2.時間故障率の算出

国内原子力発電所34プラントの1982年度から1991年度までの10年間の運転実績から、非常用ディーゼル発電機、電動ポンプ、リレーやトランスミッタ等の主要機器47機種について時間故障率を算出する。

2.1 データ収集方法
故障率算出のための機器員数、運転時間、故障データの収集方法を記す。

2.1.1 対象機器
故障率算出の対象機器は、PSAで使用される主要な機器でありかつ、運転プラントの運転実績から故障率算出が可能と考えられる機器とする。 対象機器は、表 2.1.1に示す機械品、電気品の29機種、計装品の18機種、計47機種とした。

2.1.2 対象プラント
データを収集するプラントは、表 2.1.2-1に示す1987年度以前から営業運転を実施しているBWR18プラント、PWR16プラントの計34プラントとした。ただし、一部の機器については、機器員数が膨大となるため、設備構成がほぼ同じプラント毎に代表プラントを選定し、表2.1.2-2に示す区分により機器員数を調査した。

2.1.3 対象系統
データを収集する系統は、PSAで対象となる安全系及びそれらの系統にある機器と同等の運転状態にある機器を対象とするため、表2.1.3-1に示す主要な常用系、安全系とした。ただし、計装品等の一部の機器については、機器員数調査を実施し易くするために、表2.1.3-2に示す範囲とした。


2.1.4 機器の選定

  1. (1)機械品・電気品
 表 2.1.3-1に示した安全系および主要な常用系に属する系統の機能上重要となる機器を選定する。  特にポンプ、弁類の選定にあたっては、BWR、PWRの標準的な系統図を作成し、対象とする機器を明確にした。
  1. (2)計装品
 表 2.1.3-2で示した系統における現場および中央制御室に設置されている計装系機器を対象としている。ただし、機器本体に直接設置されている計装品、例えば、ポンプ周りの温度検出器等については、故障率評価上は当該機器本体に含めることとし、計装品の員数調査の対象外とする。 また、盤単位で員数調査を行う機種(リレー、遅延リレー、カード、ヒューズ、手動スイッチ)については、選定した中央制御室制御盤(表2.1.3-2 )に属する機器を員数調査の対象とする。



なお、機器の員数は、別に定めるバウンダリによって定義される範囲を1機器として、調査した。

2.1.5 機器故障データ
機器故障データは、原子力発電情報システム(NICS)に登録されている電力会社から送付される故障トラブル情報とし、故障率算出に使用したデータは、1982年4月1日から1992年3月31日の間に発生したものである。

2.1.6 機器の運転時間
機器の運転(待機)時間は、原子炉運転時間とした。 ただし、インバータ、蓄電池、充電器については、原子炉の運転に係わらず常時運転状態にあることから、暦時間とした。

2.2 機器故障データの分析方法

機器の故障率算出のための機器故障データの分析方法について記す。

2.2.1 評価期間
機器故障データの分析のための評価期間は、安定した運転状態における機器の故障を取り扱うために、プラント運開以降とし、原子炉が運転している期間を原則とする。
 ただし、一部の機器(インバータ、蓄電池、充電器)については、原子炉の運転に係わらず常時運転状態にあることから、プラント運開以降の全期間とする。

