2012残暑見舞『7/15・Say you say me』(『誘惑2〜Deduction〜』より)

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 県内でも有数の規模で昔から名の知れたホテルに隣接したプールは世間が盆休みで帰省時期の為か、予想より遥かに空いていた。それでも適度には来場者があるらしく、裏寂れた静けさとは無縁である。
 大学時代からの悪友の怪しいイベントで当たりの数合わせに仕方なく付き合う以外、この手の喧騒とは無縁だった守崎はホテル宿泊者専用のデッキで軽く息を吐く。どちらかと言えば自分も連れもインドア派であり、夏の休暇を楽しむならば高原の別荘でも借りて静かに過ごす方が性に合っているだろう。それでもわざわざ海沿いのプール付きホテルなどを選んでしまったのは、連れの高校の水泳の授業の話を聞いた為だった。有数の進学校で今時ありえない事にコースが分かれていても男女合同での水泳の授業だと言う。しかも野暮なスクール水着着用。いや、その野暮な水着はしなやかな肢体を上手く誤魔化してくれるかもしれないが、それでも連れの水着姿が無防備に他の男に晒されるのが男には面白くなかった。
 だが、自分が同行していても今の状態では不特定多数の男に連れの水着姿を晒している状況は変わらないのだが……。
「先生、アイスコーヒーお持ちしました」
 喧騒の中でも不思議と通る澄んだ柔らかな声に、男は目をあける。
 海外の南国リゾート地を模したデッキの屋根が残暑の熱を欠いた強い日差しを遮る中、熱帯を思わせる植物や白いホテルの鮮やかな原色を背にした少女がはにかんだ笑みを浮かべていた。日陰に入り少女の姿は明度も彩度も落ちているのだが、それでも桜色を思わせる白い柔肌の初々しい艶めかしさが男には眩しく映る。買い与えた白いビキニは露出過多でないが華奢だが煽情的な身体の線を十分に強調していた。
「おかしな連中にまた声をかけられてはいまいな」
 男の言葉に少女の小さな唇が傍に居ても判らぬか判らないか、たった数ミリ程度だけ尖る。
 小一時間前にプールサイドを一人で歩いていた少女が地元民らしい数人の男性グループに馴れ馴れしく口説かれかけた出来事は、男以上に少女を困惑させたと判っていた。それでも尚わざわざ売店に一人で遣いにやる悪戯心に、慣れた者でなければ読み取れないであろうささやか過ぎる抗議を訴える少女が男の目には堪らなく可憐に映った。ナンパをされても困惑し小声で断りながらも強引に連れていかれかねない大人し過ぎる少女が微かにでも見せる不満の表現は、赤の他人へは向けられない甘えを含んでいるのだと判っている。
 伸ばした手で華奢な手首を掴み、男はデッキチェアに横たわる自分の身体へと少女を引き倒す。脚の横に突く膝に続き、形の良い豊かな胸が男の胸板に悩ましく弾みひしゃげ、そして少女の顔が男の首筋に沈みかける。何度か泳いでいるのだが少女の身体からは甘い匂いがする。熟した牝のフェロモンの様な男を惑わすものとは異なる、清楚な花を思わせるものだが、だからこそ狂おしく悩ましい。
 あ…と小さく漏れる声を妨げる様に男は少女の唇に唇を重ねる。声をこぼしかけた口は薄く開いており、そこに躊躇いなく舌を捩じ込み柔らかな口内をまさぐり、卑猥な動きで無防備な小さな舌を舐ぶり、唾液ごと強く吸う。ジャスミン茶の匂いと味が残る唾液を貪りながら、男のもう一方の手は身体の上に中途半端に乗る華奢な肢体を撫で回す。長い黒髪はまだ濡れたままで柔肌に貼り付いており、それと日焼けの兆候を感じさせないものの火照った肌の間で男の指先は蠢き、交わす唾液に濡れた甘い吐息が微かにこの場所での行為に自重を求めていた。
 少女の足元から数歩退いた場所にある階段を十数段降りた広大なフロアにプールは面しており、絶妙な高さでプールサイドからデッキへの視線を遮っている。ホテルの客室からはデッキ内は丸見えだろうが距離は離れており、それでも覗く酔狂な人物がいるとすれば多少のサービス程度ならば守崎の許す所だった。誰かが見ているかもしれない場所での行為が少女をより怯え狂わせる為に選んだ場所である。
「ゃ……せんせ…ぃ……、いけませ……ん…ふ……ぅっ」
 わずかに離れた唇と唇の間に唾液の糸が垂れ、そして快楽と適度な羞恥に煽られた澄んだ瞳が涙に揺れていた。甘過ぎる吐息と身体の匂いや伝わる脈拍を確認するまでもなく、昂ぶった身体はその奥から清楚な面持ちに相応しくない…いやこれ以上なく似つかわしい淫らな潤滑液を溢れさせている。今朝から乾く間も与えていない。夜更けまで責め抜き、早朝目覚めてからも射精は一度で済ませたもののモーニングサービスが届くまでよがり狂わせた身体は疼ききったままで少しの刺激で欲情に溺れてしまう。男を知らなかった白い身体に刻み込む快楽と、浴びせる精液よりも濃密に執拗に浸透させる羞恥と被虐が淫蕩さを拒めば拒む程、元から無垢な完成品の様だった少女は危うく儚く脆い形へと磨かれていく。
「跨がれ」
 男の短い命令に何度も引き攣った浅い呼吸を繰り返し、大きな瞳が許しを乞い嗜虐者に注がれ、やがて躊躇いがちに白い脚が動いた。
 くちゅりと男の腰の上で白い水着に包まれたままの柔らかな丘の辺りで水音が鳴る。口元を恥ずかしげに抑えキツく瞳を閉じる少女の目尻は艶めかしく染まり、豊かな胸に合わせカップを外されている水着のブラジャーは淡い鴇色を透かしはしないものの、可憐だがはっきりと布を突き上げる乳首の突起を晒していた。
 ごめんなさい、申し訳ありませんと消え入りそうな声で鳴く少女の腰に手を添え、男はゆっくりと前後させる。ぬちゃぬちゃと卑猥な音を立てて滑る水着の内側は酷くぬかるみ、水着越しの男の隆起の起伏に押され潤滑液の中の小振りな襞が巻き込まれる様に翻弄されるのが伝わってきた。粘膜の上端の小豆程の突起を鰓の合わせ目が擦るたび、白い身体がはっきりと跳ねる。
 デッキの裏手の海岸の波の音とプールの喧騒に溶けそうな微かな、だが聞き逃しえない甘く羞恥に彩られた嗚咽混じりの吐息と、デッキ内の少女の匂いを夕方には風向きが変わる緩い海風が晒っていく。
 やがて命じられるままに拙く前後動をなぞる少女に、両手の自由を取り戻した男はテーブルの上で汗を掻いたアイスコーヒーのグラスの横にあった日焼け止めの瓶を手にとり、桜色に染まる胸へとたっぷりと垂らす。豊かな胸の膨らみをじわりと伝い谷間に溜まる油特有のやや粘り気のある液体を絡ませたまま、男はその手を白い水着の内側へ潜り込ませる。直接乳房を揉みしだかれ少女が腰の上でびくんと大きく身体を退け反らせ、わずかに脇へと押しやられた布に隠れていた男の唇の痕が露わになった。その数は少女が初めて男の前でスクール水着を纏った時よりも少なかったが、それは面積との兼ねあいに過ぎず、境界線の内側と淫らさを主張する箇所には必ずと言っていい程、男の所有物である証の様に歯形と吸い痕が色濃く刻みつけられていた。

