『労働運動研究』復刊第29号(2011.8)通巻413号
『労働運動研究』復刊第28号(2011.4)通巻412号
『労働運動研究』復刊第27号(2010,12)通巻411号
『労働運動研究』復刊第26号(2010,8)通巻410号
『労働運動研究』復刊第25号(2010,4.)通巻409号
『労働運動研究』復刊第23号(2009,12.)通巻408号
『労働運動研究』復刊第23号(2009,8.)通巻407号
『労働運動研究』復刊第22号(2009,4.)
『労働運動研究』復刊第21号(2008,12)
『労働運動研究』復刊第20号(2008,8)
『労働運動研究』復刊第19号(2008,4)
『労働運動研究』復刊第18号(2007,12)
『労働運動研究』復刊第17号(2007,8)
『労働運動研究』復刊第16号(2007,4)
『労働運動研究』復刊第15号(2006,12)
『労働運動研究』復刊第14号(2006.8)NEW
『労働運動研究』復刊第13号(2006.4)NEW
『労働運動研究』復刊第12号(2005.12)
『労働運動研究』復刊第11号(2005.8)
『労働運動研究』復刊第10号(2005.4)
『労働運動研究』復刊第9号(2004.12)
『労働運動研究』復刊第8号(2004.12)
『労働運動研究』復刊第7号(2004.4)
『労働運動研究』復刊第6号(2003.12)
『労働運動研究』復刊第5号(2003.7)
『労働運動研究』復刊第4号
『労働運動研究』復刊第3号
『労働運動研究』復刊第2号
『労働運動研究』復刊第1号

『労働運動研究』誌の焦点・目次・内容紹介です                                  2009.41.28 setup最終更新2011.8.6



第1号から第28号までは焦点、目次を以下で紹介してます。
第10号からは電子版でも紹介してます。


   研究会の案内 新刊号の紹介  新刊本の紹介   松江 澄氏を悼む  で左記項目の内容を見ることが出来ます。


                                            

『労働運動研究』復刊されました。電子版は新刊号の紹介でも見れます































復刊14号

焦点 小泉「改革」雑承政権への反攻に向けて

特集「日米同盟」の軍事的世界化の前線

改憲、教育基本法「改正」の真の狙いは何か      法政大学大原社会問題研究所

  −「アメリカのために命を投げ出せ」というのか一 五十嵐 仁 

司法は公安行政の走狗か

  一板橋高校卒業式事件の有罪判決に想う−      藤田 勝久

今日の社会民主主義を考える

 一左翼の広い統一のためのディスカッションー    労働運動研究所 植村 邦

――――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

民主的左翼政党への道しか残されていない

  一筆坂秀世『日本共産党』によせて一        人権論・言語論研究 柴崎 律

感染症法改正案についての見解

          バイオハザード予防市民センター 代表幹事 本庄 重男・新井 秀雄

耐震偽装事件の解決の方向を探る バイオハザード予防市民センター ー級建築士 川本幸立

プロデイ政権の再生を達成した中道左派連合

  一勝利したイタリア民主主義一               在ローマジャーナリスト

憲法改正の国民投票で改正案を否決                   茜ケ久保徹郎

  一中道左派三度日の勝利一

中東欧加盟後のEUに何が生じているか?            ミヒヤエル・エールケ

  −ポスト・コミュニズム資本主義の経済・政治および社会一  訳・解説 柴山健太郎

「田中上奏文」は本当に偽書か?             富山大学名誉教授 藤井 一行

  一新発掘史料で「昭和史の謎」を追う−

第二次世界大戦における日本左翼の戦争責任論をめぐって(上)   大阪府立貝塚高校教員

  −日本共産党とその周辺を中心に一                 中河由布夫

4回ゾルゲ事件国際シンポジウム「ゾルゲ事件とノモンハン・ハルハ河戦争」報告

国際情報戦の中のゾルゲ=尾崎秀美グループ

  ー1930年代の極東情勢を揺るがしたノモンハン事件の政治的背景一

一橋大学教授 加藤 哲郎

   労働運動研究所


   労働運動研究復刊第14号 20068 焦点

 

 小泉「構造改革」政権の最後の通常国会が終了し(6月)、与党ならびに支持勢力のあいだでは、後継首相をめぐる人事と政策とに関する折衝が続いている。与党勢力のなかの議論においては「改革を止めるな」、「小さい政府を」が主流になっている。これに対して小泉「構造改革」のもたらした内政面(社会的格差の拡大など)や外政面(とりわけ「靖国」)の問題について、一定の修正が必要だとする主張は少数派のようである。

 しかし、地域に密着する与党の勢力からは、特に参院選挙(07年)を控えて修正の要求が強く、これらの要求のある部分は国会を通過した「揺れ戻し法」として実現されている一改正まちづくり3法、改正建築関連4法、金融商品取引法その他。財界などは当然、これらの改正を「規制緩和」に対する逆行であると批判する。日本経団連は619日、「要望した規制改革の実現度が05年度は47%で、04年度(49%)より2ポイント、03年度(60%)より13ポイント低下したことを明らかにした」(『朝日』06620)。経団連は「04年度から規制改革が官僚主導になったことが原因」と主張している(同上)。

 与党勢力幹部が今日、後縦の条件としつつある「改革」は、小泉「構造改革」よりはもっとはっきりしている。それは均衡財政である。欧米におけるサッチャー・レーガン以来のネオリベラリズム潮流の経緯を見れば、それは「小さい政府」、経済の管理・機構の私営化、労働市場の自由化、金融市場の自由化・世界化と一体である。資本所得(不労所得と呼ばれた時代はそう遠くはない)に対しては減税、これができない人には増税。私的な金融取引(さらには商品・サービス取引の全般)に現れた「不正常な」現象は金融世界化の今日、欧米に限らずどこを見ても容易に予想され、規制の手を打たれるべきであった。「資本は、より効率的な企業、優秀な経営者を求めて自由に移動するという『あるべき資本市場』」(堺屋太一、『朝日』06615)とは「イデオロギー」である。

「改革の実」

 高齢者の所得税、住民税、健康保険料、介護保険料は05年、06年(今年)に顕著に増額された。これは04年度税制改定で決まっていたのだが、これまで表面に現れなかった増税である。『朝日』(06618)の事例では妻と2人世帯の男性(大阪府、年金年額277万円:月額約23万円となるがこれは厚生年金受給者の平均値とされている)について前述の税負担が264万円から388万に増加している。与党幹部はさらに、社会保障面(年金、医療、介護、雇用保険、生活保護など)の負担増額、給付減額を予定している。与党勢力は国民のあいだに不満の高まっていることをよく知っている。このために参院選挙までは大きな声で言わないという姿勢を説く幹部もいる反面、むしろ事態の深刻さを説明して「改革」(負担増額、給付減額)に支持を訴えるべきだとする幹部もいる。これは小泉「構造改革」の実績に対する自信の表れでもある。

 野党のなかには、当時「やがて不平等、貧困など改革の実が見えるはず」であるとし、ここから国民のあいだの反対行動を期待する向きもあった。確かに「改革の実」が見えて不満は高まっているけれども、これを集団的な反対行動に刺激するのは野党の課題である。特に左翼政党は社会的格差の拡大、貧困諸階層の増大を「共生」「連帯」の政策によって解消することを標榜している。この課題は国民の不満に受動的に反応するだけでは達成できない。すでに「連帯]が崩れ分化が大きい社会では、「連帯」の具体的な政策を設定すること自体が容易ではない。左翼諸勢力はこの困難を自覚し英知の結集を求められる。

 民主主義的な社会とは、人々がそれぞれに自己の利益を主張する権利を有することから出発して、そのうえで相互の議論によって多数を形成する営みである。この際、人々が所持できる生活資源にあまりに不公平が存在すると、ある人々はそうした社会的な議論に有効に参加できなくなる。これは民主主義の否定である。人々の共同活動によって公平な社会を目指すこと、それが「連帯」の意識および政策である。所得再配分は一つの有力な公共政策である。左翼は、人々の所持できる生活資源のあいだにもっと「平等性」を高めることが公平な社会であると主張する。

 いずれの政党も所得再配分の政策を社会に提示するが、公共財政のなかで所得再配分にどれだけのウエートを置くか、どのような基準で再配分を行うかなどは、それぞれの政党が訴える社会の「ビジョン」にかかっている。左翼勢力とって「ビジョン」の核心は、いま様々に分化した社会、特には生活資源が不公平に配分される「階層化」された社会を、どのような社会に改造したいと考えるのか、今日「階層化」の底辺に住まわざるをえない人たちにどんな展望を提案しようとするのか、ということであろう。

 内政と外政との結びつき

 これは異体的に実行するに困難な課題である。だが、左翼諸勢力が共同してこの課題に取り組み、「階層化」の底辺に放置された人々と政治とのつながりを取り戻す(第一に投票に参加する)ことができないならば、これらの人々が外国との摩擦の先銃化を煽る右翼ポピユリズムに取り込まれ、さらには、与党勢力の「タカ派」の社会的基盤を提供することになるであろう。

 政府はイラクからの陸上自衝隊の撤収を決定したが、航空自衛隊は駐留を縦続するだけではなく活動範囲を拡大することとし部隊の増派命令を発した(6月)。自民党ではすでに海外での多国籍軍参加を念頭に、特別措置法なしで自衛隊の海外派遣を可能にする恒久法の制定に関して「協議検討」が行われている(『朝日』06621)。共謀法案はそれらの国内対応法を意図した。これらは自民党の新憲法草案「第9条の2」の規定の具体化の重要な構成部分である(本文;五十嵐仁「改憲、教育基本法『改正』の真の狙いは何か」)。

