DVD発売記念 淀調 軍服と女 

はい、淀調です。ほんとにお久しぶりですね。

もう殆ど書き尽くしたか思ってました「高慢と偏見」、DVD観てるうちに思い出しまし

た。画面に出てくる軍服姿、街を歩いてると娘達の視線がさああーっと吸い寄せられて

いく、お母さんまでが「あたしの娘時代だって兵隊が近くに来ると聞いたらもうドキ

ドキして眠れなかったもんだ」なんて言う。隊長は親子ほど年の違う若い娘みたいな

奥さん連れてる。あたしは皆とは違うわ、と思てる小生意気なリジィまでダアシイへ

の反発があるから言うてもウイッカムにころっと騙されてしまう。服はがしたらどこ

の馬の骨だか知らん連中がなんでそんなにもてるのか、きょうは軍服の話をしま

しょうね。

ビングリーとかダアシイとかあのクラスの土地持ちは桁が違うんですね。屋敷に招待

されて田舎娘たちはきゃあきゃあ言ってはしゃいでるけど、まあ向こうが本気で相手

にしてくれるわけもないし言葉遣い(DVDですからよく聞けますね)も立ち居振舞い

も違う、王侯貴族よりはも少し身近だいう程度で本音のところは嵩高いんですね。軍

服組は違う、若くて気さくであとくされなし、行儀作法がなってなくてもお互い様、

向こうだって流れ者やら食い詰めてあぶれてそこらの通りを歩いてるところを拾われ

た口かも分からん、フランス革命とナポレオンがなければ田舎で朽ち果ててる連中

ですね。それが軍隊に放り込まれて鞭を振り振りチーパッパとされているうちに人

がましくもなり、金モールで飾られた服を着込めば舞踏会にも出てこられる。階級で

がんじがらめの英国ですが彼らだけは違うんですね。いわば時代をしょってる上昇気

流に乗ってる男達でその上り坂の勢いには郷士といえどもかなわない、というのはこ

の頃になると大きな土地持ちの旧家は繁殖能力が落ちてくるんですね。

何代も渡って狭い世界で婚姻を繰り返してますから子供の数が少なくなる、

育たない、残るのは女ばかり、とどこかの皇室みたいなことことになってる。

仕方がないから今まではスコットランドはスコットランド内で、イングランドは

イングランド内で結婚相手を見つけていたものがそうも言ってられなくなり

地域の枠を越えざるを得なくなります。前にも書いたとおりダアシイの一家にも

その影が窺えますね。それに対して兵隊さんは辺境の地からでも出てくる、子沢山

の三男坊四男坊、一番上は偉いさんが締めてますが、軍功次第で出世ができる、

たいした出世じゃなくても昔の生活と比べたら雲泥の差、それに祖国を守るという

大義名分がついてますから意馬心猿の心意気、結局のところはオスとしての生命力

が違うんですね。それに若い娘は惹きつけられる、だからこそのダアシイさんの

奮戦、幸いなことにダアシイさんにはまだそれだけのエネルギーがあったからこそ

のハッピイエンド、しかしそこまでの力が残ってなかったらどうなるか。


これもドラマになりますね。現に映画になってます。ローレンス・オリヴィエの

ネルソンとビビアン・リーで「美女ありき」。どちらもビッグネームで白黒でいわ

ゆる悲恋もので、とくればもう今の若い人は衛星放送でやってても観る気は起こ

らんかも知らん。しかしこれはこの映画はメロドラマの皮被って別なことしてるん

ですね。「高慢と偏見」の陰画として観ればこれほど面白いものもちょっとない。


というところで、はい、長くなりますから続きは別にいたしましょうね。

それでは、またお目にかかりましょう。

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DVD発売記念 淀調 続・軍服と女 

ローレンス・オリヴィエが演れば片目片腕のネルソンも美男子ですが実際の彼は5

フィート2インチの小男、もらったメダルや肩章を全部ぶら下げていたために遠く

からでも彼だとわかる。おかげでフランス2級射手に狙い撃ちされ、絵にも描いて

もらい銅像も立ててもらったネルソンは元々は片田舎の牧師の息子、一方の愛人エ

マ・ハミルトンも街の女からの成り上がりで貴族の奥方におさまってたところを

ネルソンがみそめる。こう書くと蓼喰う虫も好き好き、単なる類友で終わってしま

