「あー。ごめんね」
私に対してだろう小声で何故か謝った佐々木君と私へと、大理石の床をかつかつと硬質な靴音を立てて歩いてきた神津君が、いきなり佐々木君の鳩尾を思いっきり殴りつけた。
「!」
鈍い打撃音と同時に佐々木君の身体がくの字に曲がり僅かに後方に押し出される光景に私は凍り付く。痛そうに顔を歪める佐々木君と対照的に神津君は無表情に近いままで、目の前にいる私の耳に届かない声で二人の口が短く動く。何を話したのかが判らないまま血の気が引いている私の視界の隅で佐々木君の手が動いた。神津君の身体を掴むとか殴るとかでなく、ひらひらと短く振った様に見えたそれは私に大丈夫だと伝えるものかもしれないけれど、何故か方向が違っていて私には見えにくい角度である。
「ちょい本気、だね」
「当たり前だ。――玲」
ぶっきらぼうな神津君の視線が私へ移り、痛そうに鳩尾をさする佐々木君が何か言いかけてそして口を閉じる。
私も鳩尾を殴られるのだろうと思わず縮込まって息を止めるけれど、何秒経ってもちょい本気の一撃が打ち込まれない。キツく閉じていた瞳を恐る恐る開くと、拳を作っては開いて口を開きかけては閉じて酷く気難しげに何かを迷っている神津君の姿があった。何をしているのだろうか?多分物凄く場違いな疑問が頭に浮かび、じわじわと顔を上げている間も神津君は何だか判らない指運動を繰り返している。
「……。あの、お叱りの一撃、は?」
「覚悟を決めるのは殊勝な心掛けだが女に手をあげる訳にもいかないだろうが」
酷く不機嫌な固い声の神津君の言葉に、なる程それは拳の収めどころが見つからない動作なのかと内心納得して、でも神津君が手を上げたくなる位にやってはいけない事をしてしまった申し訳なさと、それでも神津君を巻き込みたくなかったから後悔出来ない部分がぐちゃぐちゃになる。
地方大都市の新幹線乗場前の程々に人目がある中での佐々木君への一撃は目立ったのか、ちらほらとこちらを見ている人達が居て、少し恥ずかしいのもあってどうすればいいのか判らなくて途方に暮れてしまう。どうして神津君に謝れないのだろう、謝らなくてはいけないのに結果的に問題がなくても香取君の件に神津君を巻き込みたくなかった事だけは今でも間違っていないと思うからかもしれない…自分にこんな頑固な部分があるなんて思いもしなくて……。
ぺちんと頬で音が鳴った。
痛みなんてなくて、ちょっと当たってしまったレベルのそれは神津君の手が私の頬を叩いた音だった。
神津君が女の子を叩く。怒っていただろうに直前まで叩く事を躊躇っていた人だから衝動の暴力ではなくて、それでも主義に反してどうしようもなく叩いたのだろう。ぽかんとしてしまう私の目の前の神津君は直前までの不機嫌な無表情ではなくて、ただひたすら苦しさややるせなさが複雑に混ざり合った表情をしてた。
どれだけ心配をさせてしまったのだろう。いや神津君が私の事をそこまで大切にしているとか自惚れてはいけないのは判っているけれど、でも女の子を矢面に立たせて平気な人ではないと知っていて、でもだからこそ神津君を守りたくて、でも叩かざるを得ない位に心配をさせてしまったのだ。神津君が心配をすると言う要素がまるっきり抜けていた自分の考慮のなさに驚いてしまう…私が神津君をどう思っているか神津君が私をどう思っているのか、絆とか信頼関係といったものを無視しているのは私なのだろうか。でも。
急に瞳が熱くなって神津達の姿が涙で滲む。ここで泣くなんて狡いと思うのに大粒の涙が溢れて勢いよく頬を伝って顎から落ちていく。ぐにょぐにょな視界の中で二人の顔が思いっきり焦ったものに変わる。いつも滑らかな動きをする佐々木君が慌てて取り出そうとしたハンカチを落としかけてからキャッチしかけてはまた落とすお手玉みたいな動きを繰り返し、最後にハンカチを床に落としてしまう。泣き止まないと、泣き止まないとと呪文の様に考えている気がするけれど思考が空回りして涙が加速する。
「――めなさいっ、ごめ…んなさい……っ、ごめんなさ……いっ」
