好きな短編小説

ベスト8

↑は、このサイトの読者にはおなじみの、100冊1万円計画の成果です。



長編小説のなかにはいくつもの要素を盛り込むことができるから、読み返すたびに違う登場人物に共感したり、別の場面に感動したりする喜びがあります。物語を追っていくにしても、短編よりは長編のほうが長い距離を歩かされるわけで、その過程で見れるものってずっと多いのは当たり前です。終わりが近づいたときの感動も長編のほうが一般的には大きいです。

でもそういったこととは別に、短編の潔さというのか、切れの良さも魅力的だと思います。極端な言い方をすれば、ひとつの台詞や、ひとつの場面だけで話を作り上げることだってできるわけだから。凝縮された純粋な結晶を見ているような喜びを感じることもあります。そういうわけだから、書き手のセンスが見える気もします。

そんなわけで僕は短編小説がかなり好きなので、そのなかから8つを。
短編、という定義が難しいところですけれど、原稿用紙100枚程度までのものを選んでいます。もちろん一作家につき一遍にしました。



1.大聖堂   レイモンド・カーヴァー

カーヴァーは長編を書いていないから、生粋の短編小説作家ということになります。短編だけで生計を立てるのは、日本はもちろんアメリカでも難しいようですが、それをやり通したんだからすごいです。
短編ばかりを書いていただけあって素晴らしい作品が多いのですけれど、個人的に最も好きなこれを。設定や登場人物のキャラ設定はもちろん、切り詰めた言葉でスッスッと立ち位置を入れ替えていくような巧さは、ほとんど完璧に思えてしまいます。


2.かわいい女  チェーホフ

僕がはじめて読んだチェーホフ短編集に収められていた3編、つまり「ヨーヌイチ」「かわいい女」「犬を連れた奥さん」のなかならどれでも良かったんです。すっげえいい物語で涙が止まらない、なんていうようなものではないけれど、チェーホフの書く小説に漂う雰囲気が大好きです。同じ時代に生きていなくてもこれだけ共鳴できるってことは、人の根元にあるものを扱っているからなんでしょうね。


3.頭の中で何かがかちんと鳴る  イーサン・ケイニン

あまり有名じゃないですが、イーサン・ケイニンの短編集は大好きです。ここに収められているものはどれもほとんど好きなのだけれど、短編ならではの「この場面のためにこの話がある」という醍醐味を感じられるのは、これがいちばんだと思うので。不思議なタイトルですよね。


4.A&P  ジョン・アップダイク

サリンジャー的すぎると奥さんに言われた、なんてアップダイク自ら解説していましたが、青春というもののはかなさや、ある世代しか持ち得ない微妙な感情を描いた短編です。この主人公に共感できなくなったら、僕も川を渡ってしまったということなんだろうな。


5.冬の夢  スコット・フィッツジェラルド

「グレード・ギャツビー」がよい小説なのはわかっていても、フィッツジェラルドの作品で何かひとつというと、こっちを選んでしまいます。
上に挙げてきた4つの話が、わりに短い期間やある瞬間をモチーフにして書かれているのに対して、この短編はその中で人が成長し、挫折します。短編では得難い心の揺れを経験できる物語です。


6.バナナフィッシュにうってつけの日  サリンジャー

短編が有名な作家というと、普通は誰を思い浮かべるんでしょう。ヘミングウェイ、ポー、チェーホフ、カーヴァー、アーウィン・ショー、O・ヘンリー……。
どんな出会いだったか覚えていないのですが、僕がはじめて「短編ってすごいな」と思ったのは、このサリンジャーでした。今の若い子もサリンジャーなんて読むのかな?
浜崎あゆみとサリンジャーが好き、なんていう子もきっといるんでしょうね。


7.この世でいちばん美しい水死人  ガルシア・マルケス

何かひとつのものをきっかけにして人々の心がひとつになって……というような物語にとても弱いので。短い映画でも観ているような感動があります。
ガルシア・マルケスは長編はどれを読んでもしっくりこなかったし、他の短編もそれほど好きではないのですが、この話だけは特別に好きです。


8.プールサイド  村上春樹

今じゃ考えにくいことですが、「村上春樹は短編のほうが好きだ」という人はけっこう多かったみたいです。でも考えてみれば短編作家に適した資質を多く持っているから、そういう人がいても不思議ないですね。人気の高い短編を多く残しています。「午後の最後の芝生」「納屋を焼く」「眠り」「緑色の獣」などなど、僕も好きな話がたくさんあります。
でもそのなかでひとつを選ぶならこれを。この主人公の歳を自分が超えるとき、なんとなく不思議な気持ちになりました。


次点 その1:ムーア人  ラッセル・バンクス

読めばわかるのですが、このタイトルからしていいです。
ラッセル・バンクスは翻訳されているものがとても少なく、なかなか読む機会がないのが残念です。

次点 その2:静物  庄野潤三
ぼくはあんまり日本の小説を読まないのですが、どうしても受け入れられない部分が多くあるからで、でもこの短編にはそれがありません。だからといって欧米的な考えで書かれているかと言えばそうでもない。そこが好きです。

もし「こういうのもあるから読んでみたら」という情報があれば教えてください。