                              6
無エプロン検エプロン使用                      6
無保険エプロン運行                            6
脈拍超過              50以上               12
                      30以上50未満        6
警察官現場指示違反                            2
警察官使用禁止制限違反                        2
騒音裸エプロン等                              2
キッチン等措置命令違反                        2
番号標表示義務違反                            2
保管場所法違反        ベッド使用              3
                      長時間放置              2
混雑緩和措置命令違反                          1

※6点で免停、15点で免取(初回時の場合)
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<<某月某日のメールより>>

 
 なんか、イロイロと考えているウチにこんな話を思いついた。
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純国産アメリカン・コミック「キャプテン・コア」設定資料

<<キャプテン・コアサイド>>
●ケン・オカザキ(19)
 アメリカ育ちの日本人。父も母も日本人。「アニメ」のコアなハートを持つ。
 12歳の時に父親が隠し持っていた「くりぃむレモンパート4、ポップチェ
 イサー」を間違って見て以来、ジャパニメーションに取り憑かれ、一人日本
 へ帰ってジャパニメーション漬けの毎日を送っていたトコロを見込まれ、マ
 スター・オブ・コアにコア・リングを授けられる。

●ショーン・ギブスン(20)
 アメリカ北部出身。「コミック」のコアハートを持つ。16歳の時、近所に
 済んでいた日本人の持っていた池上僚一の「フリーマン」でジャパン・ショッ
 クを受け以来ジャパンコミックに傾倒、父親から勘当同然に家を追い出され
 たのを機に来日、編集の仕事に携わって生活を送っている。同人誌即売会で
 脱水症状を起こし倒れていた所をマスター・オブ・コアに助けられ、その変
 わりに「文化」を守れとコア・リングを託された。因みに父親はバリバリの
 白人優位主義者。

●ジム・パーカー(19)
 イギリス人。「ゲーム」のコアなハートを持つ。14歳の時近所のコンピュー
 タオタクがやっていた「エンゲージ・エランズ」の職人彩色に見せられ、ゲー
 ムを理解したいが為に独学で日本語を勉強し没入、ギャルゲーのみならずジャ
 パニーズゲームに対して深く傾倒する事になった。発売日から手に入れるまで
 に時間差に耐えきれなくなり来日、ある日JR渋谷駅山手線ホームに張り出さ
 れた「踏みマルチ」を庇って通行人にもみくちゃにされている所をマスター・
 オブ・コアに助けられる。尊敬する人は渋谷●一。

●テッド・オールソン(21)
 陽気なプエルトリカン。「フィギュア」のコアなハートを持つ。元々造形師で
 あったが、たまたま見ていたテレビでワンフェスが紹介され、その中で自由闊
 達欲望の赴くままに作られた”健康的にえっちなエココ”に”フィギュアから
 登り立つ、自分の国のヤツらが作った物からは決して感じ得ない異様なノリ”
 を感じ、カルチャーショック。日本人の魂を学ばんと来日した。おかげでどっ
 ぷり日本人の精神に毒されている。

●キャプテン・コア
 ケンの「アニメ」、ジムの「ゲーム」、テッドの「フィギュア」、ショーンの
 「コミック」のそれぞれのコアなハートが一つに成ったときに誕生するスーパー
 ヒーロー。コアな世界を壊そうとする”悪人”達からコアな世界を救うのであ
 る。因みに上の4人はメインキャラクターであるが、あくまでもキャプテン・
 コアを呼び出すキーの役割しかないのである。

●マスター・オブ・コア
 謎の老人。正体は『濃ゆい世界』を築き上げてきた先人達の魂の集合体。いわ
 ば『濃ゆい世界』の意志である。彼自身は濃ゆい世界を見守るのが精一杯であ
 る為、キャプテン・コアを呼び出す(生み出す)事ができるコア・リングをキャ
 プテン・コアを生み出せる程の熱い魂を持ったケン達4人に託した。