 ここに、国家の内政と外政との強い結び付きに注目すべき理由がある。それは、現代史における国家間紛争の分析から得られる教訓である。愛国主義は、分裂している社会を支配的な勢力のまわりに統合しようとする「イデオロギー」である。左翼諸勢力は「イデオロギー」としての愛国主義を批判的に論破するだけではなく、このような「イデオロギー」を必要としているその根源、すなわち社会的な利害対立の深刻化に「ポジティブ」な方向で、「平和」および「共生」(「社民党宣言」の表現に従えば)の方向で政治的な活動(共同した政策と実践)を対応させることが必要である。(UMO6625


正誤表  次ぎの部印ミスがりましたので、訂正します。

06年8月号93ページ「シンポジュウム『労働運動再生の地鳴りがきこえる』 1.下段左6行目 正 第2部は出版記・関西支部 2.下段右6行目 一全目建運輸連帯労組・関西生コン支部委員長

シンポジウム

『労働運動再生の地鳴りがきこえる』

―盛会だった7・8出版記念会・東京シンポジウム―

 シンポジウムは、“よみがえれ!−日本の労働組合一許すな!関生への国策捜査・弾圧一”をスローガンに、7月8日、東京千代田区・日本教育会舘大会議室で開催された。第1部は記念講演とシンポジウム、第2部は出版記念・関西支部への激励パーティがあった。

 第1部は、武洋一氏(全日建運輸連帯中央本部副委員長)が司会。開会挨拶を長谷川武久氏(全日建運輸連帯中央本部委員長)が行った。

 記念講演会は、木下健男氏(昭和女子大教授)により「二極化社会の到来と関西生コン運動」と題して行われた。休懇の後、武建一全目建運輸連帯労組・関西生コン支部委員長)より「生コン支部への弾圧と関生運動の理念・魂」として特別報告がアピールされた。

 武委員長は、関生コン労働運動が権力の弾圧に抗し激しく闘っている現況を伝えるとともに、全国の労働運動と手を結んで闘おうと力強く訴えたのであった。

 武委員長は05年1月31日に逮捕され、06年3月8日に保釈されるまで実に420日間勾留されていた。その不当弾圧に対して、彼は次の4点を軸として真っ向から対決して闘っていることを報告した。

 第一は「国策捜査の中止、公正裁判を求める」署名活動を展開すること。第二はILOへの提訴であり、第三は、左への弾圧を共謀罪をはじめ反動法案の先取り的攻撃として全国的な闘いとして広げることである。第四は、関生運動が産業別労働運動の先進例で、資本と権力による『分断・差別・競争』を抑制する運動であり、また運動の形態と組織、理論、思想を再検討し、新たな運動の局面を切り開こうとしていることである。そしてさらに「思想・信条の相異を乗り越え、要求で団結し、課題別運動を展開すれば主体運動の力量強化につながることは明らか」だとし、その場合「違いを拡大せず、一致点を拡大する統一戦線の立場に立って運動を追求する」ことを強調している。こうした武委員長の訴えは、日本労働運動の活性化に向け、正に「地鳴り」として響こうとしている。(山中明)  

 



復刊号13

目次

焦点 米軍とともに世界で戦争できる日本にするのか

特集 自民党・改憲勢力に対抗する市民連合

日本共産党弟24回大会における10の真相
20061月、党大会決議・中央委報告の分析―  宮地健一

[資料]日本共産党第24回大会決議案に対する党員批判  編集部

小田急大法廷判決と弁論の意義              斉藤 驍

長崎平和推進協の「被爆者は政治的発言の自粛」要請について 米澤 鐵志

-----------------------------------------------------------------------------------------------------------------

最近の中東情勢と世界石油市場               白石忠夫

好転するか、朝鮮半島情勢                 大畑龍次

EUの対外通商政策とWTO
―ハーバーマスの論文に関連して―             植村 邦

ラテン・アメリカで始まる21世紀の社会主義
―「ラテン・アメリカの代案」、『ル・モンド・デイプロマティック』(06年2月号)の分析― 福田玲三

コミンテルンと天皇制
―片山、野坂は32テーゼの天皇制絶対化に懐疑的だった―  藤井一行

日本とロシア
―出会いからの200年―                 長瀬  隆

わが反戦思想の原点
―青山学院中学部・19421945年―            岡田裕之

国家権力の情報操作とマスメディア
―満州事変から現代まで―                井上 遥

情報分析は慎重に
『松本清張の陰謀』を書き終えて―           佐藤 一

『山本正美治安維持法裁判陳述集・続裁判関係記録・論文集』に寄せて(下)  栗栖宗孝

<書評>

評者 坂東憲一  山口二郎・宮本太郎・小川有美編『市民社会主民主主義への挑戦―ポスト「第三の道]のヨーロッパ政治』

評者 柴山健太郎 スーザン/ジョージ著『オールター・グロバリジェーション』

評者 植村 邦  武健一・脇田憲一編集『労働運動再生の地鳴りがきこえる

松川運動の比類ない先輩 小沢三千雄さん逝去

編集後記

この号に関する読者便り

E-mall:rohken@netlaputa.ne.jp
URL:http://www.netlaputa.ne.jp/~rohken/
   労働運動研究所


  「勝ったのは民主主義だ!」NEW

        政権を奪還したイタリア中道左派連合の苦闘の軌跡

                       労働運動研究所 柴山健太郎

 イタリア総選挙結果(2006年4 9、 10 日)

 第1表 下院議員選挙結果

 [中道左派連合−ユニオン(Unione)]        

 

 政党・政党連合名

  得票率(%)

 議席数

  備           考

 

 オリ−ブ(Univo)

 

   

 共産主義再建党

 (Rif.Communista)

 拳の中のバラ

 (Rosa nel Pugno)

 イタリア共産主義者

 (PDCI)

 デイ・ピエトロ−価

 値あるイタリア

 (Di Pietro-Italia

 lavori)

 緑の党

 (Verdi)

 欧州民主連合(UDEUR

 )

 その他

 在外イタリア人

   31.3

 

 

   5.8 

 

    2.6

 

    2.3

 

    2.3

 

 

 

    2.1

    1.4

    2.0

 

   220

 

 

  41 

 

  18 

 

  16 

 

  16 

 

 

 

   15

   10

    4

    7

  左翼民主(DS)、 マルゲリ−タ(Mrg

  erita)、イタリア社会民主主義者

  (SDI)、ヨ−ロッパ共和党

 共産党の左翼民主党への転換に 

  反対し分裂し結成された党

 急進党+民主社会党(カトリック

  教会の影響力排除を主張)

 共産主義再建党のブロデイ政権か

 らの離脱に反対したグル−プ 

 90年代の政界汚職摘発の立役者の

 デイ・ピエトロ元検事とイタリア

  共産党の左翼民主党への転換させ

  た時の書記長オッケツトが創立

  旧キリスト教民主党中道派

  得票数 459、454

 合計

    49.8

  348

 

 (参考)2001年得票総数 19、001、6854 票 同議席数 259 議席

 (注)la Repubblica 2006年4 12日号より柴山が作成。以下の表も同じ。

 [中道右派連合−自由の家(Casa delle Liberta)]

 

  政党・政党連合名

 得票率

 議席

 備         考

 

 フオルツア・イタリア

 (FI) (Forza Italia)

 国民同盟(AN)

 (Alleanza Nazionale)

 キリスト教民主同盟

 (UDC)

 北部同盟

 (Lega Nord)

 

 

 新社会党(DC-Nuovo PSI)

 

 

 その他

 在外イタリア人

  23.7 

  12.3 

   6.8

   4.6

 

 

 

   0.7

 

 

   1.6

 

    137

   71  

   39  

 26  

 

 

 

  4  

 

 

    0

    4

 ベルルスコ−ニ首相の創立した党

 保守党に変身した旧フアシスト党

 

 旧キリスト教民主党右派

 北部の豊かな州を代表し、税金の

 南部への投入や中央の官僚主義に

 反対し地方分権や移民労働者排撃

 を主張

 旧社会党クラクシ派、クラクシ元

 首相を糾弾した共産党やデイ・ピ

 エトロに反発し中道右派に参加

 得票数 369、952

 

 合       計

  49.7 

 281

 

 (参考)

 2001年得票数  18、976、460

  〃 議席数  355議席

 第2表 上院議員選挙結果[中道左派連合−ユニオン(Unione)]

 

   政党・政党連合名

 得票率(%)

 議席数

 備           考

 

 左翼民主(DS)

 

 マルゲリ−タ

 共産主義再建党

 イタリア共産主義者

 緑の党(PDCI Verdi)

 デイ・ピエトロ

 拳の中のバラ

 (Rosa nel Pugno)

 欧州民主連合(UDEUR)

 その他

 在外イタリア人

  17.2

 

  10.5

   7.2

   4.1

   2.8

   2.4

   1.4

   3.6

 

   62

 

   39

   27

   11

  4  

  0  

  3  

  8  

  4

 旧イタリア共産党から社会民主政党に

 転換、社会主義インタ−に加入

 旧キリスト教民主党左派+プロデイ派

 統一リスト

 

 得票数 426、544票

 合    計

  49.2

  158

 

 ( 参考)2001年得票数  17、141、937 票 同議席数  137議席

 [中道右派連合−自由の家(Casa delle Liberta)]

 

