ザ・ドタンバーズ
〜Mr.チャールズ執筆小説〜
『ワッツと豆の木』

Mr.チャールズ  

       1

 ガタコン、ガタコン、曲がりくねったレールの上を今日も列車が走っています。御世辞にも立派な造りとは言えませんが、いつもピカピカに磨いてあるのであります。その名も『豆の木号』、手造り列車なんです。そして造った人は自ら運転します車掌のルーズベルト・チャーさんです。チャーさんにとって豆の木号は自分の子供のようでもありますし、いろいろな事を教えてくれたりする先生でもあるのです。
 これから先の話は豆の木号とチャーさん、さらにそこに乗り込んできます若人達との会話や旅を中心に進んでいく予定です。  さあ、あなたも是非乗ってみませんか。苦しいことも待ち受けているでしょうが、きっと楽しい旅になるに違いありません。それでは出発進行ニンニキニキニキニンニンニン。

       2

 いやあ、今日もいい天気だ。おっと、これはどうも初めまして、私がルーズベルト・チャーといいます。豆の木号、どうです立派なもんでしょう。私が手塩にかけて造ったんですよ。まずこれからの道先案内をしましょうか。特徴と言えば道の途中、駅が無いところでも止まります。乗りたい方がいればどこででも止まります。えっ危ないって?いえいえ心配御無用。レールはただ1本、そしてこのレールの上には豆の木号以外の列車が走っているのを見たことがありませんから。
ただただ前に進むだけ、自由なもんですよ。
 そして運賃には乗客の方の夢をほんの少し頂くことになっています。なあに全部頂戴することはないですから。燃料は、これがまたその夢を燃やして走っております。ずいぶんと好調なもんです。ハッハッハ。
 それでは出発としますか。リリリリーン、ガタガタ。
「すっすいませーん」
「おっ、いきなり来たか若人よ。乗りたまえ」
「あっあのー、よろしいでしょうか」
「さあ、どうぞどうぞ、今日一人目のお客さんだよ。おーおーずいぶんと荷物を抱えて」
「ハアハア、ちょっと道に迷っちゃって。よかったぁ、間に合って」
「そうかいそうかい、出発の時間は特に決まってもいないもんでね。ちょうどいいタイミングだったね。ウムム、君はひょっとして以前お会いしたことが…ガハ・クール君じゃないか。これはこれは久し振りだね。私がドロール鉄道で働いていた頃よく画材道具を山ほど抱えて列車に乗っていましたねえ。これはなつかしい」
「あっ覚えていてくれていましたか、よかった。いやあ、それで僕は車掌さんがドロール鉄道を辞めてしまったというのを聞いてがっかりしてたんですよ。そしたらつい先日TVのニュースで『豆の木で列車を造り上げた男。その名もルーズベルト氏』なあんてやっているじゃないですか。それで是非その豆の木列車とやらで旅をしてみたいと思い立って、今日探しにやってきたんですよ」
「そうなのかい、これはわざわざ御苦労であるな、いやあ、ありがとう。これは豆の木号という列車なんだよ」
「豆の木号、なんかいいですね。あっ、それじゃあこれからお願いします。ところで運賃の方は…」
「おっおうそうですな、ではあなたの夢をほんの少し」
「はい、分かりました」
 ギーガタガタ。

 ―― そしてガハ・クール君を乗せた豆の木号は出発しました。ガハ・クール君、どんな夢を見ているんでしょうか。ちょっとのぞいてみましょうか。シーッ。

 僕の住んでいる国というのはなんだかとても忙しいんだ。いつも何かにせかされ、何かを気にして、何かをしなくちゃいけないなんて、僕には僕のペースというのがある。誰もが何の干渉もせず自分の思っていることを自由に表現できる、そんな国に行ってみたい。そして、絵を描きながら毎日のんびり暮らしてみたいんだ…。

 ―― うーん、優雅というか何というか。まあ、世界は広いですからね。自分の世界を広げる、という意味でもこの旅は楽しいに違いありません。さあ、豆の木号はどこまで行ったんでしょう。ガタコン、ガタコン。

