2015年初夏甘味『連休の過ごし方』(『休暇便り』より)

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「お邪魔しまぁす」
「――酒臭い」
 何度もインターフォンを鳴らした挙げ句ドアを開けた途端に玄関に倒れ込んできた酔っ払いを抱き留めて、俺は思わず呟いてしまう。ふわりと漂う上品な香水よりも濃いアルコール臭は一杯軽くひっかけた程度ではない泥酔レベルで、初夏のまだ暑苦しくはない夜に全身で倒れ込んできた従姉妹の体温はかなり温かい。
「啓君また背が伸びたー?」
「早夜姉さんがへべれけで沈没しかけているのが大きいと思うね」
 緩やかに波打つ髪に華やかな美貌の見事な酔っ払いはそのまま玄関でふにゃふにゃと崩れ落ち、仕方なくたたきに座らせるとそのまま横になって幸せそうに小声で歌い始めた。タイトスカートから延びる綺麗な脚に、俺は溜息をついてハイヒールを脱がせにかかる。よく歩いてこれたものだと感心する深酒具合だがストッキングは伝線一つない。
「啓君、女性の扱い慣れてる?」
「いや、別に」
「嘘っぽいー中学生が女の靴脱がせるの上手ってそれどうよ」
「はいはい」
 この綺麗な従姉妹との付き合いはあまり長くはなく、父親筋の一族の多い地元に戻ったこの数年だけでしかなかった。しかし親類の中では年齢が近いのは二人だけなのもあり、知的美人なのにどこか危なっかしい彼女は俺にとっては姉の様な存在である。
「母さん今日いないからね」
「知ってるー。叔父様と一緒に慰安旅行だった、け?」
「知ってて何で来たのさ」
「来たら駄目だったの?」
「介抱役不在」
「なぁんだそんな意味なら気にしなーい。啓君いるし叔母様に叱られたくないしー」
 ころんころんと左右に転がる美人に俺は溜息をつく。確かに古臭い家風で女の深酒はいい顔はされないが、男一人の家でこうも無防備でいられるのも落ち着かない。とりあえず玄関で転がられるのもどうかと考え、歌い続けている従姉妹の腕を引いて肩に回して引き起こす。
「お姫様抱っこがいー」
「酔っ払い相手はこれで十分」
 ケチーと文句を垂れる酔っ払いを半ば引きずる様に居間のソファまで運んで転がし、俺はその後どうするものかと考える。このまま眠らせるなら客間に布団を敷いて放り込めば終わるが、女性だと化粧を落としたり服に皺が寄らない様に干したり面倒臭い。
「布団敷いてくるから後は自分でどうにか出来る?」
「お風呂入るー」
「ウチで溺死されると困るんですが」
「じゃあ啓君入れてー」
 ソファの脇に腰を下ろしていた俺の首に細い腕がきゅっと抱きついてくる。背面に当たる巨乳と緩く波打つ髪の感触がこそばゆいが、その口調は本気とも冗談ともとれないから酔っ払いはタチが悪い。据え膳は美味しく頂く主義であっても従姉妹と一線を越えるのはそれなりに覚悟がいるし、何より冗談に食らいついたとしたら情けない。
「御冗談」
「んー無性にエッチな事したいのにケチー」
「ほいほい誰とでも寝ると後悔するよ?」
「まだ一人しか知らないもーん」
「じゃあそいつとしておいで」
 結構しつこい誘いはもしかして冗談ではないのかなと思い始めた瞬間、ソファから崩れる様に身体を預けてきた早夜姉さんの唇が俺の口を塞ぎ、舌が捩込まれた。酒臭い吐息よりも悩ましくいやらしい舌の動きにどくりと下半身に血液が集中して脈打ち、危なっかしい体勢の華奢な身体を条件反射的に受け止める。
 ずるずるとソファの脇にもつれる様に崩れ落ちながら、舌を絡め合いながら互いの身体をまさぐり合う。童貞ではないけれど女の扱いに慣れているとも言い難い俺にとって、大学生の従姉妹の身体とその卑猥な動きは油断すれば絡め取られそうな程いやらしい。
