「藍宇」LAN YU 雑感

北京同志考─「青山之恋」を読みて*****************************************
 『藍宇』の原作であるネット小説『北京故事』の作者、北京同志は、『藍宇』と改題して正式出版した書籍の後書きで、もう小説は書かないと記した。匿名で書いた同性愛小説が反響をまきおこし、映画化されてこれまた成功をおさめるという予想外の展開にともない、作者の正体が詮索されまくって疲れてしまったのであろうか。
 が、作者は作家としての自我に目覚めたようである。『藍宇』のファンであろうどこかの誰かがその続編をネットに発表したことになんらかの刺激を受けたのかもしれない。読者にとって喜ばしいことに、『北京故事』は最初で最後の小説とはならなかった。中国アンダーグラウンド文壇のナゾの存在であり続ける作者は、再びキーボードに向かい、「輝子」という中編をネットに掲載。さらに精力的に執筆活動を続け、筱禾という筆名で新たに長編を上梓した。

 『青山之恋』と題された新作は、ロマンチックなタイトルとはうらはらにヘビーなストーリーである。ハードボイルドなやおい小説というか、過激な純文学とでもいうか…。
 舞台は青山監獄という、荒野の中に存在する刑務所。その中できわめてゆがんだ形で始まった男同士のとある関係が、やがて無上の純愛となっていく。その基本的な流れも、片方が究極のオレサマ男(陳捍東も泣いて逃げ出すキツいキャラである)でもう片方が未成年の美男子(藍宇もまっさおの破滅的直情型である)という設定も、全37章という構成も、『北京故事』を強く喚起させるものがあるし(『北京故事』は全31章だが)、かつ『藍宇』に入れ込みすぎるほど入れ込んでしまった身にとってはイヤでもフー・ジュンとリウ・イェの姿が思い浮かんでしまってどうにも困るのだが(映画的な素材を豊富にはらんでいるため、映画を見ているような気分で読めてしまうというのもある。これを映画化しようという勇気ある製作者がいるかどうか分からないが、才能ある監督の手にかかれば壮絶な名作三級片になり得るし、逆に陳腐な監督が作ったら噴飯なゴミ三級片になりはてるだろう)、『北京故事』との共通項がいろいろあってもなお最後までゆるまないし飽きさせない。そして、これが映画だったらさぞかし怒涛のシンフォニーが鳴り響くだろうと思うほどヒートアップする山場にも滑稽さはみじんも感じないし、ついには一気に読み終わってぼうっとさせられてしまうのであった。
 ついでにいえば、小説の出だしは「那天早晨」というオレサマ男の語りで始まるのだが(エピローグ以外はすべて彼の一人称で語られる)、とたんに映画『藍宇』を思い起こして内心はっとさせられるのは私だけではないだろう!(「那天早上」と捍東@フー・ジュンが語り出すところで私は早くも胸がいっぱいになってしまうのだ<アホですか?^^;)。

 主人公たちの、社会的規範にてらしてみれば異常といえるだろう凄惨な愛情のやりとりは、耽美系あるいはSM系のやおい小説ファンにはなじみのものかもしれない。だがそうでない読者をもぎりぎりふみとどまらせるだけの、ある種普遍的な感情が、内面描写とストーリー運びのうまさでもって(『北京故事』でもそうだったように)今回もまた表出されることに成功している。『北京故事』『輝子』『青山之恋』と読んできて、この作者が天性のストーリーテラーであることを確信せずにはいられない。 

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