あなたの声が好き





音楽を形成する要素ってたくさんあるけれど、「この人のものだったら」と買ってしまうのは、声が好きとか、メロディセンスが好きとか、音作りが好きとか、何かしらの理由があるんでしょうね。
ぼくは歌の入っている音楽を聴くことのほうが多いので、この声は好きだと思うアーティストを8人。順不同です。
もっとも声って曲との兼ね合いもあるから、ほんとうは隠れた美声もあるのかもしれないですけれど。いい声も、いい曲と出会って、はじめて人の記憶に残るんですよね。我ながら、あれいいこと書いたな。
なのでその人の声がいちばんよく聞こえると思っている曲も書いてみます。歌が上手い、というのとはちょっと違うところも面白いです。U2のボーノやクランベリーズのドロレスなどは、「声が好き」というところに入れるのは微妙なところ。

★ジョン・ウェットン

僕の高校時代は彼の声とともにあった、と思うくらい良く聴きました。たしかもと聖飢魔U(←2です)のデーモン木暮さんも、理想のボーカリストとしてジョン・ウェットンの名を挙げていました。
透明感のある高音ながら、安易に裏声を使わず、ビブラートの少ない声の延ばし方など、ドラマティックなプログレにはぴったりでした。グレック・レイクも素晴らしいボーカリストだと思うんだけれど、僕の好みはジョン・ウェットン。倍音の関係でしょうが、キーボードとの相性もいいですよね。
その魅力を味わうのに、ASIAで残した数々の名曲は捨てがたいですし、ソロになってからの溌剌とした歌いっぷりも魅力あるのですけれど、なんと言ってもU.K.のライブ盤での「Nothing to lose」でしょうか。

★アニー・ハズラム

ジョン・ウェットンが男性プログレ系ボーカリストの代表だとしたら、女性ならば迷わずアニー・ハズラムでしょう。プログレ系の女性ボーカルは数も少ないですしね。スケールの大きな女性ボーカルというと、エンヤとかサラ・ブライトマンとか好きな人が多いでしょうが、そりゃあいい声だと思うんですが、それにしても……。そういった人たちに較べるとアニーは声量もないし、声の抜けももうひとつだけれど、その分だけ人間味が伝わってきます。CDで聴いてもライブ感のようなものがある。
ルネッサンスというバンドは転調や変拍子だらけで掴みづらい曲調が多いなか、彼女の声がそこに華を与え、光の差す方向を示すかのようでした。ブレてしまいがちな曲に、ビシッと一本の筋を通すようで。
ソロになってのアルバムで歌っているカバー曲も悪くないですが、曲がポピュラーすぎて彼女の声を活かしきっていない気もするので、ルネッサンスの代表曲でもある「燃ゆる灰(Ashes are burning)」がなんと言っても泣かせます。タイトルからしてすごくいい。

★ピーター・ガブリエル

ジェネシス時代の、例えば「Selling England by the pond」などのわりに高いキーで勝負していた頃ももちろん好きですし、「Shock the monkey」などの変幻自在といった感じのソロ前期も曲調に良く合って格好良くて、ボーカリストに必要なものって歌の上手さだけじゃないんだと思わせます。ただ個人的な好みでいえば、アルバム「So」あたりからの抑え込むようにして伸びやかに歌っている感じがとても好きです。
いろいろな声質が味わえて、なおかつ彼の辿ってきた音楽的な深さを感じられて、それでもなお曲のメロディの美しさは損なわれていないという点で、「Mercy street」がいいです。

★バーナード・サムナー

音程が不安定だろうが、ライブじゃヘロヘロだろうが、声量がショボかろうが、この声で歌われちゃったら40%増しくらいに曲が良く聞こえてしまいます。
好きな曲ということなら「Regret」だし、この曲はメロディのキャッチーさに助けられて声の良さも際立ってます。でも新しいアルバムの「Turn my way」で元スマパンのビリー・コーガンが参加していて、その対比もあって非常に声の違いがわかりやすいです。まず先にビリーが歌って、その上から被さってくるようにバーナードが声を放つんですが、その瞬間は鳥肌が立ちます。興奮している助さん角さんを抑えて、印籠を取り出す水戸黄門のよう、というのはいかにも安っぽいたとえですね。この曲、途中はグダグダになっちゃいますけど好きです。
直接の関係はありませんが、二人目のボーカルと言っていいほどベースのラインも歌っていてカッコイイので、ニューオーダーを聴くときにはそこも楽しんでください。

