Fripp & Eno
Evening Star

(Editions EG,1975)EEGCD 3



ギタリスト、ロバート・フリップとのコラボレイション。1975
年リリース。この音楽におけるギターの位置付けを見ていくことで、
同年の『ディスクリート・ミュージック』が持っていたミニマリズ
ムとアンビエントの感触を聴き取ることが、ここでも可能であるか
どうか。


Track1: Wind on Water
複数のギターを折り畳んだ、重層的ドローン。それぞれは次第に分
離・拡散していく。明確な旋律を持たず、エフェクトによりギター
としての響きの特質は弱められている。

Track2: Evening Star
3つのギター。左右をそれぞれ別のリフが取り囲む、中央の主旋律
は幾分即興的でリアルなライヴ演奏である。リスナーはどのパート
を中心に聴くだろうか。アドリブによる血の通った旋律線が音楽の
主体のように思えるものの、それはどうだろうか。旋律は意識の奥
へと滑り落ちていき、変化を持たない二つのリフをも等しく聴きは
しないだろうか。

→エリック・タム/小山景子訳『ブライアン・イーノ』
(水声社,1994)p249を参照されたい。


Track3: Even Song
ループパターンをいくつか組み合わせたミニマル的トラック。この
ディスクでのイーノのクレジットは「ループ」と「シンセサイザー」
である。反復をきわめて意識的に用いていることがこのトラックと
ここでのイーノの役割によって明らかになる。

Track4: Wind on Wind
30分間に及ぶ「ディスクリート・ミュージック」の別テイク。こ
こでの演奏時間は約3分。10倍持続させることで、音楽は次第に
弱い意識のもとで聞かれる目立たない(discreet)存在となってい
くかもしれない。同じ素材を用いながらも印象が全く違ったものに
なっていることは、アンビエント的音楽の感触に関するテーマのひ
とつ、つまり演奏時間とアンビエントを考える上で興味深い。
→("Music for Films"の項参照)

Track5: An Index of Metals
低音の非常に長いドローン、混沌。


アンビエント的空間構築のためには、エレクトリック・ギターの革
命であったアンプリファイ(増幅)することではなく、エフェクト
とデュレイション(持続)の役割こそが最も重要であると、思えて
くる。エフェクトによる響きの多様な異化が、楽器固有の音色(し
かし、エフェクトと不可分であるエレキ・ギターの「固有の音色」
など存在するのだろうか?)から離脱する機能を果たす。そして持
続つまりドローンを発生させることこそがこのディスク、さらには
アンビエント全般においてのギターの最大の意味であると言えない
だろうか。減衰する楽器ではもはやなくなったエレクトリック・ギ
ターは帯状に連なる一つの空間を構築しうるからだ。こうして生ま
れる「場」がアンビエンスとなるのである。

そして、「場」とはなにも持続によってのみ生まれるのではない。
淡々と弾かれるリフはミニマリスティックであり、その繰り返しが
音楽空間を統一することはドローンがそうするのと同様であるから。
トラック2で聴かれる左右のリフは、伴奏と呼ぶには音楽の構造上、
あまりにも不可欠な存在感を示している。それはヴォーカルやドラ
ムに埋没する装飾ではない、希薄だがアンビエンスそれ自体を決定
するギターであり、音楽の基盤なのだ。

ギター独奏曲としての完結性と伴奏楽器との間に位置するギター。
このような響きのありかたは、後にシステム7のいくつかのトラッ
クをはじめとする、アンビエント的感触を持ったある種のテクノへ
と引き継がれていくことになる。


・Discreet Music ・Ambient #1 ・Airports by Bang on a Can ・Ambient #2
・the Pearl ・Music for Films ・Apollo ・Ambient #4 ・The Shutov Assembly

・h o m e・ ・ambient・ ・brian eno・