日時 2006年4月1日(土)午後1:30〜4:30

場所 総評会館 502号室
東京都千代田神田駿河台3-2-11  tel 03-3251-0311
第一部 水野津太の生涯を語るj
  「水野資料の意義」加藤哲郎 他
第二部 懇親会

 会費 4,000円


成功裏に終了しました!

出版を記念し、水野津太を語る会の案内


更新日2008.2.20

新刊本の紹介

『曲がりくねった―真っ直ぐな人生―』中谷一郎著 自費出版 1500円
新グラムシ伝  片桐薫  日本評論社 5040円

小畑弘道著『被爆動員学徒の生きた時代―広島の被爆者運動―』 近藤幸四郎と原水禁運動 たけしま出版 1300円+税 書評 労研2007年4月号 復刊第16号(通巻400号) 米澤鉄志

被爆者運動担った半生刻む

中国新聞ニュース'07/5/18


 広島被爆者団体連絡会議の事務局長を務めるなど長年にわたり被爆者運動を担い、2002年に69歳で死去した近藤幸四郎さんの半生を中心にたどる「被爆動員学徒の生きた時代―広島の被爆者運動」(B5判、214ページ)が発刊された。近藤さんと親交が深かった広島市南区の無職小畑弘道さん(63)が自費出版した。備忘録や平和運動団体の冊子など段ボール十数箱分の資料を2年近くかけて読み、出版にこぎつけた。

【写真説明】近藤さんが残した資料を前に、完成した本の内容を語る小畑さん



核と人類は共存は共存できない―一被爆者の思い― 米澤鉄志   大谷大学人権センター 2007年3月1日

20世紀社会主義運動が残した仮説 植村 邦者  時潮社刊 2007年4月号

第二版日本・中国・韓国=共同編集 未来をひらく歴史 東アジア3国の近現代史 日中韓3国共通歴史教材委員会 高文研刊

ハンガリー事件と日本 小島 著

『日本原爆論体系』全7巻 監修者 坂本義和・庄野直美 日本図書センター 刊

『ものづくり』からみた 東海村臨界事故の原因と責任 望月 彰著 たんぽぽ舎刊

東海村「臨界」事故 国内最大の原子力事故・その責任は核燃機構だ 編著 槌田敦+JCO臨界事故調査市民の会 高文研 発行

告発!サイクル機構の「四〇リットル均一化注文」 望月 彰著 世界書院 刊

『JR西日本の大罪』 服部運転士自殺事件と尼崎脱線事故 「自殺」と「事故」を結ぶ”点と線” 鈴木ひろみ 山口哲夫著 五月書房 刊 

人間の崩壊 ―ベトナム米兵の証言― マーク・レーン著 鈴木主税訳 合同出版 

まっ直ぐ 大窪敏三 著 南風社、1999年

『サハリン島』 チェーホフ著 岩波書店 刊

『日露領土紛争の根源』 長瀬 隆著 草思社 刊

『ヒロシマの狂人』 長瀬 隆 著

『TUNAMI 津波』 長縄えい子 作  たけしま出版 刊 1000円 スリランカの津波を描く絵本

大火砕流に消ゆ 雲仙普賢岳・報道陣20名の死が遺したもの 江川紹子 著 新風舎文庫


労働運動再生の地鳴りがきこえる  武健一・脇田憲一編著 社会批評社 刊 

松本清張の陰謀』  佐藤 一著 草思社 刊 1700円

『炭鉱労働者』 畑中康雄著
国鉄詩人  マラソン詩集・福田玲三 お父ちゃんが敬礼していったかもつれっしゃ 238号 2006/1 発行

第二の罪 ドイツ人であることの重荷 ラルフ・ジョルダーノ/著 永井清彦/訳 片岡哲史/訳 中島俊哉/訳2005年6月5,040円白水社


種子島から来た男--一旋盤職工の手記--』原 全五著 (1992年ウニタ書舗)

数奇なる女性・水野津太―時代の証言  革命に生きる』[監修]「水野津太遺稿」刊行委員会 [編集]由井 格+由井りょう子 五月書房 刊 定価:本体5,500+税

水野津太資料関連記事

グローバル経済とIT革命』 ヨーロッパ左翼の挑戦 柴山 健太郎編著 社会評論社 刊 2300円

『回想 横井亀夫の生涯』 横井陽一著 同時代社 刊

朝鮮戦争と吹田・枚方事件/副標題:戦後史の空白を埋める 脇田憲一著/出版者:明石書店  リンク

世界の女性労働』  柴山恵美子他編著

チンチン電車と女子学生 1945年8月6日・ヒロシマ』 堀川恵子他著

一柳茂次著作集』 社会評論社刊

『徳さんの美学―関西労働運動の気風』 山本徳二著 編集出版者 山徳会 購読は研究所まで

京都の山本徳二さんの著作を収集編纂したものです徳さんの美学(別冊)――山徳会
企業再建、合理化反対のたたかい―一中小企業の経験から 山本恵造(本名 山本徳二) 「前衛」日本共産党中央委員会利理論政治誌1957年6月号掲載
企業べつ組合の枠をのりこえ、職場組織における労働者の英智と統一による闘いの成果


山本正美治安維持法裁判陳述記録集刊行 続 裁判傍聴記録    新泉社 刊   B5判・上製・箱入り・714頁・定価30000円+税

『入門社会経済学』ナカニシヤ出版 宇仁宏幸・坂口明義・遠山弘徳・鍋島直樹 著

女たちの衝撃―コンピュータは女の働き方をどう変えたか』 柴山恵美子著 学陽書房 刊

新・世界の女たちはいま―女と仕事の静かな革命』 柴山恵美子著 学陽書房 刊

各国企業の働く女性たち―取り巻く現状と未来展望』  柴山恵美子・渡辺 俊・藤井冶枝著 ミネルバー書房 刊

少子化社会と男女平等―欧州五カ国にみる現状と課題』 柴山恵美子著 社会評論社 刊

世界の女たちはいま―各国にみる男女平等の波』 柴山恵美子編集 学陽書房 刊

世界の女性労働―ジェンダー・バランス社会の創造へ』 柴山恵美子・守屋貫司・藤井冶枝著 ミネルバー書房 刊

流されて蜀の国へ』 川口孝夫 著    札幌市中央区北二条西三丁目、アテネ書房
〔電話
0112216534()・FAX011(221)6533〕。1998年11月第2刷発行。 