    政党・政党連合名

     得票率

   議席

 備       考 

 

 フオルツア・イタリア(FI)

 国民同盟(AN)

 キリスト教民主同盟(RNP)

 北部同盟 (Lega Nord)

 その他

 在外イタリア人

    23.6

    12.2

    6.6

    4.4

    3.1

 

   78

   41

   21

   13

   2

   1

 

 得票数 332、999票

 合        計

    49.9

 156 

 

 (参考)2001年得票数 17、359、754票 議席数 176議席

 

 裏目に出たベルルスコ−ニの新選挙法

49、10日に行われたイタリア総選挙は、プロデイ元首相の率いる中道左派連合「ユニオン」(Unione)が、大接戦の末にベルルスコ−ニ首相の率いる中道右派連合「自由の家」(Casa della Liberta)を敗り、5 年ぶりに政権を奪還した。4 12日付けの日刊紙『レプブリカ』は2面の大見出しで「勝ったのは誰か:勝者は民主主義だ」というプロデイの言葉と、3面では渋面のベルルスコ−ニ首相の顔と「私を隅に追いやらせれない」という談話を掲げ、勝者と敗者の明暗を際立たせた。
総選挙前の世論調査では「ユニオン」は「自由の家」を常に3 5 %リ−ドしてきたが、終盤戦になってベルルスコ−ニ首相は傘下のテレビのネットワ−クをフルに駆使して反共宣伝と固定資産税の廃止などの減税公約をばらまき猛然と追い上げ、上下両院選挙ともに空前の大接戦になった。下院( 定数630 ) の選挙結果は、「ユニオン」の得票率の49.8%に対して、「自由の家」が49.7%とわずか0.1 %の僅差だった(第1、2 ) 。それが議席数で、「ユニオン」が348 議席、「自由の家」 281 議席と大差がついた原因は、皮肉にも昨年10月のベルルスコ−ニ首相が中道右派連合の劣勢をはね返すために強引に成立させた新選挙法だった。 従来の選挙法は日本と同じく小選挙区・比例代表並立制度だった。これは戦後の比例代表制による小党分立が、キリスト教民主党主体の連立政権の長期的支配と腐敗を許したことへの反省に基づき、国民投票を行って制定されたものである。これは上院(定数315)、 下院( 定数630)とも75%を小選挙区で、残り25%を比例代表制で選出する仕組みだった。つまり小選挙区制主体の制度で、下院は1 票制で1 票は選挙区の候補者に、他の1 票は比例代表制で提出名簿に基づき政党または政党連合に投票するが、上院は1 票制で選挙区の候補者にのみ投票し、比例代表は小選挙区の得票結果に基づき各政党に配分されることになっていた。

 ところがベルルスコ−ニ首相は、このような小選挙区主体の選挙制度では中道右派連合に不利だと判断して、昨年10月に突如として上下両院とも完全比例代表制に代える法案を国会に上程した。この暴挙に、中道左派連合は、プロデイ元首相を先頭にして「国民投票を経て制定された現行制度を党派的利害で改正するのは民主主義の精神の侵害だ」と猛反対したが、中道右派連合は十分に審議もせずに上下両院で強行可決させてしまった。
この新選挙法では、下院(定数630 議席、 うち海外選挙区12) は、拘束名簿式で全国1 選挙区で選出され、比較多数をとった政党連合に議席定数の55%の最低340 議席が与えられ、少数派連合には278 議席が割り当てられることになった。上院(定数315 議席、 うち海外選挙区6 議席。 終身議員を除く) は州1 選挙区(20 選挙区) で、州ごとに比較多数の得票数を得た政党または政党連合が55%の議席を獲得する仕組みになった。
ベルルスコ−ニ首相は、「ユニオン」には得票率が2 %前後の小政党が多いので、この新選挙法によって完全比例代表制に移行すれば、小選挙区制よりも候補者の統一や政党連合の代表選出が困難になり、中道右派連合には有利と判断して新選挙法の制定を強行したのだが、この新選挙法が完全に裏目に出たのである。

 下院選挙では、「ユニオン」の得票率は49.8%で「自由の家」の得票率49.7% をわずか0.1 %しか上回らないのに、最も得票数の多かった政党連合が総議席の55%を獲得するという新選挙法により、「ユニオン」が348 議席( うち海外選挙区7)を獲得したのに対し、「自由の家」は281 議席(うち海外選挙区4)になり、少数派に転落したのである。上院選挙でも、イタリア本土では「ユニオン」の得票率は48.94 %、154議席で、「自由の家」の50.19 %、155 議席を下回ったが、海外選挙区(定数6)で「ユニオン」が4 議席を獲得したのに対し「自由の家」はわずか1 議席しか獲得できなかった。そのため「ユニオン」が得票率49.2%、158議席、 「自由の家」が得票率49.9%、156議席になり、上院も「ユニオン」の逆転勝利となったのである。

 元来この在外選挙区制度も、ベルルスコ−ニ首相が「在外イタリア人は保守支持者が多い」として野党の反対を押しきって制定したものだった。だがこれも全くの思惑はずれになった。こうして有権者350 万人の在外選挙区では4 選挙区が設けられた。それは欧州(上院定数2、下院定数6)、 南米( 2、同3)、 北中米( 1、同2)、 アジア・アフリカ・、オセアニア、南極( 1、同1)などである。ところがふたを開けてみると、ベルルスコ−ニ首相の思惑ははずれ、在外選挙区の投票率は約42%で、上院選挙では「ユニオン」は全4 選挙区で1 議席づつ獲得したのに対して、「自由の家」は欧州の1 議席しか獲得できず、「ユニオン」の逆転勝利の決め手となった。怒り狂ったベルルスコ−ニ首相は「選挙で大規模な不正があった」として疑問票の再点検を求め、「ユニオン」の勝利を認めるのを拒否した。だがイタリアの最高裁判所は4 19日、疑問票の再点検を終了した結果、下院の最終的な得票数を発表し、中道左派連合「ユニオン」の得票数が1900万2598票、 中道右派連合「自由の家」が1897万7843票と確認し、2 4755票の差で「ユニオン」の勝利を確定した。

 

 「オリ−ブの木」の再編成から「ユニオン」結成まで

 

 だが今回の「ユニオン」の勝利は、単なる「敵失」の結果として中道左派に転がり込んできたものではない。これには2003年夏以降、プロデイ元首相(当時欧州委員長)を先頭にした、左翼民主(DS)(旧イタリア共産党)の中道左派連合の再建のための、粘り強い努力があったことを見逃してはならない。以下、この過程を簡単に振り返ってみよう。

 03年夏のプロデイ氏の「04年の欧州議会選挙に『オリ−ブの木』は統一リストで臨もう』という提案、それを受けた左翼民主ら4 党による「オリ−ブ・欧州のための統一行動−FED 」の結成と「 統一リスト」 による欧州議会選挙への参加、04年10月の中道左派の9 政党による政権獲得のための戦略会議の開催、05年4 月の州議会選挙での中道左派「ユニオン」の圧勝、10月の「ユニオン」の首相候補者の予備選挙でのプロデイ氏の圧勝、06年2 月の 「ユニオン」の政策綱領の決定を経て今回の総選挙の勝利に至る、3 年に及ぶイタリア民主主義・社会主義勢力の苦闘があったのである。

 上述のように、中道左派連合の再建の動きが始動し始めた契機は、03年夏のプロデイ提案だが、この提案に賛成したのは、当時の「オリ−ブの木」の参加政党では、左翼民主(DS)、イタリア社会民主主義者(SDI) 、マルゲリ−タ(Margerita) と、旧共和党から離れたヨ−ロッパ共和党など4 党だけで、その他の政党は賛成しなかった。そのためこの4 党だけで 04 6 月の欧州議会選挙では「オリ−ブ・ヨ−ロッパのための統一行動−FED 」という統一リストで欧州議会選挙への取り組み、31.1%の得票率で25議席を獲得した。

欧州議会選挙後の04年6 29日、 統一リストの提唱者のプロデイ氏と、統一リストに参

加した4 党の党首、書記長その他の幹部が集まり、今後4 党が政党連合の形態をとり、各党代表による執行部で統一行動をとること、欧州議会でも統一リストの議員25人はそれぞれのグル−プに所属しながらも常に連絡を取り合えるシステムを考えることなどが話し合われた。

その話し合いに基づき、05年3 月、 「オリ−ブ・ヨ−ロッパのための統一行動−FED

に参加する4 党の党首、書記長にプロデイ氏も参加してFED 基本規約に署名し、FED が正式に発足した。それに基づき、プロデイ氏を委員長とする新しい「オリ−ブ」には、参加4 党のリ−ダ−で構成される15人の指導部と60人からなる評議員で構成される全国評議会が設けられ、外交、欧州外交、憲法問題に関する権限をFED に委譲する「制限主権」を認め、それらの政策は評議会の過半数で決定されることになった。

