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藍宇追っかけ記@台湾

* この原稿は『藍色宇宙 Lan Yu FanBook』に載っているものとほぼ同じです

★2001年12月7日
 第38回台湾金馬奨の授賞式に合わせ、2泊3日のタイトなスケジュールで台湾へ。ここ数年、私的年中行事よろしく見物しに行っている金馬奨だが、実のところ今回は最初にノミネートリストを見た段階では、「『少林足球』がどうして作品賞にも監督賞にも主演男優賞にも入ってないんだ!? 行くのやめるか」とムカっぱらたてていた。ところがその後、東京FILMEXで観た『藍宇』がすべてを変えた。思えば現金な話だが。とにかくこのスタンリー・クワンの最高傑作に対し最多の10項目ノミネートという評価を与えた金馬奨、行かないでどーする。『藍宇』が大勝ちする、その晴れ姿を見とどけるのだ!

★12月8日
 前日、山ほど新聞を買いこんで芸能欄をくまなくチェックし、台湾がすごいことになっていることが分かった。あくまで芸能ニュースレベルではあるが、『藍宇』人気が沸騰中。一般公開も9日と、金馬奨発表の翌日にぶつけて、いかにも自信満々だ。
 公開前からなんでそんなに受けてるか? 理由はいろいろあるだろうが、最も俗っぽい解釈をすれば、かつてなく真っ正面から同性愛を描いた画期的作品であって、衝撃のオールヌードを筆頭に目くるめく男性同士の性愛表現が芸術の名のもとに堂々と展開されていることがなんといっても一番のポイントだろう。知的な評論家連中が絶賛してるんだから全裸だろうがなんだろうが胸をはって見ていいわけで、ふだんは香港の三級映画をヘアヌード部分がズタボロにカットされた状態で見させられている保守的な土地柄の観客としては、実に貴重なありがたいチャンスなのだ(たぶん)。
 ゲイムービーという点でいえば台湾にも蔡明亮という手練れがいる。だが彼が、客層が限定されることを敢えて辞さない孤高性をまとっているのに比べ、『藍宇』ははるかに広範の観客層をターゲットにした感動的かつシンプルな話だ。海外でばかり賞をとっているゲージツ的で難解な台湾映画に背を向けまくっている地元民は、とにかく分かりやすい中国語映画を見たいのだ(たぶん)。
 さらに、それまで台湾でほとんど知名度がなかった主演2人の、香港や台湾の芸能界もぶっちぎっていきなり全世界に通用することを見せつけたハイレベルな名演。思わず、「すげーや、大陸は」と畏怖させられたのではなかったか。つねに大陸との緊張関係を強いられている地域としての複雑な思いも含めて…(たぶん)。
 まぁ分析的なことはこのへんでやめといて、以後は完全な追っかけモード。

