2023余所自作137 『行き倒れと口の悪いお人好し』

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「――生きてたの」
 第一声がそれだった。
 自分が固いベンチに横たわっていると認識するより前にぼんやりと誠一が眺めていたのは同級生女子の着替え姿だった。腰まで届くしなやかな黒髪を揺らしながら白地の青のポイントの付いたショーツとブラトップを身に着ける所までばっちりと見ていたらしい。まだ朦朧としている頭にぷるんと揺れる白い乳房とその先端のサクランボに似た可憐な乳首、引き締まった小振りな尻肉のその奥の淡く色付いた谷間とちらほらとした柔毛まで意外としっかり残っている。
「何で佐原が?」
「あんたすぐそこで倒れてたのよ。校医の先生呼ぼうかと思ったんだけどいいんですいいんですってずっと言い続けて仕方ないから転がしといたの」
 着替えを全部見られていたと思っていないのか性格のキツさそのままさっぱりと話す同級生に、遅れて誠一は自分の脇の下に挟まれている冷え切ったペットボトルの気持ちよさにああ、と呟く。
「佐原、お前意外と面倒見いい奴なんだな」
「意外とって何よ。ちなみにドリンク代は貰うからね。汗まみれのペットボトル飲むのは嫌だわ」
 よく冷えた…と言うより凍らせてあったのだろう、制服の脇の下は結露した水分で重く濡れて冷たい。いや登校途中から汗は掻いていたからそれのせいかもしれない。毒気付いている同級生女子のいつも通りの素っ気なさだが、それでもわざわざ…。
「此処何処?」
「女子陸上部の部室。今日は自主練だから誰も来ないと思うけどね。本来男子禁制だから早いトコ出てくれると助かるわ」
「あー……だから着替えてたのか」
 神を印象的な長いツインテールに結い上げていた手がぴたりと止まり、佐原が誠一を冷ややかな目で見降ろしてきた。
「見たの?」
「それさ、下着付けないって初めて知った」
 まだ気怠さの残った誠一の頭を、白い拳が全力で殴った。

「最低よド変態、助けるんじゃなかったわ行き倒れていればよかったのよあんたなんて」
 突き飛ばされる様な形で奥まったシャワーブースに押し込まれた誠一に頭上から水が降り注ぐ。学生証も財布も携帯も鞄に入っているからマシではあるが制服姿にスニーカーの状態で冷水をぶち撒かれて漸く意識がはっきりしてくると、流石に怒りが込み上げてくる…が、あの眼福を考えるとこの目に遭うのは仕方ないのかもしれない。
「佐原、俺が目ぇ覚ましてなかったからっていきなりすっぽんぽんになって着替えるお前も迂闊だと思うぞ?」
「すっ……そんな所まで見てたなら一言言いなさいよ!」
「朦朧としていたんだから仕方ないだろ。仰向けの男の目の前でおっぱいやあそこ丸出しにしてる方がおかしい」
「あ、あ、あそ……あそこって……!」
「お前、毛薄いのな。髪はやたらと長いのに。あとパンツ履いてる時に毛並み整えるの初めて知った。男と大差ないって知った俺の浪漫返せ」
「何の浪漫よこの覗き魔」
「ポジショニングしないと収まり悪いだろうが」
「……〜〜っ!どうせ年柄年中勃起させてるんでしょ!ぶっ倒れてるから心配したのに何それ!ペットボトルみたいなのもりもりさせてこのド畜生!」
「それはお前が……!」
 朦朧として倒れている間に感じた爽やかなフローラルブーケの匂いや背負って引き摺って行かれる際の腕や手に当たっている乳房の弾力がとても有難くこそばゆかったのを思い出しつつ怒鳴り返そうとした誠一と同級生は不意に聞こえてきた女子達の話声にぎくりと身体を強張らせ、そして続いた扉の鍵を開ける音に顔を見合わせた。まさかやる気か?仕方ないでしょ!ちょっと待て!私の名誉考えて!そんな意思疎通が一瞬で交差し、シャワーブースの奥へと押し込まれ女子に壁ドンをされる体勢になった誠一の脇でシャワーのコックが捻られ水音が止むと同時に、部室の扉が開いた音が鳴った。

