2020陣中見舞い『夜間飛行〜魔法使い〜』

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「こんにちは」
 熱でぼんやりとしながら新聞の集金かとお財布片手に玄関を開けた私は、門の外で手をひらひらと振る佐々木君の姿に瞬きをする。
「どうしたの?」
「お届け物。ちょっとだけあがっていい?ちなみに現在の所御近所に僕の姿は確認されていない」
「いいけど…どう……ぞ……?」
 ふらっと地面が揺れた。地震かな?と思うゆったりとした揺れは貧血の時のそれとは何処か違ってふわふわしている。そう言えばお昼に測った時は39℃近かったから午後になって更に熱が上がっているのかもしれないなとぼんやりしている私の手からお財布が落ちて、それが玄関に散らばる寸前で男の子の手がそれを受け止めて、そしてついでに私の身体も支えてくれる。
「出て来れる体調じゃないよね、これ」
 呆れた声で『めっ』と悪い事をした幼児の様に叱る佐々木君が器用に私を背負った。
「でも新聞屋さん来たら悪いし」
「集金が仕事なんだから回収出来るまで何度か来るのもその一環。玄関で行き倒れられたらそっちの方が困ると思うよ。――失礼します」
 いつもの大きくて重い鞄を音も立てずに置いて、佐々木君が私の家に上がり込む。声をかけても今週末は両親は親類の用事がどうしても外せず不在だから、彼を誰何する人はいない。子犬みたいな同級生は下手すると小中学生に間違われてしまう私よりは当然背が高いものの、激しく性差を意識させる程の逞しさはない。――『彼等』の一員だから当然私と彼はそういう一線を越えてしまっていて、当然男性である事は身体で判っているけれど、でも何故か私は佐々木君には異性としての畏怖は申し訳ないけれどとても希薄である。
「森の匂い……」
「シャンプーかな?フォレストグリーンって書いてあった」
「いいにおいね。これ、わたし、すき」
 来客中なのに眩暈と一緒にすぅっと意識が吸い込まれていく感覚の私を背負ってる佐々木君の手が、一瞬、ぴくっと揺れた。

 ことことと何かがゆっくり煮えている音が鳴っている。お米を炊いている甘い匂いと出汁の匂いが優しくて、子供時代を思い出す。体調を崩しやすく頻繁に寝込む私は熱を出すと甘えん坊でお母さんのエプロンを握らないと不安で泣き出してしまう駄目な子だった。本当は手を握っていたかったけれど、そこは我慢出来ていたらしい。ひんやりとした手で額を撫でて貰うのが好きで、毛布の上からとんとんと軽く叩いてあやして貰うのが好きで…物凄い甘えん坊過ぎて恥ずかしくなる。
「――少しは食べて…ないよねこれ。食器全く使ってないし」
 ぽそぽそと確認する様な声が聞こえる。少し不満そうな声音。ごめんなさい今日はポカリスエットをちょっとだけ飲んだだけです。食欲がないと言うか力が出ないと言うか、寝込んでいると身体を動かさないからおなかが減らない…自分でも言い訳だと判ってます。新聞屋さんだと思って玄関まで出られたのもアイスノンを交換しようとふらふらしながら部屋から出て来ていたタイミングだからであって、寝ていたら多分呼び鈴に気付けなかったと思う。
 ふわんと意識が戻ってきて、また沈んでいく。猫舌用に冷ましてくれたお粥が美味しくて、熟れる寸前で歯応えが絶妙な桃ととろっとした葛が甘くてひんやりしていて、でも熱が上がっている為なのか瞼が重くて呼吸が変でしっかりと自分で食べられないのに、とっても根気強く優しく誰かが食べさせてくれる。まるで親鳥に餌を与えられている雛みたい。ううん、嘴を口に突っ込む大胆なものでなく、ほんの少しずつ丁寧に食べさせてくれる、とってもとっても優しい仕草。でも申し訳ないけれど食べられる量はあまり多くない。
