唾液と禁煙
■ 唾液による喫煙測定・判定
混合唾液中のチオシアン塩(一般名 ロダン塩)を測定することにより、喫煙の有無、喫煙量の
測定が可能である。
タバコの主流煙に含まれる、シアン化水素や、無機・有機のシアン化合物は、とくに肝臓の解毒
酵素 ロダナーゼ の作用で、チオシアン塩となり、唾液・汗・尿中に排泄される。
また、チオシアン塩は、唾液の方が血漿よりも約20倍も高濃度であるため、血漿で測定するより
精度は上がる。(図 -12) 禁煙後の唾液での半減期は9.5日。
他の有害物質はむしろ副流煙の方が何倍も多いいのだが、シアンは副流塩には割に低いため
受動喫煙者への影響は少なく、非喫煙者と同等のレベルである。
喫煙者本人のみが、高レベルのシアン化水素の暴露を受けるものとと判断できる。
喫煙本数とチオシアン塩濃度とは誠によく相関している。(図 -13)
よって、簡便な判定法・測定法として実際の禁煙指導にも利用できる。
■ 喫煙と口内炎
唾液中に存在する、チオシアン塩はペルオキシダーゼと同様、抗菌物質としての作用があるとされている。 喫煙者はチオシアン塩濃度が高く、そのため喫煙者には口内炎が少ないと言われることがある。
しかし、これは臨床的考察で、科学的に実証・検証されているわけではない。
文献提供 東京歯科大学衛生学教室助教授 山 中 すみへ 先生著
★ 「化学物質の生体影響を把握するための環境及び生物学的モニタリング」
< とくに唾液試料を用いた生物学的モニタリング >歯科学報 Vol. 94 No.12 (1994)
★ 「唾液の不思議な世界」
<唾液から得られる生体情報>日本歯科医師会雑誌 Vol.50 No.5 (1997-8 409)
■ 歯周病の悪化
インターネットを媒体に、240名が参加し、5月より始まった第3回「禁煙マラソン」での一斉禁煙で、禁煙開始後
2週間経過した頃より,「歯周病の悪化」が多発した。改善されるはずが悪化したので話題となり、質問が目立った。 【柳風仮説】 その説明としての解釈だが・・・・。
一般的に喫煙は、口腔内のマイナス因子と捉えられているから、禁煙が進めば歯周の環境は
好転すると思われがちだが、逆に一時的に炎症は増えるらしい。 私見であるが、歯周病での悪い環境下で、ぎりぎりバランスのとれていたところ、
禁煙によりチオシアン塩濃度が下がり、その結果、抗菌力の低下となり、炎症方向にバランスが 崩れたためと解釈したいが・・・・・。
歯肉の色と喫煙
歯肉は淡いピンク色が健康色。ピンク色が赤味を帯びてきたら歯肉炎。
歯肉に締まりがなくなれば歯周病。歯肉色には人種差がある。
笑ったとき、歯肉がどの程度見えるかは、口唇との関係で人によってまちまち。
昔の日本人には上顎の前突が目立ち、歯肉が必要以上に露出する人が多かった。
女優の中にも笑ったとき、歯肉の露出程度に差があることに注目してもらいたい。
見える程度にもよるが、美人と感じるのも好きずきで、観る方に個人差があるようだ。
(日本顔学会でのイブニングセミナーでの講演)
■ Smoker's Melanosis 歯肉のメラニン色素沈着
歯肉縁より5ミリほど根先の方に、暗赤色の帯状の着色が目立つ人が多くなってきた。
メラニン色素沈着とされ、以前は親からの遺伝、人種的遺伝とされていた。(家族性)
ところが、メラニン色素沈着の発生は、喫煙に深い影響を受けているらしい。(喫煙性)
報告はいずれも疫学的調査によるものだが、喫煙との関係は、高い確率で関与している。
喫煙者本人は当然ながら、タバコを吸わない学童も副流煙の影響を受けている。
家族に喫煙者のいる家庭の子女・学童に、高率でメラミン色素の発現がある。
殊に北海道のように家屋が密閉され、狭い車に同乗する機会の多い地方に顕著である。
最近は歯肉色の脱色を希望する患者も多く、次のような治療法があるが決定的ではない。 @ YAGまたはCO2 レーザー蒸散
A フェノール+オキシドールなどの薬品による脱色
B メスまたは歯科用ポイントによる切除・削除
禁煙したら、脱色されるか? 大きな疑問だが、脱色され綺麗になるまでは数年を要するであろう。残念だが学会に追跡した報告がない。 (柳風は半信半疑でいます) 参考文献
(1) 山中すみへ メラニン色素沈着に関する研究 とくに喫煙と小児の色素沈着について
日本衛生学会雑誌 Vol 44 1号(1989)
(2) 埴岡 隆 喫煙習慣が関係する歯肉メラニン色素沈着の疫学的研究
口腔衛生学会雑誌 Vol 43 1号(1993)
(3) 清水 央雄 タバコと歯肉着色の関連について
第7回 日本禁煙推進医師歯科医師連盟総会 一般演題(1998)
口腔と喫煙
歯周病 喫煙関連性歯周病の特徴も記載されてされている。また、難治性の歯周病患者には
喫煙者が異常に高い率で関与(90%以上)しており、喫煙との関係は明白である。 口腔癌
1位 喉頭癌 2位 肺癌 3位 咽頭癌 4位 口腔癌 5位 食道癌
とされ、喫煙の煙が強く吸収及被曝されている部位と相関している。喫煙との関係はもはや明確で 非喫煙者に対して4倍のリスクがあるとされている。殊に飲酒と喫煙が重なると、口腔粘膜からの 発ガン性物質の吸収をより促進するためと考えられる。 口腔癌の中では、次の発生分布となっている。