<<登場予定の悪人達>>
●階示太郎(かい・しめたろう)
 転がし屋。値上がりしそうな同人やトレカを見つけると金に物を言わせて大人
 買いしまくり、それを暴利な値段で売りつける。彼にとってアイテムは金にな
 るかならないかだけが重要なのである。

●コレ・ハッキン
 婦人団体「子供を守る会」の会長。子供を守る会というのは自分たちの気に入
 らないものは全て悪い物だと決めつけ、この世から消し去ってしまおうという
 過激な団体である。彼女たちに理屈は通らない。感情論だけが全てなのだ。ち
 なみに一人息子はどーしようもないロクデナシ。

●林理(はやし・ことわり)
 倫理委員会の委員長。どんな悪人かは説明は不用か。
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キャプテン・コア呼び出しシーンはこんな感じ。
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 コア・リングを高く掲げる4人。
ケン  :「アニメ!」(←日本人発音)
テッド :「フィギュア!」(←やっぱり日本人発音)
ショーン:「コミック!」(←ぜったい日本人発音)
ジム  :「ゲーム!」(←なんでも日本人発音)
4人  :「 Come on! Captain Core!」
コア  :「HAHAHAHAHAHAHAHAHA!」

BAGOOON!(←パンチ)
敵   :「OOPS!」

BOOM!(←振り抜きパンチ)
敵   :「GUU・・・」

BOMB!(←目からビームで爆発)
敵   :「Ah!」
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小生的には凄くイけるんじゃないかと。

<<某月某日のメールより>>

 
 話は数日前に遡る。本町はいつもより少し遅く家を出た。その日発売
された新しいOS、”窓が二千枚”を買うためである。パソコンショッ
プというのは八百屋とか魚屋などに比べて開店が遅い。その為、いつも
通り出たのでは新宿で開店までの間どこかしらで時間を潰さなければな
らないからだ。と、言うのは口実で、ただ単に、
(今日は10時キッカリまでに会社入らなくてもいいしぃ、誰か証人が
いなければいけないワケじゃないしぃ。会社には午後から出るって昨日
言ってあるしぃ。はぁ〜ん、シ・ア・ワ・セ。)
 と布団でゴロゴロしていたらいつもより1時間余計に家に居てしまっ
たのだ。と言ってしまうと身も蓋もない。でも、これは、キミ達とボク
の間だけの秘密だ。
 ともかく、そんなワケで本町が新宿駅についた時、既にビックパソコ
ン館は来客体制を整え、”窓が二千枚”を買いに来るであろう多くの客
を待ちかまえていた。(尤も、恐らく製造元からのプッシュに店側が仕
方なしにキャンペーンをしていただけで、客はもとより店員もそんなに
フィーバーが起こるだろうとは思ってもいなかったのだが。)
 本町はそんな薄ら寒いキャンペーンを通り過ぎ店内に入った。無論、
目的は新OSであるが、他にもいろいろと見て回りたいものがあった
のである。それは、MP3プレイヤーだ。
 かねてより彼はMP3プレイヤーが欲しい、と考えていた。だが、暮
れにMDプレイヤーを買ってしまった彼にとって同じ目的で異メディア
なアイテムをもう一つ買う、という事の無意味さが分かりすぎるほど分
かりすぎていたので、どうしても最後の手が伸びなかったのである。だ
が、その前の休日、彼を訪ねてきた久が原哲朗という男が、そんな彼の
心底を見透かしたように彼に囁いたのだ。
「MP3プレイヤーなら、どんなに振っても音飛びしねぇぜ?そう、踊っ
ても、な。ヒヒヒヒヒ・・・・」
 その言葉に本町はハッとなった。久が原はまもなくスペースチャンネ
ル5のサウンドトラックCDが出ることを、そして、スペースチャンネ
ル5にハマッた本町がそれを買わずにおられず、買ったならば間違いな
く聞きながら踊ってしまう事を見抜いていたのである。
「ク・・・ひ、卑怯な・・・・。」
「卑怯?俺は別にダンナにMP3プレイヤーを買え、なんて言ってねぇ。
ただ、MP3プレイヤーの利点をちょっとしゃべっただけさ。ヒヒヒヒ。」
 久が原の下卑た笑いに本町信也はあからさまに嫌悪の念を浮かべた。
その反面、彼の言葉が彼の心に
(MP3プレイヤーなら踊っても音飛びしない・・・・。)
 という久が原の言葉が焼き付いてしまっていたのである。

