| 「長靴の上から愛を込めて」 |
| 1.Roma |
| 21世紀になって最初のクリスマス・イブの夜、私はウィーンの旧市庁舎前の広場にいました。ホットワインで震える体を温めていると、地元の家族連れに声をかけられたのです。そのお父さんと私の、互いに堪能とは言えない英語のやり取りのなかで、どこの街が好きかと訊かれました。 「ロンドンは好きだし、パリは写真を撮るにはいい街です。もちろんウィーンも素敵ですよ」と私は答えました。正直なところ砂糖菓子みたいなウィーンに、ちょっと退屈していたんですけれど。 「ロンドンもパリもいい街だ。もちろんウィーンを誉めてもらうのも嬉しいよ」とおじさんは笑いました。「だがね、ローマは特別だ。いつか必ずあの街に行くといい」 ロシア人がよくかぶっているような毛皮の帽子の下で、澄んだ瞳が真っ直ぐに私を見つめていました。 そのようにしてローマにやってきたのです。長靴のようなイタリアのスネの辺り。中心であり、急所であるのかもしれません。 着いたらすぐに手紙を書こうと思っていたのに、もう二日が経っています。いや、三日かもしれません。この街ではいろいろなことが混乱します。紀元前の隣に四世紀があったかと思うと、その角を曲がったところに十二世紀が存在します。そんな街で写真家はおのれの無力さを思い知らされるのです。従ってしまえば簡単です。コロッセオも、サン・ピエトロ寺院も、スペイン広場も、当然のようにそこにある。それらに身を委ね、私自身であろうとすることを諦めるだけでいいのです。 でも私が撮りたかったのはコロッセオのかたちではなく、どんな場所にあって、どのように人の生活と関わり、私が何を思うかです。それは自分が訪れないとわからないことだから。 旅を前にしてイタリアの写真は多く見ましたが、それらは街に撮らされたようで、撮り手の存在や眼が感じらなかったのです。私なら――などと思えたわけではありません。でも自分がどんな写真を撮るのか試してみたかった。そして「いつかローマに行きなさい」と言われたことの、本当の意味を見つけたかったのです。 でも、もう私に残された時間は多くありません。明日の夜にはフィレンツェに向かう予定です。そこでまた手紙を書きます。 それでは。 |
![]() |
| >> |