地球を偲う
- 硝子越しに見えるのは、蒼い地球。ノインはそっと指でなぞった。
- サンクキングダムが崩壊して、宇宙にきて数日。あんなにも憧れていた宇宙にいて、今は地球の事を考えている。それは不思議な事だった。
- いや、それ以上に不思議なことは、自分が今、宇宙にいることかも知れない。
- ゼクスの代わりにリリーナ様を護ろうと思い、自分は彼女の側に付いていた筈だった。ならば自分は、武器を捨てロームフェラ財団に、リリーナ様を護る為に走っていってもいい筈だった。
- そうすれば、リリーナ様のお役に少しでも立てるかも知れない。敵しかいないより、近くに味方がいるという精神的な支えになるに違いない。
- ノインはふっと息を吐いた。
・・・・ゼクス、それでも私は今、宇宙にいるんです。
- 自分はガンダムの操縦者と共にいる。出会いから考えれば、それは不思議な事だった。ガンダムの操縦者達とは決して相容れる事はないだろうと密やかに思っていた。
- これはリリーナ様の為だと。リリーナ様を護る為、しいては、ゼクスの為だと思ってきた。
・・・・ところがだ。
- 今は、カトルと共に、理想を追おうとしている。平和な世界を追おうとしている。
- そう、ガンダムの操縦者とではなく、カトルと共に行こうとしている。
- 何時からだろう。
- リリーナ様の意見に逆らってまで、武力を持とうと思ったのは。
- 何故だろう。
- リリーナ様の側にいるより、カトルの側にいる事が多くなったのは。
- リリーナ様よりカトルに・・・・共感する様になったのは。
- リリーナ様は、強い・・・・一人で戦って行けるほど。
- 同じ位、カトルも強い・・・・哀れに思えるほど。
- 自分の過ちを直視し、尚、前に進んでいける。戦いに嫌悪を抱きながら、それでも心を殺さぬまま戦っていける。
- 些細な事で傷つく彼は、周りから見れば、脆く見えるかもしれない。だが、それは強さからくる脆さだった。心を殺さないまま戦える彼の、強さ故の脆さだった。逃げ出せればよいのにと思ってしまう程、彼は強い。
- だからこそ、哀しい。
- だからこそ、共に行きたいと思わせるのだ。側で護って上げたいと思わせるのだ。
・・・・ゼクス。この想いは何というものだろう。貴方への想いとは余りにも違う。
- 士官学校時代、わざと二位に甘んじていた。貴方を護る為なら、何でもできると思っていた。何でもしようと思っていた。貴方を傷つける全てのものから、貴方を護りたいと思っていた。
- 私は、貴方を見くびっていたのかも知れない。貴方は、私の腕で護られなくてはならない、存在だと思っていた。
- しかし、私はリリーナ様を、カトルを立てようとは思わない。
- 彼らを護りたいと思っても、自分を抑えようとは思わなかった。
- 彼らを、どれほど脆い、危うい存在だと思っていても、全てから身を楯にして護りたいとは思わない。
- 強いていうなら、見守りたいのだろう。そして、共に自分の道を歩いて行きたいと思っているのだ。
・・・・ゼクス、貴方を思っているのは、今でも変わりはないのに。
・・・・ゼクス、例え貴方と・・・
「ノインさん」
- 静かに囁かれた声に振り向くと、其処にはカトルが立っていた。にっこりと少し憂いの含んだ笑顔を浮かべている。
- ノインはふっと顔を和ませた。何時から其処に立っていたのかは判らない。だが、カトルは見たのだろう。ノインが地球を睨むように凝視していたのを。視線がより強くなるのを感じて声をかけた。そんな雰囲気だった。
「食事、出来たそうです・・・後になさいますか」
「そうだな。皆、揃っているんだろ。今、行く」
- にっこりと笑ってノインは告げた。カトルはノインの向こう側の地球を見やる。
「綺麗ですね、地球は」
「ああ・・・私は地球を愛してる」
- それを聞いて、カトルは満面の笑みを浮かべた。
ノインは肩を竦めた。これは、やはり先程、地球を睨んでいたのを見られていたとしか思えない。
- カトルはノインの横に並んで真剣な面もちで地球をみた。
「僕もです。僕も、宇宙を・・・地球を愛してます」
- 蒼い地球。両手で抱える程の大きな地球。その地球が、かすんだ。
- 蒼い美しい地球が。
・・・・ゼクス、私は見つけてしまった。私の道を・・・みつけてしまったんです。