『技術革新・これといかに以下に闘うか』 松江 澄 口述 京都大学現代資本主義研究会 発行

『労働運動の終焉 日産自動車の総括と新しい展望』 田嶋知来/東條紀一著  情報センター出版局 刊

『一九四九年(謀略)の夏』 佐藤 一 著

下山・三鷹・松川事件と日本共産党 佐藤一著/出版者:三一書房/出版月:1981.7


本の紹介

原水爆時代 現代史の証言 上・下  今堀誠二著 三一書房 三一新書

山本正美裁判関係記録・論文集   ―真説「32年」テーゼ前後

       新泉社 刊   B5判・上製・箱入り・714頁・300部限定・定価40000円+税

標題:恐慌の理論と歴史/副標題:
著者:メンデリソン著 飯田貫一・平館利雄・山本正美・平田重明訳/出版者:青木書店/出版月:1960-1961/頁数:4冊

20世紀社会主義の意味を問う』 柴山 健太郎共著  御茶ノ水書房 刊

欧州統合と新生ドイツの政治的再編』 柴山 健太郎著 社会評論社 刊

90年代の社会民主主義』 柴山 健太郎共著 日本評論社 刊

少子化社会と男女平等』 柴山 健太郎共著 社会評論社 刊

鹿島巨大開発』 柴山 健太郎著  御茶ノ水書房 刊

『国家独占資本主義論』 松江 澄 口述 京都大学現代資本主義研究会 発行

労働者支配制』 柴山 健太郎共訳  三一書房 刊

激動の時代に生きて」山本正美著 マルジュ社刊

「闘いに生きて」山本菊代著 柘植書房刊

由井誓遺稿・回想(由井誓追悼集刊行会、1987年、絶版  リンク

「大阪の工場街から」 原 全五著 柘植書房刊

ヒロシマから原水禁運動を生きて 松江 澄著 青弓社刊

「私の昭和思想史」松江 澄著 社会評論社刊

ヒロシマもう一の顔 山口氏康著 青弓社刊

「ヒロシマもう一の顔・続編」 山口氏康著 青弓社刊

「現代日本の教育イデオロギー」 室崎宏治 他共著 青弓社刊

「社会主義論」 松江 澄 口述 京都大学現代資本主義研究会発行

松江澄意見書 古い「新しい公式」と新しい「古い公式」 松江 澄著  「統一」誌

党綱領の変遷と国家権力 松江 澄 口述 京都大学現代資本主義研究会発行

占領の性格と日本の国家権力 松江 澄 前衛臨時増刊号 団結と前進第3号

「独占とたたかう農民運動」 柴山 健太郎共著 三一書房 刊

「お菓子の経済学」 柴山 健太郎著 三一書房 刊

「農民運動の基本問題」 柴山 健太郎共著 三一書房 刊

「日本農民運動史」  柴山 健太郎共著 東洋経済新報社 後にお茶の水書房より再刊

「牛乳の経済学」 柴山 健太郎共著 法政大学出版局

『二・一スト前後と日本共産党』 長谷川 浩著 三一書房刊

『戦後日本の労働運動』 上・下 長谷川 浩著 亜紀書房刊

左翼労働運動の反省のために』 佐和慶太郎著 労働者新聞社刊 出版月:1991.5/頁数:107p

標題:ロバート・オウエン/副標題:貧民の予言者 生誕二百年祭記念論文集
著者:シドニー・ポラード,ジョン・ソルト編,根本久雄,畠山次郎共訳/出版者:青弓社/出版月:1985.1/頁数:411p

標題:労働者協同組合/副標題:その回顧と展望
著者:レイモンド・ルイ著,根本久雄,畠山次郎共訳/出版者:青弓社/出版月:1985/頁数:252p


マルクス主義軍事論 現代篇
著者名
革命軍事論研究会/編
出版社
鹿砦社
内容 1973年発行
内乱の諸問題(レオン・トロツキー著 浦田伸一訳)
軍事問題の発展とマルクス・レーニン主義の立場(カール・シュミット著 今村晋一郎,今井靖夫,佐久間弘訳)
軍事問題にたいするレーニンの立場について(カール・シュミット著 佐久間弘訳)
コミンテルンの軍事綱領について(カール・シュミット著 山崎カヲル訳)
蜂起戦にかんする考察(ジェームス・コノリー著 能勢智雄訳)
スペイン革命における正規軍・民兵・労働者赤軍(マルクス主義統一労働者党著 蒼野数馬訳)
パルチザンとその軍事的、政治的、経済的闘争(タン・マラッカ著 湯浅赳男訳)
フクバラハップとその大衆的基盤(ウィリアム・J.ポメロイ編著 西脇和子訳)
第一回大会におけるキューバ代表団のテーゼ(OLAS著 山崎カヲル編訳)
党・二重権力・民兵(ウーゴ・ブランコ著 浦田伸一訳)
戦略の原理と諸問題について(カルロス・マリゲラ著 山崎カヲル編訳)
ゲリラの作戦と戦略(カルロス・マリゲラ著 山崎カヲル編訳)









労働運動研究復刊第8号 2004.8

(書評)
 本の紹介
大矢恒子遺稿集『ホウセンカ』

植村 邦著『フランス社会党と”第三の道”』

植村 邦著『イラク侵攻に揺れるヨーロッパーEUとNATOのはざま』
定価2500円  新泉社発行
当研究所では、1750円と送料310円で扱います(計2060円)。