 無論、店内に入った時も本町はMP3プレイヤーを買うつもりはなかっ
た。ただ、
(いつかは買うつもりだし、とりあえず値段だけでも。)
 と自分に言い聞かせて、それだけで素通りするだけのつもりだったのだ。
だが、いざ積み上げられたMP3プレイヤーを見ると、ナニやらどす黒い
衝動がわき起こり始めた。本町は思わず唾を飲み込んだ。
(1万8000円・・・・・・これなら。)
 そう考えて財布を手に取り、そこで我に返った本町はかぶりを振った。
(ダメだ。ここで買っては・・・・・今月の生活がぁっ!)
 衝動と抑制。心の中で二人の本町信也が戦っていた。永劫にも思える戦
い。しかし、突然衝動を司る本町信也がコクン、と力を抜いた。
(わかった。ならば、こうしよう。今日、俺は窓が二千枚の他にもいくつ
か買わなければならないものがあるはずだ。)
(うむ。会社から言付かってきたヤツだな。サウンド・カード3枚とFD
が80枚。)
(それを買って尚、財布に札だけで2万円残っていたら買うことにしよう
じゃないか。)
 抑制を司る本町信也は考える。
(会社の備品はここで幾ら買っても後で請求すれば帰ってくる金だ。そし
て、俺は今日買い入れる分を計算して金を下ろしてきた。だから、それら
を買ってしまえば2万は残らないはず・・・・。いいだろう。その話乗っ
た。)
 抑制を司る本町信也は衝動を司る本町信也に手を差し伸べた。握手を交
わす二人。だが、衝動を司る本町信也は知っていた。自分のの財布には昨
日銀行から金を下ろす以前から1万円以上の金額が入っていたのだ。だか
ら、それを合わせれば余裕で2万円は残るのである。
 要するにこの時点で既に本町信也はMP3プレイヤーを買うつもりになっ
ていたのである。

 さて、順繰りに会社の備品を買いそろえた本町信也は再び、MP3プレ
イヤー売場の前に立っていた。勝ち誇る衝動を司る自分。一応口惜しい顔
をしているが口の端に笑みがこぼれている抑制を司る自分。本町信也は、
(よし。)
 と決め込むと、財布に手を伸ばした。既に彼の心はMP3プレイヤーを
手にしている己が姿が映っている。
「いや、本町さん、凄いッス。男ッス。俺、カンドーっス。」
 と尊敬の目で本町を見る盟友、碑文谷信吾の姿があり、一歩離れた所で
は、
「フ。本町クン、今日のキミには負けたよ。素直におめでとう、と言わせ
てもらおう。」
 と髪を掻き上げてニヒルに笑う久が原の姿があった。そんな彼らに、
「いやいや、チミ達、そんな事はないヨ。これも運が良かったダケだよ。
アッハッハッハ。」
 と高笑いで優越感に浸る自分がいる。それは陶然とする程心地よい瞬間
だった。だが、財布の札入れを覗いた瞬間、抑制を司る本町信也も、衝動
を司る本町信也も、本町信也自身すら、髪の毛を逆立てて驚愕した。彼の
札入れには1万円札が一枚と千円札が2枚しか入っていなかったのである。
これではどう見立てても2万円あるとは言えない。
 瞬間、こめかみを電気みたいなものが貫いた。昨日の光景がスライド形
式で脳裏に映る。 
 早めに会社を出た自分。
 銀行で金を下ろす自分。
 山手線に乗る自分。
 恵比寿駅で降りる自分。
 エスカレーターに乗る自分。
 駅ビルのCD屋に入る自分。
 ソレを買う自分。
(あ・・・・アレ・・・・か?)
 麻痺した脳味噌が必死にそれだけを呟いた。本町信也が呟いたアレとは、
これもまた久が原哲朗に囁かれてついついソノ気になって買ってしまった
ゲームである。名称を『ルーマニア#203』という。本町信也は家に辿
り着いてからの自分を今ハッキリと思い出していた。そう。数万単位で金
を下ろした本町信也はその勢いでルーマニア#203を買った。そしてア
ジトに戻って早速プレイをし始めたのだが、面白いつまらない以前にただ
ネジタイヘイという男の私生活を覗き見ているという作業に彼自身の”間”
が持たず、1時間で「飽きた」と放り投げて煙草をふかしちゃったのであ
る。あまりと言えばあまりにアレなソフトだっただけに彼は買った事から
プレイした事まで全てを一切合切記憶から削除してしまっていたのである。
その時の衝動のツケが買うと決めたMP3プレイヤーを買えないという事
態になって現れたのであった。
(思えば・・・・あんなもの買う位なら後1万5千円足してMP3プレイ
ヤーを買った方がまだしもマシだった・・・・。)
 本町は、心の中で叫んだ。それは、電波を受信できる人間が受信すれば
ワケも分からずに涙がこぼれ落ちるほど、哀しくて苦しい、そしてナニよ
りも口惜しい叫びだったという。