2.2.2 機器のバウンダリ
対象機器の範囲を明確にするため機器バウンダリを定めた。非常用ディーゼル発電機の例を表2.2.2、図 2.2.2に示す。

2.2.3 機器故障モード
機器の機能を喪失する故障の原因、形態から対象機器の故障モードを表2.2.3のように定義する。

2.2.4 故障の判定基準
故障を判定するための基準を以下のように定めている。

  1. 機器の故障、トラブル
     機器の故障、トラブル(内因事象)のみを対象とし、地震、落雷、人身災害、火災等の機器以外の事象(外因事象)は、対象としない。  また、系統事故のような発電所外の事象も対象外とする。
  2. 機器バウンダリ,故障モード
     故障の判定は、機種別に定義した機器バウンダリおよび故障モードに基づくものとする。
  3. 故障の拡大
     故障モードは故障を発見した時点で判断し、発見されないで故障が拡大することは仮定しない。
  4. 待機中機器の故障
     待機中の機器の故障については、その故障を発見した時点では故障モードに該当しない場合でも、起動または作動要求があった場合を想定し、故障モードを判定する。
  5. 点検時発見の故障
     定期検査時の分解点検において故障を発見した時でも供用中に発生していた場合は、故障が発見された時点に起動または作動要求があったものとして故障モードを想定する。
  6. 他機器からの波及故障
     系統構成上回避できない波及により機能喪失し、かつ、起因となった機器故障が復旧すれば波及故障も機器の修理なしに復旧する場合は、その波及故障はカウントしない。それ以外で機器の故障が他の機器へ波及した場合には、双方の故障をカウントする。
  7. 補修後の検査で発見した故障
     点検、修理が原因で潜在的故障が発生し、その後引き続き行われる試験、検査等の機能確認で発見された故障はカウントしない。  ただし、その時点では発見されず供用後に発見された故障はカウントする。
  8. ヒューマンエラー
     PSAでは運転員の誤操作等がヒューマンエラー率としてモデリングされることから、故障の原因が直接運転員の操作に起因する場合、あるいは系統構成の誤りに起因するもので機器自体の機能が低下していない場合は、故障としてカウントしない。

2.3 時間故障率の算出方法

(1)機器の運転時間
 機種Aの延べ運転時間(または延べ待機時間)TA は次式より求める。

TA =Σ(Ti  * N)〔h〕(2.3-1)

iTi ; 原子力発電所iの原子炉運転時間(制御棒引抜き開始から制御棒全挿入までの時間)の累積値  ただし、機種Aが蓄電池、充電器、MGセット(RPS )、インバータの場合には暦時間の累積値

N ; 原子力発電所iの機種Aの運転(待機)台数

(2)機器の故障率
 機種Aの故障モード別故障率λA は次式より求める。

λA = rA/TA 〔1/h〕    (2.3-2)      

rA ; 対象期間内の機種Aの故障モード別故障件数
TA ; 対象期間内の機種Aの延べ運転時間(延べ待機時間)
・故障件数が0件の場合は、0.5件と仮定する。
・信頼区間はカイ二乗(χ2 )分布として求める。(信頼区間5%下限値、95%上限値)

r>0 の時の信頼区間(両側検定)

下限値λL =χ2(2r, 1-α/2) / 2T   (2.3-3)

上限値λU =χ2(2r+2 ,α/2)  / 2T (2.3-4)

r=0 の時の上限値(片側検定)

上限値λU =χ2(2 ,α)  / 2T     (2.3-5)

r ; 当該機種の故障件数

T ; 当該機種の延べ運転時間(延べ待機時間)

χ2(2r,α) ; 自由度2rのχ2 分布の上側累積確率100α%を与える点

1 -α   ; 信頼係数(本評価では、90%の信頼区間とするためα=0.1 )

(3)ポンプ、ファン/ブロワの故障率算出
 故障モードとして起動失敗と継続運転失敗を設定したポンプ〔電動、タービン駆動、ファン/ブロワについては、安全系の待機機器と常用系の運転機器を区別し以下のとおり算出した。

○ 起動失敗

       安全系待機機器の故障件数
故障率 = ----------------------------------------
       安全系待機機器の延べ待機時間

○ 継続運転失敗

       常用系運転機器の故障件数
故障率 = ----------------------------------------
       常用系運転機器の延べ運転時間

2.4 収集データ

データ収集方法に基づき収集した機器員数、運転時間、故障データの調査、分析結果を以下に記す。

2.4.1 機器員数
対象プラントにおける機器員数調査結果を表 2.4.1に示す。

2.4.2 機器の運転時間
プラント毎の原子炉運転時間、暦時間を表2.4.2-1,2に示す。

2.4.3 機器の故障データ

(1)故障のスクリーニング
 NICSに登録された1982年度から1991年度の間に発生したトラブルの事象(ただし、GCRのトラブルは除く)は、809件であり、このうち対象機器47機種に関連する故障件数は、539件である。この539件の故障事象を表2.4.3-1に示すスクリーニング基準によりスクリーニングした結果、144件の故障事象が『PSA用機器故障』に該当した。それ以外の395件は、『PSA用機器故障』に該当しないものと判定された。
機器全体として見ると、スクリーニング基準『故障状況』により40%が除外され、『PSA用機器故障』に適合したものは全故障事象の27%である。  図 2.4.3-1にこの関係を示す。

(2)原因別の故障分類
 機器故障が5件以上ある機器故障モードに関して、原因の分類を行った結果図2.4.3-2に示す。

(3)プラント別故障件数
 各プラントの機器故障モード毎の故障件数を表2.4.3-2に示す。

2.5 時間故障率の算出結果

機器の延べ運転時間、機器故障件数から時間故障率を算出した結果を表 2.5に示す。