神山茂夫の文献遺産について  津田道夫

(本の紹介)
 植村 邦 著
   
『イラク侵攻に揺れるヨーロッパ』

フランス社会党と「第三の道」
      一左翼とは何か、何をするのか一

イタリア共産党転換の検証
          ー左翼民主党への再編成とその意義ー
             植村 邦 著


二○世紀社会主義
            −その挫折と転摸の理論的検証−
             植村  邦著

柴山恵美子・中曽根佐織 編著
『EUの男女均等政策』
日本評論社、3150円

 柴山恵美子・中曽根佐織 編著
『EU男女均等法・判例集』
日本評論社近刊、5250円

 EUの男女平等政策を歴史的かつ体系的に知る絶好の書『EUの男女平等政策』が出版された。一読して日欧の男女平等政策にかくも開きがあるのかということを改めて痛感させられる。
 95年の北京女性会議以降、ジェンダー平等への戦略目標としてジェンダーの主流化(あらゆる領域・レベルで法律・政策・プログラムを含む計画されているすべての活動で、男女への係わり合いを評価するプロセス(国連経済社会理事会))が据えられ、国際社会は、制度的なあらゆる分野における構造を男女平等なものへと変革する新たなステージに入った。EUでは、こうした動きを受けて、すばやく96年にはジェンダーの主流化コミュニケーションを採択して、すべての分野・活動へのジェンダー視点の組み入れが図られるようになった。
 日本の男女平等政策の到達点は、男女間賃金格差に凝縮して表現されているといってもよい。男性100として女性は65ポイント強、それも、ILOからは、女性の中に広がっているパートタイム労働者や有期雇用労働者を含めれば格差はもっと大きいと指摘されている。国際社会、とくにEU諸国においては、多用な雇用形態で働く女性の低賃金を男女同一賃金の観点から是正する課題を探ろうとしているのに対し、日本の男女平等政策題を女性に対する差別として捉える視点が一貫して欠落してきた。そして、あらゆる分野におけるジェンダーの主流化をはかり、ソーシャル・インクルージョンと均等待遇を理念とする雇用対策が進められる欧州諸国に対して、日本は、排除と低賃金化をもたらす競争政策一辺倒で、男女別統計ひとつとってみても整備どころか逆に後退する傾向にある。国連開発計画が発表した、女性が経済や政治に参加して社会の意思決定に参加できるかどうかを、女性の所得の割合や専門職・技術職・管理職、国会議員に占める女性の割合から測定した国別指数=ジェンダー・エンパワメント指数は、2003年で70カ国中44位(前年の32位から後退)と惨憺たる状況にあって、昨年の国連女性差別撤廃委員会の審議において、委員からは女性差別撤廃条約の目指す事実上の平等については少しもすすんでいないことが指摘きれた。検討されている男女雇用機会均等法の見直しがそうした日本の現状の変革につながるのか焦点となるが、EUの政策を紹介する本書は、この問題に取り組むあらゆる人々に有益な情報を提供することになるだろう。
 第1章は、EUでは「機会均等が必然的に結果の平等に結びつかないとすれば、社会的背景までも含めて是正する必要があるという認識のもとに調査研究及び法制度の作成が行なわれている」として、「データにみる欧には、非正規雇用であることによる低賃金問  
州女性の姿」を紹介している。女性の労働市場への参加がすすんで労働力率の格差は埋め
られてきた反面で、男女の職務分離、非正規雇用の女性化、教育(高等教育・専門教育)
のジェンダー格差、非正規雇用を含む男女間賃金格差、職業と家庭の両立におけるジェン
ダーギャップが存在する状況が分析されている。昨年ILO総会で審議された事務局レポ
ート「平等の時」は、世界全体に、女性の労働市場への参加は進展したものの、失業では
男性より女性に高率で、水平的な職業分離は改善しているものの、垂直的聴業分離はむし
ろ拡大傾向であり、非正規雇用に女性の就業が増えていること、また、賃金格差も改善傾
向にはあるが依然として大きく、その主要な原因は、男女の職業分離・賃金構造・職業分
類システムに偏見があることや分権化した団体交渉にあるという指摘を行なっているが、
これらと照らし合わせて日欧の状況を比較すると、日本の課題もより鮮明となる。このI
LOレポートでは、日本は伝統的な家庭中心モデルと位置付けられており、ジェンダー分
析の強化とこれに基づくジェンダー政策のあらゆるレベルでの主流化が制度的に確保でき
るようにすることが不可欠となっている。とりわけ、労働市場規模でのジェンダー分析と
政策化を促進する制度化をどう実現するかは焦眉の課題といってよい。
 ジェンダーの主流化には、@客観的な男女別のデータによるジェンダー分析とジェンダ
ー問題を理解する訓練、Aジェンダー平等推進のための特別な行動、B計画・予算へのジ
ェンダー視点の取り込み、Cモニタリング、D責任者の関与と男女のバランスのとれた参
加が不可欠であるとされている。その出発点となるジェンダー分析には男女別統計データ
の整備が前提となるが、ILOでは、統計によってカバーされるべきトピックとして、@
仕事と家庭生活のバランス(労働者の労働市場への参加と個人的・家族の特徴を示す統計
の必要性)、A労働者の生産的活動への参加、B労働市場における男女の分離、C所得の不
平等を掲げている(2003年第17回国際労働統計会議)。日本でこれをどう催進するの
か、本書に紹介されているEUの取り組みは示唆的である。
 2000年のEU基本権憲章から「機会均等に関する共同体枠組み戦略」(第5次アクシ
ョンプログラム。@経済生活における平等、A意思決定における男女のバランスのとれた
参加、B社会的権利に対する平等アクセス、C市民生活における機会均等、D性別役割
に関する固定概念の打破)の採決をふまえ、2001年の優先課題として男女賃金格差が取
り上げられ、統計の性別化もめざましく進展した。そして、2002年には、ジェンダー政
策の主流化をはかる上で政策の調整をはかるとともに、「過少代表的(under-represented)
な性」(不十分かつ不適当な代表権しか与えられていない性)の立場を改薯するための特
別な行動をとることが目標とされ、年間テーマとしては「仕事と家庭生活の両立」が取り
上げられている。その後、2003年には、意思決定における男女のバランスのとれた参