 汗の滲んだ額を指が撫でてくれる。とても優しくて、穏やかで、涙が出る。涙を拭ってくれる。膝の上かな?抱えられてる腕の中は、森の匂いがした。

 気持ちいい。すっきりとする感覚に不意に私は目を覚ました。
「え……?」
 首筋を拭ってくれているタオルはおしぼりの様に熱くて、それで汗塗れの肌を拭われるのは気持ちいいけれど、でも、パジャマの首回りが少し肌蹴ていて私は驚いてしまう。それに頭も妙にすっきりしていて濡れている髪をタオルで纏めてある。
「起きた?酷い汗だったからちょっと拭いてるね」
「さ…佐々木君?」
 いつの間にか窓の外は夕暮れで、そろそろ照明を入れた方がいい薄暗い居間のソファの上で私は同級生にちょっと剥かれかけていた。学習会で毎日複数男子とそういう事をしていて、そして根本的体力不足もあって事後はほぼ身動き出来ない私の身体を綺麗に拭ってくれる役が多い佐々木君だけれど、でも事前に身綺麗にしてからの事後とずっと寝込んでいる状態とでは話が違う。思わず起きあがろうとしてふらぁっと失敗する私の額を指で押すだけでソファに戻させて、佐々木君は困った様な顔をする。
「大人しく拭わせてくれると嬉しいんだけど」
「でも、でも…その……汚れてるから」
「綺麗ならそもそも拭う必要ないよね」
「う…ん…?」
 論理がアクロバットをしているのか頭が回らないのか首を傾げる私のパジャマの第二ボタンに指を掛けて、佐々木君が首を傾げる。
「拭いていい?」
「……、駄目」
「この後、誰かがお見舞いに来るとしても?」
「え……!?」
 佐々木君が予定を把握出来て私と共通の知人でお見舞いしてくれそうな人は何人か思い当たるけれど、でも一番会えたら嬉しい人は神津君で…でも。
「汚れてるから、駄目ー」
「だから綺麗にしてあげるよ。今槇原さん握力へにょへにょで子猫の猫パンチ位に無力だから清拭不可能」
「こねこのねこぱんち……」
「しかも空振り率八割」
「それは酷い」
「はい、だから大人しく拭かれようね」
 小さくうーと唸りながら私は諦めて全身の力を抜く…けれど確かにどこに力が入っていたか自分を問いつめたくなる程、そもそも力が入っていない。少し楽しげな鼻歌が聞こえてきそうな笑みを浮かべて佐々木君が私のパジャマのボタンを外していく。汗を掻いて湿ったパジャマが肌から剥がされるのは確かに気持ちがいいけれど、今日はまだお風呂に入れていない身体を同級生男子に晒してしまうのは、とんでもなく恥ずかしい。消えたい。でもこれからもし神津君が来るならこのままの姿だったら鉄条網でバリケードを作って窓や扉に内側から板を打ち付けたい位で、でも神津君を門前払いなんて、絶対にしたくはなくて…。でもだからと言って佐々木君とは言え男子と二人きりで身体を拭って貰うのはやっぱり恥ずかしい。
 いつの間にか見つけてきた洗面器…いやもしかして自宅から洗面器まで持ってきてくれているかもしれない。厚手のゴム手袋と何本もの蒸しタオルが入っている洗面器は見覚えのないもので、蒸しタオルは大量の湯気を漂わせていた。佐々木君の鞄は魔法の鞄。そんな事を考えている間に、佐々木君は私のパジャマを脱がせてしまう。無駄に大きな胸以外は小さな私のパジャマは一応子供用ではないけれど、でも学習会でない今日は下着はちょっと油断していた。レースやフリルを利かせた勝負用でないそれはピンクの水玉模様で、気取りとは縁遠い。