外見が中学生っぽいなんてものでなく、大粒の涙の連続と泣きじゃくりながらの謝罪だともう小学生みたいな印象になってしまいそうなのに、泣いたら困らせてしまうだろうに、私は神津君に謝り続けてしまう。神津君が暴力の被害に遭うのは嫌だけれど、それよりこんなに嫌な心配をさせてしまった後悔で頭の中がいっぱいになってしまって謝る事を止められない。瞳の熱が伝わったかの様に全身が熱くなって肌が滲んで溶けていくみたいに汗が滲む。新幹線でこちらに来るまでどれだけ嫌な思いをしたのだろう、いつから私がこちらに向かった事を知って嫌だったのだろうか、ずっとここで帰りを嫌な気分で待ったのだろうか。
突然、身体が前方上部へと引き上げられた。
踵が浮き爪先立ちになり、背中と後頭部に回された神津君の腕と硬い胸板に身体が圧迫され、苦しくて痛い位に抱き締められる。涙でみっともなくなっている顔を拭う余裕もなく両腕ごと包まれている状態のまま、神津君の唇が私の唇を塞ぎ、僅かな間の後、口内に舌が捩込まれた。
人通りのある新幹線乗場前の通路の真ん中で強く抱き締められたままキスをされる驚きに固まってしまう私をそのままに、神津君の舌が私の舌を絡め取ってとてもいやらしくて激しい動きをする。いつものミントの息と唾液に神津君の汗の匂い…涼しい場所で待っていたのではなくて恐らく外を探し回っていたのだろう汗は申し訳ないのに、でもそう言う事をしている時の記憶に重なって舌の動きと一緒に私の身体を一気に煽り立てた。
多分大勢の人が見ている。神津君の舌が歯を舐めて、深く重なった唇の奥で熱い息と唾液が混ざり合いねっとりと舌が口腔粘膜を舐り回す。叩く位に怒っているのに何故こんな事をするのだろうかとぐちゃぐちゃになっている状態の頭が神津君の舌の一撫で毎にほんの少しずつ溶けていく。ゆっくりとゆっくりと削れていく飴玉みたいに思考が小さくなって、そこは触られていないのに下腹部の奥が熱く蕩けていき愛液で谷間が潤んでいくのが判る。恥ずかしいのに気持ちいい。神津君の舌と腕の力が気持ちいい。もっと気持ちいい事をして欲しくて神津君にしがみつきたくなる。もっといやらしい事をして欲しい、胸を揉んで乳首を吸って抓って、神津君に貫かれて滅茶苦茶に膣内を突き上げてちょっとキツい鰓で奥の辺りをぐりぐり抉って欲しい。場所?場所…どこでもいい…恥ずかしい気がするけれどもっといっぱいして欲しい、今すぐもっとエッチな事をして欲しい。はふんといやらしい息が漏れて、爪先立ちしている腹部に神津君の硬いモノが当たっているのを感じる。とっても硬くていつも通りの大きなモノ…夏の薄着だと目立ってしまいそう…だから抱き締めて隠しているのだろうか?ぞくんと背筋がざわめいて喘ぎそうになる。
「そろそろストップ。ちょっと児童ポルノな絵面」
不意に近くから佐々木君の声がして唾液の糸を引きつつ離れた唇に、私は緩い息をつきながらくったりと崩れ落ちそうになり神津君にそのまま抱え込まれた。急速に戻ってくる雑踏の音に現在の場所を思い出して赤面していた顔が火が噴きそうな程熱くなる。
「まぁそうだな」
不機嫌そうではない神津君の声の内容は私の外見が児童だと同意してしまっているのかとちょっとショックを受けながら、恥ずかしさとふわふわな力の入らなさで顔を上げられない。神津君のミントの味が口内に生々しくて人前でのキスなんて大胆な事をしてしまった自分が信じられない…けれど神津君は何でそんな事をしてしまったのだろうか?やっぱり泣き止ませる為のショック療法的なものなのだろうなと推測して、心配をさせた上に泣いて困らせた申し訳なさが山の様に積み重なっていく。
私を抱き留めたまま頭上で神津君と佐々木君がいつの間にか相談しているのは帰りの新幹線の話らしい。佐々木君は今朝から指定席を準備していたから神津君がその隣の席を確保するのは難しいのかもしれない。
「あの、あの、私自由席とかでいいですし、いざとなれば私は後で新幹線じゃなくても……」