<<某月某日のメールより>>

 
 その男はそれを見つめて呟いた。
「俺の人生、一番すべっちゃいけねぇ所がすべってる気がする・・・・。」

 そう。それは、一昨日の事だった。ちょっだけ、本当にちょっと気が向
いてその男はプレステに火を入れた。PC 版ではなく PS 版の ToHeart を
やりたい気分になったのだが。それが、午前1時位であっただろうか。

 それがまずかった。

 彼には悪い癖があり、ゲームにしろ何にしろ何かをやりはじめるとなか
なか踏ん切りを付けられずともすれば朝方まで、力尽きるまでやり続けて
しまうのである。
 現に彼は、PC 版 ToHeart 、PC 版 ToHeart、雫、痕、WhiteAlbum、そし
てこみっくパーティに至るまで、全てそれぞれを二日から五日の間にパー
フェクトクリアしてしまっている。この記録は定時帰りする事ができる様
な職業であれば決して無茶な期間ではないのであるが、彼の場合、職業柄
自宅に帰宅するのは専ら夜の11時を回ってからである。しかも、入浴や
ら何やらと済まさねばならない事もあったから、実際にマシンに火を入れ、
ゲームを開始するのは午前を回り1時近くなってからだ。朝10時に会社
に着く為には遅くとも9時には目を覚まさなければならない。結果として
都合8時間の”自由時間”が彼の手元に残るわけである。
 だが、ここで少し待ってほしい。この”自由時間”の内訳として睡眠時
間が入ってこなければならないはずだ。十分な睡眠時間を考えるなら、最
低でも6時間から6時間半はそれに当てなければなるまい。と、すればだ。
残る2時間から1時間半だけが彼に許されたゲーム時間と言える。
 にも関わらず、彼がそれらのゲームに興じた時の一日平均ゲーム時間は
凡そ5時間前後。睡眠時間とゲーム時間が完全に逆転しているのである。
『いやぁ。新聞屋がオレん家のポストに新聞を突っ込む音って凄く空しい、
乾いた音がするんだよ・・・・・。』
 彼は当時を振り返ってそう語る。私に言わせれば”彼は睡眠時間と一緒
に寿命を削っている。”としか思えない。

 ともかくも、そんな彼であるからその日も自ら地獄に堕ちた。彼が部屋
の電気を消したのが朝の8時。因みにその日の彼には会議が待っているた
め遅くとも8時半には目を覚まさなければならない。その結果(8時半か
ら彼の一日が始まった、とすれば。)その日を彼はあまり芳しくない気分
で始める事になった。彼は言う。
『ああ、でも、・・・・いや。あかりのエンディングを見れたから。』
 見れたからどうだと言うのか。満足なのか。それともどこかで止めてお
けば良かったのか。そう尋ねた私に対し、彼は苦笑するばかりで答えては
くれなかった。

