2023余所自作123『路地を抜けた時には 〜啄木鳥〜』

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『路地を抜けた時には』

「んにゃん……」
 微かに極上の蕩けた蜂蜜声が聞こえ、省吾は小さくため息をついた。会社の創業パーティと聞いてはいたがまさか親会社のだとは知らず着慣れないタキシード姿にさせられた挙句エスコート相手が行方不明になる…どんな罰ゲームかと思いながらも会場の好奇の目に晒されるよりはマシだろう。
「ねーこねこねこねこ」
 彼女の名前を言っていいのか判らず小さな声で囀ってみた省吾の耳に再び彼女の声が聞こえてくる。ホテルの廊下と言ってもバックヤード近くの通路は華やかな場所てはなく、時折カートを押すボーイと擦れ違うだけである。きょろきょろと見回し同じ声掛けを繰り返した後、擦り抜けるのもやっとの隙間に横向きに填まっている相手を見つけて省吾は大きく息をつく。
「天音さん?なんて格好してるのかな?」
 言われなくても判る。グループ系列の映画会社の最新ファンタジー映画のヒロインの衣装である、が、当然彼女は出演者ではなくてただの気軽なコスプレであり会場では身に着けるつもりであっただろうアイマスクを手にしてはいる、が、ファンタジー作品にありがちな煽情的で露出過多なドレスはかなりいやらしい。主演女優のほどほどな乳房ならば煽情的ではなかった胸元は暴力的に存在感を主張し、そして壁に挟まっている。
「伊能さん……」
 はふんと漏らす彼女の声は迷子の子猫の甘えたものと言うより発情した自分を持て余して恥じているものだった。
「出ておいで」
「でられない、です…んはぁ……ん!」
 少し身体を動かそうとした彼女の乳房が壁の間でぶるんと揺れ、可憐な唇から悩ましい声が漏れる。少し動いただけでドレスの胸元がずるりと擦れ、パールホワイトの布が下へとずれていくのが判る。自分のいない間もこんな声を漏らしかけては堪えていたのが先刻の猫の鳴き声と判り、省吾は大きく脱力する。
「何やってんですか」本当に猫を回収する気分になりながら隙間に何とか身を進ませた省吾は彼女の頭をぽんぽんと軽く叩く。「ほら、出るから」
「待ってくだしゃい……」
 省吾の袖をくいと指で掴み、彼女が顔を見上げてくる。長身でそこそこの体格をしている省吾よりも華奢な彼女だが乳房だけは暴力的であり、それが壁に挟まってひしゃげている状態はかなり卑猥だった。通路の照明から陰になっている可憐な顔立ちが悩ましく煽情的なものになっているのを確認するまでもなく、狭い隙間は彼女の発情した牝臭が甘く漂っていた。
「天音さん?」
「がまん…できない……です」
 舌足らずな甘え声のいやらしさはそれだけで省吾を性的に刺激する…いや最近は彼女の発情した息遣いだけで下半身が反応してしまう。その上、微かにアルコール臭もする。
「……。何をどれ位飲んだのかな?」
「乾杯のシャンパンだけれす」
 以前の無礼講を考えるとぎりぎり潰れる前なのかどうか怖くて酒量の確認をしていないのが悔やまれる。
「取り敢えず話は出てから」
「あ……んっ!」
 壁と壁に挟まっている乳房と異なり余裕のある彼女のウエストに手を回して引き寄せた瞬間、彼女のドレスの胸元が完全露出した。反射的に口を塞げず悩ましい嬌声に凍り付く省吾だったが、誰何の声もないのを確認してまたため息をつく。どうやら過敏な乳首が擦れて駄目らしいと判り、そっと壁と乳房の間に手を潜り込ませると彼女が悩ましく喘ぎ声を漏らす。身を横にして隙間に入り込んでいる為に口を塞ぐか手で乳首を庇ってやるかしか片手の選択肢はない。
「伊能さん……あの…あのね……、揉んで……」