「……」
「槇原さんが普通電車の乗り換えまくりなんて鉄な芸当難しいし、長距離迷子の『はじめてのおつかい』とか怖過ぎ」
「私小学生じゃないのに」
「うん、判ってる」
「――行くぞ」揶揄ってる様ではなく微笑む佐々木君に途方に暮れる私の手首を引いて、神津君が少し不機嫌そうな表情で歩き出す。直前の濃厚なキスの余韻がまだ抜けていなくて足がもつれそうになる私を神津君が素っ気ない表情で一瞥する。「背負った方がいいか?」
佐々木君への一撃から私とのキスまで結構目立ってしまっていた一連の行動が終わったと認識されたのか、周囲の人達の視線が外れて胸を撫で下ろした直後の神津君の言葉に私は再度赤面してしまう。好きになった切欠は背負って貰った事で、優しい神津君は簡単に背負ってくれようとするしどうしようもなくて御厚意に甘えさせて貰う事も多いけれど、それを当たり前に思う事なんて出来ない。突き詰めていけばそれは迷惑をかけているから少ない方がよくて……。
不意に、神津君に肩を引き寄せられた。
「佐々木、後で頼む」
色々と考えつつ到着した新幹線に乗り込んで乗降口から席に向かおうとしていた所で、神津君が私を連れたまま狭い空間に入り込んだベージュ色の一畳位のその場所は、トイレだった。
「え……」
席が確保出来ていないからまさか到着するまでここに隠れていろという話なのだろうか?一応改札を通った筈だから三人分の切符はある筈なのに何故不正乗車みたいな真似をするのだろうと困惑する私をそのままに、ドアを施錠した神津君が蓋を閉じたままの洋式便座に腰を下ろして視線をこちらに向ける。
胸と頭と身体の奥がどくんと大きく鳴った。
先刻の無表情に近いけれど少し違う、身体の隅々まで探られてしまう様な強い視線に頬がかぁっと熱くなる。瞬時にここに入った理由が判り、余所行きの服に一応合わせて洒落た下着にしておいてよかったと頭の隅で安堵してしまう…でも移動する新幹線のトイレなんて占拠状態にしてはいけない気がして……。
「玲、脱げるか?」
「はい……」
でも神津君が望んでいる。それは私には神様の声に近くて、発車の揺れに踏み留まりながら俯いて脱いだボレロとワンピースを神津君が手摺りに掛けていく。無言のままの神津君の視線が肌に絡み付く様で膝が震えるのに身体の奥が熱くて、膣口からじわりと愛液がもう滲んでくるのを感じてしまう。どこまで脱げばいいのかどう脱ぐべきなのは命令されなくても判っている気がして、ブラジャーを外す時に後ろを向きたいのにそう出来ない。神津君が見ている。貧相なアンダーカップにはちぐはぐな大き過ぎる乳房を包むブラジャーはそれまであまり可愛いデザインがなくて困っていたのに、最近は汚した時の換えとして佐々木君が事ある毎にプレゼントしてくれる高価そうで洒落た綺麗なデザインの下着が揃っていく…これはいけない事だと思うけれど、でも神津君に見られる下着が綺麗なのは乙女心的には一安心で複雑な気分になる。
誂えた様にぴったりとフィットしているブラジャーが外れ、トイレの中で私の乳房を露出した。尖ってる。まだ神津君に触れられていないのに乳首がとてもいやらしくしこって突き出ている恥ずかしさに、私は肩で呼吸をする。でももっと恥ずかしい続きをしないといけない。当然の様にブラジャーを受け取って手摺りに掛けた神津君の手はまだ延びてこない。神津君が意外と意地悪なのは判っている…とてもとてもいやらしくて恥ずかしい事を私にさせて、そして蕩けきった所を肉食獣みたいに美味しそうに食べてくれる。隅々までしゃぶる様な、藻掻く私の指の一掻きまで味わう様な、ゆっくりとした腰の動きや、串刺しと言う言葉が似合う激しい大きなモノの一突きの後の滅茶苦茶な抽挿。思い出しだけで期待するだけで愛液で下着の内側がもうぬるぬるになってしまっているのに、その神津君の目の前で下着を脱がないといけない。ぞくんと震えが全身に走り、呼吸が甘く淫らなものになってしまう。
にちゃりと卑猥な音が鳴った。