 一方、中道左派全体では、04年の欧州議会選挙の得票率は45.5%で、中道右派の45.4%を0.1 %上回ったばかりでなく、1999年の欧州議会選挙の42.2%、01年の国政選挙の43.9%から票を伸ばした。こうした成果を踏まえて、プロデイ氏は、自らの欧州委員長の任期(04年10月31日)切れを目前にして、10月11日に中道左派政党の代表を集めて政権獲得にむけての戦略会議を開いた。この会議に参加した政党は、左翼民主(DS)、マルゲリ−タ(Margerita) 、イタリア社会民主主義者(SDI) 、ヨ−ロッパ共和党、デイ・ピエトロ(Die Pietro)、緑の党(Verdi)、共産主義者党(PDCI)、共産主義再建党(Rif.Commmunista) 、欧州民主連合(UDEUR) 9 政党だった。
この会議では、今後の中道左派連合の運命を決する4 つの重要な決定が行われた。その第一は、05年4 月に14州で行われる州知事、州議会選挙で中道左派の全党が「民主大連合(GAD)」の名のもとに統一候補を立てて闘うこととである。第二は、プロデイ氏のリ−ダ−としての地位を確固たるものにするためにGAD の首相候補の予備選挙を行うことである。第三は、1996年に誕生した「オリ−ブの木」の第一次プロデイ政権が、共産主義再建党の政策協定なしの選挙協力と閣外協力によって成立したため、同党の途中離脱によって崩壊し、ベルルスコ−ニ政権を成立させたた苦い教訓に基づく政策協定の締結だった。今回はこの轍を繰り返さぬために共産主義再建党は初めから中道左派連合の戦略会議に参加し、政策立案に参画し、政策協定を締結することが確認された。

 第四は、イラク戦争に関する決定だった。会議は、現在の派兵がイラク占領軍であるので撤兵し、国際会議を開き、国連の平和維持軍として改めて派遣することが決定された。 最後に、05年12月には全党によるコンベンションを開き、総選挙に備える態勢を確立することが決定された。

 会議後の05年3 月に、共産主義再建党はこの決定を実践するために党大会を開き、「中道左派による政権獲得をめざし政府に参加する」という運動方針を賛成60%で可決し、良心にかかわる問題以外は、議員団の多数決に基づき全員一致で投票することを決定した。 共産主義再建党が党大会で正式に中道左派連合への参加を決めたことにより、プロデイ氏はこれまで9 党からなる中道左派連合を「民主大連合」(GAD))と呼んでいたのを「ユニオン」と改称し、ロゴは平和のシンボルである虹を9 党に見立て、その下にオリ−ブ色でL'UNIONE(ルニオ−ネ)と書くことを提案し決定された。

 05年4 月の州議会選挙は、中道左派は20州中13州で行われた選挙で11州を獲得し、その後のバジリカ−タ州選挙でも勝利を収め、「ユニオン」の圧勝に終った。これによりこれまで14州の政府は左派6 州、 右派が8 州だったのが、今回の圧勝で左派12州、 右派2 州と「ユニオン」が絶対的な優位を占めた。特に人口の多いロ−マを州都とするラツイオ州、北部工業地帯のトリノを州都とするピエモンテ州、ジェノバを州都とするリグリア州の政権を奪還し、得票数も「ユニオン」は中道右派連合を250 万票も上回った。

 他方、「オリ−ブ・FED 」では、5 月にマルゲリ−タ全国代表者会議で次の総選挙の比例区で「オリ−ブ」の統一リストではなく独自のシンボルマ−クで闘うことを決定し、一時プロデイ氏との関係が険悪化したが、左翼民主の仲介で和解し、マルゲリ−タは上院選挙では独自のリストで闘うが下院選挙では「統一リスト」で闘うことになった。さらにプロデイ氏を中道左派のリ−ダ−として認め、「ユニオン」の首相候補の予備選挙ではプロデイ氏を支持することを表明することで合意が成立し、マルゲリ−タもFED も分裂の危機を脱する一幕があった。

 6 20日、 中道左派を形成する9 党のリ−ダ−が一堂に会し、@10月8、9 日に予備選挙を行うこと、A12月には9 党で政権の政策作成会議を開くこと、B政権をとった場合はプロデイ氏は5 年間の任期を全うすることなどを決めた。

 中道左派の予備選挙は、05年10月16日にイタリア全土9731カ所、国外157 カ所、投票者は実施前の予想では100 万人に達すれば大成功とされたいたのが、予想をはるかに上回る431 1149人に達した。また居住権を持つ外国人でも、滞在許可証と身分証明書を提示して登録し、投票時に最低1 ユ−ロ(140円)をカンパすれば投票できることが決められ、4 7000人が参加した。

 予備選挙の結果は、予想通り左翼民主、マルゲリ−タ、社会民主主義者、ヨ−ロッパ共和党の推したプロデイ氏が他を大きく引き離し74.1%を獲得して圧勝した。次いで共産主義再建党のベルテイノッテイ氏が14.7%で第2 位、中道の欧州民主連合(UDEUR) のマステッラ党首が4.6%で第3位、デイ・ピエトロ氏が3.3%で第4 位、 緑の党のペコラ−ロ・エスニオア氏が2.2 %で第5 位などとなった。これによってプロデイ氏の「ユニオン」代表としての地位が確立した。この予備選挙には全国の有権者の1 割近い人たちが投票所に足を運び、中道左派躍進にはずみをつけた。ここでも新選挙法によるベルルスコ−ニ首相の「ユニオン」の内紛挑発の策謀は、中道左派連合の民主主義の実践によって見事な失敗に終わった。

ベルルスコ−ニ首相の策動に加えて、中道左派連合内部では、「体外受精」の国民投票

、首相候補の予備選挙の方式、「オリ−ブ」内部の「改良主義政党」結成をめぐる左翼民主(DS)、社会民主主義者(SDI) 対マルゲリ−タの路線の対立など、幾度か分裂の危機に見舞われた。だがその都度、分裂の危機を克服できたのは、左翼民主を中心とする左翼のイニシアチブによる徹底した民主的な話し合いと、共同の実践に基づく合意の獲得だった。「勝者は民主主義だ」というプロデイの言葉には、ここに到達するまでのイタリアの民主主義・社会主義勢力の苦闘の実感がこめられているといえよう。

 

 「『持てる者』と『持たざる者』へのイタリアの分裂をなくそう」

今回の総選挙で、中道左派連合がベルルスコ−ニ首相の率いる中道右派連合との大接戦を制することができたもう最大の原因は、ベルルスコ−ニ政権のなりふり構わぬ「政治の私物化」や相次ぐ汚職事件の発生に対する国民の強い反発だった。

 「政治の私物化」の代表的なものは、相続税・贈与税の廃止、企業の粉飾決算の非刑罰化、首相在任中の刑事責任免責を規定した「免責特権法」、個人によるテレビ・新聞などの所有規制の緩和、公判開始中も時効を適用する「時効法」の制定などがそれである。汚職事件では、最近のオランダの銀行による伊アントンベネタ銀行の買収に関連する前中央銀行総裁によるインサイダ−取引疑惑、ベルルスコ−ニ首相のメデイア関連企業の脱税疑惑裁判におけるイギリス人弁護士への偽証依頼疑惑、昨年4 月のロ−マの県知事選挙におけるストラ−チェ保健相(国民同盟)の政敵スパイ事件の発覚による辞任などスキャンダルが相次いでいた。選挙戦で「レガリタ(法の支配)の確立」が高く叫ばれたのはそのためだった。

 さらに選挙戦のなかで重大な争点として浮上したのは貧困化の問題だった。イタリア通貨がユ−ロに切り替わったのは、01年5 月にベルルスコ−ニ政権が発足して約半年後だったが、以来4 年間に物価はほぼ倍になった。ところが賃金上昇は平均8 %に過ぎず、勤労大衆の貧困化が急速に進んだ。イタリア銀行の報告によると、家庭の債務総計はベルルスコ−ニ政権の発足時の01年から05年末までの4 年間に2500億ユ−ロ(約35兆円) から3850億ユ−ロ(約53兆9000億円) 54%も増大する一方、貯金ゼロの家庭は38%から51%へ、全世帯の51.4%と全世帯の半数を超えた。

イラク派兵問題も大きく取り上げられた。ベルルスコ−ニ政権は7 割を超す反対世論に

背を向けて、ブッシュ大統領の「大規模戦闘の終了」宣言後に3500人の軍隊をイラクに派遣した。ところが05年3 月、米軍兵士によるイタリア人記者の銃撃事件後、イラク派兵の撤退を求める世論の高まりに押され昨年9 月から段階的撤退を開始し、本年1 月にはマルテイノ国防相が年末までの完全撤退することを示唆したが、それも「米英の合意があれば」という条件付きで、ベルルスコ−ニ政権の対米追従外交と反EU的態度は際立っている。 総選挙終盤戦に入った本年2 月、ドイツ保守派長老のコ−ル本首相はプロデイ元首相の招きで会談したが、彼は欧州人民党の仲間であるベルルスコ−ニ首相にではなく、プロデイ首相ににエ−ルを送り、「ロ−マでは誰が政権についても、イタリアは言葉ではなく、事実において確固として欧州支持の立場に立っていた。今日では、このイタリアの声が欠けている」と痛烈にベルルスコ−ニ政権批判を行った。ここでも欧州政界からも不信を浴びているベルルスコ−ニ政権の立場が象徴的に示されている。

 06年2 11日、「ユニオン」代表のプロデイ氏は、ロ−マでの政策協定の締結と発表の会議で改めてベルルスコ−ニ政権の実績を厳しく批判して次のように述べた。

 「右派政権の5 年間に、イタリアは持てる者と持たざる者、ずうずうしく富んだ者と貧しくなった者、系統的に税を逃れながら優遇された者と最後の1 ユ−ロまで税を払った者、政府の行動によって存分に力づけられた者と政府から見捨てられた者に分裂した。われわれは、この分裂を一掃したい」

 それでは最後に「ユニオン」の政策綱領の要旨を紹介して本稿を終わりたい。

 