 酔っ払いに喰われるのは性に合わないと強引に返す俺の上で、白い指がねちねちと卑猥にジーンズのファスナーの辺りを撫で回し、そして金具を降ろしていく。舌を絡め合いながらはだけさせたブラウスの合間から上品なレースのブラに包まれた豊かな乳房と、そこかしこに付いているキスマークと歯形が見えた。一人しか知らなくても結構エロいセックスをしてるなと思いながら競争心や失望感は沸いてこないのは従姉妹以上の思い入れが無い為だろう…これが好きな女なら、恐らく嫉妬で堪ったものじゃない。

 慰めの温いセックスだと満たされないだろうなと踏んで組み敷いた俺の下で、従姉妹が乱れる。
「痕付けちゃ嫌、啓くぅ……ん、ぁっ!もっと……っ!」
「痕付けるなって、そのドタキャン男とまだ続ける気?」
 明日どうなっても知らないぞと呆れる程、汗や体液で濡れて皺が寄りまくっている服を中途半端に身に纏ったまま従姉妹が自ら腰を振りたくった。インテリは激しいとどこかで聞いた気がするがその通りの乱れ方で、高名な教授の令嬢が中学生の従兄弟を咥え込んでよがり狂っているその姿は、淫乱で惨めで、美しかった。激しく腰を打ち付け合いながら、男の付けた痕だらけの乳房を揉みしだく。爪を立てれば立てる程締め付けが良くなる従姉妹に、相手の男の酷さを実感しながら、欲求を満たそうと加虐寸前の愛撫をエスカレートさせる。
「好きなの……っ、ごめんなさい…ごめんなさい…っ」
 謝りながら腰を振る従姉妹に、自慰のバイブレータか何かの扱いかと思いながら辞めない自分も結構馬鹿だと、内心呆れる。それでも続けるのは、多分、まるで狂い咲きの芍薬みたいな笑い泣き顔でよがるこの従姉妹を綺麗だと感じているからだろう。

 結局何発やったのか朝まで続けた後は泥の様に眠り、起きたら昼のワイドショーが始まる時間帯だった。中学生の分際ではここまでセックスに耽るのは初めてで、中々珍しい体験に親の不在を感謝しながら、従姉妹を起こさない様に腕枕をそっと抜く。
 床の上で丸まっている従姉妹が起きる前に風呂に湯を張っておこうと居間から出ようとした俺は、鞄から落ちたのか床の上の女物の手帳を拾い上げる、と、写真が一枚ひらりと零れた。
 プライベートの物だと覗いてはいけないと思ったが、それは伯父の研究室の数人での記念撮影らしい。中央に伯父、そして白衣姿の助手や生徒。従姉妹も映っていて日付は最近。外面の良い澄まし顔の従姉妹に何だか笑いそうになった俺は、その隣の長身の男に目を留めた。恐らくこれが酷い男だと直感し、同時に何かが引っかかる。まだ大学生らしい若い男で見栄えも悪くない、気難しい伯父の研究室に出入り出来るなら頭の出来も悪くはないだろう……。
「あ」引っ越してくる前の知っている顔と写真の中の男の顔が重なり、俺は思わず声を漏らしてしまう。「あいつかよ、よりによって」
 周辺にいた同性としては厄災としか思えない完璧超人とそいつにいい笑顔を見せている同級生を思い出し、ちりっと胸の隅が僅かに焦げる。もう何年も前の記憶が妙に生々しくて口の端が上がるのが判った。もう会う事はないだろうと思っていた女の子と、また会えるかもしれない。しかし従姉妹とよろしくやっているならもうお隣のお兄さん役は卒業したと言う事なのだろうか。再会するとしても完璧超人を見慣れて一度上がったハードルは中々落ちるものではないし、男として見劣りするのは胸くそ悪い。
「ん……。啓君、もぉ朝ー?」
「寝る前の時点で朝だったよ」
「そか」
 もぞもぞと起き上がり床に座り込んで全裸でぽーっとしている従姉妹に気付かれない様に写真を手帳に挟み、居間を出ようとした俺を白い手が引き止めた。
「珈琲入れるよ?」
「その前に」
 ぐいと更に足を引かれてソファに尻餅をついた俺の脚の間に従姉妹が身体を割り込ませ、半勃ち状態のモノを当たり前の様に舐め上げて頬張った。
「ちょ、ま……」