う。それに何といってもネルソンは伝説の英雄ですから映画にするにはどうしたっ

て美男美女の悲恋物語にせんとならん。となると「ウォータールー・ブリッジ」

そのまんまになるところをこの監督、1枚カードをはさんでみた。さてそれは何か。


美男ネルソンを助けるのが大使夫人のビビアン・リー、持ち前の美貌と才気で国王

をたらし込んで武器・食料を調達する。会うたびにネルソンは偉くなるが片目と

片腕も失っている。飲めや歌えの舞踏会、オペラ観劇と贅沢三昧の暮らしをして

きたハミルトン夫人は融通のきかない男臭さむんむんのネルソンに惹かれていって

恋仲になる。遂にはロンドンに戻って一緒に住むようになる。娘まで生まれたが

ダブル不倫の結果のため、法的にはどちらの子供にもならない。さあ、ネルソン

戦死の知らせを持って部下が屋敷にやってくる。なかなか切り出せない、向かい

合って座ったエマは物凄い勢いで刺繍に精を出し始める。慌しく行き交う針と糸、

部下が泣き崩れてやがて去っていく、エマは窓にカーテンを引き始める。すべて

引き切って倒れたところで場面が切り替わって街の女が老いさらばえたエマに

尋ねるんですね。「それから?」「それからはないの。それでお仕舞い」この

終わり方、エマの表情、いかにもイギリス映画なんですがもっと凄いのはここに

エマの夫をはさんだことですね。ご主人はもとから貴族で大使ですから軍服

なんか着ない。もう中年も半ばを過ぎた怠惰な身体を絹とリボンの満艦飾、

絵に描いたような寝取られ亭主の役どころと思って観ていくとこれが

だんだんだんだんひっくり返る。皮肉言われてエマが言い返すの、「あんたは

あたしに心があるなんて思ったことないでしょう、彫像や壷とおんなじにこの

屋敷の飾りだと思って結婚したんでしょう」って。そのあとの返事がいいの、

ほー言う表情でね、「何言うてるんだ? この私が集めた彫像たちに心がないだっ

? 激務に疲れたとき、このものたちがどんなに私の心を慰めてくれるか

わからんのか?しかも彼らは水夫なんぞと浮気することもない」 お前は何

やってきたんだ、私が黙ってるから心がないとでも言うのかね、というところを

自分のプライドを懸けてるからわざと悠々とした口調で逆襲するのね。

そして軍の命令でネルソンが本国に帰っていく、それを追いかけてエマも

ご主人も結局は3人一緒の貨物船だかに乗せられてロンドンに着く、

ホテルで出迎えたネルソンの妻が感情を押さえながらハミルトン卿に

「船旅は如何でしたか」訊くの。「ひどいもので、物凄い船酔いでした。

陸に上がってもまだ続いてます」奥さんの眼まっすぐじっと見据えて言う

のね、ふたりは病気なんだからおさまるまでは何を言っても無駄なんだから

止めときなさい、いう意味なのね。奥さんは絶対離婚はしない、それで

ネルソンはエマと一緒に住むんですけどそこではハミルトン卿も一緒なの。

そしてひとり先に死んでいく。

まあ、この男、賭け事のかたに譲り受けたエマを奥方にするような男、生まれながら

の貴族で教養もあり審美眼もあって人の心もわかって、だけど女の為には戦わない

男。憤然と離れていくわけでもなく漫然とそばにいるようでいてそんな自分の心の

動きを自虐的に見つめている男。どこまで自分が耐えられるか、自分が寝取られて

も平気な女に狂っているネルソンの姿を見てはほろ苦い優越感に浸る男、自分は貴族だ

いう思いが彼を支えている。ネルソンという光の影に置かれてついつい見逃してし

まうんですがこれがイギリス男の一典型なんですね。だからこの作品を観ていると監

督の思いはどっちかいうたら主役ふたりよりもこの地味なハミルトン卿にあったん

じゃないかいう思いがするんですね。だからダアシイさんはほんとに例外中の例外、

裏でいろいろやってても目の前のものには我慢して手を出さない、いうのが普通

なんです。ダアシイさんは軍服着てなくて軍人に負けない、素性がよくて行動に

移れれば何も文句はないですね。一癖も二癖もある性格ながら王子様扱いされる

理由です。


では皆様、楽しい週末をお過ごしください。ごきげんよう。

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