 台北発の特級電車で3時間、風光明媚が売りの観光地、花蓮はまさかのどしゃぶりに見舞われていた。予報では夜まで悪天候は続くらしく、星光大道(スターたちが会場入りするさい歩く長い赤じゅうたんの道)で写真が撮れるのかなぁと心配しつつ、自分の宿で荷ほどきをしたあと、映画関係者がお泊まりあらせられているオフィシャルホテルに移動。入り口を入ったとたん、目うつりするほど知った顔だらけで(もちろん向こうはこちらを知らない)天気のことなぞ忘れてしまった。
 なにしろしょっぱなから蔡明亮や苗天とすれちがうは、エレベーターホールにピーター・ホーはいるはアニー・ウーはおるは、カフェに入るとチン・ハイルーはおるはジャック・カオはおるは……そのときの自分の顔はおそらくふた目と見られないバカ面だったと思うが、いちいち気にしていられん。ほかにも台湾の有名な監督さんや往年の俳優さんたちがそこここにいるカフェで、友人たちと雑談などしつつ絶えずきょろきょろしながら、授賞式会場行きのバスが出るまでの時間を過ごした。
 もうそろそろでしょ、という時間になって再びロビーへ。バスはまだのよう。雨は相変わらず止む気配なし。と、外をぼんやり眺めていたそのとき、同行のS氏が「あ、『藍宇』の一行だ」。
 振り向くと、ブラック・フォーマルで決めまくった何人もの男たちがロビー中央にずらりと並んでフラッシュを浴びている。……思わず我を失った。もしかすると奇声を発したかもしれん。とにかく次の瞬間、カメラをわしづかみにして駆け寄って行ったことは言うまでもない。
 いやはや、腰ぬけそうなカッコ良さでした。フー・ジュンのすらりとしたタキシード姿といい(><)。リウ・イェのカジュアルにしてファッショナブルなニットセーター姿といい(><)。でもって2人とも背の高いこと高いこと。足の長いこと長いこと。立ち姿の美しいことうるわしいこと男らしいことセクシーなこと。そのままパリコレに出てほしいくらいだ。ふぅ……(深呼吸)
 つくづくスターというのは選ばれし存在であり、別な生き物なのだと痛感する。彼ら、まじで人間なのか。ていうか自分が類人猿なのか……。そのとき、同行のK氏が「北方民族はさすがに大きいねぇ」とつぶやいた。そうか、顔は似てても根本的に我々とは別人種なんだ。
 思うに、香港明星をナマで見たときもこれほど見とれてしまったことはない。かっこいい男女はいっぱいいるが、映画や報道で見慣れているせいか親近感があるのだ。それに香港では185センチのスターって滅多にいない。むしろ「意外に小柄」という印象が多かったりする。あのでっかい、最初に会ったときは岩山がそびえてるように見えたビリー・チョウですら180センチで(ビリーが香港明星かどうかはこのさい問わないこと)、フー・ジュンやリウ・イェより5センチも低いって……(ちょっと絶句)。
 しかも2人だけじゃなく隣に立ってる製片人のチャン・ヨンニンさんも背が同じだし、反対側の隣に立ってる名前は知らないがエグゼクティブっぽいタキシードの男性に至ってはフー・ジュンたちよりさらに数センチ背が高い。そろいもそろって、でかい! 彼らと並んだら脚本のジミー・ガイ氏や監督のスタンリー・クワン氏が小柄に見えるのは仕方ないわね。「スタンリー・クワンだからまだおかしくないが、もしマンフレッド・ウォンだったらまさに連れて来られた宇宙人だな」とは某氏の言。ははは。

 横一列のバリイケの中華男児たちは、ひとしきりフラッシュをあびたあと、その場でばらけておのおの雑談などを始めた。どこかへ去る気配はない。チャンスとばかり、サインをもらいに走る。たまたま誰ともしゃべっていなかったリウ・イェに直撃。開口一番「わたくし日本から来ましたっ!」 というのもこう言っておかないと、死ぬほど中国語がへたなうえにミーハーまるばれなので、「あやしいおばさん」と思われて引かれかねない。とりあえず、引かれることなくニッコリしてもらえたので、「日本では『山の郵便配達』がとても評判いいです」と告げる。すると「あ、あの映画ね」ともっとニコニコしてくれたので、ようやく安心してサインをもらって写真を撮らせてもらい、あつかましついでにK氏とのスリーショットもゲットする。ああ感激。
 しかしその感激にひたっている間もなく、次はフー・ジュンに駆け寄る節操無しの自分。近くで見る彼は、タキシードも顔も黒光りがし、その男っぷりと迫力に思わず緊張。それでもなんとか開口一番「わたくし日本から来ました」をやって、「ほぉ、日本から?」と笑顔が出たところでサインをゲット。仲間としゃべってたところへ声をかけたこともあり、ツーショットやスリーショットは遠慮して退散した。