画、2004年には固定概念の打破が取り上げられている。
 アメリカモデルとは異なるEUの雇用再生モデルは、労働市場からの排除ではなくあ
らゆる人々の参加を促進するというソーシャル・インクルージョンがキーワードであって、
そのための不可欠な政策に均等待遇が位置付けられている。グローバル化という競争関
係の地球規模の拡大を背景に、EUは統合と拡大への動きを進めてきたが、それが女性の
生活にネガティブな影響をもたらす側面もあり、統合への姿勢も複雑である。そうした統
合への動きのなかにジェンダーの主流化、均等待遇政策を位置付けることは、並大抵の努
力ではない。本書は、ジェンダー視点組み入れの努力はEUでもまだまだで異体化への課
題が多いことを指摘しながら、それでも男女平等政策を推し進めてきた女性の運動と力、
それを可能にしたリーグの取り組みを紹介している。EUの政策決定にはロビイストが
重要な役割を果たしている。女性の権利を実現する加盟各国の非政府組織を統合する形で
「欧州女性ロビー」が設立され(90年)、EU書記官との対話を深めることによって女性
の利益を代表し守るために積極的な働きかけを行なっている。ここ数年では、EUの将来
を検討するための新しい枠組みである「コンベンション」(@より民主的で透明性の高い、
市民に近いEUの構築、A拡大後のEUをいかに効率的に機能させていくか、B世界全体
の平和と発展に応分の責任を果たすためにEUの国際的プレゼンスを高めること、これら
を達成するための抜本的改革を推進することが議論されている)に対する政策提言や「E
Uにおけるバランスのとれた男女の権利獲得キャンペーン」が推進されているという。
 EUの男女平等法制の先進性は、改めて指摘するまでもない。長年にわたる男女間格差
撤廃に向けたアクションなくして、このような制度の実現はなかった。とくに「平等・開発・
平和」をメインテーマとする75年国連・国際女性年の設定以来30年にわたるグローバ
ルフェミニズムの台頭とアクションが、男女均等待遇原則指令l土結実した。そして、75
年男女同一賃金原則指令から今日に至る指令の積み重ねのなかで、男女平等にかかわる
重要な原則が確立され各国に徹底されてきたが、これには、その適用をめぐる司法判断を
積み重ねる努力も重要であった。 本書とあわせて出版された『EU男女均等
法・判例集』は、その過程と努力の成果をEU指令と欧州司法裁判所の判例を重ねて紹介
している。男女同一価値労働同一賃金原則や間接性差別禁止の実現は、男女間格差の拡大
が懸念される日本においては喫緊の課題であるが、EUにおいては、欧州司法裁判所が均等
待遇指令の適用において加盟各国の法制度上の問題点を指摘し、日本で焦点になっている
多様な雇用形態の一つであるパートタイム労働の処遇格差を間接性差別として是正の対象
とする判断を示してきた。これに対して日本の裁判所は、性差別が問われたケースにおいて、
法の不備を補って民法90条の公序則を適用し、差別救済機能を発揮してきたが、均等法制定後
の男女別コース制に関する判決の流れは、そうした司法機能の喪失を見せ付けるものとなっている。
男女別賃金表も、性による属性ごとの平均値によって募集・採用・配置・昇進などの処遇を決める
統計的差別が理由であれば、企業の効率的運営と、均等法が募集・採用・配置・昇進差別を禁止してい
なかったというたったそれだけのことで、違法ではないと断じ、同一の雇用管理区分にあ
る男女間の差別しか是正できないという、均等法の枠組みも超えようとはしなかった。ま
た裁判所は、日本が批准しているILOlOO号条約が定める同一価値労働同一賃金原則など
まったく考慮しない。この原則を適用して性差別賃金を是正する可能性は、日本の賃金制
度それ自体のなかにあり(たとえば、雇用管理区分における職務区分や職能資格等級制度
における職能資格は、多様な職務を抽象化し、ある種の価値評価をなして職務区分や資格等
級に分類したものであって、このような制度の性中立性は、客観的な職務の価値評価にか
かっており、そこでは、職務区分に対応する賃金が同一価値労働同一賃金原則にしたがっ
た職務の価値評価に耐えうるのかどうかが問題となる)、女性労働者の報酬率が客観的な
職務評価によって決定されていないのであれば、差別賃金の推測が働くはずであるにもか
かわらずである。
 こうした日欧の法制度上のギャップについて、本書は、必ずしもその法制化や公序ととら
えること・に反対する論者が指摘する「職種別賃金」「労働市場の違い」から生じるものでは
ないことを示唆するものとなっている。ILO r平等の時」の総会審議における事
務局長発言は、差別は形を変えて生き続ける動く標的であると指摘している。法による禁
止にもかかわらず、差別は次々と形を変えて再生産される。これに対抗するには、男女間
に格差が存在する以上、その合理性を使用者側において立証できなければ差別と見倣すと
いう立証責任の転換が不可欠だ。 EUにおいては既にこの立証責任の転換が指令によって
各国の制度とされるようになっているが、日本の最高裁は、依然として権利を主張するも
のが立証責任を負担するという旧態依然たる理論(法律要件説)に固執している。せいぜ
い「(著しい格差が存在する場合、)原告について、男性社員との間に格差が生じていたこ
とにつき合理的な理由が認められない限り、その格差は男女間において存在した上記格差
の同質のものと推認され、また、この男女間格差を生じたことについて合理的な理由が認
められない限りその格差は性の違いによるものと推認するのが相当である。」(昭和シェ
ル石油事件)などという判断にとどまる裁判所の限界のもとでは、女性は、合理的な理由
なく女性であるがゆえに差別されていることを、時として働き続けられなくなることを覚
悟で差別を立証しなければならない。
 差別を救済し、撤廃に向けた政策をあらゆる分野において推進する制度的な受け皿をもた
ない日本の現状は致命的である。労働市場において競争政策が推し進められるなかで事実上の
男女平等が遠のくばかりの現実を前に、改めて、この格差を解消するために取り組まなければな
らない課題を明確にするうえで、手にとって目を通しておくべき必須の著書である。
■       (弁護士 中野麻美)                         