 とろんと蕩け切った彼女の哀願にぐらりと世界が揺れる。掌に重なっている乳首は硬くしこっており、隙間に漂い愛液のにおいはどれだけ彼女が発情しているかを訴えてくる。それより何より、甘く蕩け切った蜂蜜声は今宵のおかずには事欠かない、いや、出さずには寝付けない程にいやらしい。だがここで揉めば確実に彼女は喘いでしまうだろう。誰がすぐ近くを通るか判らない通路の隙間で。
「天音さん、自分の口、手で塞いで」
「……。やです」
「はい?」
「ちゅー」
「……。こら?」
 発情で潤んだ大きな瞳で見上げてきていた彼女が少し背伸びをして唇を突き出してきた。


『路地を抜けた時には 〜啄木鳥〜』

「んひゃん……にゃあ!」
 乳房と壁の間に割り込ませていた手をするりと抜き、省吾は子供っぽく唇を突き出してくる彼女の額をやや強めに弾く。
 発情と酔いでとろんとしていた顔が拗ねたものになり接吻を求めた尖らせている唇がそのままみいと不満そうな鳴き声を漏らす。
「んもおー物陰れす、雰囲気もありまふ、ドレスとタキシードれふ、なんれらめれすかあ?」
「好きなんだろう?」
 職場のセクハラ避けとして偽彼氏になった直後に意中の相手がいると聞いて半年、色々危なっかしい事はしてはいても省吾が一線を越えない最大の理由を内心微妙な感覚になりながら重くならない程度の口調で言いながら彼女を軽く窘める。人の気も知らないで。偽彼氏だと安心して悪戯をしているにしては妙に一途っぽく見える所が若干小憎らしい。いやそれは省吾の身勝手な受け取り方に過ぎないのだが。
「……。はひっ!」にこっと笑う彼女は清楚可憐な顔立ちでありながら壁に挟まっている乳房は視覚の暴力としか言い様のない豊かでありながら綺麗な形の乳房をしており、何より声フェチの省吾にとっては直球以外の何物でもない極上の蜂蜜声で、そんな子が半裸で一斉に花が咲いた様な幸せそうな笑みを見せられると堪らない気持ちの行き場がなくなってしまう。「あのれふね、あのれふね、あの、おあいしらろきかりゃしゅてきらなーってかんりたんれふよ?りちゅわしょらいめんらのはもっろまえれひてれ、にゅーひゃひひのひり、おあいしちぇるんれふ。うふふ…きちゅいれなかっられふよれ?しゃくらかふっれれ、かりゅくくひおふっれはりゃっれるのおみらしゅんひゃん、ろきってしらんれふ」
 徐々に酔いが回ってきたのか呂律が大変怪しくなってきていて言っている事の半分も判らないがどうやら意中の人の話で盛り上がっているらしい。頬が薔薇色に染まり幸せそのものの笑みが、省吾の胸にずきりと刺さる。長い黒髪にコスプレ衣装の金枝の様な捻じれた角にパールホワイトの花飾り、悩ましい身体に貼り付いている同じくパールホワイトのドレスは下着のコルセットに近いワンピースで露出も多く、だがフリルと花飾りのお陰で可憐さも強調されており悩ましい。色白な彼女が全身を桜色に染めて上気しているとそのドレス姿は初夜の花嫁の寝衣にも見え…見ず知らずの男がこの娘を手に入れるのだとどうしても意識してしまう。
「いのーしゃん」
「はいはい」
「いのーしゃん」
「ほら、出るから」
 にこにこと笑っている彼女が、突然背伸びをして、唇が重なった。
 一秒程、子供の様に軽く重なった後、余韻もなく離れ、そして彼女が顔を真っ赤にした。
「ちゅー、しひゃいまひら!」
 これは絶対に明日には憶えていない奴だろう。以前素面の状態でしたのは騒ぐ彼女の口を塞ぐ為の緊急避難であり感情も雰囲気も何もかもあったものではなかったが、今回はどう考えればいいのだろうか。酔っぱらって相手を間違えたのか。つまり意中の相手とは既にしているのか、いや両思いになったのならば何故自分がパーティのパートナーに駆り出されているのかが理解出来ない。とっとと意中の男と堂々付き合えばいいだろう。