「ところでその荷物なんだが、これまた素晴らしい絵をお持ちなのかね」
「あっはい、上手いか下手かは分かりませんが、いっ一枚見てもらえますか。これなんかどうでしょう」
「ムムム、素晴らしい。この色使いといい、何というか人の心の奥底を照らしているというか、何を描いてるのか分からないというか」
「はっ、はあ」
「とにかく芸術ですな。言葉ではうまく表現できない事というのはこの世にはたくさんありますからね。まさしく芸術だあ」
「はっはあ、そうですか。一応タイトルが『ある日の食卓』というのですが…。芸術だなんてそんな大ゲサなもんじゃ…」
「なあに大げさなんて、素直な感想じゃよ。もっと大きく自信を持って取り組みたまえ。人に分かってもらえぬものこそ芸術、いやアートなんじゃよ。この様な分けの分かんないムチャクチャな絵こそ、人の心に入り込んだ時に、その人は『アート驚くため五郎』なんてね、ハッハッハッハ」
「それでは僕は後ろの方で休ませて頂きます。ヨイショッと」
「そうかい、まあ長い旅になるだろうから存分にくつろいでくれたまえ。ハッハッハッ」

 ―― こうしてガハ・クール君の乗った豆の木号は軽やかに進んで行きました。車掌さんもガハ・クール君も(?)ごきげんの様子ですね。それでは、ガタコン、ガタコン。

「う、うーん、ああずいぶんと眠ったかなあ。ここはどの辺だろう、おぉ森の中を走ってるみたいだなあ。車、車掌さーん」
「ムム、起きたかね、ガハ・クール君」
「ど、どの辺まで来たんですか」
「うーん、だいぶ遠くまで来ましたがね。実をいうとここまで来たことは一度もないんだよ。何せ普段乗ってくる人たちというのは皆、夢など持たない人たちや夢のかけらしか払ってくれない人たちばかりなもんで、行先の半分も行かないうちに豆の木号は止まっちゃうんだよ」
「とっ、という事は」
「へえ、そこで降りて頂くしかないんですよね。自分自身の持っている夢というのは、とてもはかないという事を多くの人は分かっていたりしますから、それを身にしみながら歩いて帰っていきますよ」
「そっ、そうなんですか。ところで僕の払った夢というのはどこまで行けるんでしょう。こんな所でいきなり降ろされても困りますけど」
「それは私にも分かりません。まっ、とりあえずは順調、まだまだ大丈夫でしょう」
「そっ、そうですか。車、車掌さんも何だか大変ですねえ。あっ海だあ、海が見えてきましたよ」
「おおぅ本当ですな。いやぁ海を見るのも全く久し振りですねえ。海というのはとても澄んでいて、まぶしいブルーが果てしなく広がる所でなくてはいけません。この大空の下、我々はなんてちっぽけなんでしょう。この空と海に飲み込まれそうじゃないですか。この海、幾千もの魚達が自由に泳いでいることでしょう。鳥達も大空をほら、気持ち良さそうに飛んでいるではないですか。見事にマッチしたこの光最、素晴らしいですな。キーワードは『自由』ですよ。我々は自由でしょうか。この大地を一歩一歩踏みしめたところで、限りある地上はこの果てしない海と大空に負けてる気がしませんか。おおぅ、この海と空よ。私もなんか気分がさわやかになってきました。何せこの列車も長いこと運転していると、人間は自然の力にかなわないなんてものを、何度となく見せられていますからね。この海よ、この空よ、そして鳥たち魚たち、この素晴らしい世界をいつまでも失わずにいたいものですな。おっと、いつのまにか上半身、裸になっておりましたな。おおぅ、今すぐあの海へ連れていっておくれ。さあ、ガーガタンガタン。ス、スピードも上がってきたぁ。それ、もうズボンもパンツも脱いでしまえ、私も自由だぁ。この自然界よ、我々にも力をくれたまえ。おーっ。…。
 これはこれは私もつい興奮してしまいましたな。失礼、失礼。さあガハ・クー」
 グーグー。
「ん、うん眠ってしまいましたか、これはこれは。おっ、パンツくらいはいておかないとな。誤解されてしまうぞ。ヨイショッと」
「う、うん、車掌さんどうしたんですかそんな格好で。まっ、まさか」