 「ユニオン」政策綱領*  

 [国内部分]

 

 [労働、権利、経済成長]  
「労働と福祉」は、われわれの経済社会政策の価値の中心軸である。その出発点は、経済発展と社会発展、権利と成長、競争力と正義の間に質の良いサイクルをつくりだすことにある。われわれは、自由という考え方を個人の権利としてだけでなく社会的責務ととしてとら

える。個人の権利ならびに労働の権利と、社会的権利の不可分の結びつきを取り戻すことができるし、そうしなければならない。
われわれにとって平等とは、「基本的な能力の平等」であり、連帯とは、とりわけ、男性と女性、そして各人の社会に対する責任である。
われわれは、能力、すなわち、個人が「人間となる」自由を制限するあらゆるメカニズムに強く対抗することを、公共政策における最優先の責任であると考える。

 

 [完全(雇用)で質の良い労働]
経済は危機的状況にあり、雇用の増加はとりわけ南部において中断し、雇用の不安定化が進んでいる。[右派]政府は、雇用の安定化、貸付支援策の手段を縮小したり取り消したりしてきた

。こうした支援策の放棄は、労働者の置かれた条件を悪化させ、不安定さを増大させてきた。

 われわれにとって、雇用の通常の形態というのは、[雇用]期間に定めのない労働]である。だれもが人生の設計をたて、安心して働くことができなければならない。柔軟な労働[パ−トやアルバイト、派遣・季節労働など雇用期間に定めのある労働]は、安定した労働よりも安い値段で扱われてはならない。だれもが人生の設計をたて、安心して働くことができねばならない。また期限の定めのある雇用契約は、[企業が]必要とする客観的な根拠が明らかにされねばならず、企業の雇用総数の一定の枠を超えてはならない。

 

 [市民の権利の新しいネット、個人と家族]
わが国において、比較的多数の市民や世帯が、ますます深刻で経済的に困難な状態へと向かっている。
イタリアは、発達した諸国のなかで、可処分所得の不平等率がもっとも高い国である。

人口の19%が相対的貧困ライン以下で生活している。貧困や低所得は、特に子供に打撃を与え、とりわけ若い母親のより広い層に社会的経済的後退の危険を生み出す。
ここ数年、低所得層や不安定な人々への適切な支援、社会サ−ビスや住宅の提供、失業

手当て、社会経済政策が欠如していた。

 「ユニオン」は、こうした状況を変えることを約束する。

 

 [外交部分]

イタリア国民の生まれつき持っている平和に対する志向と憲法第11条( 国際紛争を解決する手段としての戦争放棄 )を、安全保障問題でイタリアが遂行する選択の中心点にすえる。

 決定の共有と共通の規則の作成と解釈される多国間主義を選択する。紛争を予防し、「憎しみの水たまり」を干し上がらせることを促進しながら、国際的レ

ベルで平等と正義という目標を積極的に追求する平和の予防策を選択する。紛争に対処し、法と諸権利に基づく国際秩序をつくる要として、国際的合法性を選択す

 

 [国連システムのなかのイタリア]
多極世界への貢献として、国連、イタリアが所属している国際機関を強化することは、

欧州統一の構想とともに、最優先の国益である。
イタリア共和国は生まれつき平和への志向を強く持っている。それは友好国と同盟国、とりわけイタリアが加わっている国際機関と同盟にイタリアが提供してきた資源である。イタリアは、自らの歴史に基礎を置くとともに、顕著な規模で、イタリアが持っているいくつかの限度、不面目なペ−ジにも基礎を置いている。
国際紛争の解決手段としての戦争拒否、集団的安全保障という代案の選択は、まさにこの歴史の産物である。
核の野望を実現したばかりの国、あるいは実現しようと望んでいる国々にいっそう効果的な圧力をかけるため、核兵器保有大国が軍縮の具体的措置を再開することを求めなければならない。

 

 [イラク]
イラク戦争と占領は、重大な誤りであったと考える。それは何も解決しなかったばかりか、安全保障の問題を複雑化させた。テロリズムはイラクの内部に、同国国境の内外で、行うテロ活動のための新しい基盤と新しい口実を獲得した。国際的合法性を破る形で始められた戦争は 、国連を弱体化させ、戦争の多国間主義的な統治という原則を弱める効果を与えた。紛争を一致して解決し、国連の権威を取り戻してその役割を強化する手段としての多国間主義の価値を確認するために、イラク国民と国際社会に対し、非継続性の明確なシグナルを送らなければならない。

 多国間主義の原則にそい、現在の軍事関与を乗り越え、国際的当局(国連)の関与を実現する明白な路線転換を伴う、イラク危機の管理の国際化が必要だと考える。もし選挙に勝利するならば、われわれは直ちに、技術的に必要とされる時間のうちにイタリア軍を完全撤退させることを国会に提案する。

 

 [新しい国防政策]

次の会期でわれわれが作業しようと考えている根本問題は、@欧州防衛ならびに欧州連

合と米国の協力A新しい現代的な防衛システムの再構成B人的資源を中心に据えること−である。欧州防衛は、国の有効な安全保障政策と信頼できる国際環境に不可欠なものである。世界の一極的な仕組みから発生する諸問題に対応するために、常に大西洋同盟との関係の中にありつつも、深く変容しつつある自立した欧州防衛にねらいを定めて向かっていかなければならない。
イタリアが米国の誠実な同盟国であるだけでなく、欧州統合政策の主人公として確固として欧州に結合しているという戦略的な位置を提案しなければならない。「ユニオン」は、欧州に置いての協力の枠組みの中で、軍事費の削減を可能にする政策を支援することを約束する。

 *『しんぶん赤旗』06年4 14、15 日号より引用。

  


焦点 米軍とともに世界で戦争できる日本にするのか

 戦争に明け暮れた年月から60年間の今の平和は奇跡に近い。日本国憲法が支えた
ことは改憲派も疑わないだろう。その憲法を改憲派は憎む。憲法とは戦争を含む
国家権力の暴力を抑制するものだからだ。解釈改憲は既に憲法制定以来続いてい
るが、明文改憲は1957年設立の内閣憲法調査会に始まり、2000年に両議院で憲法
調査会ができて昨年4、5月に両論併記での報告書となった。しかしこれらは両論
併記で既に推進の基礎となる力を失っている。危険なのは昨年7月小泉劇場型選挙
で絶対多数を得た自民党が10月に内容を固め11月の党大会で採択した「新憲法草
案」である。
 これは「憲法改正案」ではなく、いわば廃憲の「新憲法草案」であり、前文に「
天皇制の維持」を置き、戦争の反省を削り、国家が国民に奉仕するのでなく「国
民がその帰属する國を支える責務」を持つ。また9条の陸海空軍廃絶と國の交戦
権放棄の規定を削り、國を前面に「國と国民の安全を確保するための自衛軍の設
置」となり、その任務は自衛のみならず「国際的に協調し、公の秩序を維持する
活動」と規定し、どこか一國と組めばいかなる他国をも軍事侵略し、或いは国内
で戒厳令にも使える。「軍事裁判所が設置」され、戦前の軍法会議のように「軍
の安寧を維持するためには」民間人にも管理権を持ち、自衛隊宿舎に反戦ビラを
入れただけで長期間拘留されるのはもちろん、43年ナチス・ドイツでの白バラ事
件のように大学で反戦ビラを撒いただけで片端から銃殺刑に処せられる可能性も
出てきた。自民党案には環境を守るなどの規定もあるがそれらはすべて解釈で通
してきたものであり、本心は再び大規模戦争をした戦前日本の復活で、他の改正
は真の意図を隠す目潰しか鎧の上の僧衣に過ぎない。
 小泉政権は日本では稀な強権・独裁政権であるが、外交では徹底してアメリカ密
着、アジア敵対である。ブッシュはそもそもゴアとの選挙で正確に票を数えれば
負けていたはずの疑惑の大統領であるが、傲慢で世界の多くの人達が敬愛した「
寛容、法治、博愛の超大国」を国連憲章無視、京都議定書無視、一国至上、無法
、好戦の政権となって世界で友人を失い、敵を作り、過激に走らせている。その
ブッシュ政権が唯一の友たる小泉政権に求めるのが、極東から中近東への「不安
定の弧」で日米共同作戦ができる憲法改正である。膨大な軍備を抱えるアメリカ
も日本自衛隊も、常に敵が必要である。冷戦の終結で共産主義の敵を失ったアメ
リカが新たに作った主敵はイスラム諸国であり、また新たに台頭する中国も標的
に置く。そこでアメリカは朝鮮半島、台湾海峡、アラビア海に日本軍隊を米軍と
ともに戦わせるための米日軍再編に到る。中国に対抗させる米印協力も怠りない
。岩国市民や沖縄県民などは視野にない。
 確かにこれまでわれわれは改憲の既成事実化を止められなかったが、明文改憲を
求めるブッシュ政権はアメリカ国内でも批判の声は日に日に高まり、国際社会で
も孤立の傾向にある。小泉政権も9月には終わる。幸い小泉政治反省の動きもあ
り、小泉続投の声は殆ど聞かれない。われわれも一ふんばりして日本とアジアと
の友好関係を樹立し改憲の動きに止めを刺さねばならない。(野村光司)
     
 

労研復刊13号

長崎平和推進協の「被爆者は政治的発言の自粛」要請について

                                         米澤鐵志

322日「朝日新聞」夕刊によれば長崎市の外郭団体である長崎平和推進協会が証言活動をする被爆者に「政治的発言」の自粛を求める文書を渡し、これに反発した被爆者等は文書の撤回を求めているが推進協はこれを拒否していると書かれている。