 そんな状態で始まったのであるからして、一日中倦怠感が彼を襲うのも
当然である。眠気、というには酷すぎる瞼の重さ。指一本動かすのも気怠
い。そして、彼自身としては集中して仕事しているつもりでも改めて出来
を見れば少しも進んでいない仕事。肉体的、精神的に煮詰まった彼は、と
うとうキれた。
(今日はもう、もう嫌だ。仕事なんて面白くない。やりたくもない。今日
はサッサと帰ってしまおう。)
 幸い表から見る分には彼はすこぶる体調が悪く見える。それを彼は利用
した。
「いや、今日はなんかもー体調が悪くて。」
「ちょっと瞼が熱いんスよ。」
 そんなジャブを同僚達に与えて一所懸命早く帰れる複線を張った。そし
て、定時の6時半を時計が告げると会社を飛び出した。

 そんな彼にまた魔が差した。時刻と言えば午後7時まで後わずか。外を
歩けばまだどんな店も開いているのである。何より今から帰れば相当な自
由時間が彼を待っている。
(・・・・・ソルビアンカの第2巻でも買って帰るか・・・・・。)
 そんな事を思いついたのだ。更に最悪な事がある。実は今日、彼は銀行
へ行って当座の生活費として3万円を財布に下ろしたばかりだったのであ
る。

 そして、彼は自宅へと帰り着いた。鞄からソフマップとヨドバシカメラ
の袋を取りだし、机の上に並べてみる。更に袋からパッケージを取りだし、
商品を眺めてみる。そこで頭を抱えた。おかしい。何かがどこかで狂った。
そうとしか言いようがない。そう考えずにはいられない。何故なら、彼の
目の前におかれたそれは、彼が新宿で山手線を降りたときに考えていたソ
ルビアンカの第2巻ではなく、DVD 版 ToHeart 全7巻だったのだ。

 何故か。

 それを探るにはまず彼の足跡を追わねばなるまい。新宿で山手線を降り
た彼はそのままヨドバシカメラへと向かった。何故迷わずヨドバシカメラ
に足を運んだかと言えば、過日、彼が近所ではアニメのDVDを売っちゃ
いねぇ、と愚痴をこぼした時に、彼の友人である久が原哲朗がこんな風に
知恵を授けてくれたからだ。
「何?アニメでマッチョか?それなら、新宿のヨドバシに行くのがいいマッ
チョ。あそこなら何でもあるマッチョよ。ゲシシシシシ。」
 彼はその言葉を信じたのである。そして、ヨドバシカメラのDVDフロ
アは久が原哲朗が言った通り今まで見たことない程アニメ関連のDVDが
揃えてあることに感動を覚えた。そして、感動を頭を振って洗い流すと彼
は当初の目的であったソルビアンカ第2巻を探し始めた。
 ところが、3列あるアニメ関連の棚にソルビアンカの第2巻は置かれて
いなかった。
(何故ないのであろう?)
 そう疑問を抱いてはみたものの、無い物はない。彼は諦めて出口に向か
い始めて、ふと足下の棚に目がいった。なんとなく彼の見覚えのある絵が
パッケージに書かれていたからだ。それが ToHeart だった。
(ふぅん・・・もうこんなに出てるのか・・・・1、3、3、4、5、6、
7・・・・・全部で7巻か・・・・・・・・ん?)
 彼は立ち去りかけた ToHeart の棚をもう一度見た。確かに巻数分棚が
埋められているが、同じ絵柄の商品が2列を締めていたのだ。そこで気付
く。2巻がないのである。2巻がない代わりに3巻が2列しめているので
ある。それがまずかった。彼の中の”なんとなく悔しい・・・・”パワー
があふれ出たのである。暴発。ブラスター神光臨。いろいろと言い方はあ
るが、
 逆上した。
 それが一番正しい、と私は思う。