 
 
(本の紹介)
 植村 邦 著
   『イラク侵攻に揺れるヨーロッパ

        新泉社、2500円+消費税
1997年にフランス社会党党首ジョスパンを首相とする左翼政権が発足した。この政権
は2001年に週35時間労働法を実現し、長年にわたり10パーセントを超えていた失業
率を、10パーセントをきる水準に改善するなど、一定の成果を挙げた。しかし、2002
年4月、大統領選挙に出馬したジョスパンは、シラクに敗れる。この選挙でのジョスパンの
得票数は右翼政党国民戦線党首ルペンの得票数を下回った。この大統領選挙での左翼の大
敗北の総括をめぐって、フランス左翼内部で活発な議論が行われた。ジョスパン政権の実
績の検証にとどまらず、左翼の戦略、政策そのものまで議論の対象となったd本書の大部
分は、2002年4月から現在に至る期間において、フランス左翼の主な論者が展開してい
る議論のアウトラインの紹介である。著者の前著『フランス社会党と「第三の道」』(2002
年2月刊)では、フランス社会党の戦略や理念の紹介が中心で、ジョスパン政権の異体
的政策やその評価は控えられていた。今回の著書は、前著を補完するという目的も有して
いる。
 第1章「現代フランスの診断」においては、P・ローザンバロンとJ・P・フイトウシの
議論が紹介されている。フランスに限らず、ほとんどの先進国の国家財政は、戦後高度経
済成長の終篤とともに、赤字基調に陥り、高いレベルの福祉サービスの提供は困難になっ
た。いわゆる「福祉国家の危機」である。この危機を克服するための方策として、ローザ
ンバロンとフイトウシは、「支出の改良主義」を「連帯の改良主義」に転換することを提唱
している。経済成鳥という「プラス・サム・ゲーム」を前提に、福祉サービスの持続的な
拡大を、国家が全国一律に「上から」行うという「支出の改良主義」は、今日では実行不
可能で為る。低成長時代は「ゼロサム・ゲーム」の状況であり、そこでは様々なアソシエ
ーションなどのローカルなイニシアティブに依拠するかたちでの、また平等の実現を重視
するかたちでの、あらたな公共サービスを再構築しなければならない。これが第1章で紹
介されているローザンバロンとフイトウシの主張である。
 第2章「大統領選挙が見せた社会的深淵」では、2002年4月の大統領選挙での左翼の
敗要因に関する様々な議論が紹介されている。そのうちのひとつ、C・ボーシュアンとE・
モレルは、敗因として、ジョスパン政権の政策が2000年から「屈曲」したことを挙げて
いる。35時間労働制実施とあわせて行われた規制緩和により不安定雇用が拡大した。ま
た、電気通信や航空などの分野で、国営企業の民営化が実施された。このような「屈曲」
によって、「社会的運動」と政権との関係に変化が生じた。T・クトロによると、ジョス
パン政権のこの変化は、建物占拠した失業者の排除、解雇に反対する労働者行動に対する
無力の表明、グローバル化に反対する運動ヘの尊大な態度、農民運動指導者J・ボベの有
罪・投獄などに現れているという。T・クトロは、政権と社会的運動との断絶を乗り越え
るためには、アナーキズム、フェミニズム、第三世界主義、「シアトル世代」等々、多様
な運動との対話が必要であると、主張する。 第3章「社会自由主義ヘの漂流」では、
主に、労働時間短縮と社会保障改革に関する議論が紹介されている。労働時間短縮に関し
ては、35時間労働制がどのような効果をもったかが主な論点である。たとえば、C・B・
ロンドンとT・クトロは35時間労働制の成果は凡庸であると評価する。35時間労働制
による雇用の増加は7年間で40万人強と推定され、期待を大きく下回っている。また賃
金は2パーセントほど減少したため、購買力は低下した。労働条件については、労働者
の4分の1が改善したと考えているが、4分の1が悪化したと考えている。社会保障改革
に関しては、F・ロルドンの年金改革批判が紹介されている。日本でもそうであるが、フ
ランスにおいても、世代間連帯を社会的に組織化する方式としての賦課方式を否定して、
個人が自己責任において積み立てる方式、つまり「資本化」方式へ移行すべきだとする意
見が多い。このような見解をF・ロルドンは批判する。米国においてかなり進行しているように、
年金ファンドの創設にともなう金融化の進展と、そこから不可避的に生まれる株主権力の強化に
よって、経営者は労働者を規律づけることが容易になる。つまり、「資本化」方式の年金、
労働者持株制、ストックオプションなどによって「社会の金融化」が進展しつつあるが、
それにともなって、労働者の中核に、金融資本の論理が寝透していくのである。現行の賦課
方式年金は、資本の論理に流して、社会的連帯を組織化するという、巨大な意義をもつ歴史的
成果である。「資本化」
方式への転換を推奨する動きに対して、世代間連帯の原理を対置しなければならない、つ
まり、年金を救済するためには、連帯の理念を再び活性化することが必要であるとF・ロ
ルドンは主張する。
 第4睾「ヨーロッパ政治同盟の遅滞」では、ヨーロッパ統合のプロセスにおいて、「通貨
統合」だけが先行し、「政治同盟」の議論が先送りされている現状を問題視する論文がい
くつか紹介される。OFCE(ヨーロッパ景気に関するフランス観測所)の論文では、国
によって労働市場の動態や制度が多様であることが明らかにされている。たとえばヨーロ
ッパのなかでも、賃金交渉制度や雇用制度が国によってかなり異なるのである。このよう
な国民的相違は尊重されなければならないとOFCEは主張する。そのうえで、賃金交渉
および社会的交渉の大陸的調整を発展させなければならないと主張する。異体的には、現
在、ヨーロッパ委員会は、ヨーロッパ議会と諸国民政府との二重のコントロールに服して
いる。この「二重議会主義」は今後も維持していかなくてはならないとされる。そのうえ
で、満場一致による決定から、加重多数決制に移行することが、税制面での協調や社会的
制度面での協調を前進させ、上記の大陸的調整を推進するためにも、必要不可欠であると
述べられる。
 第5章「ブッシュの衝撃」では、ヨーロッパ共通安全保障・防衛政策への歩みや、コソ
ボ戦争への参戦、・ブッシュ以降の状況に関する論文が紹介されている。
 以上が、本書の概要である。わが国では紹介される機会が少ないフランス左翼の議論を
紹介している点で本書の意義は大きいと考えられる。ただ、気になったのは、原論文の要
約が本書の大部分を占めていて、著者自身の解説や理論展開の部分が少ない点である。そ
れによって、一般読者には本書はかなり読みにくい本になっている。たとえば、ジョス
パン政権の簡単な歩みや、35時間労働制や、フランスの社会保障制度などについては、著
者自身の説明があった方が、はるかに読みやすくなる。紹介されている議論の内容につい
ていえば、第1章では、ギデンスなど「第三の道」の論者が主張するウェルフェアからワ
ークフェア(雇用のための福祉)への転換と、ローザンバロンらの主張する「支出の改良主
義」を「連帯の改良主義」への転換とは、どの点が異なるのかについてもっと明確にして
ほしいと感じた。第4章では、賃金交渉および社会的交渉の大陸的調整において、労働組
合はヨーロッパレベルでどのような位置を占め、どのような役割を果たすかについて言及
してほしかった。(京都大学教員 宇仁宏幸)

植村 邦著『イラク侵攻に揺れるヨーロッパーEUとNATOのはざま』
定価2500円  新泉社発行
当研究所では、1750円と送料310円で扱います(計2060円)。

柴山恵美子・中曽根佐織[編著]『EUの男女均等政策』
定価3000円 日本評論社発行
当研究所では、2400円と送料310円で扱います(計2710円)

 フランス社会党と「第三の道」
      一左翼とは何か、何をするのか一

         植村 邦 著 ‘
           A5判上製・368頁・定価8000円
前二作で共産主義運動を体系的・綱領的に検証した著者が、21世紀左翼のレゾン∴
デートルとして、共産主義、社会民主主義を超える「第三の道」に着目し、フランス
の「多元的左翼」の運動を狙上にのせて、その可能性を多角的に解析・検討する。
 著者渾身のライフワーク、社会主義運動論検証の三部作、堂々の完結。
植村 邦
(うえむら くに)1930年生まれ、1953年東京大学卒。翻訳書に、E・セレーニ
『イタリア農業の古いものと新しいもの』(共訳、三一書房)、Fグラムシ選集(共訳、
現代の理論社)、イタリア共産党中央学校局『イタリア・マルクス主義(合同出版)など.
    イタリア共産党転換の検証
          ー左翼民主党への再編成とその意義ー

             植村 邦 著

             A5判上製・400頁・定価8000円
社会主義運動の経験を批判的に柩承するために−1ウ21年創立のイタリア共産党は、1ウ飢
年にその活動の幕を閉じ、左翼民主党へと転換した。膨大な資料を駆使し、共産党中心の
左翼運動とその転身の全過程につぶさに綱領的検証をくわえた労作。      々
      二○世紀社会主義
            −その挫折と転摸の理論的検証−

