第4講 「ボトルネック」という課題(昔と今日)

<停滞分析で登場したボトルネック>
 「ボトルネック」ということばは、昭和23年(1948)日本能率学校(産能短大の前身)に、ある工場から派遣されて通っていた当時、工程研究(生産技術の分野)の先生からの講義で聞いたのが始めてであった。この工程研究の技法の中に「停滞分析」という細部分析があり、ここでの講義で「ボトルネック」の話が出てきた。テキストは、「工程研究」23年5月、日本能率協会発行。
 そもそも、BOTTLE・NECKとは、細く絞ってあるビンの首のことで、流れがそこで詰まる状態を表現している。
 ある加工物(ワーク)の工程系列(第1工程から最終工程まで)のなかでボトルネックのような状態が生じると、最終のアウトプットは、ネックとなっていた工程の生産能力で制限される。これがボトルネック問題である。
 停滞分析では、ワークの工程間の移動(流れ)を追跡して、工程間に停滞するワークの数量を調べ、その多少如何でネック工程の有無とその所在を見つける。そして、ネック工程の解決法や、或いは、ネック工程の稼働率最大化を研究する。

<ネック工程を把握する3項目>
 次に、生産管理法の講義では工程計画という領域がある。ここでは、「余力」ということばが出でくる。生産能力−負荷(作業量)が余力である。能力以上に負荷がかかると、その過剰分だけ作業日程が延びてしまう。したがって、この工程では停滞品が多く発生する。また、負荷が能力に満たない工程では、作業待ち時間が発生して稼働率が低くなる。
 製造側としては、どの工程も余力=0(負荷率100%)でありたい。しかし、現実問題として種々の困難な条件に遭遇する。その条件の厳しい生産形態が受注生産である。お客との取引で受注品目、数量、納期などが決まるからである。その結果、当然のことながら製造側の都合の良いような負荷の平準化は望めない。
 そこで、生産管理の仕組み、機能、手法などが、どうこの問題に計画の段階で対処でき得るかである。先ず、ネック工程を次の基本的な3項目で把握する。
  1. どの工程がネックになるだろうか
  2. そのネックは「いつ」から「いつ」までか
  3. 何が(製造品目、製造番号など)ネックの原因か
計画の段階で上記3項目を把握するとなると、さきの停滞分析の手法では不可能である。工程計画の「余力」という考え方による手法がより適切になる。この手法の代表的な作品が「ガントチャート」である。
 「ガントチャート」は、F.W.テーラーの高弟であったH.L.ガントが考案して1903年(明治36年)に発表した歴史的な作品である。
この手法を用いて、機械別余力表とか作業者別余力表を作って、この問題に対処していく。ここでは、ガントチャートの基本原理は紙面の都合で割愛させてもらう。 (本書 図2-4.3 参照)
 製造品目の市場が多様化ニーズの時代になってくると、手作りの
ガントチャートが作成困難になり、また、作っても価値のある情報ではなくなってしまい、自然のうちにガントチャートはその名前だけが残り、本物を運用している所は極めて少なくなった。

<システム導入の前に整備すべきこと>
 生産管理にコンピュータを活用するインフラが整備され始めると、電子ガントチャートの開発に挑戦する企業が多く現れたようだが、現場の実用に値するものはなかった。
 その後、コンピュータと基本ソフトのインフラが向上して、生産管理システムをコンピュータ処理ベースで開発できる時代が訪れた。
ハードはパソコン、基本ソフトはMS-DOS(Ver.3.3)、プログラム言語はリレーショナル・データベース機能を備えた高級言語の使用である。生産管理ソフト開発の専門業者(S社)では、その機に応じて「工程別・日程と負荷計画システム」を開発・実用化し、1988年(平成元年)1月に発表した。 (本書 図2-4.4 参照)
 このシステムを導入し、運用する企業は、次の基本的事項を整備することがポイントである。
1. 各工程の生産能力を科学的手法を用いて査定する
1日の正味作業時間(手作業主体の工程)
1日の正味機械稼動時間(機械主体の工程)
2. 部品加工工程では、「部品工程表」を整備する
部品品番 工程記号(コード) 工程名 工程順番
使用機械 段取り時間 単位数量当りの加工時間 など
3. 組立て工程では、「組立て工程表」を整備する
4. ネック工程の解決策を工程管理の関係者でよく協議しておく。
解決策はシステム運用側の現状改革の課題である
5. 根本的な改革は、生産能力は固定的であるという概念を、受注負荷の時系列な変動に応じて生産能力も弾力的に変動させるという制度と仕組みを工夫することである

<図の説明> □は一日の生産能力の20%相当の負荷を表し、同時に日程計画を表す。
   (一日の生産能力を5等分した)
  この図での「ネック」は、工程:PS−123、日程:4/3から4/7まで、特に負荷率:320    265 265 218。対象となる製番は 890411-03と 890320-02 である。
(後書き)「ザ・ゴール」という翻訳本はTOC(制約条件の理論)という名前をつけてその基本原理を小説にして紹介しています。
 その中に「ボトルネック工程」という課題が出てきましたので、本講は私なりの経験でこれを別の視点から取り上げました。

        ----- 第4講 おわり -----