「みちゃ、やだ」
「……。似合ってると思うけど」
 そう言いながら佐々木君は穏やかな子犬のいつも通りの表情のまま私の腕を拭いていく。熱湯をかけてから絞ったのであろうタオルは熱くて、熱さを感じた後すぅっと冷えた感じに変わっていく爽快感がとても気持ちがいい。男の子の力業でなくまるでマッサージを受けている様な力加減は薄い筋肉を解してくれているみたいで、下着一枚の恥ずかしさからもぞもぞと胸を隠そうとしてしまいながら緩い息が漏れた。柔道部の須藤君達とは異なりいかにも文系の少し長めの髪は柔らかそうで、佐々木君は本当にいい子の子犬みたいに見える。当然私より背は高いし肩幅も広いけれど、不思議。丁寧にゆっくりと拭われているとタオルが冷めてきて、熱いものと交換して再開される。指の一本一本まで丁寧に揉んで拭われていると、何だか王侯貴族みたいな恭しさにまったりぼんやりしてきてしまう。
「お礼、何か、しないとね。佐々木君は、何がいい……?」
 とろんとしてくる意識の中、聞いてみると薄暗い居間の天井を背に、佐々木君が微笑んだ。
「役得だからいいよ。敢えて言えば、きっちり綺麗にさせてくれる?」
「うん。ごめんね、面倒なこと…させて」
「はい、約束」
 タオルで拭っている小指に軽く小指を重ねて二・三回振った後、佐々木君の笑みが少しだけ幸せそうなものになった。
 両腕の後は顔、肩と本当に丁寧に解してくれるマッサージの危険性に気付いたのは、耳の辺りを拭われている時だった。
 気持ちいい。気持ち良過ぎる。まるでそれは愛撫みたいで、ぞくっと妖しいもどかしさを一度感じた後はそれは頻繁に襲ってくる様になる。恥ずかしさに視線を合わせない様にそっぽを向いているのに全身がびくっと震えてしまいそうで混乱する…佐々木君が事後に拭ってくれるのは簡略版なのかもしれないのかそれともこれが超丁寧版なのか、ともあれ、困った感覚が押し寄せてきて、居間に妙な空気が漂ってしまう気がした。風邪をひいて三日目。その直前まで学習会で複数人とそういう事をし続けていた私の身体は気持ちいい事に弱いのかもしれない。いや、確実に弱い。むずむずともどかしさが押し寄せてくる私に気付いていない佐々木君に申し訳なくて、何度か謝って中止して貰いそうになる度にお見舞いの可能性が頭を過って口を噤む。そんな間に佐々木君の手は背中やおなかや脚を恥ずかしい位丁寧に拭って揉みほぐしてくれて、胸と腰だけ避けてくれる不自然さは、やっぱり性的な不穏さを避けてくれているのだろうなと思いながら、でも、どこか…いや、絶対的なもどかしさに全身がぴりぴりしていく。でも避けて貰えて助かったのは事実だろう。下着がぐっしょりと濡れている感覚が恥ずかしい。気付かれたら呆れられてしまいそうで、お見舞いのお世話でこんな状態になるなんて……。
 でも、知ってる。
 佐々木君の愛撫が物凄く優しくて、物凄くいやらしいのを、私は知っている。
 どくんどくんと身体が脈打っている。好きな、大好きな神津君の愛撫は特別で…でも佐々木君の愛撫は私の弱いところや弱いタイミングを熟知しているみたいに駄目にする。もしかして百戦錬磨と言うものなのだろうか?と怪しんでもいい位に、指一本で舌先一つで、私を駄目にしてしまう。――それが欲しいなんて、言えない。
 はぁっと熱い息が漏れるのは風邪のせい。
「や…だ……ぁ……、はずか…し……い」