狭い閉鎖空間のトイレは新幹線の篭もった走行音が聞こえていただけなのに、いやらしいその音は大きくはっきりと聞こえて、私は恥ずかしさのあまり頭に一気に血が昇って耳まで熱くなってしまう。少し引き下ろした下着の内側が夥しい愛液が絡み付いていて滑る感触。下着を下ろす為に前屈みになった姿勢に乳房がゆさっと揺れる。せめてぷるんとか可愛らしい揺れ方ならいいのに、大き過ぎるから重そうにゆっくりと揺れて淫らがましくて恥ずかしい。
「――一日中、そうだったのか?」
不意の神津君の問いに私はほけっと見返してしまう。何故一日中?いやそもそも『そうだった』の『そう』は何を指しているのだろうか?下着を少し引き下ろしただけの間が抜けた状態のまま理解不能で首を傾げる私の下腹部を神津君が指差す。
「ふ……?え?何時って…先刻……」
キスだけでこうなってしまうのははしたないのだと判って気恥ずかしさに俯いてしまう私の視界の上端で、神津君の口元が僅かに歪む。笑顔とは違う少し意地悪そうな形で、神津君の口元を見てしまうと通路でのキスを思い出して更に身体が縮込まる。折角トイレなのだからみっともなく濡れてしまっている場所を拭いて綺麗にしたいのに、拭っている所を一番見られたくない神津君が目の前にいてどうする事も出来ない。
「俺が何かしたか?」
やはりキスだけで濡れてしまうのはおかしいのだろう、まるで心当たりがなさそうな神津君の声に私の心臓がぎゅっと潰された気がして消えたくなる。
「……。玲」少し困った様な神津君の声に半べそ状態になりつつ上目遣いに何とか見ると、蓋に腰掛けたまま指で招く仕草をしている姿が見えて、そして表情は怒った無表情でもなく意地悪そうでもなく、どこかばつの悪そうなものだった。「それ脱いで、俺のした事を真似てみろ」
途中まで脱いでいた下着をゆっくりと脱ぐと、どきっとする程真面目な表情をしている神津君と目が合い私は脱いだばかりの下着をその手に預けて何度か深呼吸を繰り返す。身長差から同じ行為は無理だけれど、神津君が座っているから近い感じには出来るだろうか。
どきどきと心臓が破裂しそうな位高鳴っているまま私は神津君を抱き締める。子供っぽい私とはまったく違う肩幅や首筋や背中に息が詰まって泣きそうになる…好きで、大切で頭がおかしくなりそう。泣きじゃくりそうな呼吸で恐らく真っ赤なまま至近距離の神津君の顔を見る。ほんの少しだけ無精髭。いつも身綺麗だから意外なのに、まるで緊急事態で探しに来てくれたみたいな気がして、ほんの少し調子に乗った嬉しさと申し訳なさで更に頭の中が訳が判らなくなる。好き。そんな気持ちを乗せていいのかな。こっそり込めても許して貰えればいいな。そんな事を考えながら唇を重ねる。
どんな感じだったかを真似しようとして、そして神津君の口内に舌を差し入れた瞬間、身体がぶるぶるっと震えて喘ぎそうになった。殆ど裸で、列車のトイレのドアのすぐ内側で、大好きな、大好きな神津君にいやらしい事をしている…もうぐちょぐちょに濡れていていつでも挿入して貰える状態で、神津君の唇を咥えてちゅっと吸い付いて、舌先で擽って、ゆっくりと掠らせる。唆すキス。もっともっといやらしい事へのおねだり。神津君はどんな気持ちであの気持ち良過ぎるキスをしたんだろう。ストイックになれなくて喘ぎながら鳴きながら私は神津君にたっぷりとキスをする。多分、下手。だって神津君はキスが素敵過ぎて真似なんてきちんと出来ない。
ぷはっと息をつくとミントの味の唾液が糸を引いたので、舐めとってこくんと嚥下する。キスまで美味しいなんて狡い。とろんと視界が潤んで滲んで、恥ずかしい匂いがトイレの中に篭もっているのが判る…発情してる匂い、学習会でずっと皆に身体中を弄られてもうセックスして貰わないと狂いそうな時の匂い。いつも皆で口も二つの穴も胸も何もかもたっぷり可愛がられてからなのに、神津君と二人きりだとキスだけでもう我慢出来なくなってしまう。おねだりしてしまいそうで我が儘でいやらしい子だと嫌われたくなくてきゅっと神津君にしがみついてキスを続ける…苦しい、身体中が切なくて泣き出しそうになる。キスだけ、なのかな。ここで、滅茶苦茶に、セックス、してくれないのかな……。