       3

 ガタコン、ガタコン。
「ウム、あそこに見えるのはずいぶんと若い青年のようだ。どーれ」
 キッキーン。
「すいませーん。どうもこんにちは、乗せて行ってくれますか」
「どうぞどうぞ乗って行きたまえ。長い旅になるでしょうが、君みたいな勇ましい青年は歓迎だよ」
「勇ましいだなんてとんでもない。オイラこの旅に出て新しい自分というのを発見しようと思っているだけなんだ。何せ今までのオイラときたらいつも何か悩んでばかりで、何もでかい事なんてできやしなかったんだ。だから今こそ、何もかも捨ててちっぽけな自分にはおさらばしたいんだ」
「ウム、そのような考えを持った若者がまだいたんだね。考えてるだけで何も行動できない若者が、今の若者には多いからね。君はとても素晴らしい人間だ。きっと一回りも二回りも大きくなっていくことだうう。では、その夢を持って豆の木号を走らせてもらうよ」
「ハイ、あっオイラの名はファロー・タンクと言います。ファローのファに、タンクのタと書きます。よろしく」
「そうかい、いい名だ。ハロー、ファロー、なんてね」
「車掌さんは?」
「私はルーズベルト・チャーという名だよ。ルーズベルトのルに、チャーのチャと書くんだよ」
「ルーズベルトさんね。そういえばオイラの友人にもルーズソックスという子がいるんですよ。よく似た名ですね」
「ホッホッ、そうですな。私の知り合いにはジ・カンニルーズという者がいるんですがね、まあ周りの評判はあまりよろしくないようで、ハッハッハ」
「ハッハッハなんか楽しい旅になりそうだ。ようしくお願いします」
「いや、こちらこそよろしく」

 ―― こうして豆の木号の乗客は二名となりました。ガタコン、ガタコン。

       4

「うーん、よく眠った。辺りもだいぶ暗くなってきたな。おやっ」
「いやあ、どうも初めまして。オイラ、ファロー・タンクって言うんだ。君は?」
「ガハ・クール、よろしく」
「へえ、画家の人なの?そんなに画板やら何やら持っているけど」
「いやいや、画家なんてとんでもない。ただ素敵な風景や、自分の思ってることをすぐに描けるようにいつも持ち歩いているだけなんだよ」
「へえ、絵かあ、いいなあオイラも何か描いてみようかなあ。でも今までかいた事といったらアレくらいしかないからなあ。ハッハッハ。まあ、それはいいとして楽しく行こうよ」
「うん、そうだね」
 キキキーン。ガタガタ。バッシャーン。
「ど、どうしたんですか、車掌さん」
「イテテ、何が起こったんだい」
「いやあ、すまんすまん。レールの上をいきなりキツネが横切ったもんでね。どれどれ、ここらで一休みしますか」
「キ、キツネ。こんなところにキツネなんかいるんですか。辺りは…うわぁライオンだあ、象も歩いているぞおー」
「本当だ。車掌さん、ここはいったいどこ?」
「ウム、ここはだね、きっとズーズー高原という所だろう。聞いた話によると、何万もの動物達が一緒になって暮らしているそうだ。ここには弱肉強食の世界というのはなくて、皆仲良く共存しているということだ。おかげでライオンなんかも草食になっているようだね。ちょっと降りてみようか」
「ラ、ライオンが草食だなんて…。うん、でもよく見てみるとなんか目つきのやさしいライオン達だなあ。体もスマートに見えるぞ」
「うん、ちょっとオイラ達も降りてみようよ」
「う、うん」

 ―― こうしてズーズー高原に降りたった三人は皆仲良く動物達と暮らしてゆくのでありました。―― なあんて言っちゃうと話が終わってしまいますね。ウフッ。というわけで三人は一休みしながら動物達と戯れているはずですが…。

 ガブッ。
「イテテテエ」
「ムム、どうしたね。ファロー君」
「何だよお、このライオン、人に噛みついてきやがるぜ。どこが草食なんだあ。イテエ」
「ハッハッハ。だめだよ、そんなにいきなり飛びついていったりしたら。さすがにびっくりしてしまうよ。ライオンというのは非帯に警戒心の強い動物でね。いくら草食になっているとはいえ、慣れるまではそおっと近づいていくのがマナーってもんですよ。こういう風にね、ほおらヨシヨシ」
 アオ〜ン。グルグル。
「チャーさん、先に言ってくれよお、イテテ」
「ハッハッハ。すまん、すまん。いきなり飛び出してくるもんだからね」
「あ、あれじゃあ象もびっくりしちゃうぞおー」
「ガハ君まで、ちょっとはケガの心配でもしてくれ…。ああっ、チャーさん、豆の木号が!」
「ムム、ああ、ワシの豆の木号が!」
「い、いやあ、何か走りだしていくぞおー」
「誰だこのヤロー、待てえー。早く追いかけなきゃ」
 ダダー!
「誰が運転してるんだ。こんな所に人などいるはずないのだが」
「ド、ドロボー」
「マテエー」