 もうお尻までねっとりと濡れている下着を佐々木君がそっと脱がしていくのに抵抗出来ない。汚れているのは事実で…でも汚れているのよりも濡れているのが恥ずかしい。ねちゃーっと愛液が重たく糸を引いて、居間にそれまでよりもはっきりと私のいやらしいにおいが漂って、思わず羞恥の声が漏れてしまう。下着を抜き取られたお尻がソファの上に落ちるとぺちゃりと音を立てて、少しだけ何とか口元を隠した私を佐々木君が見下ろしている。
「全部綺麗にしないと、拙いよね?」もし神津君がお見舞いにこれから来てくれると言うなら当然綺麗にしたい。出来れば垢すりで全身真っ赤になるまで擦り倒して熱いお風呂で全部汗を流しておきたい。でも体力的にそれは無理で、でも佐々木君は一応男性で、しかも私とそういう事を何度も…沢山している相手で、その上今私の身体は火照って仕方がなくて……。「大丈夫。本番はしないよ。槇原さんがしてって言わない限り、絶対に僕は槇原さんを困らせない」
 優しいなぁ。本当に佐々木君は優しくて、いい子の子犬で、だから甘えてしまいそうになる。
「しちゃ…駄目だからね……?」
「判ってるよ」
 佐々木君がこつんと額に額を当てて、そして、熱いタオルが乳房に乗り、そっと動いた。びくんと全身が跳ねて、背中が撓る。熱いタオルが気持ちいい。気持ちいい。タオル越しに、とってもいやらしい指が動いて私の乳房を揉みしだいて、撫でて、擦る。はあ……っと甘く震える吐息が漏れて、膣口から愛液がとぷっと溢れる。毎日学習会で三人以上が満足するまで致している身体は自慰とは縁遠くなっていて、この三日間は寝込んでいたから当然していなくて、所謂欲求不満になっているのかもしれない。まだ触れられていない乳首がずきずきと疼いて摘まんで貰いたくて仕方ない…仕方ないけれどむにゅむにゅと形が歪む程捏ねられているだけで喘ぎそうになる。他の男子はさておき須藤君と神津君に揉まれていると何だか肉食獣の獲物として美味しく食べられている感じが強いのだけれど、佐々木君はそれと少し違う。宝物みたいに、触る。両方の乳房を裾野からゆっくりとねっとりと寄せて上げられると貧弱な身体に不似合いな大きなグレープフルーツよりも大きな乳房が球状に盛り上がる…それは不似合いで恥ずかしいのに、そんな乳房を佐々木君は大切そうに撫で回す…オイルマッサージはこうなのではなかろうかと思える程柔らかく、肌に吸い付く動きをする指。
 ぞくん。腰の奥から頭の芯までもどかしさが突き抜ける。いつもは、この後、舐められる。とっても美味しそうに乳首をしゃぶってくれて、吸い付いて、そっと歯でしごいてくれる…極上の果実を堪能するみたいに。嫌いじゃない。その行為は嫌いじゃない。好きな大好きな神津君との行為以外はどうでもいい筈なのに、学習会の皆の愛撫もセックスも別々で、須藤君なんてとんでもないのに。
 熱いタオルの下で、乳首がとても硬くしこっていて掻き毟りたくなる程疼いている。パブロフの犬みたい。佐々木君の愛撫のワンセットが身体に染み付いていて、頭がおかしくなりそうだった。
「槇原さん。何となく聞いていて。――シンデレラって童話あるよね。女の子向けだけど、僕の家に童話全集があって、昔読んだんだけど。僕は王子様より魔法使いになりたいなって思ったんだ」
 佐々木君の指が、タオル越しに乳房を隈なく這い回り、そして、乳首をゆっくりと撫で回す。喘ぎ声。堪え切れない。とっても優しくもどかしい力で乳首が捏ね回され、ずっと、ずっと、タオルが温くなってもまだ乳首を弄り回される。びくんびくんと跳ねる私の口の端から垂れる唾液を、佐々木君の舌が掬い取った。嫌なんて言葉が出てこない。神津君と会う前なのに。神津君のいない二人っきりの状態なのに。指先が這う度にはっきりと喘ぎ声が溢れてしまう。
