斎堂館閣(軒庵)印

斎堂館閣(軒庵)印とは、まず「さいどうかんかく(けんあん)いん」とよみます。1でお話しした落款印の一種です。

まずこの印の説明に入る前に「雅号」についてお話ししたいと思います。書や絵を描く作家は大抵「雅号」というペンネームを持っていて、作品には本名よりもこの「雅号」を記すことがほとんどです。ではこの「雅号」とはいったいどのようなものでしょうか。お稽古ごとですと、お茶やお花など師範に進級したときに、自分の先生に「名前」を付けてもらう事があります。書や水墨画の世界でも、こういうことは良く行われていて、むしろ、「雅号とは先生につけていただくもの」と思われている方も多いとおもいます。実際、有名な方や自分の尊敬する人につけてもらう・・なんていうのも多く行われていて「誰が雅号をつけてくれたか」ということも一種ステイタスシンボルのようになっていることもすくなくありません。でも本来は「雅号」は自分の好きな格言や詩、人生観を現した言葉、そういったものから自由に自分で決めて名乗るものでもあります。ところで皆さんは雅号で「**斎」なんていう名前をきくことはありませんか?「富岡鉄斎」なんて有名ですよね。この「斎」っていったいなんでしょう。これはその人の住んでいる場所なんですね。「斎」「堂」「館」「閣」(「軒」「庵」)とはすべて建物を現しています。斎〜閣までの間に建物はだんだん大きくなっていきます。軒庵はかっこでくくってありますが、中国では「斎堂館閣印」といって「軒」「庵」はふくまないのでかっこでくくっておきました。日本でも「軒」「庵」というと中華料理の店やおそば屋さんの印象が強いですね。「斎」は書斎に代表されるように「小さい部屋」を意味します。このように、自分の書斎の名前(書斎や作品を作成するアトリエに風雅な呼び名をつけるというのは洋の東西をとわず良く行われていることです)をそのまま「雅号」として用いると言う人もいるわけです。こういった自分の住んでいる場所に特別の呼び名をつけて印にしたものを「斎堂館閣(軒庵)印」といいます。中国などでは、自分が名づけなくても、他人がその建物の特徴や土地の特徴をとらえてニックネームをつけて呼ぶ・・・それをそのまま印に彫ってしまう・・・なんてことも昔は多かったようです。

例としては・・・

靜賞 留香 万印 晩清 靜閑 芭蕉 などさまざまです。

この印の使用方法は落款印とおなじように雅号の下に押すだけということもありますが、雅号と自分の書斎の名前が違うときなど自分の雅号を彫った「落款印」と2つ組み合わせて使うこともあります。

たとえばわたしは「泉照」という雅号で書斎はないんですが、仮に「薔薇館」(そうびかん)という名前を自分の住まいにつけたとします。(あはは。趣味まるだし。仮に・・なんでご容赦!!)そうしたら「泉照」の印の下に「薔薇館」という印をおしたりします。こうして使用する印を「随款印」(ずいかんいん)とよびます。