「へへへへ、追いかけてくるのかマヌケ共め。追いつけるワケがないだろうが、へへへ。このサツ・テンパー様のトラヴェリンを邪魔しちゃいけないよ。ハッハッ。意外とこのボンコツ、乗り心地がいいもんだな。こりゃいい旅ができそうだ。どおれ、スピードアップと…」
 ギギギーン。ガタガタコン。
「ハッハッハッア。と思ったら目の前にラ、ライオンが。うわあー」
ガタ。バッシャーン。キ、キ、キン。
「イテテテ。何でいきなりライオンが飛び出してくるんだよ。イテテ。チクショオ」
 グルグル〜。ワオ〜ン。
「こいつめ、ミーの邪魔をする気か。う、うん。こいつ今のでケガしたのか右足から血を流してやがる。チックショオ、しょうがねえな。どれどれ」
 グルル〜
「ほおら、これで大丈夫だ。ちょっと包帯姿が痛々しいけどな、ガマンしろよな」
 グルル〜ン。ワオン。
「おっと、こうしちゃいられねえ。奴等が来る前にと、う、ううん」
「マ、マテー、ドロボー」
「いたぞお、マテー」
「ワシの豆の木号をー」
 ダダダダー。
「チェッ、こんなとこまで追ってきたのか」
 ガチャッ。ギギン、ギギン。
「ダメだ、今のショックでブッ壊れちまってる。チクショオ、このボンコツめ!」
 ダンダン。

「オラオラ、もう逃げられねえぞ。そおれ」
「ちょっと待ちたまえ、ファロー君。奴は何を持っているか分からない。これ以上近づかぬ方がいい」
「そ、そうですね。もしかしたらいっぱしの狩猟家で、ライフルでも持っているのかもしれませんしね」
 ガチャ。
「この野郎、出てくるかあー」
「ムム、とりあえず伏せておいた方がいいな」