             植村  邦著

.          A5判上製・368頁・定価8000円
前著『イタリア共産党転換の検証』の成果の上に、現存した社会主義理論を徹底的に検証○
第一章「マルクス主義は今日的でありうるか」第二章「なぜ社会主義には民主主義が欠け
ているのか」第三章「なぜ『市場社会主義』は不可能であったのか」ほか。

             故石堂溝倫氏 絶賛!!
 「『みじかかった世妃』の最篠の四半世妃は、しかし三つのインターナショナルのあらゆる問題
 の堆積との格闘であったことを思えば、植村氏の企図がいかに労苦に満ちたものであったか
 を語るものであって、われわれはこれについて氏に感謝するとともに二一世紀の対決す課題に対決する一つの足場が提供されたことをよろこばなければならない。」
労働運動研究 臨時特集号 二〇〇二年三月三〇日復刊第一号通巻三八五号) 発行所労働運動研究所

〒一八四・八六九一 東京都小金井郵便局私書箱第34号
電話・FAX〇四二(三八八)八一一五 振替OO一四〇−七−一〇六七八五
 
〒113−0033東京都文京区本郷2−5−12
TELO3−3815−1662/FAXO3−3815−1422
新泉社
〔呈図書目録〕表示価は本体価格
振替・00170−4−160936
 定 価

植村 邦著『イラク侵攻に揺れるヨーロッパEUとNATOのはざま
定価2500円 研究所では1750円+送料310円で扱います。

柴山恵美子・中曽根沙織{編著}『EUの男女均等政策』定価3000円
研究所扱い 2400円+送料310円です。

山本正美裁判関係記録・論文集   ―真説「32年」テーゼ前後
現代史の空白を埋める
    
                                   石堂 清倫   

 山本正美は戦前の日本左翼がコミンテルンに送りこんだ活動家のうち最俊英の頭脳であった。「アキ」の執名によるいくつかの評論は、彗星のように現れた画期的な指針として一世の耳目を集めたものであるが、それが無名の青年であることが知れて世間は二度おどろいたのである。

 日本帝国主義はすでに中国侵略を開始しており、その鉾先はつぎの機会に社会主義ソ連に向けられるのであろう。これにたいして日本共産党は戦争の中止と侵略体制の表現である天皇制の廃絶を当面の重要任務としていた。その行動としてコミンテルンは「三十二年テーゼ」を策定したが、その任に当たったコミンテルンの智嚢の一人としてアキを数えることができるのである。アキの言説は今日このテーゼを理解するうえで重要なてがかりを蔵している。
 山本が党運動再建の使命をもって帰国したとき、彼を待っていたのは全国的転向の波であった。国民は天皇制イデオロギーのへゲモニーにたいする対抗ヘゲモニーをもたないまま受動的革命にとらえられていた。山本は運動の拠点としての党の組織的回復をはかる前に検挙された。こうしてテーゼのマイナス面を克服する事業について抱いていたはずの抱負が何一つとして実現されることなく、転向の波のうちに姿を没した。
 コミンテルンの「絶対主義」規定には、三十一年ごろスターリンが密かに持ち出した反トロッキーの道具の一面があり、理論史上の一つの弱点であって今日まで徹底究明を欠いている。それだけにスターリンの思いつきを合理化したクシーネンとともに、ある意味でクシーネンを補強したアキの業績は、マルクス主義の再生のためにも重要な史料になっていると思われる。いいかえれば、アキは日本の共産主義運動におけるコミンテルンのプレゼンスとともにレテイセンスをもあらわすものである。
 この、選集はまた敗戦日本段階の山本の主要な言説をあつめている、敗戦後の日本は、アメリカ帝国主義のへゲモニー体制に組みこまれるとともに、みずからは東アジア諸国群のうちでのヘゲモニーを行使する新しい事態を経験している。古い帝国主義理論にしたがって、日本が軍事占領下の植民地に化したとする論者の多いなかで、二重ヘゲモニーの視角にもとに、そこで可能になる新しい革新の道を説いたのである。ところが日本の左翼は、彼の先駆的主張をとりいれみずからを強化する代わりに、戦前の運動への責任を名として、山本を政策決定の機構から疎外してしまった。したがって彼の言説は主として時論の形でしか可能にならなかった。そのことは日本の左翼だけでなく国民にとっても大きな損害であったと痛歎される。したがって読者はこれらの時論のなかから、戦前の新事態にたいする彼の根本的見地をたしかめ、今後の世界史的転回に彼がどのような展望をもっていたかを明らかにできると思われる。

 遺憾なことに彼の著作は今日すでに多くは入手困難になっている。苦心の結果ここに集められた史料群は二十世紀の三分のニにわたる期間の彼の理論的業績をほぼ網羅し、現代史研究の空白部分を十分に明らかにしているとおもわれる。
                                                                  国際共産主義運動研究者

 『山本正美裁判関係記録・論文集──真説「三十二年テーゼ」前後』刊行に寄せて

                    加藤 哲郎(一橋大学教員・政治学)

 山本正美の名を、今日知る人は少ないだろう。日本の社会運動史に詳しい人でも、今時なぜと思うかもしれない。戦前の短い期間ではあるが日本共産党の最高指導者となり、敗戦直後にも一時期湯本正夫の名で論客であった。しかし徳田球一のような華々しい活動家ではなかったし、宮本顕治のように文芸理論にまで手を広げるイデオローグでもなかった。一九六一年に日本共産党を除名された山本正美は、主要には「アキ」の名による「三二年テーゼ」作成期の日本人解説者として、歴史に記憶されてきた。

 そこには、二〇世紀の日本社会運動史研究における、ある種のバイアスの作用があった。すなわち、あらゆる社会運動は階級闘争ないし階級闘争に従属するもので、階級闘争は労働者階級の前衛党=共産党に指導されるものであり、共産党の歴史において決定的なのは「正しい」戦略・戦術と「民主集中制」の組織である、と。その戦前史においては、徳田球一・市川正一・宮本顕治ら「非転向」幹部が予審や公判で主張した「天皇制との闘争」が評価の基軸であり、たとえかつて最高指導者であっても後に「転向」したり「除名」された佐野学・田中清玄・風間丈吉・山本正美・志賀義雄らの言説は信用できない、と。

 しかし、第一次世界大戦・ロシア革命から東欧革命・ソ連崩壊にいたる一回転した「短い二〇世紀」の後に虚心に歴史をふりかえると、いわゆる社会主義・共産主義の運動に孕まれた無数の神話・伝説と史実との距離に驚かされる。筆者がここ五年ほど読んできた旧ソ連公文書館日本関係文書には、神話のヴェールをはぎとる多数のドキュメントが含まれており、それゆえにまた、新たな史資料の裏付けが必要な検討課題が山積している。

