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北京同志考続き─「抗拒的誘惑」を読みて ****************************
筱禾(旧・北京同志)が「青山之恋」の次に発表した「抗拒的誘惑」(全46章)は、「愛情白皮書 中華同志網」というネット投稿誌とでもいうようなサイトにて2002年10〜11月に断続的に1章ずつ(時に2〜3章まとめて)連載された。作者は「北京故事」から一貫してネット連載の形で小説を発表してきたようだが、私は本家サイトで読んだのは今回初めて、しかも連載が終わった後でこの小説のことを知ったので、日々投稿され蓄積されている大量の項目の中から1章1章拾い出して読むのは最初骨に感じたが、慣れれば面倒なこともなく、結局やっぱり面白いので例によって止まらなくなり何時間もパソコンにかじりついて目をしょぼしょぼさせながら読み終えた。多分そのうち全部まとめて読めるサイトが出現する(もう存在するかもしれない)だろうし、あるいは「青山之恋」のように書籍となるかもしれないので、そういう形態で読むほうが作業的に楽ではあろう。ただ、発表の段階を追いながら読む楽しさというのを、遅ればせながら今回知ってしまったのである。
というのは、筱禾の愛読者たちは毎回楽しみに続きを待ちながら読み進めており、新たな章が登場するたびにコメント欄がにぎわい(早く続きが読みたい! とか、がんばって! とか、感動的! とか多くは賛辞と激励だが、たまには「また交通事故ですか。ありきたり!」なんてシビアなのもある)、それだけでも面白いが、貴重なのは時たま作者自身が書き込んでいることだ。作者の肉声(あくまで文章ではあるが)から、その考え方や人となりをわずかなりともうかがい知ることができる、そこはおそらく唯一の場なのだった。そして作者が必ずしも最初からプロットをたてているわけではないことも分かった。少なくとも「抗拒的誘惑」はその都度考えながら創作したらしく、結末がどうなるのか自分でも分からないと作者も途中で書いている。そして、「このぶんでは悲劇的な結末なんでしょう」やら「ハッピーエンドにして!」やら読者からの書き込みに日々目を通しながら、最後に「そろそろだ」と気合いをこめて、無事に着陸したようである。すっきりした気持ちで私は読み終えたが、誰もがそう思ったわけではないようで、こういう終わり方ってあり?と呆気にとられたような書き込みもあった。
総じて、かなり難産だったのではないかと思う。ことさら難産ではなかったとしても、少なくとも試行錯誤したのではないかと思う。実際、中盤でいささか冗長に感じた時もあった(あるいは、私は中編なのか長編なのか知らないまま読んだため、30章過ぎてもまだまだ終わりそうにないので長いなぁと感じてしまったのかもしれない)。だが、さもありなん。今回作者が目指したのは、ある種のホームドラマ的描写なのである。つまり、たとえば「北京故事」で陳捍東を苦悩させ続けた、同性愛者として生きるにはあまりにも逃れがたい社会的・家庭的な制約。それに最大の焦点をあてた小説なのだ。従来作の中では「輝子」の系譜と言えるだろうが、より以上に、さしたる劇的な事件もなくゆっくりと進む淡白なストーリーである。主人公は平凡な市民である2人の男性。彼らをとりまくのも、どこにでもいるような保守的だったりいじきたなかったり或いは善良で単純だったりする、しごく人間的な同僚や家族たち。大金持ちも犯罪者も警官も政治家も出て来ない。こういう小説は「青山之恋」のようなヤマあり谷ありのエンタメ小説よりも難しいとはいえまいか。だからなおさら作者は、新たな作風にトライする必要があったのではないか。「北京故事」の影から脱したいのだと作者自身書いてもいる。
生活密着型描写というテーマのみならず、従来にない方法の1つとして今回初めて一人称で語られていないのも興味深いことである。語り手の位置がすべての登場人物の頭上にあるのだ。変わらないのは、2人の男性の間の愛をめぐる話ということだけ。これが変わる日も来るのだろうか? ますますもって目が離せない作家である。
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