Harold Budd
Lovely Thunder

(Editions EG,1986)EEGCD46



Harold Budd
The White Arcades

(Opal,1988)925 766-2





融和する背景と旋律


以下の2枚はシンセサイザーを主体として制作されたアルバム。滑らかな感触の、空中に漂う霧の粒子の動きにも似た響きを持つ、ハロルド・バッドのソロ作品中、アンビエント的空間性が最も濃厚な2枚。また、ドライな音楽が多いバッドにあって、旋律の叙情性も特に際立っている。


Lovely Thunder

ここでは重心の低い空間が作り出されている。ドローン(低音の持続音)が支配的で、静謐でありながらも密度の濃いサウンドスケープである。トラック1での低音域がアルバム・タイトル通りに雷鳴を思わせるとともに、上空を走る稲光のように一瞬、きらりと光る高音も現われる。この全体としては暗く重いアトモスフィアは、バッドの作品ではむしろ異色の部類に入るだろう。ドローンを取り巻くさまざまな音がうねる音塊となる厚い響きは、他には"Abandoned City" があるけれど、特に近作での室内楽的で明確な音像と沈黙の多い音場とは対照的である。トラック2、4などで特に顕著な、背景と旋律楽器がともにシンセサイザーであることは、両者の分離が曖昧になることへとつながっていく。

The White Archade

響きは明るさを取り戻し、リズミックとも言えるパルスに支えられた曲も現われる(トラック4)。そしてトラック6、うねる北風とダイアモンド・ダストの印象を呼び起こす厳しく冷たい空間に、どこかへ混ざりあって行くようで、しかし全曲を貫く非常に長いメロディが聴かれる。このトラックにおいて、埋没する旋律と音空間の位置関係の微妙さは極められた感がある。メロディが明確なアンビエントというものは、耳が音楽の焦点である旋律線を追いかけてしまうという点でイーノの言う「無視」の可能性を割り引いてしまうことが多いものだけれど、ドローンのうごめきと思っていたものが旋律であることに気付かされる多層の音楽の一例である。

また、トラック7では6と同様の響きに金属的な高音によるリフが終始鳴り続ける。音色的にはリフが目立つ。旋律と、同時進行する繰り返しのパターンのどちらに耳を傾けるかは、全く聴き手によるところなのだろう。聴覚上の選択肢という問題は、まさにアンビエントのテーマでもある。


さて、この2枚のディスクのリリースされた時期は、イーノとのコラボレーションの次にあたる。「パヴィリオン・オヴ・ドリームズ」と「パール」での希薄だが完全な沈黙は非常に少ない、粒子の柔らかな流れに満たされた空間を描き出すというイーノの役割をバッドが引き継いだ結果であるかもしれない。バッドが背景も含めほとんど全ての音を作り出す作業を自身で行うことで、前述のように背景のアンビエンスでありながら旋律でもあるという、背景と前景の融和が特徴的である。相互に埋没しあう旋律と伴奏(と言っていいなら)によるこれらの音楽の感触から、バッドの全作品の中にあって、アンビエント的音響との近しさを最も強く感じさせる2枚である。







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