微かな甘い鳴き声が聞こえる。発情期の猫とは違う、とろとろに緩んだ蜂蜜みたいなとってもとってもいやらしい甘い声。尖りきった乳首をサマーセーターの胸板に擦り付けて、神津君の背中をかりかり爪で掻いて、腰をくねらせて、膝の辺りまで愛液が垂れてるいやらしい感じ。応えてくれる舌が気持ちいいの。でも、でも、神津君に滅茶苦茶に犯して貰うのがとっても好き。いっぱい貪って。失神するまで犯されるの、好き。傘でぐりんって奥をくじられるの、大好き。精液、いっぱい出して、ね、悦んで、可愛がって、気持ちよくなって…神津君のかたちにして、おまんこ、神津君でいっぱいにして。
まだキスをしただけなのに崩れそうな私を壁に凭れさせて、神津君がスラックスと下着を下ろすともう下腹部に当たるまで反り返っているとても猛々しい性器が露わになった。
「玲。お前は誰に抱かれたい?」
いつ見ても大きい。神津君は知的なのにそこはまるで獣みたいでごつごつとしていて硬さも熱さも無茶に思えるまるで拷問器具みたいに卑猥で…怖い位なのにうっとりしてしまう。舐めたい。頬擦りしたい。全身を大きな傘や幹で撫で回されたい、何よりも、膣内を滅茶苦茶に掻き乱しまくった後にいっぱい射精して欲しい。膝ががくがくと震えてまるで麻薬の禁断症状みたいにそれしか考えられなくなっていく。
嫌われたくない。好きとか重い事言ってはいけない。そう思う。
「――こぉづくんじゃないといや…、こぉづくんがめちゃくちゃにしてください……」
甘いあまい切ない声が聞こえた。
くいと身体が引き寄せられて神津君の腕に収まるかと思う寸前で片脚が抱えられて、そして背がまた壁に当たると同時に足が床から浮いて……。
「ぅあ……んくうぅぅぅぅぅぅぅ!!」
神津君のものに一気に貫かれた私の全身が跳ね上がり、後頭部ががつんと壁に当たるけれどそんなのは全く気にならない衝撃に声をあげかける口を神津君の口が塞いだ。膣奥までこじ開けた大きすぎる傘がずんと突き上げる。悲鳴の形になっている口から唾液が溢れて神津君の口内に伝い、大粒の涙が飛び散り、そして今日はまだ指も何も受け入れていない解れていない膣が一気にこじ開けられて軋む音すら感じそうな衝撃にがくんがくんと全身が跳ね……。
ぴちゃぴちゃぴちゃぴちゃと緩い液体が足下に弾けた。
神津君の服が汚れてしまう。
ごつっごつっと激しい突き上げの度に壁と神津君の間で玩具の様に私の身体が跳ね上がり、温かな液体が収まっても激しい絶頂に私は神津君の肩に爪を立ててしがみついてしまう。全身が弾けて砕けてしまいそうな衝撃は収まるどころか終わりがない気がしてくる位に繰り返され、腹部でなく胸まで貫かれている様な圧倒的な神津君の逞しい性器に陶酔と畏怖が混ざり合って身も心もぐちゃぐちゃになる。悲鳴が口内で溶ける。舌が絡まる。いつの間にか両脚が抱え込まれ、激しく揺さぶられる度にいやらしい愛液の攪拌音が鳴り響く。一度達してもそれはとっても甘くて激しい天国とも地獄ともとれない眩しい世界の始まりに過ぎないのはよく判っている、神津君は収まるまでとても時間がかかるから。それでも嬉しくて壊れそうになる…神津君が求めてくれる、私で満たそうとしてくれる。
神津君が立ったままで壁に押しつけられていた身体は次に便器に腰掛けて向き合う形で軽々と操られ、手摺りを握って仰け反る私の乳首を噛みながら神津君は膣奥に傘の切っ先を重く突き回す。壁に押しつけられての挿入からずっとずっと激しい抽挿で貪られ続けての漸くの射精の予感に、まるで犬の様に息をあがらせて全身汗にまみれさせて私は来てきてと哀願を繰り返した。
不意に、すぐ近くでノックの音がして私の全身が凍り付く。
「すみません、使用中です」
不思議なくらい落ち着いた普通の声で答える神津君の唇が意地悪そうに歪むのを見てしまった私の腰に、神津君が両手を添える。