さらに文書の内容として、被爆体験講話を行う場合「意見の分かれる政治的問題についての発言は控えよ」として@天皇の戦争責任A憲法(9条)の改変Bイラクへの自衛隊派遣C有事法制D原子力発電E歴史教育・靖国神社F環境・人権など他領域G一般に不確定な問題の発言(劣化ウランなど)があげられている。

 長崎の「被爆体験の継承を考える市民の会」など被爆者たちは、戦争・原爆を語るに「政治」の問題抜きには語れない、言論の自由に対する侵害として文書の撤回を申し入れているといい、推進協設立の前本島長崎市長も「一つの価値観への忠誠を強いて戦争へと突き進んだかっての道が現れた」と報道されている。

 今の戦前への右傾化の進んでいる中で、先の八項目のような問題で立場を明確にするのが難しい風潮の中で、被爆者は唯一といっていいぐらいそれが出来る。被爆者は体験を語るとき自民党支持者の人や保守的な人でも、あの戦時下の非道な状況を語らざるを得ない。また体験を聞いた市民や学生、子供たちも何故そんな理不尽なことになったかの質問をし平和と反核の重要性を意識する。

 私は小学校、中学校などで被爆の話しをし、日本の戦争責任や、韓国、朝鮮人の被爆と差別の話をしているが、小学生の中には「かって日本は拉致よりもっと酷いことをしたんだなあ」という感想文をくれる。そういう意味でも被爆体験談は今の流れにきつい対抗になりうるし、そのことが今の権力、為政者にとって目障りなのであろう。

 平和推進協というのは京都でも各自治体ごとにあり、婦人団体、青年団体、福祉団体や青年会議所など広範囲の団体が参加しており(長崎も一緒だと思う)宇治では平和月間として毎年記念講演、映画、(去年は吉永小百合の峠三吉の原爆詩や神田香織の講談はだしのゲンをやった)など行い8・15には二度と戦争は繰り返さないという平和の像の前で集会と献花を行い、推進協会長の宇治市長が平和宣言を行うが、その中身は戦争の反省と核兵器廃絶への願いがこめられ非常に格調の高いもので、広島、長崎または沖縄の訪問小・中学生の献花もあり、全市議も参加市民有志も誰でもが参加できた有意義な集会であった。

 ところで長崎の記事を読んで気になることを思い出した。

財団法人京都府原爆被災者の会は40人ぐらいの語り部を持っていて、あらゆる場所で体験講話を繰り広げているが、昨年末語り部交流会の会場で被災者の会会長が「体験講話は事実にもとずいた体験を話すだけにし、戦争反対などの意見は言うべきでなく、聞かれれば個人の意見と前置きして意見を言って欲しい」と要請された。

私は直ちに今の会長の意見はきわめて政治的で、核を語るのに政治や人生観を抜きにした講話はありえない。私の被爆体験の中身は日本の戦争責任とあらゆる戦争に反対する行動の呼びかけであり、それが生存するヒバクシャの任務だと考えていると発言した。

他の人からも被爆を通じて持った人生観や生き方を語るのは当然だという意見が多かったが、米澤さんのような体験講話は被爆者の会の肩書きでなく、被爆者個人としてやって欲しいと要請された。

もともと私は被爆者の会からの要請で体験講話をしたことは無く、昨年の15回の講演も個人に要請されたものばかりだったので、まあ勝手にやるかと思っていたが、会長発言が一つの流れだと考えられれば語り部の中に問題を持ち込む必要があるか考えている。

また平和推進協の中に動きが出れば、今までの路線が変更されないように働きかけねばとおもっている。

2006323日                        米澤鐵志

 




「マスメディアとどう付き合うか」 井上遥

歴史をふりかえってみると、マスメディアの流す情報によって国民の判断力が狂ってしまった例があまりに多い。情報あふれる現代社会を情報の海でおぼれず生きていくためには、苦い過去に学ぶことがとくに必要となる。また、情報を受ける側も常識をもたねばならない。「真珠湾はどこにありますか?」と聞かれて「ハイ、三重県です」と答えるような若者は、心まで簡単に操られてしまうだろう。

マスメディアは何を伝え、何を「伝えなかった」か? 人々はマスメディアにどう影響されたか? そして、われわれはマスメディアとどう付き合うべきだろうか。満州事変から現代までの流れを追いながら考える(注=今はテレビの影響が大きいが、テレビが現れる前の影響力第1位は新聞。あとは出版物・ラジオなどであった。以下、引用した『朝日』は単なる例示。他紙が優れていた、という意味ではまったくない)

                   *

@1931年9月18日、関東軍の石原莞爾・板垣征四郎らが柳条湖事件を起こす。満州事変の始まりである。戦時国際法の適用を避けるための、「事変」と称する宣戦布告なき戦争であった。この事件について9月19日付『東京朝日』は「本日(注=18日)午後十時半、北大営の西北において暴戻なる支那兵が満鉄線を爆破し、我が守備兵を襲撃したので我が守備隊は時を移さずこれに応戦し、大砲をもって北大営の支那兵を砲撃し北大営の一部を占領した」と、事実関係を正反対に報じた。さらに9月25日付『朝日』でも「日支衝突の導火線 満鉄爆破現場を視る」「支那兵計画的の形跡歴然たり 島本中佐(注=北大営攻略を行った人物)の説明を聞く」の見出しで、ありもしない「支那兵の爆破方法」を紹介した。間違い情報を信じた国民の間には「反支那感情」が高まっていく。32年3月、満州国の建国宣言。33年3月、満州撤退勧告案を採択した国際連盟から日本は脱退する。

この間の報道について江口圭一氏は「柳条湖事件以下の謀略の真相を秘匿し、日本軍への感謝と賛仰の念を煽る一方、中国・連盟・欧米への敵意と憎悪の念をかきたて、民衆を排外主義・軍国主義へ動員する上でマスメディアは絶大な役割を演じた」と述べる(『十五年戦争研究史論』校倉書房)。だが一方で、中国民衆の視点による報道はゼロである。その結果どうなったか。江口氏が注目するのは、「生活に恵まれない人の方がむしろ好戦的であり排外的であった」点である。たとえば9月20日『神戸新聞』に載った「車夫」の言葉「一体から幣原があかんよって支那人になめられるんや。向こうからしかけたんやよって、満州全体、いや、支那全体占領したらええ。そしたら日本も金持ちになって俺らも助かるんや」など、事件への民衆の「怒りの」反応を引用しつつ、「恐慌でもっとも強く痛めつけられた無産大衆の憤懣は反体制的に結集されないまま国外の敵に向かって吐き出され、その敵を相手に酷寒の異郷で奮戦する同胞への同情に結実された」(同)と指摘する。民衆は情報操作に影響されやすいのである。

★同じころ、ドイツでは33年1月30日、ヒトラー内閣成立。2月27日、ナチスのゲーリングらが仕組んだと見なされる国会議事堂放火事件。国家秘密警察(ゲシュタポ)を作ったゲーリングはナチス幹部としては真っ先に放火現場へ駆けつけ、「そこで大喜びした」という(現場にいた兵士の話)。3月23日、全権委任法成立。そして33年5月には焚書。ゲッベルス宣伝大臣のもと、ドイツ各地で行われ、ヒトラー政権に禁止された書物を焼き払った。禁書の著者の1人、ハインリヒ・ハイネが記した「焚書は序曲にすぎない。本を焼く者は、ついには人間を焼くようになる」(戯曲『アルマンゾル』、1823年)との警告は無視され、のちに強制収用所で「人間が焼かれ」ていったのである。「本を焼く者」とは、「自分の気に入らない言論を抹殺する者」のことでもあり言論抑圧や伏せ字まじりの戦争報道が行われた日本にも「本を焼く者」はいた。7月、ヒトラー内閣は新しい政党の結成を禁止し、ナチス以外のすべてが非合法化される。10月には国際連盟を脱退する。

A37年7月7日の盧溝橋事件をきっかけに、日本は中国との泥沼の戦いへ突き進んでいく。事件から3か月後の11月5日未明、日本陸軍は杭州湾岸の金山衛に敵前上陸する。南京攻略戦の始まりである。11月8日付『読売』には「敵軍唖然たり・奇襲の杭州湾上陸」の特大見出しの下に「突如潮の如き大兵団 我陸海軍の威力発揮 上海戦史上を飾る圧巻」「百万の皇軍上陸」「日章旗の下支那良民が道案内」の見出しがおどる。ここで、「『我』陸海軍」は軍隊と一体化した表現であり、今の第2次イラク戦争でのアメリカのテレビと同じ報道姿勢である。「皇軍」とは天皇の軍隊を意味する皇国史観用語。そして「支那『良民』」とはなんと自己中心的な言い方であろう。文中には「○○隻の護送船」「○○部隊」「○○基地」「○○から顔を出して」「○○機」など、「○○」が並ぶ。

12月17日に南京入城を迎えるまでの1か月余りの攻略戦の過程で日本軍による20万人とも言われる中国人大虐殺がおきたが、その実態は国民に知らされないままであった。三越は南京占領直後の15付『朝日』に「南京陥落を祝す」「皇軍万歳」と大きくかかれた半ページ広告を載せ、18日付『東京日日』は「青史に燦たり・南京入城式」「武勲の各隊・粛然堵列 松井大将堂々の閲兵」「敵首都に『君が代』 高く掲ぐ日章旗 瞬間、全将兵感激の涙」と報じた。紙面には喜びが満ちあふれている。しかし、家を焼かれ食料を奪われ家族を殺された中国人への気づかいは、どこにも見あたらないのである。