「……。いのーしゃん?」
「……。はい?」
「はひはにゃはっひゃれふか?」直前までの幸せの絶頂の様な顔が一転不安と恥ずかしさが混ざった表情で見上げてくる彼女の声は酔っている為に少し舌足らずで元からの蜂蜜声が幼くなり甘えられている感が半端ない。「ちゅー、いやらっられふは?」
「天音さん、もしかしてキス魔かな?」
「きしゅま?」
「キスするのが好きな人」
 見境なくとは流石に言えずに曖昧に言う省吾に、元から薔薇色に染まっていた彼女の顔が耳まで真っ赤に染まる。恥ずかし気に身を少し縮込まらせ教師に叱られた子供の様に物言いたげに見上げてくる彼女の唇が何度も何かを言いかけ、うにゃうにゃと意味のない鳴き声を漏らす。いや酔っぱらい言語の時点から正直半分以上判らないのだが。
「いのーしゃんわ、ちゅー、きらいれふは?」
「……。嫌いじゃない、かな。ほらもう出よう」
 話すだけならば通路の隙間に挟まり続けている必要はない。と言うか何故こんな状況で長話を続けるのか理解に苦しむ…迷子の猫が物陰から出て来ない状況そのまま過ぎて馬鹿らしさに力が抜けそうになるのを堪えて彼女の乳房と壁の間に手を差し込みかけた瞬間、また彼女が唇を重ねてきた。今度は数秒。だがレベルに差はなくただ重なるだけ。
「ひっぱひ、ひらほりょろありゅんれふは?ちゅー、ほはろひほほ、ひはふっへりゅんれふは?やれふ、ほはろひほほ、ひひゃ、やれふ」
「こら」
 唇が離れた間に至近距離で見える涙を浮かべた拗ねた顔が堪らなく愛らしく省吾の背筋がぞくりとざわめく。何のスイッチが入ったのか判らないが、意地になっている気がしなくもない、が、その原因も言ってる内容も判らない。
「ろーれふは? ……。んにゃん!ひはふほやれふ、らめれふ、ちょくへぷにゃちゅーりらりらりんれふ」
「言ってる事が判らない」
 まるで初めて木を突く事を覚えたばかりの啄木鳥の雛の様な不器用な接吻を繰り返す彼女に省吾はため息をつく。これが両想いならば役得だが酔っぱらいの間違いは辛い。人の気も知らないで音さえ鳴らない接吻を繰り返す彼女の頬は真っ赤に染まり、とてもご機嫌そうである。小学生でもこんな拙い接吻を喜んで繰り返しはしないのではなかろうか。
「りゅっろひははっはんれふほ?なちゅかやりゅっろりゅっろ、ひははっはんれふ。――れも、にゃんらかひょっほひはふれふ」自由になる片手で省吾の肩をつんつんと突く彼女が上目遣いで見上げてくる。「……。いのーしゃんかりゃにょちゅー、ほひーれふ……」
 半分程度しか判らなかった酔っぱらい言語が今回は全て伝わってしまった。知能指数が果てしなく低下している分だけ極上の蜂蜜声は更に糖度を増しており、逆らい難い事この上ない。――幼さも増して元からの年齢差もあり犯罪気分が上乗せされてブレーキをかけてくれるのが有難い。それなのに。
「俺にキスされたい?」
 魔が差しかけている。
 身体を横向きにさせて滑り込ませるのがやっとの隙間で、背後の通路からの光を省吾に遮られて陰に入っている彼女の瞳はしっとりと濡れて潤み切っている。啄木鳥の真似事を繰り返していた唇が優しく重ねればとても柔らかいのは夏のリゾートホテルで既に知っている…いやあれは緊急避難に過ぎなかったのだが。踏み込んでいいのか迷う省吾の気も知らず、至近距離の彼女の顔がぱっと明るいものになる…両手で抱えきれない花束に埋もれた様な最高の笑みは裏表等なく、接吻一つでこうも期待されると逆に後ろめたさを憶えてしまう。
「……。エロいキスでも?」
 省吾の囁きの意味を最初飲み込めなかったのか数秒小首を傾げた後、彼女の顔が真っ赤に染まった。酔えば貞淑さも羞恥心も吹き飛ぶ筈だが少しは残っているらしい。つまり記憶が飛ぶか微妙そうでやや心配になる。