 起き抜けと思えないねっとりとした舌遣いで口腔奉仕に耽る従姉妹にぞくぞくと背筋を背徳感が這い上る。まだ風呂にも入っていない状態を舐り慣れているとしか思えない淫蕩な姿に、自然と手が寝乱れた頭に延びた。従姉妹の口内で完全な臨戦態勢になったモノで口蓋をごつごつと突き上げ、綺麗な髪を掻き乱しながら頭を前後に揺さぶる。くぐもった声が寝呆けたものから濡れたものへと変わっていく。
「酒抜けてもやっていいワケ?」
 昨日は深酒を言い訳にする事も出来るだろうが、起きてからもやってしまえばもう言い訳にはならない。鬼畜兄さんの事が好きならここで俺としてしまったら後悔するだけ…そんな配慮の言葉が、従姉妹の濡れた瞳を見た瞬間に凍り付く。欲情しきっているのに昨日と同じ泣き笑いの瞳のまま、従姉妹の唇が幹をキツく咥えていやらしく吸い付いてくる。
 まぁいいや。
 頭に浮かんだのはそんな言葉だった。
 後悔するのが判っていても止められないなら、別にそれに付き合える所までは付き合ってやってもいいかもしれない。好きな女や自分の女と言うのではないけれど、かと言って振り払う様な対象でもない。安全圏の二人目の男で済めば従姉妹もそれ以上の冒険をしないで済んで一挙両得。投げやりにも似たさっぱりとした気分で従姉妹の頭を撫でた。
「親父達帰ってくるの明日の夜だけど、いつまでいる?」
「じゃ……明日の昼位かなー」
「了解。海とか行きたい?」
 問いに答える為に喉奥まで含むのを諦めて幹を舐っている従姉妹を床に倒し、汗が乾いたままで塩辛い乳首を昼日中から噛む。非常に怠惰な昼下がり。海で水着を着るには痕まみれないやらしい身体が腰に脚を絡めてくる。――尤も今潮水に浸かると俺も悲鳴を上げる気がするから、これからはちょっと従姉妹の手は縛っておいた方がいいかもしれない。この爪を立てる癖を鬼畜兄さんはどう回避していたのやら。
「ずっとまったりエッチとかしちゃ駄目?」
「いーけど、色々試すよ?俺」
 腰を擦り合わせると愛撫の必要もなくねっとりと濡れている下腹部の蜜口に手を添える必要もなく傘が引っかかり、そのまま無造作に腰を突き出す。床の上でいやらしく仰け反る従姉妹の嬌声は女子大生らしく大人びた甘いアルト。腰の後ろで絡められている足のお陰で逃げ場のないセックスで避妊具着けていないのが些か怖いが、そこは従姉妹側が対策済みらしいので構わず腰を振る。避妊具なしのセックスは初めてのせいなのか、堪らなく気持ちがいい。『従姉弟同士は鴨の味』と言う言葉が脳裏を掠める。気心の知れた相手のせいか、従姉妹はやはり身体的特徴が近いのか根元まで挿入した時の一体感が半端なく、膣の深さが丁度良過ぎて身体が溺れていく。
 身体は十分堕落した快楽に耽りながら、従姉妹の唇はまた達する間際から今この場にいない男への謝罪を繰り返す。腰を振りながら、俺の腰をホールドしながら。
 面倒臭いとは違う若干同情に似たおかしな感覚は、多分従姉妹の事をそれなりに好きではあるからだろう。いや好きとは違う。年上の淫乱なこの美人を可愛いと思っているのが正解か。
 また背中に爪を立てられるのを避けようと床の上に従姉妹の細い手首を押し当てて、腰を振る。昨日からの汗で二人とも汗臭い筈なのに彼女の身体はやっぱりまだいい匂いで、耳の辺りでくんと匂いを嗅いでみる。
「ゃ……啓君、汗まみれだから、いや」
「ん?いー匂いだよ」
 謝られるよりマシかなと思いながら耳を噛むと、ぐびぐびとうねり続けていた膣が痙攣に近い力で痛い程に締め付けてくる。
 入れっぱなしのエアコンの風がレースのカーテンを揺らす居間は庭越しに道路と面している。考えてみると昨日は雨戸を閉めていないから照明を消すまで爛れた行動丸見え状態だったなと気付くが、それなりのサイズの庭とフェンスがあるし過ぎた事は仕方がない。とりあえず今は外も明るいし気にしないで済む。いい天気で外は暑そうだが、後で窓を開けてみると彼女も謝る声を出せなくていいかもしれない。

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