 3カ月後、彼らとは北京で自分的に夢の再会を果たすのであるが、もちろん彼らが何も覚えていなかったことは言うまでもない。

 授賞式前に早くも『藍宇』組をナマで拝めてしまいヘラヘラ笑いがとまらなくなった自分だが、本番はこれからだ。再び気合いを入れて、バスで会場へ。着いてみると、さらに風雨は強まって、勘弁してくれという感じ。しかも報道陣用のスペースはすでに人と傘がごったがえして入り込む余地なし。結局、星光大道から会場へ入ってきてすぐの裏口みたいなところに陣取ることにする。スターたちが長い赤じゅうたんの上を歩いてくる姿が見られないのは残念だが、みなここから入って来るんだから写真の1枚や2枚は撮れるだろ。
 結果、純白ドレスのジュディ・オングに始まって、アンディ・ラウ&カリーナ・ラウ&イーキン・チェン&カレン・モクというウルトラC級の顔ぶれで締めるまで、スターたちの会場入りはまるまる1時間半くらいかかった。へろへろ。
 『藍宇』チームが会場入りしたのは比較的早かった。星光大道の途中にしつらえられた天蓋つきステージでさんざん写真を撮られたりインタビューされたりした後で、もう何もないだろうと思っていたのかリウ・イェなどはごく無防備な様子で入ってきて、アレまだこんなにカメラマンがいたのという感じであらためて背筋を伸ばした感じがういういしくてよろし。フー・ジュンは、一糸乱れぬタキシードの肩に水滴がこまかく光ってまさに水もしたたるいい男でござりました。

 受賞式の様子や結果は、ビデオや各種報道で見た人も多いと思うのでいちいち書かないが、『藍宇』に関していえば、会場の趨勢というか空気は明らかに『藍宇』大好きモードと感じた。自分の願望が勝手に増殖しちゃってただけではないと思う。
 たとえば女司会者の高怡平。ペコちゃんみたいな顔してハイテンションに喋りまくる人で(実は相当な才女だそうだ)、式の合間の余興としてアンディ・ラウに会場の椅子にサインさせ大いに場を盛り上げたあと、今度はフー・ジュンの席のところまで行き、「サインください」とマジックと自分の腕を差し出した。フー・ジュンが立ち上がって、いいですよ、どこへ?と聞くと、ここよここ、とナマ腕をさらに差し出し、さしものフー・ジュンも笑いながら「えっ」と一歩ひいたが、すぐに彼女の腕をとって直かにサイン。さらに手をとってキッス。(ぎゃああああ!←2階席でもだえていた浦川の心の声) その時の高怡平の恍惚の表情といったらない。そして彼女はキャンキャン言いながら舞台へ戻り、「このサインは私のものよ」と叫ぶのであった(アンディのサインは、主催地の花蓮市のものになるからね)。てめーこのやろー、司会者特権というより完全に個人モードの振る舞いだぞ。でもどうせなら2、3日すれば消えちゃう腕よりかドレスにサインもらえばよかったのにね。

 編集賞、改編脚本賞、観客が最も好きな映画賞、最優秀監督賞と受賞が重なるにつれ、主演男優賞は『藍宇』から出るという確信が強まってきた。そしていよいよ発表。プレゼンターはン・ジャンユーとロレッタ・リー。ジャンユーはどこか借りてきたネコのようで、国語が苦手なのかトークがえらく控えめでおかしかった。でもって彼は、封を切って発表せむと口をあけ、なぜかそのまま固まってしまった。ややあってロレッタがそっと耳打ちをして、ようやく「最優秀…主演男優賞…受賞者は…リウ…イェ」とゆっくり読み上げたのである。

 おおお!と藍宇チームや観客席から歓声が上がり(おそらく大量のアンディファンの落胆のブーイングも混じっていただろう)、リウ・イェが「僕!?」という表情で口に両手をあてて立ち上がり、フー・ジュンやスタンリー・クワンら仲間たちも拍手しながら起立した。私は一瞬、リウ・イェとフー・ジュンが抱き合うかと思ったが、それはせずに2人はガシッと肩を組み、リウ・イェと固く抱き合ったのはスタンリー・クワンだった。
 それからリウ・イェはフー・ジュンを伴って足どりも軽く共に壇上へ。きわめてスマートに行われたその一連の動作の自然なこと。だってあんまりそういう光景って見ないじゃん。まるで本当の恋人、じゃなかった兄弟のよう…いや、彼らはまさに中華社会にいうところの「兄弟」なのだろう。イキだなあ。あとから知ったが、どちらが受賞しても一緒に舞台へと監督の提言で決めてあったそうで、それでかー、と納得。
 壇上でリウ・イェは、まずフー・ジュンにスピーチを促した。これも滅多に見られない光景だ。それを受けてフー・ジュンも「いや、君が」なんてことを言ったりそぶりに表したりせず、「私の小師弟が受賞してとても嬉しい。そして台湾がこの映画を高く評価してくれたことに本当に感謝します」と話したのがまた紳士的でアッパレ。次いでリウ・イェが「師哥の胡軍がいなければ、僕のこの受賞もありませんでした。これは2人の賞です」と絶品のコメントをし、最後に「両親と、ガールフレンドのPiPiに感謝します」と締めた。(大陸でそれを聞いたPiPiは嬉しくて泣いたそーだ) そして彼は舞台裏へ引っ込み、フー・ジュンは再び足どりも軽く観客席へ降りて着席したのであった。いやー、清々しい受賞風景をありがとう。