 本書『山本正美裁判記録・論文集』は、そのような文脈で光彩を放つものである。かつて風間丈吉の「転向」前の獄中手記(『「非常時」共産党』三一書房、一九七六年)が公刊され、今日ではその基本的信憑性が確認され日本共産党史解明の重要資料とされているが、風間同様クートベ出身でソ連からの帰国直後に日本の党指導を任された山本正美の供述記録も、当時の最高指導者自身による貴重なリアル・タイムの証言になっている。

 本書には、山本正美の予審調書と獄中手記が収録され「三二年テーゼ」の成立事情が詳述されている。無論そこには党指導者として権力に秘匿したり故意に事実を曲げたりしている部分もあるが、「三二テーゼ」がオットー・クーシネン以下コミンテルン東洋部主導で作られ、片山潜・野坂参三以下当時の在モスクワ日本共産党指導部は作成に関与できず、わずかに山本正美のみが基礎資料作成・分析である種の役割を果たしえたことが、明確になる。その獄中手記は佐野・鍋山らの「転向」批判で、「転向」や「変節」とよばれた現象にもさまざまなあり様があったことをうかがわせる。山本自身は「テーゼ」を確信し、本書収録の戦後の論文でもその解説者としてふるまうが、その解説の変遷そのものが、一つの歴史的ドキュメントになっている。刊行委員に名を連ねた筆者=加藤と岩村登志夫氏のほかに、小山信二氏も「解説」を寄せており、三人三様の「三二年テーゼ」評価が今日の研究状況を浮き彫りにしている。山本獄中手記は、日本共産党創立をなぜか「一九二三年」としている。筆者自身は、その後の旧ソ連日本関係文書の発掘によって、日本共産党の二二年七月創立説・初代委員長堺利彦伝説を覆し、「天皇制との一貫した闘争」の脱神話化をはかる手がかりをえた(『大原社会問題研究所雑誌』一一月号以下の連載参照)。

 本書は一冊四万円と高価で、個人での購入は困難かもしれない。しかし図書館等に入れて熟読する価値は充分にある。それでも収録しきれなかった山本「公判ノート」については、刊行委員の三輪隆氏が『埼玉大学教育学部紀要』で逐次紹介する予定という。本書と共に参照すれば、「偽装転向」研究にも一石を投ずるであろう。(新泉社、四万円)

  (『図書新聞』に



ヒロシマ もう一つの顔」を読んで  兼井 亨 (労研通信No.24号 1986.8.28発行 掲載書評)

 

広島市の市会議員だった山口氏康氏の『ヒロシマもう一つの顔』(青弓社・千六百円)が出版された。その前書の一節は次のように書かれている。

 -―四〇年前に原爆の惨渦にみまわれた広島は、「ヒロシマ」として世界的に有名である。だが、ノーモアヒロシマの言葉のもつ陰影、悲しき、清潔さの混じり合ったイメージとは違う、もう一つの顔がある。それは、広島市役所を舞台として市長ら理事者と市議たちが演じる政治劇である。ドロドロした流れの中を、人影がうごめいている舞台とでも言おうか。それを私は書いてみたいと思う。

 私も山口氏同様に広島市内に住む百万市民の中の一人である。いまは広島市域に編入された郊外に生まれ、地元の新聞社に勤め、応召したがために原爆をまぬがれ、戦後再び記者生活に戻り、多少とも広島市政にかかわりをもった者にとって、「広島」はいつも二つの顔をもっていた。「きれいなヒロシマ」と「きたない広島」の共存である。ノーモアヒロシマを叫ぶ為政者が、同時に私利私欲のために権謀術数をめぐらせる。この二重性は今後もなかなか変わりそうにない。なぜなら、市民の大多数は保守的な風土に身をゆだね、政治や行政はあなた任せであるからだ。この本は、その意味で。広島市民への告発の書である。

 目次の順に内容を簡単に紹介すると、[ボス議員との出会い]では保守系の大ボスが市議会での多数派工作のため、革新系の新人山口氏の自宅へ元日に突然訪れ、「御年玉 御室様」と、しるした封筒を置いて帰ったエピソードが出ている。中身は二十万円の札束だった。同氏はむろん突き返す。

 [開発公社汚職事件]と[暴かれる疑惑の数々]は圧巻である。議員のだれもが見過ごす決算書から『疑惑の芽』を見つけ出した山口氏は、極秘裏に調査を始め、以来三年間にわたり執拗に追求し続ける。同氏の努力で議会に設けられた百条調査特別委員会は、保守会派の画作で結局、審査打ち切りとなるが、財政局長ら市の幹部、ボス議員、宅建業者たち計十人が捕まり、助役の一人は辞職した。このほか荒木武、現市長や通産官僚の疑惑、地方財界に食い込むフィクサーの逮捕と自殺など、スリルに富んでいる。

 [議員の任務]では議会のチェック機能の重要性を説く一方で、市長ら理事者に尾も熱質問原稿を理事者に事前に見せ、答弁しやすいように内容を変えて恥じない議員などが描かれている。

 [議員の生態]は共産党議員の偏狭さを示す具体例をあげているほか、山口氏がタクシーに乗っていてふと耳にしたラジオの、主婦の声をヒントに、市が取り過ぎていた水道料金一億円を返還させる痛快きわまる話、無意味な国内や海外の行政視察、不明朗な調査研究費の使途など、市税無駄遣いの実態を明らかにしている。

 ところで、この種の本は著者のプライベートな面に触れないのが普通である。どんな生きざまをしてきたかが抜けたまま、公的な人間像だけを読まされる。だが、山口氏は[私の生い立ち]のなかで隠すとこなく自分の出生と遍歴を語っている。家が没落し里子にだされた幼少期、小学校高等科を終えると、すぐ酒屋へ丁稚奉公に入った少年期、恋に目覚めたものの、おのれの貧しさに自ら逃避して船乗りになった青春期、軍隊応召、原爆、敗戦、共産党入党、同党との決別―を読んでいて、それは山口氏の恥辱ではなく、勲章だとつくづく思う。

 [市民とともに]では夫に死に別れの女性への支給される児童扶養手当の不備を、女性たちとともに中央官庁に陳情して法改正させたり、杓子定規の開発許可や市道編入、地区の美化、かまぼこ業者の集団化事業などを、粘り強い折衝で解決した事例を紹介している。