       5

「ハロー。エビバディ」
「ハ、ハローだって。ついでにエピがどうかしたって?」
「バカ、何をのん気な事言ってるんだよ」
「君、私の豆の木号を勝手に、何するんだね」
「アイムソーリー。いやあ、ちょうどいい所に置いてあったもんでね、ミーの旅の足にはぴったりだったのさ。あなた様の持ち物で?」
「何を言っとるんだね。我々が追いかけて行くのを気付いていなかったのかい」
「そうだ、そうだ、勝手な事を言うな」
「うん、あまり後ろを振り向かない気質なもんでさ、それは皆に悪い事をしたな。まあ好きにしてくれ。泥棒だって言うんなら、それはそれで構わないさ。監獄にでも入れておくれ」
「好きにしてくれって軽々しく言うな!この豆の木号にはなあ、オイラ達の夢がたくさんつまってるんだぞ。それを何だ、動くのかよう、動かして元通りにしてくれよ」
「まあまあ、ファロー君。興奮するんじゃない。おやっ、ううん」
「ど、どうしたんですか、チャーさん」
「あのライオンは…」
「あー、ファロー君に噛みついたライオンですね」
「おお、何でこんな所まで、またオイラを噛みつこうって気じゃないだろうな。ん、ひょっとしてお前、オイラ達の豆の木号を取り返しにここまで追っかけて来たのか」
 ワオ〜ン。
「おまけにケガまでしてやがる。分かった、この泥棒野郎に引き殺されそうになったのか。もう許せねえ」
「ファロー君、ちょっと待たないか。包帯をしている、―― という事はそこの君、名は何というのかね」
「ミーの名かい。名乗るほどの者じゃねえがサツ・テンパー様よ」
「そうか、サツ君か。君がこのライオンの手当をしたのかい」
「いやあ、どうだったかなあ。ま、いきなりこいつが目の前に飛び出して来やがったもんでよぉ。あんまり痛そうにしてたからね、チョチョイと」
「何がチョチョイだ、カッコつけんな。そんな事するもんか」
「ファロー君、やめたまえ。そうかサツ君、君は優しい心の持ち主なんだね。その優しさがあれば、これからどんな事があっても君の悪いようにはならないよ。そうだ、是非この豆の木号に乗って、我々と一緒に出かけてみないかい。今日の事は水に流してあげよう。私はルーズベルト・チャー。この者がファロー・タンク君。そしてガハ・クール君」
「チャーさん、許していいんですか?」
「そうだ、そうだ、この野郎また何をするか分かったもんじゃないぜ。実は大悪党だったりしてさ」
「ファロー君もガハ君も信じようじゃないか。動物を愛する者に悪い奴がいるかい。私はその優しさに、心を打たれたんだよ」
 ワオ〜ン。
「そ、そうですね。チャーさんとサツ君って言ったっけ、信じてみましょう」
「うーん、オイラも分かった、チャーさん。仲間は多い方がいいか」
「さあ、サツ君どうだね」
「うっうっうー。チャーさん、ユーって人は。アイムソーリー、ほんの出来心でつい。ミーが悪かった、こんな素敵な列車を傷付けてしまって、何と言ったらいいか分かんねえよ。おー、うっうっうー」
 ワオ〜ン。ワオワオ。
「大丈夫じゃよ。心配はしなくてよろしい。ちょっと修理をせにゃならぬが、まあ大したことはないだうう。さあ、立って行こうじゃないか若人よ。一度の過ちくらい何て事ないだろう。君にだって夢があるはずなのだから、私が是非手を差し伸べようじゃないか」
「アイムソーリー。豆の木号にも謝りに行かないと」
「いいんじゃよ。もう済んだ事なんだから」
 ワオオ〜ン。
「さあ、行こうぜサツ君。オイラ、何かひでえ事言っちゃったみたいだけど」
「うんうん、言ってたよ。でもユーもチャーさんもいい人だから」
「さあ、話がまとまったとこうで腹が空いたのう」
「そうだよ、オイラも何も食ってなかったし」
「ムム、そういえばこんな所にライオンが、ライオンの肉なんてのも…」
 ワ、ワ、ワオオン?
「チャ、チャーさん、まさか」
 ワオ〜ン。
「ムム、待てえー」
 ワオ〜ン。
「チャ、チャーさーん」

 ―― いやあ、いくらなんでもお腹が空いたからと言って…。この先は飛ばしましょう。という事で豆の木号は四人と共に走る事になりますが、一体目的地はあるんでしょうかね。まあ、見守っていくとしますか。それではニンニキ。

       6

「さあ、直ったぞ。どうだね、見事なもんじゃろう。エヘン」
「う、うわあ、さっすがあチャーさん。スゴイですねえ」
「ミーもこれで安心できるよ」
「いやあ、このくらい何て事ないさ。何と言っても『豆の木で列車を造り上げた男。ルーズベルト氏』だからね。エヘン、それでは出発するとしようか」
「オッケイ、レッツだゴー!」
「じゃあサツ君、豆の木号は夢を乗せて走ってるんだ。君の夢を少しもらえるかね」
「ヘイ、ユー。ミーの夢、夢…」
 ―― 今まで夢を見るヒマも無かったからなあ。今までの自分ときたら、来る日も来る日もただその場しのぎでなあんにも考えてなかった。ここにいる三人はそうじゃないんだよね。よく分かんないけど、ミーにも夢を分けてくれたんだよ。何が欲しい、何がしたいとか、そんなもんじゃなくて、豆の木号と遠くまで走っていこうっていうね。

「さあ、出発しよう」
 ガタガタ。
「ヤ、ヤッター」
「ウッヒョー」
「オッケー」
 ガタコン、ガタコン。

 ―― さあ、いろんな夢を乗せて豆の木号は再び走りだしました。平凡な毎日というのは、いつもその場しのぎの気がしませんか。何か予想もしなかった事が起きても、どんなに苦しい事に巻き込まれても、人はそれを乗り越え大きくなっていくのであり、いうんな事を考え初めるようになるのです。ただ平凡と過ごすのが、その人にとっていいか悪いかは分かりませんけど。豆の木号は何も語りませんが、チャーさん共々喜んでいる事でしょう。だって、こんなに力強い三人に巡り会えたのですから。

