第1講  生産管理は根本的に変わった

<生産管理が変わった背景>
製造業の管理業務で、その中核をなす「生産管理」は、アメリカのF.W.テーラーが時間研究(生産技術の2大基礎の一つ)を開始(1983年、明治16年)して以来、長い年月の間、時代の変革と共に考え方、技法、体系、仕組み、業務内容、処理のシステムなどが改革され組織内で培われてきた。
 特に近年では、わが国経済の構造的変革の過程、国際競争の激化(特にコスト競争)、ものづくり技術のデジタル化(コンピュータ処理化)、管理業務へのコンピュータとネットワーク技術の活用、さらに顧客重視の経営などで「生産管理」は経営レベルから現場の末端組織にいたるまで、根本的な改革を要する時代に直面している。
 さらに、今日IT(情報技術)時代の進展による経営環境と経営資源の変化に即して、コンピュータとネットワーク関連技術による「生産管理システム」の時代的な変革が急速に進展している。

<旧来型の生産管理が抱える問題>
 元来、生産管理は「もの作り」技術の経営や管理を支えるソフトウェア的な役割りを担っている。そのために、その時代々の製造業の経営環境に即して自らを変革していく「新しい意識」を組 織内に持ち続ける必要がある。
 旧来型の生産管理では、おおよそ次のような問題を抱えている。
  • 「作っても売れない」販売側と生産側とで責任の擦り合い
  • 納期遅れが慢性化している
  • 生産計画の変更が頻繁に行われる
  • お客のクレームが素早く製造の関係者に情報として伝わらない
  • 流通過程での製品在庫が把握できない
  • 在庫管理をしても在庫は低減しない、品切れの発生も多い
  • 部品在庫の残高が、実際と帳簿が一致しない品目が多い
  • 組立て工程で部品の欠品がしばしば出るが、部品在庫はいつも過剰気味である
  • 生産管理業務のオフイスでパソコンを使っているが、その割りには人手が多い。手作業の時と変わらない
  • 共通部品の使用先が的確に掴めない
  • 受注の製造指示から部品の調達手配までに多くの日数がかかる
  • 生産計画確定までに多くの日数がかかる
  • 工程別・負荷計画(山積み)は、小日程計画に役立つ情報ができない
  • 機械設備ごとのマシンコスト/時間が掴めない
  • 不良発生による損失金額が計算できない
  • 製品の工程別原価、組立てレベル別原価の計算ができない
  • MRPやかんばん方式だけが、生産管理だと信じている人は生産管理の別の世界を学習しない。そのために解決できる問題が迷路入りしているなど (あなたの会社での「問題」を点検してみて下さい。)


<生産管理は3階層から捉える>
 製造業での生産管理の発達過程を辿ると、次の3階層に分けて考えると、全体の機能を分か り易く捉えることができる。
 第1階層  生産技術(管理技術のこと)
 第2階層  生産管理(管理機能)
 第3階層  生産管理システム
 第1階層の生産技術は、時間研究、動作研究から歴史が始まっている。1883年(明治16年) からで、後日、長い年月を経て「IE」という分野を確立している。
 第2階層の生産管理は、製造工程の現場領域で生産技術の研究データをもとに、作業管理、 工程管理という管理機能が始まっている。
 第3階層の生産管理システムは、1903年(明治36年)に、テーラー式工場管理法という名で、 生産管理の全体機能をシステム化した一種のパッケージ的創作品が発表された。これが生  産管理システム第1号である。

<生産管理の3階層の時代的変遷>
 経営環境の時代的変遷と共に、3階層も変革をきたしてきた。特に、近年に至り従来の概念を 根底からゆるがす変革が行われている。
 第1階層レベルにおいては、フレキシブル生産システム、少人数の生産セル方式、CAD/CA M、トヨタ生産方式 など
 第2階層レベルにおいては、消費性向の多様化、製品寿命の短縮、納期の短縮、在庫ゼロへ の挑戦、消費者の品質評価の変化、業務機能の改革、国際標準規格の認証取得、など
 第3階層レベルにおいては、コンピュータとソフト機能の進展、ネットワーク・コンピューティング の普及、データベース・マネジメントソフトの進展、コンピュータ生産管理という分野の実用化、 パッケージソフトの機能実用化、Webコンピューティングの幕明け的な普及 など
 第3階層は、第2階層の生産管理の機能を組織全体が生産管理システムとして、日常業務で 運用していくためのものであるから、このレベルでの変革の是非によって、企業格差が明白  になると言わざるを得ない。
 そこで、新しい生産管理への挑戦は、何から始めたらよいだろうか。これは、経営者、管理者  、実務者など夫々の立場と職務によって異なるが、共通していえることは、次の3点である。
1) 組織の中での管理業務にシステム感覚をもつ(本書図3-5.1参照248頁)
2) 現場(製造とオフイス)を見る
3) 将来を見越して問題を掴む。
  問題があってあたりまえ、「問題なし」はおかしい

<生産管理システムの業務領域の変化>  
 コンピュータ生産管理は生産管理の第3階層(生産管理システム)として捉える必要があり、手作業業務を主体とした旧来の捉え方とは異なる。

「生産管理システムの業務領域」
  • 手順計画と部品表管理(設計部門との接合機能)
  • 生産計画、製造指示
  • 資材所要量計画
  • 負荷・日程計画
  • 材料・部品の在庫管理
  • 生産調達(内製、外製、購買)の手配と受け入れ管理
  • 現場の工程管理
  • 原価データの収集システム
  • 営業と製品の物的流通部門との接合機能
上記の領域を更に大きくまとめると、次の4つの領域になる。
1. 生産管理の計画
2. 生産調達と在庫管理
3. 実績収集と現場コントロール
4. 営業と物的流通との接合機能
   (本書 3部第5章 トータルアプローチの仕方参照)

<コンピュータ生産管理は現状の改革から>
 コピュータという大道具(今日では経営戦略的)の組織内での使い方(適用)と組織運用の考え方を的確に認識することから始まる。
 もう片方の道は、生産管理とはなにか、管理業務のありかたについて、その基礎を見直すことである。特にこの基礎は経営の戦略としての視野から見直す。
 このニつの道が一本に融合する時、マネジメントウェアという発想が確立する。発想転換ができると、組織内の現状を見る目が変ってくる。例えば、幾つかの疑問を掲げてみよう。

* なぜ、この仕事が必要なのか
* なぜ、手作業でやっているのか
* なぜ、関連する業務がばらばらに分断しているのか
* なぜ、こういう仕事が出来ないのか
* なぜ、こういう問題が解決できないか
* なぜ、管理コストがもっと低減できないのか

したがって、旧来の生産管理の現状をコピーするかの如く、コンピュータ処理に移行する考えは過ちである。変化するのが当たり前で、その変化が適切であれば改革が実現したことになる。
 ここで注意すべきことは、大道具を使う処理システムは、単一業務の機械化ではなく、関連業務の流れを一括してシステム化することがポイントである。これがコンピュータ生産管理の機能を発揮す
る基本である。

         ----- 第1講 おわり -----