★ジョニ・ミッチェル

楽器の上手な人のことを喩えるときに、「まるで声のように自由自在に」という言い方をしますが、その逆で楽器を操るようにして声を扱うボーカリストもいるわけで、バックに実力のあるミュージシャンを従えながら、その上を自由自在に舞うように歌うジョニ・ミッチェルの声は素敵です。いわゆる「歌が上手い」というのとはちょっと違うと思いますが、感情やメッセージを声で伝えることがボーカリストの大切な資質だとすれば、彼女の声の魅力は大きな武器じゃないのかな。
キャロル・キングあたりが好きな人はぜひとも「River」を聴いてもらいたいけれど、僕が彼女の声をもっとも心地よく感じられるのは「Shadows and light」です。安定している演奏を信じ切って、自由奔放にメッセージを歌に変えていきます。抑揚の付け方から意志の強さが伝わってくる気がします。僕が連載のなかでジョニ・ミッチェルのことを書いたことがありますが、実はその曲がこれです。

★トム・ウェイツ

どちらかといえば抜けの良い声が好きなんですが、トム・ウェイツを外すわけにはいかないですね。その場にいるだけで雰囲気を自分の色に染めてしまうような存在感のある人がいますが、トム・ウェイツの声ってそういうところがあります。同じ音量でいろいろな人の曲を流しているのに、彼の曲になったときだけ空気の重さが違うような、そんな気がする。手で触れそうな声です。
アルバムごとに雰囲気を変えていて、「Swordfishtrombone」なんて曲も合わせて素晴らしいです。でも、いまほど上手くはないし渋味もないけれど、魅力は既にたっぷり持っていたんだと実感できる「Martha」を。トム・ウェイツってがさついた印象があって苦手、という人もこの曲はぜひ。
レナード・コーエンあたりが好きな人でも、たぶん受け入れられるんじゃないでしょうか。

★ルー・リード

日本人で誰がいちばん反則かと言えばやっぱり大山のぶ代さんだと思います。あの声で何か言われたら、絶対に振り向いちゃうよな。普通のものでも特別に見える。
そういう意味で、なんでもないようなメロディが特別に聞こえちゃうのが、ルー・リードの声です。彼は本来は詞の内容が先に評価されるべき人なんでしょうが、声だけでも相当に素晴らしいです。ボーノとデュエットとしているの見たことあって、あの呟くような歌い方でボーノ以上の存在感がありました。
ルー・リードの声を感じるなら、お勧めしたい曲は数あれど、『夏至』というベトナム映画を観るのがいちばんいいと思います。使い方や選曲に不満は残りますが、それにしてもすごい声だなと再認識することができます。

★スティング

この企画を考えたときに、好きなボーカリストの名前を順に考えてみました。エディ・ヴェンダー、カート・コバーン、リアム・ギャラガー、ジム・モリソン、ジミ・ヘンドリックス、キャロル・キング、マイケル・スタイプ、モートン・ハルケット、マーク・リンコス、イギー・ポップ、アニー・レノックス、ジョージ・マイケル、プリンス、ボブ・ディラン、シェリル・クロウ、トム・ヨーク、デイヴ・ギルモア、デヴィッド・ボウイ、もちろんフレディ・マーキュリーやジョン・レノン……。でもそれぞれの記憶は、曲と密接に結びついていて、声だけを切り離して考えることが難しかったです。おまけに顔ぶれを見てわかるように、傾向というものがまるでないんですね。
そこで好きな声、好きな声と考えて、スティングを思いつきました。
ソロになってからバラードの名曲は多くて選ぶのが難しく、しかも「見つめていたい」の影がちらついて困りましたが、青春の思い入れも含めて「Message in a bottle」を。スティングの声を思い描くとき、最初に浮かぶのはこの曲なので。
他にデュラン・デュランから派生したアーケイディアというバンドのアルバムで「the promise」という曲があって、そこにコーラスで参加しているんですけれど、サイモン・ル・ボンとの対比もあって声の良さが感じやすいです。



20021212