映画2003

今年見た映画を星五つでお薦めしていきます。
可もなく不可もなくが星二つくらいの目安です。


【13】
カムイの剣
☆☆☆☆☆

りんたろう監督の角川アニメ大作。
何度見ても良い。
どうやってこんな映像を考えたんだろうというイメージ豊かな場面場面。
理屈では作れない、狂気や情熱の暴走が生み出したとしか思えない抽象表現。
それでいて基本はしっかりと守られているため、見ていて混乱することはない。
いやむしろ、この映像の先鋭性にも気づかないで鑑賞することが出来る。
現在、過多にリアル指向を強めるアニメーション。
リアルとは、映像がリアルという意味ではないのだ。
映像を見ることによって体感できる感触がリアルであるべきなのだ。
今作を見ればこの言葉の意味が痛い程良く分かるだろう。


【12】
カウボーイ・ビパップ
☆☆☆☆

安心して見られる作画レベル。
描きたいイメージのために使用されるCG効果。
圧倒的にイカす音楽。
30分でしっかりまとまったシナリオ。
次世代アニメのクオリティスタンダードを確立したといって良い作品。
特筆は音楽で、管野よう子の音楽は毎回違った方向性を示し(これは
作品そのものが目指した指向なのだろうが)、シリアスからコミカルまで死角無し。
オープニングは近年アニメ最高の出来だと確信する。音楽とそれにあったセンスの良い映像。
本編でもその感触は強く、良い音楽と良い映像がお互いを引き立てあって作品の質を高みへ導いている。
惜しむらくは各回内容により(基本的には全て水準を越えてはいるが)クオリティの差が大きい点。
心に残らない回は本当に心に残らない。
もっとも好きな回は宇宙エイリアン物。
クラシックに合わせた無重力シーンが素晴らしく美しいのに、ばかばかしいお話というギャップが小気味よい。


【11】
戦闘妖精雪風-VOL2-
☆☆

前作に続き、憤懣やるかたない。
「ホモっぽい」とか「意味が分からない」とか、色々言われたであろうに
まったく方針を変えないのはある意味立派だと思う。
その覚悟に価値があるかどうかは別として。
とにかく今度は心構えが出来ていたので、比較的平穏に見ることが出来た。
至った結論。
この映像は「挿し絵」である。
小説の一場面一場面、印象的な場面を細切れに映像化しているのだ。
そこには場面と場面のつながりによって物語ろうという意識はない。
挿し絵だけを連続で見ても意味が分からないのとちょうど同じだ。
そう考えてみると、美しく迫力ある映像は原作を力強く補佐する物と捉えることもできる。
なかなかわるくない。
すると邪魔になるのが、アニメオリジナルの登場人物達である。零はじめ全ての登場人物が、
原作とは大違いのイメージで描かれているのだから、これはもうアニメオリジナルといって差し支えあるまい。
彼らのやることなすことが寒い。感情移入などちっとも出来ない彼らがハイテンションな台詞を吐くたび、
見てるこちらは赤面物である。
どうぞ以降はオリジナル性を諦めて、挿し絵に徹して欲しい。
もしくは、登場人物の台詞を一切なくすことだ。


【10】
13人の怒れる男   テレビ
☆☆☆☆

名作だと名高い本作、ようやく見る機会を得た。
圧巻なのは舞台が一つの部屋に限定されているということ。
元々舞台劇らしいので当然といえば当然だが、映画には映画の文法があり、容易なことではない。
今作は上記の制約を非常に上手く使っていて、密室の圧迫感と議論の煮詰まりが
限られた空間によって強調されている。
何も事情の分からない冒頭から徐々に背景説明、そして議論の進展と、
興味を引き続ける物語の展開がまったく退屈させない。
見終わったあとの満足感とともに、名作である。


【9】
クレヨンしんちゃん〜モーレツ大人帝国の逆襲〜   DVD
☆☆☆

クレヨンしんちゃんは好きでないが、これはおもしろい。
ノスタルジィの喚起を武器に大人を支配する帝国。
昔は良かったと振り返る大人と、無謀に前進していく子供。
どちらが正しいというのではなく、大人と子供の大きな違いを闘いの動機に仕上げている。
おもしろいと思うのは、おそらくこの種の子供向け映画を見に行くのだろう親と子供のそれぞれが、
それぞれに楽しめる内容だということ。
かつての名作物、例えば「母をたずねて三千里」や「家なき子」のように
年齢に応じた理解で物語を楽しめる感覚を久しぶりに味わいました。
それは物語が真摯に作られているということの証明なのだと思う。
今作を「クレヨンしんちゃんの世界観を借りた暴走物」とするなら、
うる星やつらの「ビューティフルドリーマー」に近いかもしれない。
しかし口汚く好き勝手なやっかいな子供が、決めるところだけ決め手いい格好するというしんちゃんの
基本ラインは好きになれない。
子供に人気がでてしまったけど、これは本来大人のための漫画だものね。