「暑ーい…もう帰りたいー」
「自主練だから木下も来ないし」
「でもサボると覿面だもんしゃーないしゃーない」
 三人だろうか。姦しく喋っている女子の声に誠一の心臓がどくどくと騒がしい。男子禁制の場に引っ張り込まれた身としては行き倒れの不運と見做されるかどうかが判らないと、いや好意的に対応されると確定していないと動くに動けない。エアコンの稼働音にロッカーの開く音に着替え中らしい雑音に賑やかな話声の向こう側で校庭の大量の蝉が鳴く音が聞こえてくる。その中、滴った水がぴちゃりと弾ける音が妙にはっきりと響く。
「バレたら、殺すからね」
 微かな囁きにもならない様な声と同時に同級生女子が見上げてくる。ずぶ濡れだった誠一に体当たりを食らわせ頭上からのシャワーを僅かな間浴びた彼女は濡れずに済む筈だったのに水が滴っていた。十センチ前後の身長差だろうか、目の前に額の髪の生え際より上の部分が来ている。不貞腐れている様な顔をしているが黙っていれば清楚可憐な美少女と言えなくもない同級生の睫毛の長さが悩ましい。いや、悩ましいのはそれだけではない。誠一の拳位の乳房が、胸板の下の辺りに当たっている。陸上のセパレートのユニフォームは濡れたからといってその白地が透ける事も先端の突起が突き出される事もないが、ぴったりと密着しているそれが小降り見える乳房を一回り引き締めているのは着替えを眺めた誠一を実感させた。つまり、この乳房はもう一回り大きくて、そしてぷるんぷるんと弾んで生意気なシロモノである。制汗剤なのかシャンプーのものか爽やかなフローラルブーケの匂いが一層濃く鼻腔を擽り、何とも居心地が悪い。
「……。ドスケベ」
 体育会系ではない誠一は部室には詳しくないがシャワーブースは広くはない。一人で使用するのが前提であり二人で入る広さではなく、その上扉は全面でなく誠一の肩から膝までの板でしかない…つまり女子部員がこちらに来ればマジックショーの如くおかしな隠れ方をしない限り誰かが入っているのは一目でバレる。その上、先刻のいい光景と現在重なっている身体のお陰で誠一のモノは猛っていた。これでは元から通用するか疑問な言い訳が更にし辛い。
「勃たれもしないよりマシだろ」
「開き直り?この野獣」
「男の斜め上で着替え始めるなよ痴女」
「ち……!」囁き未満の小声での言い争いにキレたのか誠一を鋭く睨みつけた同級生が不意に指で男のモノを突いた。「じゃあこれ何よこれ何よこれ何よっ、ずっと」
 突いたと言っても暴力級ではなくトンと軽く叩く様な加減で繰り返し弾いてくる指に誠一の腰が引けシャワーブースの壁に当たる。それを勝利と勘違いしたのか好戦的な表情が徐々に優越感に満ちたものになり、やがてトンと突く指が徐々に勢いを失い、顔が真っ赤に染まっていく。
「……。痴女」
「五月蠅い……」
 耳まで真っ赤に染まっている美少女に悪戯心が首を擡げ、誠一は彼女の耳元に口を寄せる。
「あーれー同級生にレイプされるー」
「馬鹿……っ」
 着替えは終わったのかロッカーを閉じる音が鳴り、そして話し声は続いているが自分の鞄や他の生徒が部室内にいる事は気付いてないらしい確認と、彼女の反応に意識の大半を持っていかれながらその指が勃起しきったモノから数センチと離れていない場所で凍っているのを見る。動悸が騒がしい。元からシャワーブースで身体を密着させている異常な状況の上に性器を突かれてはおかしく意識するなと言う方がおかしい。
 どちらかが大声をあげれば即座に女子部員達に見つかってしまう、そもそも救護活動なのだから問題はなかった筈なのだがそこから逸脱しているのを強く感じつつ、誠一は同級生を見下ろす。陸上用ユニフォームのブラトップは首まで覆っている形の為胸の谷間は今は見えないが、着替え中の拳程の大きさの乳房は目に焼き付いている。身体の動きに合わせてぷるんと弾む白い乳房。話からすると毎日部活に励んでいる筈なのだが同級生女子の肌は抜ける様に白い。
「な…何よ……」
「いや…肌が白いなと」
「日焼けしにくい体質なだけよ…サボってないわよ!?」
「いやそこは疑ってない」
「じゃあ何?」
「いい乳してるなと」
 ぼそりと言ってしまった本音に一瞬きょとんとした後彼女が頬を膨らませた。
「五月蠅い。男は皆巨乳好きだって事くらい判ってるわよこのホルスタインマニア」
「いや実際俺お前くらいの乳が好きなんだけど」
「変態っ」
 小声の応酬の向こうで扉の閉まった音が鳴り、二人の身体が凍り付く。静まり返ったシャワーブースに水滴の弾ける音がぴちゃり、ぴちゃりと途切れとぎれに響き、やがて揃って大きく息をつく。
「変態はないだろ。お前の乳がいいって言ってるのであってそれが何で変態になるんだよ」
「だ、だ、だって……グラビアアイドルって凄いのばっかりだもの」
 唇を尖らせ赤面したまま唇を尖らせ視線を逸らしている同級生の指先が勃起したままのモノのすぐ横でゆらゆらと頼りなく揺れるのが何となく伝わってくる。手を引っ込めればいいのにと内心思いながら誠一は同じく視線を逸らす。頭からシャワーを浴びせられていた頭からぽたぽたと水が垂れ、微妙な面倒くささともったいない感覚が鬩ぎ合う。
「ハムラビ法典」
「な、な、なに……?」
「目には目を歯に歯を。――離れないなら、乳揉むぞ」
 びくっと身体を強張らせる同級生女子から漂う甘い匂いが一段濃くなった気がした。頭の中でカウントを始めるが二十を超えても動きもしない彼女に、ゆっくりと誠一は手を上へと動かす。
「OK?」
「つ…つっついた分だけなら…それでおあいこよ!?」


