「ギレンの野望〜ジオンの系譜〜」


 地球連邦軍、司令室。静まり返った指揮官達を前に最高司令官、レビル=本町は決断をくだした。
「諸君等も存じている様に、我々はサイド3、ジオン公国を名乗るザビ家一党の反乱に苦戦を強いられた。それというのもザビ家一党の新型兵器ザクが我々の持つ兵器を遙かに凌駕していたからだ。ザク1部隊を殲滅するためだけに何人の将兵を失ってきた事か・・・・・。だが、だからと言ってザビ家一党の専横に屈するわけにはいかないのだ。我々はこの地球を、引いては宇宙をザビ家から守らねばならない。では、我々がジオンと戦い続けるにはどうすればよいか。人海戦術、物量による制圧戦しかない。こんなもの、戦術といえようか。北京、ハワイの制圧戦に我々は確かに勝利した。だが、その為に一体何人の若い命を失ったか。それを考えれば我々は決して勝利したとは言ってはならない。
 辛い・・・辛い事だ。戦いに臨む将兵達も、またそんな彼らにフライマンタやTINコッドという遙かに劣る兵器しか渡せず、それでもなお死んでこいと言わねばならぬ指揮官達もどれほど辛い思いをしてきた事だろうか・・・・。」
 そこでレビルは言葉を区切り、辺りを見回した。その場に居並んだ殆どの人間が本町一人を真剣な眼差しでじっと見つめている。レビルを見ていないのは、涙を堪えようと目を閉じているからである。嗚咽を漏らさぬよう必死に口を押さえている者もいる。それが、これまでの戦いが如何に過酷な状況であったかを如実に物語っている。
 レビルはそんな彼らの気が落ち着くのを暫く待って、言葉を続けた。
「だが、これからは違う。モビルスーツ、ジムの開発を持って我々の技術力は遂にジオンに追いついたのだ。これからの戦いは我々、地球連邦が勝利する戦いとなるのだ!我々は必ずザビ家一党を排し、地球と宇宙に再び平和を取り戻さなければならない。それが死んでいった英霊達に対し我々が出来る唯一の慰めとなろう。」
 レビルは再び司令室を見回した。もう、誰も泣いている者はいない。全員がレビルを見、レビルがこれから言おうとしている事を聞き漏らすまいと耳を傾けている。
「これより、アメリカ大陸の解放戦を開始する!制圧ポイントは・・・・・。」
 レビルが言葉を区切る。その間に、全員がもどかしさを覚え、息をのむ。重要拠点制圧ならキャリホルニアかニューヤーク、それともまずは橋頭堡を築くか。あらゆる戦法が全員の頭の中でめまぐるしく駆け回っているのだ。
「制圧ポイントは特別エリア、キャリホルニア・・・・・。」
 将校達から”おぉ”という声が漏れる。だが、レビルはそんな声を無視して更に言葉を繋げた。
「そして、特別エリア、ニューヤーク。この2点に対し同時侵攻を行うものとする!」
 このレビルの決断を将校達は誰も予想だにしていなかった。それだけに将校達の間にどよめきがおこる。
「作戦を説明する。まず、アラスカ二点にそれぞれフライマンタ6部隊、TINコッド3部隊を投入する。これらは決して戦ってはならぬ。攻めると見せかけ、膠着状態にせよ。これで補給路、援軍を断つ。そして、ペガサス級にプロトタイプガンダム、ガンタンク、ガンキャノン、陸戦ガンダムを持って、アメリカに侵攻、両拠点の分断を行うと共に速やかに敵勢力を払拭せよ。そして、キャリホルニアにはガンキャノン2部隊をU型潜水艦により上陸させ、敵勢力を長距離射撃にて殲滅、ニューヤークに対してはジム6部隊を持って侵攻、わざと兵力の劣性を相手に見せ、攻め手に入った敵を1部隊づつを6部隊全てで短期戦にて殲滅せよ!作戦名は『アメリカハリケーン地獄作戦』。諸君、ジオンに自分が戦いを挑んだ相手が猫ではなく虎であった事を思い知らせてやろうではないか!諸君の健闘を祈る!」
 レビルの敬礼に将校達は敬礼で返すと慌ただしく動き始めた。レビルは椅子に座り息を付くと大型パネルに映し出された地球全図と宇宙勢力図を見た。
(次は宇宙か・・・それともオデッサか・・・・。)

 レビルの作戦は完全に成功したかに見えた。アメリカの敵地上部隊殲滅、キャリホルニアの敵地上部隊はガンキャノン2部隊による遠方射撃で壊滅、そして、ニューヤークはザク(らしき)MS3部隊とドップ1部隊を残して掃討戦に映っていたのである。だが・・・。睡眠中のレビルは緊急事態によって起こされる事になる。

「こちらキャリホルニア侵攻部隊、敵潜水艦が海上基地に逃走、現勢力では追討できません!海上攻撃可能な援軍を要請します!」
「こちら、アメリカ侵攻部隊、敵潜水艦が海上基地に逃走、ペガサス級戦艦にて追討しましたが、殲滅する前にエネルギーが切れました。補給部隊の派遣を要請します!」
 レビルは予想外の敵の行動に思わず爪を噛んだ。今、派遣できる部隊が一部隊もないのだ。予定外の膠着状態である。だが、それらはまだよかった。ニューヤークからの報告。それがレビルを驚愕させる。
「こちらニューヤーク侵攻部隊、U型潜水艦がザクマリンの攻撃を受け大破。一時撤退しました。ジム6部隊はザク2A型1部隊、ザクキャノン2部隊との戦闘により1部隊が中破、2部隊が・・・・・壊滅しました。残る3部隊ではとても勝てません!一度戦闘域から脱出します!」
「なんだとぉ!何故ザク如きにジムがそこまで負けるのだ!」
「敵は・・・・敵指揮官は・・・・ドズル・ザビです。」
「何ィ!何故、ドズルがそんな所にいるのだ!ヤツは宇宙にいたのではなかったのか!」
「交戦時にドズル・ザビの存在を確認していますので事実です。このままではニューヤーク制圧は不可能です。援軍の派遣を要請します。」
「か・・・・勝てねぇ〜・・・・ちきしょ〜ダメだぁぁ!なんでドズルがそこにいっかなぁ!」
 レビル=本町はそう呻いて、プレイステーションの電源を叩ききると布団に潜り込んだ。
「あ・・・朝の5時まで頑張ったのにぃぃ〜、しくしくしくしく。」
 その日の夜もまた、本町の枕が涙で濡れたのは言うまでもない。

 そして、数時間の眠りの後、”9時30分”と打たれた目覚まし時計を片手に遅刻という文字を脳裏に刻んで呆然とする本町信也の姿があったのだった。

<<完>>

教訓:寝坊する程ゲームしちゃいけません。


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