- 爆発の閃光の中、ゼロの機影を見つけて、皆は喜びに声を奮わせた。やっと総てが終わったという安堵の思いが込み上げてくる。
『・・・・は、彼だったんですね』
「何、馬鹿な事言ってるんだよ、カトル」
拡声器から漏れる声に、やや呆れながらデュオは言った。すぐに、明るく反論が返ってくると思いきや、戻って来ない。他の四人ならいざしらず、カトルなら冗談にも、律儀に返事を返えした。
まさか、あいつらの無口が移ったんじゃないよな・・・
「カトルっ・・・返事をしろよ。カトル」
少々、おかしな不安にかられながら、デュオは尚もいい募った。しかし、カトルからの返事は一向にない。
「カトル、おい、大丈夫か。カトル」
集音機に向かって大声を上げる。周波数は間違っていない。カトルの声も先程まで聞こえていた。不安は尚も沸き上がる。
「カトルッ」
WAIT FOR A LONG TIME
『デュオ、慌てるな。カトルは、緊張の糸が切れたのと、出血に因って、気が遠くなっているだけだろう』
「出血って、カトル、怪我してるのか」
トロワの落ち着いた声による効果と、一応の原因が判った為に、デュオは心を落ち着かせた。
『知らないのか』
その言葉に、相手に見えるわけでもないのに素直に頷く。
『女に腹を串刺しにされたんだ。応急処置しかしていない。出血によるショック状態になれば、生命の危険にさらされる』
デュオの顔が、さっと青ざめた。
「トロワ、お前、何のんきに解説なんてしてるんだ。医者に見せたのか、見せてないよな。そんな暇無かったものな。おい、カトル。返事をしろ。おいっ、カトル。返事をしてくれ、一緒に祝杯あげようっていったじゃないか」
その言葉は、一名を除いた一斉に其処にいた人々の頭の中を駆け巡った。
・・・串刺しになった。
・・・・重傷を負われた。
・・・・意識不明の重体。
・・・・ショック症状の痙攣が起こり、生死の淵を彷徨っている。
「カトル様」 四十人の声が、一周波数に集中する。
- 出血によって、少し気が遠くなっていたカトルは頭を振って、なんとか正気を保っていた。確かに腹部は貫通しているが、内蔵をよけたらしく、傷は大したことがなかった。もう血も止まっている。ただ、怪我をするという事、事態に慣れてなかった為に、少し気が弱くなり、気が遠くなっただけだ。
「皆、心配かけてごめん。僕は大丈夫だよ」
か細いカトルの声は、四十名の阿鼻叫喚の前には問題にもならなかった。
『カトル様・・・』
皆、同じ周波数に合わせている。試しに他の周波数でも送ってみたが、誰もカトルの送信には気がつかなかった。
『皆・・・僕は、大丈夫・・・だ・・から』
事実、貧血が起きているカトルは、あの絶叫に立ち向かう気力はない。
そこに、救いの主の様にヒイロが、ゼロに乗ってやってくる。
・・・・ヒイロの回線なら、通じるかもしれない。ヒイロに頼んで皆に、心配しないで大丈夫だと伝えてもらえばいいんだ。
緩慢な動作でカトルは、ヒイロの周波数に合わせた。
- ヒイロは何か騒々しくなっている回線に眉を顰めた。カトルの名を連呼している様だが、余りに大音量で一斉にわめき立てている為、何を言っているのか判らない。今、4人を纏めているのはカトルだ。カトル中心に何かしても、可笑しくはないだろうと、ヒイロはそう判断した。
これで、総てが終わったんだ。
これで、何もかもから、開放されるんだ。・・・これで。
「任務完了」
万感の思いを込めてヒイロはそう呟いた。開放感が何とも心地好い。ふと脇を見ると、ヒイロの専用回線に通信が入っている。
『ヒイロ、あの・・・』
回線が繋がると同時に、弱々しいカトルの声が入ってきた。先程までの大音響に絞っていた音量を、ヒイロは上げた.
「何だ、カトル」
『ヒイロッ』
突然、デュオの声が届いた。カトルの声を聞き取る為に、音量を開いていたヒイロは耳を抑えた。
「デュオ。わめくな」
『ヒイロ。カトルが大変なんだ。怪我して気を失っている』
ヒイロは眉を顰めた。何か大袈裟にいっているのだろう。カトルは先程、ヒイロに声をかけてきた。ここは一番冷静だと思われる人間に聞いた方が早い。
「説明しろ、トロワ」
『脇腹を串刺しにされたんだ。応急処置しかせず、すぐにまたMSに乗った。その後どうなったかは判らない』
だが残念な事にトロワも周りの雰囲気にかなり飲まれていた。尚も周りではカトル様の声が響き渡ってくる。
『だから、ヒイロ。僕は・・・』
「何だ・・・カトル・・・」
『ヒイロっ。だから、早くカトルを医者の所に連れていってくれ。ゼロが一番早い』
カトルがヒイロの応えるより前にデュオが叫んだ。 その声に、尚いくつもの声が重なる。 ヒイロは動かなかった。ここは直接カトルに確認を取った方がいい。だが、中々、行動を取ろうとしないヒイロにデュオは焦った。
『ヒイロ。これは任務だ。カトルを早く医者に連れていくんだ。それまで、何も考えなくていい。これは任務だ』
ヒイロの動きが一瞬止まった。
「任務了解」
乾いた声がコクピットに響く。 バードタイプのまま、ゼロはサンドロックを引っ掛けると、リリーナのいるシャトルの方へ向かった。
『ヒイロ。僕は大丈夫なんだ。皆が心配しすぎなんだよ』
カトルのか細い声は、任務の前に又もや破れさった。ヒイロの任務が終わるまで、この状態が続く事に、悲しい事にカトルは気がついていた。