 ちなみにジャンユーが発表のさい言いよどんだのは、「リウ…」ともったいつけることで、さぁ受賞者はアンディ・ラウ(国語よみでリウ・ダーファー)かリウ・イェかと観客をドキドキさせるためだったのではないかという報道が一部にあったが、見た所彼はそんな授賞式ズレしたプレゼンターではなく、逆にジョークを言う余裕もなさそうなくらいだった。だからもう一つの憶測である、「火華」という字を国語でどう読むかド忘れしてロレッタが耳打ちしてやったというのが当たってるんじゃないかと思う。まあどっちでもいいけど。

 全体的な流れからして最優秀作品賞が、まさか『藍宇』でなく『ドリアン・ドリアン』とは自分的に予想もしないことであって正直がっくりしたが(『ドリアン〜』がヘボい映画だといってるわけじゃないけど)、スタンリー・クワンはじめ『藍宇』ご一行様は充分ご満悦の様子で、その後ホテルの宴会場で開かれたオフィシャルパーティに姿を現した。大きな丸テーブルを取り囲むブラックスーツな男たちの、凱旋した軍隊のような勇猛さと共に、見えない柱のようにたちのぼるセクシャルなオーラは、なまじただごとではないものがあった。記者たちのカメラやらマイクやらがひっきりなしに差し込まれる中、彼らはガンガン乾杯し、バカスカたばこをふかし、勝ち組の気炎を上げるのであった。

 やがて、ヤローだけがずらりと卓を取り囲んでいるところへカリーナ・ラウとエレイン・ジンが到着して加わったので、マスコミがさらにふくれあがって一角がにわかに華やかになった。とはいえ、彼女らの知名度と美貌と迫力とセクシーさをもってしても、男連中の色気をそのテーブルから退行させることはなかった。まるで応援団にまぎれこんだチアガールのように、目立つけれどもいささか気圧されている、みたいな印象ですらあった。おそるべし、『藍宇』チーム。
 もしもアンディやイーキンが来ていたら会場内の勢力地図はまたちがったろうが、彼らクラスのエグゼクティブは内輪で別の打ち上げに行ってしまうのが常である。そのため『藍宇』テーブルだけが黒山の人だかりで、他に受賞した映画人たちは影がうすく、唯一、チン・ハイルーを除いてはあまりカメラに邪魔されることもなく、大人しくバイキング料理を食べていた。ちぇっと思ってたスターもいたかもね。
 浦川も基本的に『藍宇』テーブルの周りをうろちょろしつつ、時どき自分的にはずせない人(チン・シウトンとかチェン・ペイペイとか)を発見しては写真を撮らしてもらいにいく、みたいなことを繰り返していたが、台湾の知り合いが待っている、別会場で行われている宴会へ行く必要もあったので、もう今回は充分に収穫があったと自分に言い聞かせ会場をあとにした。

 実際、わずかな期間にこれだけ『藍宇』三昧できたのだから、それ以上なにかを望むのは欲張りだったのかもしれない。翌日、台北の書店FNACで行われた、フー・ジュンとリウ・イェとスタンリー・クワンを迎えてのイベントにはフライトの関係でどうしても間に合わず、飛行機に乗り遅れたい衝動をぐっとがまんして帰国の途についたのである。

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