【どんな病気】
大腸および小腸の粘膜の炎症または潰瘍をひきおこす原因不明の疾患の総称を炎症性腸疾患(IBD・Inflammatory Bowel Disease )といいます。潰瘍性大腸炎も、この炎症性腸疾患の一つ。どんな病気かを簡単に言うなら、大腸の粘膜をおかし、しばしばそこに小さく浅い潰瘍やびらん(ただれ)が多発する病気、ということになります。


【歴史】
潰瘍性大腸炎は発見当初、細菌やウイルスによる感染性の腸疾患と区別がつきませんでした。これが世界で初めて認識されたのが、1875年のWilksらによる「原因不明の非特異性炎症性腸疾患」の報告であったと考えられています。わが国では、1928年に初めて報告され、1973年には厚生省特定疾患・潰瘍性大腸炎調査研究班が発足しました。これにより1975年に厚生省特定疾患に認定され、現在も随時、診断基準や治療方針の認定・改定が行われています。


【症状】
初期の症状は腹痛と共にゼリー状の粘液が排便時に多くなり下痢の傾向になります。放置しておくと粘液の量が増えるとともに血液が混じるようになったり(粘血便)、血便が出るようになります。さらに、ひどくなると一日に何十回も粘血便や血便が出るようになります。このほか、発熱や体重減少、まれに便秘も認められます。

【原因】
原因は、腸内にすむ細菌のバランスがくずれたことが、大腸炎の発生や症状の進行に関わっているのではないかという細菌説。人間の免疫機構(体を外敵などから守ろうとする体内の防衛システム)が、体の一部であるはずの大腸粘膜を、敵と認識して攻撃し、破壊しているという自己免疫異常説が言われています。またこの病気は北欧や米国の白人やユダヤ人に多いことから、食生活が関係しているという説や、ストレスが大きく関与している説などさまざまですが、結局、はっきりした原因はわかっていないのが現状で、かなり長い付き合いとなると言わざるを得ません。

【現状】
特定疾患受給者症の交付件数では平成8年度の時点におけるわが国の患者数は約4.6万人。有病率は10万人あたり36.9で、さらに年間4000人が発病しているといわれています。発病率には男女差はないものの、発生年齢は男性で20〜24歳、女性で25〜29歳をピークとします。死亡率は欧米で10万人あたり0.1〜0.25%、日本では0.1%と、特定の場合を除いては死に至ることはありません。


【潰瘍性大腸炎の診断法は?】
潰瘍性大腸炎の症状は、腹痛、粘血便、下痢、発熱など。大腸からの出血が多い場合には貧血となり、それが元で頻脈(心拍数が毎分100を超える状態)が出ることも。一般に経過は穏やかで、悪くなる時期(再燃)と、良くなる時期(緩解)が繰り返されますが、急激な発熱と粘血便で発症ることもあります。
以上のような症状から潰瘍性大腸炎を疑うわけですが、症状が腹痛と下痢のみの場合、過敏性腸症候群と診断されることがあります。また急激に症状があらわれた場合には感染性腸炎や虚血性腸炎などの疾患との区別も必要です。ですから診断にはこれらの症状のほかに血液検査による炎症反応、便潜血検査や注腸X線検査、大腸内視鏡検査などの画像検査を行い、総合的かつ慎重に判断する必要があります。

【診断後の経過観察について】
以前は、重症の場合には大腸の大部分を切除する場合もありましたが、最近は手術例は減少しています。多くの場合、薬物療法で一時的、もしくは永続的に自・他覚症状が減少(緩解)しますが、症状が改善されても医師の指示があるまでは通院する必要があります。
またこの病気はまれに大腸がんを合併することがあります。特に慢性持続型、発症から10年以上経過している例、全大腸炎型ではその危険度が高いと言われています。したがって長期に経過した患者さんについては、定期的に検査を行うことが必要です。

【どんな治療をするの?】
潰瘍性大腸炎の治療には大きく分けて薬物療法、食事療法があります。
軽症の患者さんでは5−ASA製剤の飲み薬による治療が基本的なものになります。重症の患者さんや全身症状を伴う中等症例ではステロイドの大量療法や免疫抑制剤、その他新しい治療法を行うことになり、多くの場合急性期は入院治療が必要です。また精神的ストレス、受験、妊娠、出産等が症状の悪化をもたらすこともあり、急性期が過ぎても休養、充分な睡眠等により心身の安静を保つことが重要です。
多くの患者さんは薬物療法により、緩解が得られます。ステロイドは臨床症状、炎症反応等の様子を見ながら徐々に減量していきます。この途中で症状が再発し、ステロイドの減量・中断(離脱)ができない患者さんやステロイドによる副作用により使用が困難になる患者さんもいますが、この場合免疫抑制剤や白血球除去療法などが行われることもあります。ステロイドか離脱できた患者さんでは5−ASA製剤で維持するのが普通です。