はじめに

 29才の秋、過労がもとで肺結核を患ったが、長期自宅療養(内科療法)の甲斐があって、3年ほど苦しい生活の中で、幸い健康を取り戻した。それ以来、医学的な健康に気を付け、病気らしい病気ひとつせず、食べ過ぎたときに胃散の薬を飲む程度で、タバコは若いときから吸わない、年一回の定期検診でも、再発の兆しはなく血圧の下が92ぐらいで、少し高いと言われる程度で、30代後半から一人前の健康な日々を送ってきた。
 ところが、加齢とともに、からだの主要部品(五臓六腑と血管など)は本人が気がつかないうちに徐々に老化していく、早い人は50という坂、次いで、60という坂、70という坂はとくにきびしい。私もこの坂で思いもよらない、またも、大きな挫折を味わった。
 73才の夏に、腹部大動脈瘤の手術で4週間、同じ年の秋に、腸閉塞の手術で7週間、75才の夏に、腸閉塞の再発手術と術後・腸管の破れによる腹膜炎の開腹手術で、7ヶ月という長期間、入院生活を送った。腹膜炎で四回目の腹切りのときは、これで寿命も終りかと観念したが、医師が辛抱強く、適切な処置を続けてくれたお蔭で、寿命を延ばすことが出来た。
 本書は、四年間にわたる四回の腹切り体験を通じて、自宅生活で起こった病気の前ぶれ症状のこと、病院や医師との出会い、ナース(看護師)のこと、同じ病室の仲間のこと、医療処置のこと、新聞報道による医療ミス(事故)を防ぐための私見、看護実習生と食事療法を勉強し合ったこと、さらに仕事のことなど、苦しんだり、聞いたり、見たり、感じたり、学んだり、考えたり、したことを、私自身の再発防止(血管と腸管)と、生き方を変えた人生を追求するユニークな闘病記のつもりで書いたものである。加齢が進む年代の方々の「転ばぬ先の杖」として参考にしてほしい。
 とくに、第六編は「患者が求める医療」と題して私見をまとめた。
昨今、医療ミスや医療事故が明るみに出て、テレビや新聞により報道される。私自身も、町の消化器専門医で「腸閉塞の疑いあり」と診断された矢先に、胃のレントゲン検査に「バリウム」を飲まされた。結果はバリウムが小腸内で固まり、完全に腸閉塞になってしまった。また入院中に鼻から小腸まで挿入(2メートル60センチ)してあるイレウス管(腸閉塞に使う細い管)を抜き取る際に、管の先端部分5センチが折れて、小腸内に残ってしまった。幸い日数をかけてやっと、肛門から排出できた。
 こうした体験などを踏まえて、患者が求める医療とは、を記した。この編は医療に従事する関係者に、是非一読してもらいたい。

 (注)文中で「ナース」とは看護婦のことで、正式には看護師と呼ぶが、入院した病棟では「看護婦さん」と呼び、看護師さんと呼ぶ患者はひとりもいなかった。全員が女性の看護師なので、そこで本文では「ナース」と呼ぶことにした。


   平成16年(2004)1月
                     篠 康太郎

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