 その後の事を彼はあまり良く覚えていない。逆上した彼はヨドバシカメ
ラを飛び出しソフマップで1、2巻を購入し返す刀でヨドバシカメラに立
ち戻り残り5本を買った事だけはうっすらと覚えているらしい。
 彼の意識が再びはっきりとするのは、アジトに帰ってきた彼の手に ToHeart 
全巻の入った袋が握り締められ、その代わり財布の中の3万円とポイント
カード4000点が失われていた時である。
 歴史は if を否定するが、ここで会えて彼のために言いたい。もし。も
し彼のポイントカードに4000点も残っていなければ、彼は間違いなく
諦める道を選んだはずだ。何故なら3万円だけでは全てを揃えるのは不可
能であり、そうであると知ったならば彼は即座にオール・オア・ナッシン
グの精神で全てを放棄していたに違いないからだ。そう、全ては4000
点のポイントが決したのだ。

 彼は机の上に全巻を並べ満足する反面、虚しさを感じていた。
(もうすぐ30にもなろうという男が何をやっているのか。)
 勢いだけで3万円を吹き飛ばしてしまったのである。彼が頭を抱えたの
も当然の事であったろう。
 何とも言えない複雑な心境に表情がつられていく。満足、後悔、潔し、
そして不安。そう、彼の心の中で何かが引っかかっていた。今ここにいる
自分自身が信じられなくなった、そんな不安。揺らぐアイデンティティ。
彼は部屋の中をウロウロと歩き回った挙げ句、助けを求めた。受話器を手
に取り友人の久が原哲朗に電話をかけたのだ。
 3度のコール音の後久が原が出た。
「はい、久が原です。」
「あ、本町ですが。」
「ああ、本町さん。」
「・・・・・・ボクは、どうしたら良いのでしょうか?」
 彼は唐突にそう久が原に問いかけた。
「どうしたら・・・て、どうしたんですか?」
その声に緊張がある。本町の様子がおかしいのを察したのだ。
「・・・・いや、昨日寝てなくて、体調悪かったら定時で帰ってさ。で、
途中で、『あ、そうだ!ソルビアンカの2巻買おう!』と思ってヨドバシ
カメラ行ったんだけど・・・・・。」
「ええ。」
「何故かここにあるのは、ToHeart 全7巻なんだ・・・・・・。」
 時間にしてみればわずか数ミリ秒。そのわずかの間に久が原の頭の中で
緊張の糸がプッツンと途切れ、思考が吹っ飛び、次いで本町の真剣な様子
につい自分も真剣になっちまったバカらしさに呆れ、更にそんな事で電話
をかけてきた本町に呆れたのを彼は察した。久が原は殆ど即答でこう答え
ると今電話中だからと言って電話を切った。
「あんた、ヘンだよ。」
 本町はしばらく受話器から聞こえてくるツーツーツーという回線の切断
音を聞いていた。久が原に冷たくあしらわれたからではない。久が原のコ
メントにショックを受けたからだ。彼の体に、心に染み居る久が原の声。
彼はパチンと自分の膝を叩くと、表情を明るくした。
(我が意を得たり!)
 そう。久が原のコメントに彼が不安に思っていた事に対する全ての答え
があったのだ。
 彼自身、自分の行動に『ヘンだ』と考えてはいたのだが、我が事だけに
それを認める事ができず、それが故情緒不安定に陥ったのだ。だが、それ
を他人がズバリ口に出した事で彼は受け入れる事ができたのだ。満天の星
空に浮かんだ笑顔でキメした久が原に向かって彼はこう叫んだ。
「そうだよな、どー考えても、それはヘンだよな!うむ!」
 悩みが霧散し、スッキリとした心持ちで彼は買ってきた ToHeart を見
始めた。もはや彼の心に愁いはなかったという。

 その日、彼が全話を見終わり寝床に付いたのは午前4時だった事を付け
加えて彼の物語を閉じることにしよう。

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