「ひ……」
首を振ろうとするのより早く神津君の手が大きく私の腰を引き上げた。反射的に下腹部を見てしまう私の目にまるで子供の様な薄っぺらで生白くて殆ど柔毛のない私の下腹部の奥から私の腕位の太さはある神津君の赤黒い幹が映る。まだ射精前なのにねっとりとしているのは全て私の愛液で、恥ずかしさに身体が縮込まり、引き戻されている神津君の傘を膣口のくねりがぎゅっと締め付けてしまう。
きっと今やってはいけない事をされちゃうと中止を求めようとした瞬間、勢いよく私の腰を神津君が一気に押し下げた。
「はああああああ!」
絶対にこうなると思っていたのに神津君の猛々しいものに膣口から膣奥まで勢いよく貫かれて私はいやらしい嬌声をあげてしまう。押し出された愛液がぐじゅっと結合部から溢れて垂れていく中、腰を激しく揺さぶられ、大き過ぎる傘が膣内を前後左右を滅茶苦茶に掻き混ぜる。
「程々にな」
こんとドアが軽く叩かれて愉しげな男性の声が聞こえた。聞かれちゃった…聞かれちゃったいやらしい喘ぎ声聞かれちゃった…。恥ずかしさに縮込まりたいのに激しい抽挿が許してくれない。神津君の硬くて熱いものが私の中で暴れて爪先まで火花が弾けて、身体中が神津君のモノに支配されて他に何も出来ない。
「玲。しがみつけ」
ぶるんぶるんと乳房が揺れて、んっんっと甘い声を漏らしてしまう私は神津君の言葉に何も考えられないまま首筋にしがみつくと、喘ぐ唇に唇が重なった。
ずんと一層激しく打ち下ろされる腰に膣奥で傘の先端が大きくぶつかり、頭の芯に火花が散る。痛い位なのに神津君の存在感に呑まれて自分がまるで蜂蜜の詰まった革袋か何かに思えてしまう。露草色のサマーセーターは汗を吸ったのが判りにくくて、でも指先に感じる湿り気。興奮してくれていると嬉しい…ちょっとは気持ちいいと感じて貰えているのかな。神津君の胸板で乳房が潰れて卑猥に捏ね回されて、キスしている舌がねちょねちょと絡み合い上半身はくっついているのに腰は滅茶苦茶にぶつかるみたいに貪り合っている。口を塞がれていても喘いで、お互いに唾液を啜り合う。ぐちょぐちょと鳴り響く粘液の音。またいっちゃう。怖い…それが気持ちいいと知っているのにどこか絶頂が怖いのは他の人だと抵抗感があるのと、神津君だと、底無しだから。
「んふぅぅぅ……!!」
がくがくと全身を痙攣させながら私の膣が神津君を締め付ける。凄い。自分でも恥ずかしい位にキツく締め付けているのに、神津君のガチガチな大きなモノはまるで軽くくるまれているだけの様に反り返ったままとっても猛々しく抉り続ける。神津君が好き、少し意地悪な所も声も何もかも好き…でも、この、荒々しいモノは穏やかさやロマンチックさとは無縁でとても激しくて男女の壁や到底敵わない怖い逞しさがあって…多分原始的な奥底の部分がゾクゾクとざわめいて隠れたい位に恥ずかしくなる。好き。全部貪って貰って満足して欲しい、貧弱な私の身体だけれど神津君の性欲を発散して貰えるのならほんの少しだけよかったと思える…自信とか誇らしさは到底無理だけど嬉しい。
絶頂の喘ぎを吸い取られる様な深いキスに歯が当たるけれど痛くなくて、ひっきりなしの激しい快感が膣から全身の隅々まで嵐の様な勢いで突き抜けて爪先までがくがくと震えて、その中心で膣が神津君をぎゅっと締め付けているのにとても硬くて反り返ってて大きな素敵なモノが荒々しく私を突き上げる。全身で火花が散る。神津君の胸板で押し潰されている乳房が身体の動きで滅茶苦茶に捏ね回されて、神津君の手が私の腰をずんと押し下げて、膣奥に傘がめり込む様な苦しさと今度こそ神津君が射精してくれる期待に意識が飛んだ。