「いのーしゃんわ、いちゅも…えりょいれふよ?」もじもじと恥ずかしげに見上げてくる。「にゃにもひちぇにゃいにょに、ちょっれもえりょいんれふ。えっちにゃとひあ……、あにょにぇ、あにょ、にぇ…おーしゃまにゃの……ひゃかりゃえにゃいにょ……」
 彼女の指がきゅっと省吾のタキシードの袖を引く。
 生唾を飲みそうになる省吾の手が微かに動き、壁に潰されている彼女の乳房をほんの僅かに揉む形になった瞬間、あんと悩ましい声が溢れる。張りのある豊かな乳房でありながら指を食い込ませるとずぶずぶと沈み込んでいく卑猥な柔らかさも両立し、指先に触れかけた乳首の硬さに省吾のものが一段と滾る。全くもって、人の気も知らないで。
「答えてないよ」
「……、えりょひちゅー…ひへふりゃはひ……。いのーしゃんのちゅー…りゅっりょりゅっりょひへほひはっひゃにょ……」
 至近距離にある顔だけでなく身体が震えているのが伝わってきて頭の芯を揺さぶられる様な最高の酩酊感が襲ってくる。恥ずかしげな告白はただでさえ甘い声を更に蕩けさせ、先刻の啄木鳥の真似事の幼稚さが嘘の様な淫らな初々しさが全身から溢れて眩暈さえ覚えてしまう。恐らく明日には憶えていない酒量であろう、本来の彼女ならばこうも大胆にならず途中ではしたないだの何だのと暴れ出す筈であるから。啄木鳥もノーカン。ならば少し位やり返すのはありではなかろうか。大体意中の男はどうした。彼女の周辺は欧米化していて接吻はご挨拶程度に受け止められているのだろうか?この啄木鳥は挨拶か?ああ確かに愛情もへったくれもない野生の何かにしか思えないのだが。
 精神がいらっとくる。
 もしも他の誰かとも彼女が接吻しているとしたら?
「? いのーしゃ……?」
 僅かに顔を寄せた省吾にぽやんと小首を傾げる彼女に、唇を重ねた。
 びくんと震えるのにも構わず、そっと動かした唇で彼女の唇を滑る様に愛撫する。柔らかい。シャンパンよりも強く感じるカシスの甘酸っぱい味。接吻に応じる事など出来はしないのだろう、まごつき微かに揺れ動く唇を軽く唇で挟み、啄む。
 あ……と、至近距離で甘く蕩けた声が漏れた。
 温かな濡れた吐息に籠もる音が唇に触れ、それは振動の様に省吾の頭を揺さぶる。
「乾杯以外も飲んだでしょ」
「はひ……」とろんとしている彼女の唇が重なりかけたまま擦れ合う。恐らく酒量限界を越えている…リゾートホテルのカクテルは量は多いがアルコール度数は抑え目の筈だった。「らっれいのーしゃんいにゃいかやしゃがちちぇちぇ、んめにょあっらぽーいしゃんがわらひれふれれ……」
「はいはい、離れていて悪かった」
 グループ企業名誉会長等御歴々等、庶民が接近していいものではない。そこに平然と混ざる彼女との世界の違いを実感している時間が彼女にとっては御不満だったらしい。当然彼女に声をかける相応な男もそれなりに居て、当然全員省吾よりタキシード慣れしていて如何にも御曹子的な空気を漂わせている優男が多かった。どれが意中の相手なのかと品定めしつつ飲んだワインが上質なのがまた苦い。――そう言えば、あの時にはドレスの腰回りはこんなに露出過多ではなくふんわりとしたレースを重ねたスカートがあった筈である…とちらりと下を見るとそれが床の上に落ちていた。隙間に入り込む時に引っ掛けて脱げてしまったのか、これは外に出にくいだろう。
 こんな間抜けな時に補うのが自分には相応しいのだろう。残念ながら住む世界が違う。
「いのーしゃん…もっろちゅーひへふらはひ……えりょいちゅー…しゅき」
 とろんと蕩けた瞳で見上げてくる彼女に、省吾はやや困惑した顔をしてしまう。
「いや…、まだエロいキスしていないんだけど……」

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