「シンデレラが困っている時に助けられるのが魔法使いなんだ。王子様はゴールでしかない。舞踏会で踊れなくても、送り出すシンデレラの嬉しそうな顔を見るのは魔法使いの方が先。だから、僕は魔法使いになりたかった」
 佐々木君ならきっと素敵な魔法使いになれるのだろう。全身がどくんどくんと脈打って熱が上がってのぼせそうな感覚の中、佐々木君が私の身体を転がしてソファの上で腰を高く突き出す体勢に変えて、そして新しい熱いタオルでお尻を拭い始める。どうしよう。胸ですら頭がおかしくなりそうなのに、お尻や…下腹部を拭われたら、壊れてしまいそうで怖いのにどきどきしてそれを待っている気がする。お尻を捏ね回されて、そして、下腹部を熱いタオルが包んだ。ぬちゃあっと熱いタオルが愛液で滑って、何度も拭われて徐々に佐々木君の指の感触がはっきりとしたものに変わっていく。襞を捏ねて、そっと包皮を捲って、クリトリスを撫でて、くにっと転がされる。鳴き声が止まない。抑えられない。拭われたばかりの膣口からとろーっと愛液が溢れる。何度も拭ってくれて、少し内側へタオルを押し込まれて…私は達してしまう。駄目。知ってる。佐々木君の指の美味しさはこんなものじゃなくて、とっても意地悪で優しくて…私を一番知ってしまっている、指。はぁんはぁんと犬か猫みたいに腰を突き出しながら喘ぐ私は、タオル越しでなく挿入された佐々木君の指に、とぷっと可愛らしく垂れるどころでなく、愛液を膣口からたっぷりと溢れさせてしまう。
「三日分の愛液、ちょっと綺麗にしておくよ?」
 そんな事情なら仕方ないのかな? 覆い被さる形の佐々木君の片手に膣内とクリトリスを、片手で乳首を弄られながら、私は何度も絶頂を繰り返して、繰り返して、唾液と涙と汗と愛液でぐちゃぐちゃになった身体が指一本動かせなくなるまで、佐々木君の愛撫に溺れ続けてしまった。

 くちゅっくちゃっと音が鳴る。佐々木君の舌が、私の膣口を舐ってる音。田中君達の猥談で獣姦の後、犬は行為の後にそこを舐めるのだと言う話をぼんやりと思い出しながら、身体が動かない。
 どうしよう。
 嫌じゃない。
 これから神津君が来るらしいのに、こんなに佐々木君にして貰って…変ではなかろうか?何か、変ではなかろうか?
 美味しそうに足の指や背中も舐めて、当然の様に乳房や乳首も舐めて、もう外は夜。ずっと…ずっと佐々木君に、可愛がられてしまった…のだろうか?ただ介護をして貰った、でいいのだろうか?判らない。
 既に無水シャンプーで洗ってくれていた髪はもう殆ど乾いてしまっていて、全身をたっぷり舐められた後、また熱いタオルを準備した佐々木君に拭われてから、丁寧に梳かしてくれた。
 お気に入りのネグリジェと下着を着せてくれてベッドに横たわらされた私の頭に、こつんと佐々木君が額を一瞬押し当てる。
「少しだけ窓を開けておくけど許しておいて。魔法使いの出番はこれで終わり。シンデレラ、よい夜を」
 何だろう。まるで初夜を迎える花嫁の身形を整えた召使みたいな微妙な空気に、奇妙な罪悪感を憶えてしまう。すいっと離れていこうとする佐々木君に、私の指がシャツの端を掴む。
「あのね」夏の終わりの珍しく涼しい夜の月明かりの下、佐々木君が不思議そうに首を傾げる。本当に子犬みたいで、子犬みたいで、何故だろう、胸の奥が少し痛い。「ありがとう。あと……秘密、ね?」
 絶対に我儘なこの依頼に、佐々木君が本当に幸せそうな微笑みを浮かべた。

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