2019余所自作01『水玉ビキニ』

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 水着のブラジャーを不意に誰かが引っ張る感触に桃花はびくりと身を震わせた。
 都内最大級の遊園地内にあるプールは芋洗いの状態で、少女が見回す必要もなく混雑しており水面を見る方が難しい状態である。流れるプールに最初は一緒にいた友達の姿もいつの間にか見えなくなり、浮き輪に身を任せて漂っていた桃花の周囲に知り合いは一人もいない…ましてや目の前にいるのは大学生らしい日に焼けた少し遊び人風の男達だけで、友達の悪ふざけには見えない。
『気のせい…だよね……』
 水面下でぐいっと更にブラジャーを押し下げる指の感触に、桃花は身を震わせて顔を逸らす。ちゃぷちゃぷと水音が鳴り周囲のざわめきの中、心細さに全身が強張り息をするのも漸くの少女の乳房が、不意に水中で剥き出しになる。
「ひ……っ」気のせいではない。水着で覆われているのではなく、剥き出しになってしまった乳房の脇に水着が寄せられ片方の乳房を中央へと寄せる形になる開放感と圧迫感に桃花の頬が真っ赤に染まる。ぷるんと揺れる乳房の中心でまだ異性に見せた事のない乳首が縮込まり、思わずしがみつく浮き輪に擦れた。「ん……ふ……ぅっ」

 桃花の小鼻から微かに声が漏れる。周囲に人が犇く中、片方の乳房を丸出しにされてしまうなどと内気な少女には想像も出来ない出来事だった。だが、恐怖と同時に得体の知れないもどかしさが熟れかけの身体を煽り、桃花の唇が切なく揺れる。友達の悪戯ならば軽口で叱らないといけない、それなのに目の前の、桃花の目に映るのは日焼けした年上の男達しかおらず、内気な少女が咎めるなど出来る筈もなかった。硬直した足を動かす事も出来ず流れに任せて漂うだけの桃花の歯が緊張でかちかちと鳴り、水に濡れた髪を貼りつかせている顔が今にも泣きそうに歪む…だがそれに目の前の男達は気に留めて問いかけてくれる様子もなくにやにやと笑うばかりだった。
 不意に、もう一方の乳房を包む水着もが脇に寄せられた。
「嫌……っ」
 奇妙な開放感にびくりと仰け反る桃花は、続いて誰かの手が前方へと腿を持ち上げるのを感じて大きく目を見開く。何が起きているのか判らない。浮き輪に身を任せ時折プールの底を跳ねていた少女の足が水中に浮き、そして桃花の両脚が垂直でなく斜めになる中、ずいっとビキニのパンツが白い腰から引き下ろされた。
「!」
 桃花の白い尻肉の裾の辺りまで引き下ろされた水着に、柔らかな太腿と下腹部と水着の隙間にプールの水が流れる。冷たい心地よい感覚よりも強い羞恥と恐怖に強張る桃花の腿から更に水着は引き下ろされていき、膝の辺りまで来た時に引き下ろす動きが止まった。
『や……だ…っ、落ちちゃう……っ』
 水の流れに任せてそのまま落ちていきそうになる水着に、手を離され自由になった足で懸命に水着が脱げるのを止めようとする少女の脚が水中で頼りなく動くが、水着は膝から抜けおちそうになっては漸く留まるのを繰り返し、当然元通りに腰まで戻る事はない。水面を埋め尽くす様な人々の中だからこそ見えないものの、水面下での惨めな光景を想像して少女の瞳に涙が浮かぶ。まだ混雑していて助かったかもしれない。密かに水着を戻そうにも浮き輪にしがみついているままでは手は膝まで届かないし、この混雑では浮き輪を外すのも儘ならない。とん、とん、と爪先がプールの床を突き、水着が脹脛まで落ちる度に桃花の足がそれを引き上げようと水中でくねり合わされる。膝と脹脛で繰り返される桃花と水流による水着の上げ下げの間、形振り構えない白い腰は自ら忙しなく水中で藻掻き続け、少女の剥き出しの下腹部でまだ男を知らない小振りな薄桃色の襞を挟んだ柔らかな丘がくにくにとくねり、指二本で隠れそうな薄い陰毛が水中に漂う。水着に気を取られているから動けるものの、自らの淫猥なその姿に気付けば少女はもう動く事も出来なくなっていたかもしれない。
 日が翳った気がした。
 日を背にした状態で流されていた桃花の項に当たる強烈な夏の日差しが薄れた感覚に気付くと同時に、少女の乳房が背後から回されてきた手に包まれ、柔らかに揉みしだかれる。ひっと悲鳴を上げかけた桃花は乳房を揉む男の顔が項の近くにあるのを感じ震え上がる。痴漢。通学電車で何度も遭遇しているもののまさかプールにまでいるとは思っていなかった存在に少女は凍りつく。通学電車内ならばまだよかったかもしれない、セーラー服に身を包んでいればその上から触られるだけで済む…だが今桃花の身を包んでいる物は殆どない、いや、乳房の両脇にあるビキニのブラジャーと膝に引っかかってるだけのパンツでは男性が女性を弄ぼうとする場所は全て無防備に曝け出してしまっていた、
『気付かないで…、お願い気付かないで……!』
 水着を脱がした存在と痴漢が別人であると思い込む様に祈る桃花の足の動きは鈍り、じわりじわりと水着のパンツは膝から脹脛へ、脹脛から足首へと落ちていく。とん、とプールの床を弾く足からは勢いが完全に抜け、浮き輪にしがみついて俯く桃花の乳房が水中で見知らぬであろう男の手にやわやわと揉みしだかれ、乳首が摘まれ、捏ね回される。嫌いやと心の中で悪戯が終わる事を願う少女の唇が頼りなく震え、混雑の中、時折他者に当たる足首に絡まっているだけの水着が、抜け落ちそうになるものの竦んだ身体はもう動く事が出来ない。
 不意に、するりと、足首から水着が抜け落ちた。
「ひ……ぁ…っ」
 小さな、悲鳴にもならない声は震え今にも消えそうなものでしかない。両足首に絡み付いていた水着が抜け落ちてしまった為に自由になった足がプールの床に当たるが、それは乳房より下に何一つ身に纏っていない頼りない姿ではもう何一つ自主的に動けない様な力無い動きであり、項垂れた桃花の瞳を涙が伝い、浮き輪の内側の小さな水面にぽたりと落ちる。抜け落ちた水着はどこへ行ってしまったのだろうか…もしかして誰かが気付いて拾って監視員に渡されてしまうのだろうか。そうなればビキニのパンツを穿いていない女が施設内にいると判明して監視員が探し始めてしまうかもしれない。そうなった時、桃花はどうなるのであろうか。脱がれされたのだと考えて貰えるのか、自ら脱いだ痴女だと思われはしないか、事故だと思って貰えるか…もう時間が止まって欲しいと祈る桃花の無防備な下腹部に、誰かの指が触れた。

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