【8】
キートンの蒸気船
セブンチャンス
キートンの将軍   DVD
☆☆☆☆

チャップリンと並ぶ喜劇の王様バスター・キートンの代表作。
蒸気船とセブンチャンスはハイライトで、将軍は弁士付きバージョンで鑑賞。
大がかりなセットが生む豪快な映像は今見ても見劣りしない楽しさ。
とにかくアイデアが豊富につぎ込まれていて、次はどうなるのだろうと期待感がしぼむことがない。
滑稽なシーンばかりでなく、挟まれる人情的な部分が詩的な映像で描かれていたり、
喜劇の枠を越えている。


【7】
劇場版マクロス-愛・おぼえていますか-   DVD
☆☆☆☆

何はともあれ、全ての画面が偏執的なまでの密度で描かれており、
その全てが手書きだということに驚嘆。
当時二十代の新しい世代のアニメ制作者達が若さというエネルギーで作り上げた
エポックメイキング的な作品。
事実このメンバーの幾人もがその後のアニメ業界を支える一線級のクリエイターとなった。
三角関係、アイドル、歌。
ミーハーに過ぎるような各種要素がきちんと意味を持って物語に組み込まれており、
結果、主題歌をバックに展開される最終決戦の盛り上がりは、鳥肌が立つほど。
当時劇場で見たときのショックは今も忘れられない。
今見るとさすがに当時ほどの感激はないにしろ、十分に楽しむことは出来る。

あまり一般的にはなっていないが、PS2で再生すると(DVDプレーヤーのバージョンにもよるが
もっとも古いバージョンでは確認)櫛形ノイズが乗るという不具合を含んでいるので、
該当の方はバンダイビジュアルに連絡を取ると条件付きで交換してもらえます。


【6】
マクロスプラス   ビデオ
☆☆

テレビアニメ「超時空要塞マクロス」の世界観を用いて描かれるオリジナルストーリー。
男女の三角関係。アイドル。音楽。
世界観を借りるだけでなく、主要素も新しい形で持ち込んだことに好感。
それに加えて甘酸っぱいノスタルジーを掛け合わせており、序盤で描かれる友情の変質が切なく、
物語への興味を生む。
が、中盤は子供っぽいやり取りに終始し、後半は尻切れトンボ気味。
「マクロス」という要素がどんどん薄れていくのは狙いとしても、それに変わる魅力を提供し切れていない。
管野洋子の音楽はすばらしく、歌い手が世界的アイドルであるという設定にぶれのない根拠を与えている。
コンサートシーンではミュージッククリップのような映像も展開され、
画面に負けない(やもすれば画面を圧倒する)魅力を放っている。
キャラクターデザインが時代に風化するタイプのものなので、今見るとそこが特に古くさく見える。


【5】
ガープの世界   DVD
☆☆☆☆

監督「明日に向かって撃て!」のジョージ・ロイ・ヒル。
ロビン・ウィリアムズの出世作。
ある男の一生を描く物語で、時代の流れに翻弄されながら懸命に生きる姿は
アメリカ人こそが真に楽しめるものだろう。
「フォレストガンプ」がこれに近いが、むろんガープが下敷きになっているのだろう。
長い物語をきれいにフィルムに収めていくのは熟練の手業か。
静止画を印象的に使用する場面は、明日に向かって撃てのラストを彷彿とさせた。


【4】
バンド・オブ・ブラザーズ   DVD 1/某日
☆☆☆☆

スピルバーグ総指揮の二次大戦戦記物。
TVドラマとして放送されたそうだが、おそるるべきはそのクオリティ。
劇場版と遜色ない画面と演出。こんなもんTVでやられると映画館は辛いね。
撮影後に無理矢理手ぶれ効果、着弾エフェクトなどを加えて臨場感を生み出している。
実話をもとにしているためドラマチックになりきれない点は賛否別れるだろう。


【3】
パトレイバー3-廃棄物13号-   DVD 1/某日
☆☆

絵はきれい。演出もきちんと意図を持って作業している。
なのになぜこんなにおもしろくないのだろう。
不思議なくらい感情移入できない。
おそらくこの内容はもっと短くまとめるべきなのだ。
トリックも伏線もなく(あるのだが容易に先が分かる)起・承・結といった趣で意外性がない。
それをごまかすためか本筋に関係ない演出上の蛇足・贅肉があふれすぎている。
なんだかね。


【2】
人狼   DVD 1/某日
☆☆☆☆☆

線が少ない絵柄でありながら、十分にリアルな印象。
「アキラ」やディズニー全般のようなぬるぬるした無駄な動きがなく、静と動のメリハリの利いた作画が好印象。
モノローグと映像の絶妙な絡み。
なるようにしかならない世界の不条理。
悲劇のはずなのに後味が悪くないのは、皆が己の生き様に凛としているからか。
そういう意味では、「ローマの休日」「第三の男」のラストシーンい重なるものもある。


【1】
ブラックホークダウン	DVD 1/某日
☆☆☆

実話に基づいた戦記物。
ドラマチックになりすぎない、落ちのない展開は真実味があるが、娯楽映画にはなれない。
悲惨な場面も多く、何度も目を背けたくなる。
かっこいいと喜ぶこともできないし、ただの記録映画としては演出されている。
正直、自分の中のどこに落ち着かせて良いのか、いまだに印象がふわふわとしている。




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