       7

「ウーム、好調ですなあ。景色もぐるぐる変わっていく程だ」
「チャーさん、今日は飛ばしますね」
「おう、ガハ君か。みんなは休んでいるのかね」
「うん、随分ぐっすりと眠ってますよ」
「そうかい、みんなもちょっと疲れただろうに、なるべく早く君等の夢を叶えてあげたいからね」
「夢を叶えるって?」
「ウム、実を言うとこの豆の木号、もうだいぶガタがきてるようでね。何せ何年も休ませないで走って来たんもんだから。私の夢をつぎ込んで、来る日も来る日も」
「チャーさんの夢?」
「ウム、私の夢なんだよ。君等のような素晴らしい夢を持った、そして優しい目をした若人達に見せたいものがあるんでね」
「見せたいものって?」
「もうすぐだとは思うが、ワッツという丘があってだね、その丘の頂上に登るといつも虹がかかってるというんだ。その虹を見ていると、夜には素敵な流れ星が願いを叶えにやって来てくれるんだよ。ただ、その丘はとても険しい所で、今まで誰一人としてたどりついた者はいないんだ。豆の木号はがんぼってくれると信じているんだが…。私の夢と君等の夢を、精一杯燃やしてね。ゴホン、ゴホン、ウッウ」
「チャ、チャーさん、大丈夫ですか」
「うん、大丈夫だよ。ちょっと胸がつまったもんでね。ゴホン、ゴホン」
「そうかあ、そんな所があるなんて、チャーさんはロマンチストだなあ」
「ミーもそんな景色を早く見たいよ」
「う、うん、何だみんな起きていたのかね。ゴホン、ゴホン」
「チャーさんが熱く語ってるもんだから、オイラも起きちゃったよ」
「それは済まない事をした。ゆっくり休んでいるところを」
「ノーノー、いいのよ。豆の木号もがんばってるんだから、休んでいてもしょうがないよ」
 ガタン、ガタン。ゴゴゴーン。
「ヘイ、何よ、この衝撃は」
「ウム、どうやら丘の近くまで来ているようだ。かなり険しい道じゃのう。みんなしっかりつかまってておくれよ」
 ザザー、ザザー。ゴオー。
「ムム、おまけに雨まで降ってきたぞ」
 ガタンガタン。ゴンゴン。バッシャーン。
「ひっ、ひゃあ、大丈夫かなあ、こんな所を」
「がんばれ豆の木号、もう少しだぞ」
「ヘイ、ヤー、もう少しがんばってくれえ」
 ガン、バンバン。
「イテエ」
「ムム、大丈夫かね、ファロー君。しっかりな」
「アタタ、ガハ君の画板が頭に落ちてきたよ」
「ガバーンとか言ってね」
「…そういう訳で豆の木号、がんばれ!」
 ズバババーン。ゴロゴロ。バッシャーン。
「ひええ、カミナリまで鳴ってやがるよ、一体どうなってるんだよ、いきなり」
「さあ、もう少しだ。見てみろ、光が見えてきたぞ」
「ほ、本当だあ、きれいですねえ。がんばれ、豆の木号」
「おおう、あっ虹が見えてる」
「オー、レインボー、もう少しね」
 ガ、ガガガ、ガタガタガタ。
「ムム、スピードが上がったぞ。願いが通じたのか。よおし、もうちょっとだ」
 ガタンガタン。ゴオー。バッシャーン。
「うわあーっ」
 ガン、バッコーン。
「あーっ」
 ガタガタ。ブスンブスン。コロコロ。
「うううーん」
 バタッ。

 ―― もの凄い険しい道をどうやら登りきった豆の木号。ワッツの丘に着いたようです。精一杯、チャーさん、ガハ君、ファロー君、サツ君の為に走ってくれました。しかし、ここまでが限界だったようです。それでも、ちゃんとワッツの丘まで四人を運んでくれました。いろんなものを、いろんな夢をつめ込んで今日まで走り続けてくれた豆の木号はどうなったのでしょうか。
 それではワッツの丘に着いた四人、そして豆の木号。最後のショックで皆さん気を失っているようです。目が覚めたとこうから、どうぞ。

