設計図をもとに


 小学生の頃のこと。
 僕は漫画が大好きな少年で(今も好きだけど)、特に藤子不二雄
(Fのほう)が好きだった。
 そんな漫画の中に、「キテレツ大百科」という物があった。随分長
い間アニメも放映していたので、知っている人は多いでしょう。簡単
に説明すると、自分で発明する少年が主人公のドラえもん。ご先祖
が残した設計図を元に、奇想天外な道具を作るのです。
 ちなみに僕の小学校時代の将来の夢は「発明家」でだったので、
バイブルのごとく何度も何度も繰り返し読みました。


 少年は、助手として、まず万能ロボットを作ります。その場面で、
ロボットの設計図が描かれていたのです。
 僕も作ろう!と思いました。
 少年が漫画の中でした通りに、材料を集めました。風呂の湯おけ。
ゴム鞠。父の工具箱を引っぱり出して、ネジ回しや針金もそろえて。
 さて、作るぞ、と漫画の設計図を真剣に見つめました。しかし、どう
にもこうにも、一体それからどうしたら良いかが分からない。そりゃそ
うだ。漫画の雰囲気作りのための設計図なんだもん。
 これでは作れないということが分かり、情熱を持て余した自分に呆
然としたものです。
 父に作り方を聞かなかったことからも、やっぱり無理だったのだと
理解はしていたのでしょう。


 中学生の頃のこと。
 「タイムパトロールぼん」という漫画が大好きでした。マイナーな出
版社の漫画だったので、 いくつも本屋を回って買い集めました。
 さえない中学生がひょんな事からタイムパトロールの隊員となり、
時代、空間を飛び越えて様々な事件と関わります。
 僕もタイムマシンを作ろうと思いました。
 今度は設計図が書かれてはいなかったので、自分で書くことにしま
した。大きな製図用の薄い紙、学校で捨てられていたものを拾ってき
たのに、鉛筆でごりごりと書き込みました。流線型で、そう、移動方式
はホバークラフトが良い・・・。
 完成した設計図はなかなかに華麗なフォルムで、自慢したくなった
僕は弟に見せて威張り散らしたものです。
 僕はそこで満足して、タイムマシンの制作から足を洗いました。つま
り、デザイン画を設計図として完了したのです。時間移動と可能とする
ユニットは、「タイムエンジン」としてシートの下に矢印で示されている
だけでした。その設計図をもとには作れないと自覚していたかどうかは
覚えていません。


 いくつも、このような思い出があります。
 それぞれに共通していることは、僕はその性向として、まず物を作る
前には設計図を求めると言うことです。そしてもう一つ。
 その設計図は、描かれた内容の実現において全く役に立たないとい
うこと。


 いつも、理路整然と物事を進めたいと願い、設計図を手にするのだけ
れど、それはどこか破綻していて、そもそもの原理が間違っていて、意
味を為さない。さらに、僕は設計図の存在に、既に一定の満足を得てし
まい、その後の進捗に何ら寄与しない。


 そう。僕がこの無理矢理な理屈を当てはめたいのは、恋についてです。
 僕のこれまでの、幾つかの恋を連想しながら、このちょっとした分析を
行っています。


 好ましく感じ、親しくなりたいと思っている異性に対して、わずかな接触
から設計図を描きました。主観でゆがめられた目盛りは既に狂っている
のに、距離を測って二人の心理的位置を記しました。
 恋にならなかった関係に、それでも何らかの維持を求めて、設計図を
書き直しました。けれど古い線を消しきれず、読みづらい設計図には何
を書いているのか分からなくなりました。
 失ってしまった恋を納得したいがために、書き上げていた設計図に上
から手を加えました。偏った感情は定規をゆがめているのに、直線だと
信じて希望の線分を引き直しました。


 いつもいつも、あきれるくらいに設計図を描いて。
 その通りにできた事なんて無い。そろそろ疲れてきました。自分の設計
能力の低さに諦めを感じてきています。


 それでも一つだけ絶望を打ち砕く経験があります。
 一つだけで十分証明力を持つ経験が。


 一度だけ、想像を超えて、すばらしい姿を描いた関係がありました。
 設計図以上の物ができあがったことがあったのです。


 恋は、思い通りには行かないけど、
 思いがけなくうまくいく物だ。


 だから僕は、設計図をあきらめる部分を作ろうと考えています。設計図通
りには事は運ばず、かといって設計図無しでは何もできないと思っていたの
に、できあがる姿はあり、それが美しい物である可能性も、あるのだ。
 少なくとも恋を、設計図から自由な場所で描いてみたいと、今思っています。
 責任感を少し手放して、成り行きに任せてその時点のベクトルで動いてみ
ようかと思っています。


<2001年9月28日>