どくんと神津君の大きな性器が私の膣を押し退けそうな勢いで跳ねて、膣口近くの太い幹の根元がどくんどくんと脈打つ。神津君の指先が腰と尻肉に食い込んで私を逃がそうとしないみたいで痛くて嬉しい…逃げる筈もないのに。全身汗塗れの私の奥で、神津君の精液がどぷっどぷっと弾ける。神津君は性器も猛々しいけれど精液も多くて濃い。スマートな印象なのにまるで野獣みたいな濃厚な性交をする。最奥に傘を押し当てたままで大きな鰓が精液の逃げ場を封じた状態でとっても濃くて量の多い精液が膣奥を満たしていく。私の下で神津君の腿がぶるっと軽く痙攣する…あ…神津君が本当に目一杯射精する時の反応だと白くなっている意識のどこかで感じて、私は幸せになる。もっと射精してくれていい。いっぱい射精して。新幹線のトイレの洋式便器の上で神津君と私の身体がびくびくと跳ね続けて、汗のにおいの熱気がむわっと溢れる。
ビルを飲んだりして避妊は心掛けているけれど、密かに、細胞の一つ一つまで捧げたいと思ってしまう。もしも、もしも神津君がお嫁さんにしてくれるなら、迷わず受精したいのに。たっぷりと膣奥に溜まっている濃厚な精液がじわりと沁みて、身体が蕩ける。神津君の口のミントの味をじゅるっと吸って嚥下すると膣奥も口も頭の芯まで全て神津君が染み渡っていく気がした。全身が宙に放り出されて滲んで溶けていく様な恍惚感の中心で、まるで地上に繋ぎ留めてくれる錨の様に神津君が深々と貫いたままびくんびくんと脈打っている。
全身に力が入らなくなって神津君の身体に崩れ落ちた私の鼻を神津君の汗のにおいが擽った。ねっとりと唾液の糸を垂らしながら唇が離れると、荒い息遣いがトイレの中に籠もり、ほんの少しだけ勢いが和らいだ気がするけれど、それでもまだ神津君のものは私の膣内で十分なまでに硬くて大きなままで怖くてうっとりして恥ずかしくて嬉しい。
「玲」射精の後の神津君の声はいつも優しいのに意地悪っぽい。「まだ許されると思うなよ。――特に、今日は」
気が付くと佐々木君がいた。
「ぁ……」
洋式便器の蓋の上で力無くへたり込んでいる私は全身が汗と精液でどろどろになっていた。あれからどれだけ神津君に貪って貰えただろうか…許して貰えたからここに佐々木君がいるのだろうかそれとも時間制限だったのだろうか。
佐々木君が濡れたハンカチで私の顔を拭ってくれるけれど、指先を動かすのもやっとな位に身体が重くて動かない。
「こってり叱られちゃったね」
いつもは熱い蒸しタオルで拭って貰えるけれど流石にここでは流石に熱湯もタオルも準備出来なかったのだろうなとぼんやり考えると、不意に佐々木君が魔法使いみたいだと思って私はへにゃっと笑ってしまう。手品師でなくて魔法使いなのが不思議。現実世界では普通思い浮かぶのは手品師なのに。
「いま…なんじ……?」
「あと三十分位で到着予定」
「ごめんね……めいわく、かけちゃった…。おなか……いたくない……?」
力の入らない私の身体を丁寧に拭っては汚れたハンカチを水道で洗ってまた拭ってくれる佐々木君が、どこか困った様に微笑む。
「三十分っていうのがまた微妙だよね。しかも槇原さんこんな調子だし」
「?」
ちょっと会話が成立していない気がする。何もかも委ねるしかない状態で腕を持ち上げられると、佐々木君はとても丁寧に恭しく私の指を拭ってくれた。座り込んだままの体勢で拭える場所は足の爪先までを拭ってくれていると、心地良いのと同時に少し困った感覚がして私の頬が徐々に熱くなる。佐々木君の手はとても丁寧で…気持ちがいいから。まるで子犬の美容師さんのブラッシングみたいに上手なのだけれど、今は快楽の余韻が強くて肌がゾクゾクとざわめいて呼吸が乱れる。
「僕は止められない」
「ささき…くん……?」
「香取の口から手出しをしないと聞かなければ槇原さんは納得出来ないままだよね。例えもう終わったと言っても棘を飲み込んだままいつまでも消化不良になる。それでももう会わないのが賢明で普通だよね」
穏やかに、静かな声で呟きながら佐々木君は私の身体を拭い続ける。まるでお気に入りの時計などの貴重品の手入れか大切なペットのブラッシングの様なとても優しい丁寧な動き。そう、佐々木君の言葉は呟きで私の返答を求めていない気がした。
「それでも僕は止められない。願いを叶える方に動く。――でも、神津は叱れるんだ」