B39年5月、ノモンハン事件(ハルハ河会戦)が発生し、関東軍はソ連軍との戦いで多数の犠牲者を出したが、実態は国民に知らされなかった。

C雑誌も戦争を強く支える。40年8月21日号『アサヒグラフ』は「ぜいたくは敵だ!」と題する記事を載せた。「戦争はまだ続いている。兵隊はまだ戦っています。しかし、一度街頭を瞥見すれば其処(そこ)には新体制も七・七禁令も興亜奉公日も忘れた旧態依然たる虚飾と有閑とが豊富に取り残されているのに気付きます」と書き、町を歩く女性の服装を写真入りで採点した。「20点」の女性は「三〇度に傾いた帽子(ベレエとルビ付き)、その下にパーマネントと首飾り、腕に腕輪を、手には手袋、しかもどこで手に入れたかシルクの靴下にハイヒール、右手に持ったお買い物、完全無欠の欧米風俗。まさに有閑令嬢の感じ濃厚。『支那で戦っているのは一体何処(どこ)の国だ』とお聞きしたくなります」との酷評を受けている。「なぜ支那で戦う必要があるのか。引き揚げるべきだ」という記事は当然ながら出ない。こうして、雑誌も国民の暮らしを窮屈なふん囲気へと追いやっていったのである。

D41年12月8日の真珠湾攻撃から敗戦までのあいだ、マスメディアは軍隊の宣伝機関と化し事実をゆがめながら先頭に立って国民をあおり続けた。ミッドウェー海戦での敗北を「勝利」であるかのように描き、ガダルカナル戦では「撤退」を「転進」と書き、餓死・病死が続出した悲惨な現実は伝えなかった。原爆投下の翌日、87日付『朝日』に出たのは「B29二機は広島市に侵入、焼夷弾爆弾をもって同市付近を攻撃、このため同市付近に若干の損害を蒙った模様である」という程度の記事だ。さらに12日付では「われ等は、かかる新兵器に断じて屈服するものではない」と、事実を直視せずただ強がっている。敗戦のわずか3日前のことであった。また、真珠湾攻撃で戦死した特殊潜航艇乗員9人を「軍神」とたたえた42年3月7日付『朝日』には、三好達治の「九つの真珠のみ名」、吉川英治の「人にして軍神」と題する賛美の文が掲載された。しかし、乗員の残り1人・酒巻少尉が米軍の捕虜になった事実は国民に伝えられていないのである。新聞社自身も積極的に戦争協力の態度をとりつづけた。「軍用機献納運動」「勤労報国隊歌の歌詞募集」「国民決意の標語の募集」はその例である。

E戦後の動きを見よう。

56年5月8日、『西日本新聞』が「水俣で伝染性の奇病」と報じる。しかし熊大研究班は「工場排水が原因」と指摘し、伝染病説を否定した。その後、すでに42年には水俣病患者が発生していたことが病院のカルテから判明した。だが、水俣病は長いあいだ軽視され、報道はまったく不十分であった。

ベトナム戦争報道についてはあまりにも問題が多いので、ここではごく1部だけ例をあげる。64年8月、ジョンソン大統領がトンキン湾事件を口実に北爆開始。ニクソンに代わったあとの71年6月、『ニューヨーク=タイムズ』が国防総省秘密報告を暴露したが、事件当時、米国民は北爆へ向けた謀略の真相を知らされなかった。ジョンソン時代の68年に起きたソンミ虐殺事件もニクソン時代に同紙が記事にした。だが、ソンミの2倍の村人がアメリカ軍に殺されたといわれるニクソン時代のバランアン虐殺は黙殺された。これら同紙の報道の仕方には情報操作のにおいがする、との指摘がなされている。

67年のベトナム戦争の報道で、『朝日』は見出しに「ベトコン」、文中では「民族解放戦線(ベトコン)」を使ったことがある。ゆれ動く報道姿勢の象徴ともいえる。また、ベトナム戦争を命がけで取材し、『戦場の村』など多くの優れた報告を世に送った本多勝一氏によれば、ベトナム戦争時、南ベトナムにいた米人ジャーナリストのほとんどはアメリカ軍から情報を得ることが圧倒的に多く、「○○軍曹はいかに勇敢にベトコンを殺したか」式の記事を書いていた。戦争批判はせいぜい、「今のやり方ではアメリカ合州国にとって戦術的に良くない」といった程度のものであり、「ベトナム人のために良くない」との批判ではなかったというのだ(『ジャーナリスト』本多勝一集18巻、朝日新聞社)。さて、今の第2次イラク戦争の場合、「イラク人のために良くない」との戦争批判は日本のマスメディアにどれだけ登場したのか? 第2次大戦中、「中国人のために良くない」「朝鮮人のために良くない」との批判がどれだけあったのか?

 89年1月の天皇死去報道の際、『朝日』『毎日』『読売』は1面で「崩御」を使っている。異論を許さない非寛容な「自粛一色」社会への雰囲気をつくる上で、マスメディアは戦前の経験にこりず、またしても先導役を果たしたといえよう。

94年6月、松本サリン事件でマスメディアが被害者の河野義行氏を初めから犯人扱いし、人権を侵害した。たいへん罪深いことである。

96年には、「ナチ『ガス室』はなかった」を掲載して廃刊となった『マルコポーロ』(文芸春秋。田中健五社長)の花田紀凱編集長を、朝日が創刊誌『uno!』編集長に迎えた。この人事は社の内外から強い反発を招き、雑誌は大赤字を出してまもなく廃刊に終わったが、桑島久男出版担当役員は失敗の責任を取らなかった。また、2005年、朝日が『週刊朝日』の企画に関して武富士から5000万円を「編集協力費」名目で受け取っていた事実が発覚した。朝日にはそもそも「編集協力費」なるものが存在しない。バレたのは、事件から4年以上も後のことである。この間、自浄作用はまったく機能しなかった。おまけに、このときの箱島信一社長以下への処分は非常に軽い。会社の体質がおかしいのだ。

2006年1月15日付『朝日』には、山名「エベレスト」が12回も書かれた記事が大きな写真つきで載っている。紙面製作者には何も問題意識がないのだろうか。「エベレスト」はイギリス人のインド測量局長官、ジョージ・エベレストにちなむ名だ。そこに生活している人々が使う言葉を少しは尊重してはどうだろうか。チベット名「チョモランマ(大地の母)」、ネパール名「サガルマータ(世界の頂上)」くらい記載すべきだ。ついでだが、アラスカのマッキンリー山は米大統領名にちなむ。これも勝手な言いかただ。先住民はデナリ(偉大なもの)と呼ぶのだから。

2005年、自民党政治家、安倍・中川による、NHK番組への介入事件が明るみに出た。介入を進んで受け入れたNHKの報道が信頼性を欠くのは当然であろう。2005年12月21日、番組改変当時の担当デスク・長井暁氏が東京高裁で証人として述べた言葉の中で、次の個所は『朝日』『毎日』『読売』には載らず『東京』『赤旗』に載った。「NHKの職員がNHKにマイナスになることを言っていいのか、かっとうがあった」(『赤旗』)。「でも、ここで本当のことを言わなければ一生、後悔すると思った。組織人として正しくなくても人間として正しく生きようと思った」(『東京』。『赤旗』もほぼ同文)である。彼は「責任を感じる能力」を持ったジャーナリストの1人だ。

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ここで、「責任を感じる能力」、そして「恥を感じる能力」の意味を、音楽家の生き方を例に考えてみよう。

パブロ・カザルスは、独裁者フランコ(スペイン)への反対を貫いたカタルーニャ出身のチェリストである。ピアニストのコルトー、バイオリンのチボーとトリオを組んでいたことがある。そのコルトーが戦後、フランスのプラードに住むカザルスを訪ねた。そのときの様子が『パブロ・カザルス 喜びと悲しみ』(朝日新聞社)に描かれている。

「だれかが玄関のドアをノックした。私がドアを開けると、アルフレッド・コルトーが立っていた。彼を見ると私はひどい痛みを感じた。悲しい過去の日々がまるで昨日起ったかのようによみがえってきた。私たちは立ってお互いに顔をみあわせたまま、一言もいわなかった」

 実はこの来訪の数年前、ナチス支配下のフランスで力添えを頼んできたカザルスに、コルトーは冷ややかな態度で接していた。そのころコルトーはナチスへ協力しており、反ファシズムのカザルスとは立場が違っていたのである。

「そのとき彼の行動が理解できなかった。しかし、まもなく、コルトーが公然たるナチの協力者になったときに、なぜ彼が私にこんな仕打ちをしたか、悲しいかな、わかった。恐ろしいことだ、人は恐怖や野心でとんでもないことをしでかす」

 そして、かつての演奏仲間を前に、コルトーは言う。

「彼はぽっつりぽっつり話しだしたが、目は伏せたままだった。(中略)初め彼は自分のおかした行為を弁明しようと、もそもそと話しだしたので私は止めさせた。すると、せきを切ったように、『ほんとなんだ、パブロ。世間で言ってることは本当なんだ。私はナチと協力したんだ。私は恥ずかしい、ひどく恥ずかしく思っている。君に許しを乞いにやってきたんだ・・・』。これ以上なにも言えなかった」