       8

「う、うーん、みんな大丈夫か。ガハ君、ファロー君、サツ君」
「あたたた、チャーさんこそ大丈夫ですか」
「ここは、着いたの?」
「オー、きれいなレインポー。着いたんだね」
「着いたよ。ここがワッツの丘だよ。我々は着いたよ」
「つ、着いたんですね、いやあ良かったあ」
「す、すげえー。この虹の色、見たことないよ」
「イエー、ミーもこんなの見たことないよ。それにしてもみんな無事で良かったよ」
「無事なんだが、みんなの夢を乗せて走った豆の木号はこれが最後だったようだ」
「ま、豆の木号!」
「バラバラだあ。ええー、せっかくここまで来たっていうのに」
「オーマイガッ、元通りにはできないの、チャーさん」
「うん、やはりこの道のりは豆の木号にはつらかったようだ。だがきっと喜んでいるに違いないよ。ホラ、今まで燃やしていた君等の夢の灰を残していてくれたからね」
「夢の灰?」
「そう、この灰をこの丘の土に埋めておけば、また何年もすると豆の木が芽をだしてくるんだよ。きっと大きな木になるに違いない」
「そうなんですか、豆の木号ありがとう。こんなになってまで」
「うっうっ、オイラ泣けてくるよ。本当に豆の木号に乗って良かったよ。うっうっ」
「サンキュー豆の木号、グッバイ」
「さあ、みんなワッツの丘に着いたんだ。ホラこんなにきれいな虹が我々を包んでくれてるんだよ。勇気を出そうじゃないか」
「チャーさんもありがとう、今までは何か迷っていたとこうもあったけど、オイラもうこれから迷うことなく生きていける気がします。うっうっ」
「ミーも同感だよ、うっうっうっ」
「み、みんなは何で泣いているんだよ。豆の木号も泣いてたんじゃ喜んでくれないよ。きっとここまで僕等を送り届けてくれただけなんだよ。これからは一人一人が力を合わせていかなきゃならないんだ。今までは自分の夢をただ豆の木号に預けて僕らはそれに乗っかっていただけだし、これからは僕等が歩き、走り出す番だよ」
「ガハ君、そうか、そうなんだよ。オイラも負けないぞ。ここに辿り着いただけでもオイラ大きくなった気がするよ」
「ありがとう、豆の木号!」

 ── こうしてワッツの丘に登った四人。そして、その四人を見送る形で壊れてしまった豆の木号。いろいろな事や物を見ながら聞きながら旅は終わりました。でも四人にとってはまだまだ旅はこれからのような気がします。さあ、夜には流れ星が願いを叶えにやってくるのでしょうか。

       9

「何か考え事でもしてるのかい、サツ君」
「あっチャーさん。何かこう、ここまでいろんな事があったじゃない。だけどこれから先は…。チャーさんはどうするの」
「これからかい?うーむ、まあ私はのんびりと行きたいところだが、先の事は分からん。あまり考えずにいた方がいいんじゃないかのう。この素晴らしい旅の余韻にしばらく浸りたいからね」
「旅の余韻かあ…」
「おっ、ガハ君。これは随分と素敵な絵を描いているね。ハッハッハ、これが私かね。そうかありがとう」
「チャーさん、タイトルを何て付けようか迷ったんですけど、『ワッツに立ち尽くす…夢と希望の豆の木号』ちょっと長いんですけどね。気にいってもらえましたか」
「おうおう、気にいるなんてもんじゃないよ」
「僕もこういう絵が描けてとてもうれしいです。これは記念に…」
「いやあ、ありがとう。ありがたく頂戴しと…」
「この丘の上、豆の木号のそばに置いていきます」
「ウウン、そうだねガハ君。いやあ素晴らしい。豆の木号も喜ぶはずじゃよ」
「喜んでくれるかあ…」
「ところでファロー君はどうした。さっきから姿が見えんが」
「さっき、向こうの方へ行ったのを見たんですけど」
「おうおう、いたいた」
「シュワッ、ダアー、ウリャッ」
「何をやっとるかね、ファロー君」
「やあ、チャーさん。ちょっと、さらに大きな人間になろうと思ってね、体を鍛えてるとこなんすよ。ウリャッ、エイッ」
「ハッハッハッ、そりゃたくましい事じゃ、私もやってみようかな。エイッ、ウリャッ」
「ハッハッハッ」