「……」
それは優しさなのだと思う。神津君に最初から止められていたとしたら、佐々木君の言う通り私は棘を飲み込んだままになっていただろう。佐々木君には感謝したい…でも私は神津君の決定を最優先にしてしまうから感謝の言葉は嘘になってしまう気がして口に出せない。ありがとうと言えば神津君を裏切ってしまうけれど、確かに感謝の気持ちは私にはあるのに。――それでも、佐々木君の善意は私を思いやってくれたものに変わりはない。
よろよろととても重い動きしか出来ない腕を動かして私は佐々木君の手を握る。
「ひゃ……、百人中…九十九人が止めるとしても、でも…、佐々木君の厚意で…私はとても助かったの…。ずっと不安で棘を飲み続けずにいられるの。飲み続けて普通に暮らしていけるか…自信はないから、多分一人で動いていたと思う…。同じ結果になるか判らなくて、でも佐々木君が必要な言葉を言ってくれた…、助けてくれた。これを感謝するのは…間違いじゃない。とても心細かった。不安だった。だから、だから……」神津君に頬を本当にささやかな力で叩かれたあの瞬間が記憶の中で繰り返される。どんなに心配をさせてしまっただろう。でもそれは私の過ちであって佐々木君に罪はないし傷付いてしまわないで欲しい。原因の私が何を言っても傲慢なのかもしれないけれど、でも善意であるなら報われて欲しい。私が反省しても同時に救われた様に。「――ありがとう」
ずきっと胸が痛む。これは神津君をやっぱり裏切っている気がするけれど、でも善意に感謝出来ないままなのはどこか嘘で自己中心的で、神津君の言葉に従うのは大切だけれど、自分の頭で考えて為すべき事を為さないのは狡い気がする。神津君を言い訳にしてはいけない。学習会の皆の中で神津君は特別で絶対だけれど、他の人を蔑ろにしていい筈がない。
佐々木君の表情が複雑に歪んだ。虚を突かれた様な、どこか苦しい様な、今にも泣き出してしまいそうな、まるで凍えている子犬の様な、胸が痛くなる表情。同い年の男子に対してこう思うのは失礼かもしれないけれど、ぎゅっと抱き締めて撫でてあげたくなる。と、佐々木君の手がとても自然に私の手の中からすり抜けた。
ふわりと佐々木君の顔が頭の上に乗り、両腕が私の背中に回る。私が抱き締めてあげたいと考えた力の何千分の一かの、まるで綿菓子を抱えている様な感触がとても優しい。
「……。槇原さん、饒舌だね」
「だって…佐々木君は悪くないから……」
ふわりと、佐々木君の頭が私の頭に柔らかに擦られる。まるで大切なペットを撫でる様なゆっくりとした穏やかな仕草で、こそばゆいと同時に佐々木君には幸せになって欲しいなとじんわりと暖かな気持ちが胸に広がった。
身体中を丁寧に拭われ服を着せて貰えた私が佐々木君に手を引かれつつトイレから出ると、まるでタイミングを計った様に乗客が皆降車中だった。誰もトイレから出てきた私達に意識を向けずホームへと進む流れに紛れ込むと、先に降車していた神津君がまるでエスコートを交代する様に佐々木君から私の手を取る。
地元駅まではここから乗り換えて三十分位はあるのだけれど、人前で神津君と手を繋ぐ状態にどきんと胸が鳴る。誰か知っている人に見られてしまうと神津君が困ってしまわないか心配で、でも手は解かれる事なく引かれ、私は半歩遅れてホームを歩く。
まだ身体にあまり力が入らなくてよろけそうになる私のすぐ横には佐々木君がいて、混雑の中いつもの穏やかな表情で歩いていて…ふと気付くと、私がよろけそうになる度に佐々木君の手が私を支えようと構えてくれていた。流石に転ぶ事はないのだけれど、でも佐々木君のその配慮はとても自然な動きでまるでいつもの事みたいで、少し驚いてしまう。
しゃらんと、胸の底の辺りで硝子片が漂って光る。
何故だろう。佐々木君はいい人で優しくて幸せになって欲しいのに、何故か、何故か……。
どこかも判らないけれど…私は何かを間違えている気が、した。
『子犬円舞』END
初校201707230129