おまけ

「――場所替え許可出る?」
「い、いきなり何?場所?場所替え!?」
「いやチンコと胸だとこっちの損かな、と」
 誠一に当たっている身体がびくっと固まり、真っ赤な顔の女子の肩がぶるぶると震える。いかんこれは責め過ぎたかと内心焦る誠一に、小声が届く。
「不公平…嫌いなの。……。邪心持たないで、きちっと、公平に……やりなさいよっ!」
 不意に顔を上げた佐原の頭からシャワーを浴びてしまった濡れ髪に縁どられた顔は赤面の極みであり、大きな瞳は同級生のセクハラ発言に憤っている様に鋭く睨みつけてくるものだったが、いかんせん元の顔がキツめの美少女である為可愛いとしか男は思えない。
「お、おう」
 そう言われても性器をトントンと突かれまくった行為を平等に行うにあたって邪心を持つなと言うのがそもそも無理であり、誠一は思わず視線を逸らす。
「ほら邪心!」
「女体弄るのにおかしな事考えるなって方が無茶だろ」
 自分のモノならば力加減は判るが、こんな華奢で柔らかい身体相手にどう力加減をすればいいのか判らない。女子体育会系ならではなのか花と柑橘系と汗の匂いが漂っている部室の中、シャワーブース内は毎日水で流されている為なのかそれが薄く、夏の雨上がりの様な水の匂いと、そして密着している同級生の甘い匂いが漂っている。
「お前、いい匂いな」
「……。褒め殺し……?」
 やや警戒心のある野良猫を撫でる直前に似た油断と威嚇の混ざった顔つき、誠一は思わず笑ってしまう。顔が可愛いと思ってはいたがあたりはキツいがこれはこれで可愛い性格をしているのかもしれない。そんな誠一にどう反応をしていいのか判らないのか怪訝そうにしている同級生に、僅かに肩を下げて手を伸ばす。身長差を埋める面倒くささを覚えながら伸ばす指に柔らかな肌が触れ、そこをゆっくりと下りていくとスポーツウェアの滑らかな感触が変わる。勿体ない。何だこの肌の柔らかさはと言いたくなる女子の滑らかな感触が妨げられる焦れったさがあるが、腹部を超えた場所にあるショーツは小さく、下ろしていった手の中指の左右で人差し指と薬指が再び柔肌に、両腿に触れ、そして中指は小さな丘に重なっていく。密着している布地は素肌を引き締める効果がある筈だが濡れている素材はとても柔軟性があり張り詰めていると言うには滑らか過ぎる。
「――は…ぁ……っ……」
 悩ましい吐息が至近距離か誠一の首筋を撫でる。
「煽るな」
「……。うごきが……やらし……ぃ……っ」
 上擦った声が咎める様に訴えてくるが、それは困惑と憤りだけと捉えるには性的な色を帯び過ぎていた。
 ベンチに横たわっている時に見てしまった薄い柔毛が丘と布の間に存在しているのが判ってしまう微細な凹凸に誠一は息を詰まらせる。こんなに毛まで判るのはどうしたものなのだろうか。そんなに太い毛だっただろうか?いやどちらかと言えば恐らく薄いぽやぽやとした毛であり毛髪に困っている高齢男性の頭髪より弱弱しく頼りなかった…と余計な事を考えた瞬間、指先の感触が変わった。
「――あ……んっ!」
 指先がぷっくりとしたものに触れた。それと同時にびくんと大きく同級生の身体が跳ね、誠一に強く重なる。触れたままの小粒な豆の様な存在はそれだけが硬く、周囲は柔らかい…豆の向こう側は縦の溝状になっているのも、その溝の場所から急に襞状のものがあるのも、何もかもが伸縮性のある薄い布越しに伝わってきてしまう。不謹慎な本や画像で見知ってはいるもののこうして指で触れてしまうのは初めてで生唾を飲む誠一に、しがみつく形の同級生の激しい鼓動が伝わってくる。ぴちゃんと頭上のシャワーノズルからの水滴が濡れたタイルに弾ける音がした。
「痛かった、か?」
「う…ううん……」
 今はもう誰もいない部室なのに何故か息を潜め切った声が出た。

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