 [大衆闘争]では締め出された漁民のための漁協設立、大田川流域下水道の建設反対闘争という二つの問題に、地域住民と取り組んできた経過、さらに学校事務職員の地位向上に成功した顛末を書いている。

 [決定とは何か]では、一九九四年(昭和六十九年)に広島市を中心に開催されるアジア競技大会の用地建設と西部埋め立て地開発の奇々怪々な動き、中央卸売場市場移転問題のからくり、ぜいたくすぎる市庁舎の建設などが取り上げられている。

 最後の[原爆・平和]では広島市が「非核宣言都市」を渋々宣言したうち内幕をあばくなど平和問題への取り組み方の不十分さを大胆に批判している。

 以上がこの本の大まかな内容であるが、それが事実に即して多くの実名で書かれている点も注目される。したがって、無味乾燥な広島市史に比べ、ビビットな資料として貴重な出版物であると保証してよい。

 広島市政を内側からつづったものは戦後、故浜井信三市長の『原爆市長』しかない。彼は原爆投下の日から二十年間の、復興期の広島の歩みを記録した。それに続くのが、昭和四十六年から五十八年までの十二年間を記録した山口氏のこの本である。しかも、広島市議会の内側からの執筆は同氏をもって初めてとする。

 私は長年、新聞記者をし地方自治体に少なかならぬ興味をいだいている関係で、それに関する本にかなり接してきたつもりである。しかし率直にいって落胆する場合が多い。役人の書いたものは固苦しい条文解釈にすぎず、学者のものは抽象的である。知事や市長など地方自治体の責任者のものは自画自讃で、私のような新聞記者は現象面をなでただけ、といった具合である。山口氏の本は、こうした欠点を見事吹き飛ばし、驚くべき行動力と研究心とで、公正な市政が運営されるために活躍した一市議員の清潔で勇気ある姿が結晶している。

 この中に書かれている事例は全国の地方自治体共通の課題が多い。一見、不可能や不条理に映る難題も、豊かな感受性とひたすらな研究心があれば解決することを、この本は証明してみせる。また、主義、信念という抽象概念はそれ自体無力であり、大衆のなかでのみ開花くものであるということを教えてくれる。

 ヒロシマの素顔を知りたい人も、自分に一番身近な町や村の政治・行政を見直したい人も、さらに「物を考えるヒント」を楽しみたいだけの人も、ぜひ一読してほしい。文体もさわやかである。

 (筆者は元中国新聞特別解説委員)


















































































































































































































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 『山本正美裁判関係記録・論文集──真説「三十二年テーゼ」前後』刊行に寄せて

                    加藤 哲郎(一橋大学教員・政治学)

 山本正美の名を、今日知る人は少ないだろう。日本の社会運動史に詳しい人でも、今時なぜと思うかもしれない。戦前の短い期間ではあるが日本共産党の最高指導者となり、敗戦直後にも一時期湯本正夫の名で論客であった。しかし徳田球一のような華々しい活動家ではなかったし、宮本顕治のように文芸理論にまで手を広げるイデオローグでもなかった。一九六一年に日本共産党を除名された山本正美は、主要には「アキ」の名による「三二年テーゼ」作成期の日本人解説者として、歴史に記憶されてきた。

 そこには、二〇世紀の日本社会運動史研究における、ある種のバイアスの作用があった。すなわち、あらゆる社会運動は階級闘争ないし階級闘争に従属するもので、階級闘争は労働者階級の前衛党=共産党に指導されるものであり、共産党の歴史において決定的なのは「正しい」戦略・戦術と「民主集中制」の組織である、と。その戦前史においては、徳田球一・市川正一・宮本顕治ら「非転向」幹部が予審や公判で主張した「天皇制との闘争」が評価の基軸であり、たとえかつて最高指導者であっても後に「転向」したり「除名」された佐野学・田中清玄・風間丈吉・山本正美・志賀義雄らの言説は信用できない、と。

 しかし、第一次世界大戦・ロシア革命から東欧革命・ソ連崩壊にいたる一回転した「短い二〇世紀」の後に虚心に歴史をふりかえると、いわゆる社会主義・共産主義の運動に孕まれた無数の神話・伝説と史実との距離に驚かされる。筆者がここ五年ほど読んできた旧ソ連公文書館日本関係文書には、神話のヴェールをはぎとる多数のドキュメントが含まれており、それゆえにまた、新たな史資料の裏付けが必要な検討課題が山積している。

 本書『山本正美裁判記録・論文集』は、そのような文脈で光彩を放つものである。かつて風間丈吉の「転向」前の獄中手記(『「非常時」共産党』三一書房、一九七六年)が公刊され、今日ではその基本的信憑性が確認され日本共産党史解明の重要資料とされているが、風間同様クートベ出身でソ連からの帰国直後に日本の党指導を任された山本正美の供述記録も、当時の最高指導者自身による貴重なリアル・タイムの証言になっている。

 本書には、山本正美の予審調書と獄中手記が収録され「三二年テーゼ」の成立事情が詳述されている。無論そこには党指導者として権力に秘匿したり故意に事実を曲げたりしている部分もあるが、「三二テーゼ」がオットー・クーシネン以下コミンテルン東洋部主導で作られ、片山潜・野坂参三以下当時の在モスクワ日本共産党指導部は作成に関与できず、わずかに山本正美のみが基礎資料作成・分析である種の役割を果たしえたことが、明確になる。その獄中手記は佐野・鍋山らの「転向」批判で、「転向」や「変節」とよばれた現象にもさまざまなあり様があったことをうかがわせる。山本自身は「テーゼ」を確信し、本書収録の戦後の論文でもその解説者としてふるまうが、その解説の変遷そのものが、一つの歴史的ドキュメントになっている。刊行委員に名を連ねた筆者=加藤と岩村登志夫氏のほかに、小山信二氏も「解説」を寄せており、三人三様の「三二年テーゼ」評価が今日の研究状況を浮き彫りにしている。山本獄中手記は、日本共産党創立をなぜか「一九二三年」としている。筆者自身は、その後の旧ソ連日本関係文書の発掘によって、日本共産党の二二年七月創立説・初代委員長堺利彦伝説を覆し、「天皇制との一貫した闘争」の脱神話化をはかる手がかりをえた(『大原社会問題研究所雑誌』一一月号以下の連載参照)。

 本書は一冊四万円と高価で、個人での購入は困難かもしれない。しかし図書館等に入れて熟読する価値は充分にある。それでも収録しきれなかった山本「公判ノート」については、刊行委員の三輪隆氏が『埼玉大学教育学部紀要』で逐次紹介する予定という。本書と共に参照すれば、「偽装転向」研究にも一石を投ずるであろう。(新泉社、四万円)

  (『図書新聞』に

水野津太

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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