 日陰の位置が変わる頃、男は自分に半分寄り沿う形で眠っていた少女のちいさな声に、読んでいた本をテーブルに戻す。
「アイスコーヒーが切れた。買ってきてくれ」
「はい」
 寝起きでまだ意識がはっきりとしていないのか、ぽぉっとしたままデッキチェアを降りようとして膝が砕けかけた少女の身体を男は片手で支えた。自分が何故力が入らなかったのか判らない風情の少女の顔が遅れて真っ赤に染まる。力を入れかけた拍子に何かがあったのだろう。
 膝を震わせながら何とか立った少女の黒目がちな瞳がおずおずと男へ注がれる。
「あの…、あの……」昼時を過ぎやや増した喧騒を背に躊躇いがちに何かを伝えようとしている少女に、男は促す意味で目を細めた。「あの…御一緒に……」
「歩き難いのならば俺が行く。横になっていろ」
 短く答えデッキチェアから身を起こして宿泊者用鍵を手に取る男に、少女は小さく首を振る。いささか貪りすぎたのか酔った様なおぼつかない立ち姿はほのかに漂う悩ましい表情と相まって清楚な美貌を淫靡なものに見せていた。この状態で一人で歩かせるのは他の男の目を楽しませる事この上ない。
「あ、あの……、せ…先生と…一緒に歩きたいのです……駄目でしょうか……」
 内容はあまりにもささやかな希望であるにも関わらず、まるで実現不可能な一生に一度の願いを口にしているかの様な懸命でいてか細い声に、男は口の端を歪め、そして少女を引き寄せて口づける。
 恐らく夏休みが終わり水泳の授業がまた再開されても、ささやか過ぎる願いすら滅多に口にしないこの少女は今日を何度も繰り返し思い出すのだろう。それが幸せなものであるかの定義は男には判らない。自分の中の尺度が他者と一致しているかを意識しても無意味だった。だが、ゆったりと絡める舌にいつまでも変わらず拙く応えるちいさな舌と、邪魔にならない様に、しかし不思議と不快にならない絶妙な具合に委ねられる華奢でありながら淫らに支配欲と嗜虐性を煽る身体は、居た堪れない気持ちになるレベルの温もりで守崎の腕の中にある。
 いつもより更に長い時間をかけた口づけの後、まるで激しい交わりの直後の様に甘く蕩けている少女を肩に埋もれさせたまま男はしなやかな黒髪を軽く指先で梳く。
「――だが俺は欲深い。覚悟しろ」
 男の言葉の意味を推察出来ないであろう少女が弱く首を傾ける感触が伝わってきた。
「? はい」
 それは実に無防備な返答だった。

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