5−ASA製剤

5−ASA製剤には従来から用いられてきたサラゾスルファピリジン(略号:SASP、商品名:サラゾピリン)と最近発売されたメサラジン(商品名:ペンタサ)があります。SASPの正確な作用機序は完全には分かっていませんが、大腸で腸内細菌により有効成分である5−ASA(5−アミノサリチル酸)とSP(スルファピリジン)に分解されることが分かっています。
5−ASAは、腸管の中で局所的に働き、炎症を抑えると考えられていますが、これまで5−ASAそのものの投与は腸に到達する前に大半が吸収されてしまい、有効に作用することが難しいとされてきました。そこで、腸で徐々に有効成分である5−ASAを放出するように製剤設計されたペンタサが、最近日本でも発売され、潰瘍性大腸炎や小腸・大腸が侵されるクローン病の治療薬として汎用されるようになりました。特にこれまで様々な原因によりSASPが服用できなかった患者さんには新たな選択の余地ができたと考えられています。実際の投与方法は内服が主体となりますが、SASPとメサラジンの使い分けは病変の範囲、程度、それまでの薬剤の効果や長期の服用に際しての安全性などから判断されます。

[副作用]
SASPによくみられる副作用としては、アレルギー症状、発疹、消化器症状、頭痛などがあり、これらの多くはSASPのSPによって起こるとされています。このほか肝障害や、まれに、ですが赤血球が崩壊しヘモグロビンが溶け出すことによって起こる溶血性貧血や顆粒球が減少する無顆粒球症なども起こり得ますので、定期的な血液検査を受ける必要がります。また男性の場合には精子数の減少や運動能力の低下を引き起こし、男性不妊の原因になることがあります。将来子供を希望する場合は、念のため主治医にその旨を相談することをおすすめします。
一方、メサラジンでも、アレルギー症状、発疹、消化器症状、頭痛等の副作用はあります。これらの症状が出た場合は、すぐに主治医に申し出てください。
妊娠に対する投与については両製剤とも通常の投与量では催奇形性はないとされています。しかし薬が母乳中へ移行することから、出産後は主治医に相談するといいでしょう。


副腎皮質ステロイド

副腎皮質ステロイドは強力な炎症抑制作用を有し、5−ASA製剤とならび潰瘍性大腸炎の治療の中心となっています。プレドニゾロンやベタメタゾンなどが主に使われています。潰瘍性大腸炎の治療においては内服、静脈内投与のほかに坐剤(商品名:リンデロン座薬)や注腸(商品名:ステロネマ)も用いられます。さらに重症型や激症型に対して周期的に大量のステロイドを静脈内投与するパルス療法や腸間膜動脈内注入療法なども行われています。有効性は非常に高く5−ASA製剤のみでコントロールできない症例に対して適応となります。ただし、副作用が起こりやすいため、病変の範囲や重症度に応じて投与量、投与方法が違ってきますから、きめ細かい観察と適切な診断、工夫が必要となります。
副腎皮質ステロイドを用いるうえでの問題点はその副作用にあります。主な副作用を下記に示しますが、いずれも大量・長期におよぶほど生じやすくなります。例えば、プレドニゾロンで20mg/日の長期投与よって、起こることが多く10mg/日以下ではその頻度は著しく減少しますから数週間をかけて10mg/日以下に減らすようにします。注意しなければならないのは潰瘍性大腸炎では炎症はおさまっていても腸管の過敏性や運動機能の異常などで排便回数が多くなることがあり、この際に患者さんばかりか医師さえもステロイドの有効性に精神的に依存してなかなか減量できないということです。
ステロイド剤を使用するうえでもっとも重要なのは正確な病体把握であると考えています。

[副作用]
副腎皮質ステロイドの主な副作用としては体重の増加、顔のむくみ(満月様顔貌・ムーンフェイス)にきび、不眠などがあります。ほかに糖尿病、骨がもろくなる(骨粗鬆症)感染症にかかりやすくなる(易感染性)などの重篤な副作用が見られることがあります。
多毛、頭髪が抜ける、知覚過敏、白内障、緑内障、大腿骨骨頭壊死などなど。

※ 新しいステロイド
副作用の少ないステロイド剤の開発が進んでいます。ベクロメタゾンやプデソナイドがその代表例です。これらは局所での抗炎症作用はそのまま残しながら全身への副作用を少なくした薬例です。すでに喘息の吸入剤や皮膚科の軟膏として使用されていますが、欧米を中心にこれらの薬剤が潰瘍性大腸炎の治療に試され、一部では市販もされ良好な成績を挙げ始めています。残念ながらわが国ではまだ認可されていませんが、今後わが国でも新しいステロイドの開発・認可が必要になってくるでしょう。


免疫抑制剤

潰瘍性大腸炎は多くの免疫学的異常が認められることから、自己免疫制疾患であると考えられています。
このため、免疫の異常な働きを抑える免疫抑制剤を投与する治療法もあります。多くの患者さんは5−ASA製剤と副腎皮質ステロイドを適切に使用することで、非常に良好な経過をたどることができますが、ステロイドの離脱が困難であったり、頻繁に症状が再発する患者さんがいるのも事実です。
ステロイドは抗炎症効果が絶大である反面、易感染性、骨粗鬆症、糖尿病、などの様々な副作用を誘発することがあり、長期投与あるいは頻回の大量投与で副作用がより深刻になることが以前から問題視されていました。そこで従来の治療法のみでは治療が難しい患者さんに対しては、アザチオプリン(商品名:イムラン)や6−MP(商品名:ロケリン)という免疫抑制剤の少量投与を行う場合があります。この薬を併用することで、ステロイドの減量あるいは中止が、症状の再燃なく行うことができるようになります。
患者さんの中には白血球減少、脱毛といった副作用が認められることがありますがいずれも休薬により治まるので、少量で投与する限りは安全性についても問題の少ない薬と考えられています。難点は効果の発現が緩徐なことです。ですから免疫抑制剤は速やかに炎症を抑え込まなければならない活動期の患者さんよりも、緩解維持することを目的に使用されます。

※ 自己免疫疾患
本来、ウイルスなどの外敵から体を守るはずの抗体などが、体の組織を攻撃し破壊す
ることによって起こる病気。