「そろそろ流れ星が見えてくるはずなんだがのう」
「さあ、最後に僕等に流れ星を見せて下さい、ワッツの丘さん」
「夢を叶えてくれるんだろう、何の願い事しようかな。考えておかないと通り過ぎたりするからな」
「そうだね、イッツオーライ」
 キラッ。
「うううん」
 キラリ。
「おー」
「ムム、流れ星じゃ」
「どうしよう、早くしないと。えーと、えーと」
「何だよ、ガハ君。考えておかなかったのかよ。えーと、えーと。何でもいいから早く、君もあなたも手を取りー。いやいやそんなんじゃない。えーと」
「ワンダホー、ビューティホー」
「ムムッ、ムムムッ」
「どうしたんですか、チャーさん」
「何故かこっちに近付いて来てるような…」
「えっ、何が、ワッ本当だあ」
「オー、アンビリーバボー」
「流れ星じゃないのかのう。こっちに向かって来とる」
「ワアーッ。せ、せまってくるよぉ」
 グウォー。
「ヒエーッ。大変だあーっ!」
 ガワー。
「ヘルプミー。燃えてる…」



ドッバアーン。



 ピピーピー。
 こちら火星通信放送局。只今地球上に、巨大な損石と思われる物体が激突した模様であります。詳しい事は分かっておりませんが、火星には全く影響は無いものと思われますので、御安心下さい。以上。
 ピピーピー。
「へえ、これは大変な事が起きたねえ。地球もどうなっちゃうんだろうねえ。まあこれも、自然を損なってきた地球人の罰なんだろうね。おっと、これはこれは初めまして、私ここ火星の道先案内人、チャール・ズベルトといいます。これから勇気ある若者を乗せに、この豆で造った『豆号』で出掛けるところなんだ。どうだい、乗っていかねえかい。火星はいいところだぞ」

       10

 夢と希望。ちょっとクサい言葉ですが、どんな事にも負けない言葉だと思いませんか。あなたが子供の頃に見ていた夢というのは、今どこに行ってしまったんでしょう。それはそれは大きな風船がしほんでいくかのように、小さく小さくなって消えてしまったんでしょうか。それともあなた自身がその風船より大きくなって、見えなくなったのでしょうか。いずれにしろ、あなたが希望を持てばきっと顔を出してくれる事でしょう。それでは、またどこかでお会いできたら。
 そういえば、いつしかワッツの丘では、四つのとても大きな輝く流れ星が見られるようになったそうです。そして一本の豆の木がすくすくと育って、今では多くの若者が訪れ『ワッツと豆の木』の愛称で親しまれる場所となったそうです。思いに夢を馳せる場所として。


       走れ豆の木号!

   拝啓みなさん、今日も一日ゴキゲンいかがでしょう
   いろいろあるとは思いますけどここは一つ乗り切っていきましょう
   それでは偉大なるワッツタックス、メンバー紹介!
   まずはドラムスから、ガ・ハ・ク!
   ベースプレイヤー、タローファンク・Jr!
   ギターヒーロー、てつ3%!
   そしてそして、時代を彩るメッセンジャー、ミスター・チャールズ!
   世界の国から平和な国からこんにちは
   愛する人から恋する人までよろしくね
   海越え山越えて走れ走れゴー!
   夢と希望をのせて豆の木号
   この拡がる空の真下を走る
   夢と希望を届けに豆の木号
   地平線越えて僕等の声で
   走る走るどこまでも豆の木号
   ちっぽけな地球光陣け
   いざ進め!ワッツと豆の木号!


── 完 ──



       あとがき

 トラヴェリンバンドとはよく言ったもので、まさにバンドというものには、旅の匂いがプンブンしています。この『ワッツと豆の木』も、そんなトラヴェリンな夢を乗せて書いてみたつもりです。
 だが、これだけの長さのものを書くにあたって、技術や方法を全く身に付けず勢いと情熱だけでチャレンジしてしまったため、展開や文章表現が不安定になっていたりしますが、その点は御了承願いたい。
 そして、この物語が無事に完成したことを自分自身嬉しく思い、協力、応援してくれた方々にこの場を借りて感謝します。また、この物語を書くきっかけと希望を与えてくれた愛するワッツタッスのメンバーに最大の感謝と敬意を。

1997年9月 Mr.チャールズ  


 つけ加えておくが、物語に登場してくる人物の人格や口調等は、私が勝手に作り上げたもので、そのモデルであろうと思われる人物とは全くもって異なる点を承知願う。




ワッツと豆の木
著者 Mr.チャールズ
1997年9月12日 初版発行




発行者
発行所
表紙デザイン・編集
印刷・製本


ワッツタックスレコード主任
ワッツタックスレコード
ガ・ハ・ク
株式会社 創和プリント




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