 しかし、そんなコルトーはまだ、「恥を感じる能力」を持っていた。カザルスは「責任を感じる能力」をも備えていた。「能力」を有するこんな人々がマスメディアに登場すれば、その影響で「考える読者・視聴者」は増えていくだろう。だが一方で、それは権力者にとって危険なことだ。

 ヒトラーは『わが闘争』(角川書店)の中で大衆操縦法に触れている。「ジュンイチロウ・コイズミ」(アメリカ式読み方。この人が従うブッシュ大統領も恐らくそう読むであろう)という名の日本のコイズミ首相の手法ときわめてよく似てはいないだろうか。

「宣伝はだれに向けるべきか? 学識あるインテリゲンツィアに対してか、あるいは教養の低い大衆に対してか? 宣伝は永久にただ大衆にのみ向けるべきである!」「(宣伝の)知的水準は、宣伝が目ざすべきものの中で最低級のものがわかる程度に調整すべきである。それゆえ獲得すべき大衆の人数が多くなればなるほど、純粋の知的高度はますます低くしなければならない」

最も簡単な概念を何千回もくりかえすことだけが、けっきょく覚えさせることができるのである。変更のたびに、宣伝によってもたらされるべきものの内容を決して変えてはならず、むしろけっきょくはいつも同じことをいわねばならない」

大衆を引き込むためには難しい言い方をしてはならない、と説くのである。そしてヒトラーは影響力拡大の手段として新聞が重要であることを良く分かっていた。「新聞は一般的に言って、いくら高く評価しても過大評価されるということはありえない」と彼は言う。そして読者を3つのグループに分ける。第1は読んだものを全部信じる人々、第2はまったく信じない人々、第3は読んだものを批判的に吟味し、その後で判定する頭脳をもつ人々である。

「第1のグループは数字の上からは、けたはずれの最大グループである。かれらは大衆からなっており、したがって国民の中では精神的にもっとも単純な部分を表わしている。(中略)自分で考えるだけの素質もなければ、またそのような教育も受けていない人々は、みなこのグループにはいる。そしてかれらは半ば無能から、半ば無知から、白地に黒く印刷して提供されたものを全部信じる

「第2のグループは数ではまったく決定的に少なくなる」

「第3のグループはけたはずれて最少のグループである。かれらは生まれつきの素質と教育によって自分で考えることを教えられ、あらゆることについてかれ自身の判断を形成することに努力し、また読んだものはすべてきわめて根本的にもう1度自己の吟味にかけて、その先の結論を引きだすような、精神的にじつに洗練された頭脳をもった人々からなり立つ」

 ヒトラーは批判精神の持ち主をきらう。だから、第3グループは目ざわりな存在である。しかし、心配はいらない。

(かれらは)ジャーナリストなどは通例として、真実をただたびたび語るにすぎない詐欺師とみなすことに慣れてしまっている。しかし残念なことは、このようなすぐれた人間の価値が、まさにかれらの知能にだけあるにすぎず、その数にはないことである」

 これで、ヒトラーは安心できる。

「このことは賢明であることに意味がなく、多数がすべてであるような時代における不幸なのだ。大衆の投票用紙があらゆることに判決を下す今日では、決定的な価値はまったく最大多数グループにある。そしてこれこそ第1のグループ、つまり愚鈍な人々、あるいは軽信者の群集なのである」

 ヒトラーは「愚鈍な人々、あるいは軽信者の群集」を取り込むことに神経を使う。だから、「これらの人々がより低劣な、より無知なあるいはまったく悪意のある教育者の手に落ちるのを妨げることは、もっとも重要な国家および国民の利益である」と考える。では、そのために何をすべきか?

「国家はそのさい、特に新聞を監視しなければならない。なぜなら、新聞の影響はそれが一時的ではなく継続して与えられるから、これらの人間にきわめて強烈でしかも効果的であるのだ。こうした教育が変らぬ調子で、永遠にくり返されることの中に新聞のもつまったく比類のない意味がある」

 だから、言論の自由が保障されると困るのだ。というのは、「あらゆる手段は1つの目的に役立たせなければならない、ということを国家は忘れてはならない」からである。

「国家は断固とした決意で民衆教育のこの手段を確保し、それを国家と国民の役に立たせなければならない」 

事実と真相を語れ」「自由な言論を」とは決して言わない。だれよりも強大な権力を愛したヒトラーは、だれよりも言論の自由をきらったのである。

                    *

いま、当時と同じ誤りを繰り返してはならない。ヒトラーの言う「第3グループの読者」が増えれば世の中は良くなっていくのだ。そのためには情報に受け身で接するだけではいけない。飛びこんでくる情報を鵜のみにせず、「自分の座標軸」を持って受け取る必要がある。そしてマスメディアには意見をどんどん言うべきである。それによって報道する側の緊張感も高まり、情報の流れが一方通行のまま終わらなくなる。意見が紙面・番組に反映されていけばマスメディアの質は高まっていくだろう。もっとも、「いかなる国民も自分の水準を超えるマスメディアを持つことはできない」のかも知れないのではあるが・・・。しかし、もし読者・視聴者の意見が反映されないのであれば、納得のいく新しい媒体の出現に期待せざるをえない。いや、現れるべき時はもう今、きているのではなかろうか。

 

重慶から8.6平和アピール


 かまきり通信  第一九号(山陰・島根より)

 

アメリカ追随の小泉政権はわれわれを何処へ連れていくか H・Y

〜いまこそ全国民的抵抗を〜

                                               

 三点セットとか四点セットとか呼ばれてきた(過去形で語られるのがいかにも情けない)自公政権の失政の集点をめぐる攻防は、口にするのも腹立たしい民主党のチョンボのお蔭で、いまいち野党側の気勢が上がらない。反対に自公与党にとっては勿怪の幸いとなり、ひところの浮き足立ったそぶりがウソのように掻き消えて、もとの図図しさを取り戻している。

 だが小泉さんよ、喜ぶのは早すぎるぞ、あなたの悪政のタネがなくならない限り、国民からの手痛いシッペ返しもまた免れられないというものだ。アメリカの世界戦略の転換がもたらす極東米軍の再編計画は、彼らにあごで使われっぱなしの小泉政権と日本国民との間の矛盾をいやおうなしに激化させる。

 サル十二月には厚木基地の米空母艦載機の移転計画に対し、岩国市民は痛烈なノーを突きつけた。そしていままたアメリカ側は、沖縄からグアムへの米軍移転費の七五%(八八五〇億円)というべらぼうな金額の負担を日本側に押し付けようとしており、国民の反発を招くのは必至である。

 しかし小泉政権と与党の首脳は、これに無条件で応じかねない破廉恥な姿勢を見せ始めておいて、少しの油断も許されない。額賀防衛庁長官の国会答弁を聞いていると、今人物、風貌は村夫子然としているが、なかなかのしたたか者らしく一筋縄ではいかぬ悪知恵の持ち主とみた。くれぐれも要注意。

 

さて弥生三月も、はや下旬である。九日には日銀の「量的緩和政策」五年ぶりの解除というしろものにはなにがなんだかよく分からぬ改変が行なわれたわけだが、要するに庶民の「預金」には底ばいが続き(ホンのちょっぴり金利が引きあげられるという話が一部にあるにせよ)、その反面「住宅ローン」は確実に上昇局面に向かっていくというのだから何のことはない、すべてこれ従前どうりの金持ち優遇・弱者切り捨ての金融システムの続投と言うことなのだろう。

 更にはPSEマークをめぐる零細リサイクル業者や消費者泣かせの経済産業省の施策の問題がある。最小限の気配りも欠いた今度のやり口に対する抗議の声は、無神経な官僚連中を大慌てさせるほどの高まりを見せた。

 こうして現状への怒りはじはじはと国民各層に広がり、秩序の壁を揺さぶりはじめている。

 終わりにもう一度日米関係に立ち返ろう。ブッシュ大統領は、二十一日の記者会見で在イラク米軍の完全撤退は、将来の米大統領とイラク政府が決める問題だと述べた。彼の任期が続く、後二年半以上もの間、イラク占領を続けると公言したわけである(彼の言葉どうり占領継続が可能かどうかは別として)

 ところで日本政府はどうするのか。彼らは陸自撤退の目安を本年五月ごろと非公式に表明してきたのだが・・・。われわれはキッパリト云おう。外国の軍隊が居すわる限り、イラクに平和は甦らない。

 小泉首相よ、今すぐ自衛隊を引き揚げさせなさい。

2006.3.24


編 集 後 記


国会で所得格差の問題が議論された。この問題は特に90年代後半から専門家のあいだで検討の対象とされてきた。ジニ係数は1人あたりのGDPなどといったマクロの計数とは異なって、国民生活のミクロの実体のすべての側面を表現することはできないが、国民生活の実体という見地からは考慮されるべき重要な指数である。

 小泉首相は答弁のなかで一方では、「見かけ上」ほどの格差はないが、将来格差が広がっていくことにつながる懸念はあると述べ、他方では格差の拡大は悪いことではない、従来は悪平等があって、「頑張るもの」が報われなかった、今ようやく光が見えてきたと「構造改革」を自画自賛した。「見かけ上」とは内閣府の発表(1月19日)で、ジニ係数の上昇は元来所得格差が大きい高年齢層世帯の増加や、核家族化の進行で所得の少ない単身者世帯が増えたことによるという見解を指す。そうだとすると「構造改革」の成果ではないことになる。こうした「自己矛盾」よりもっと重大なことは、もし内閣府の見解の通りだとすれば、高年齢層の低所得者あるいは貧困者に対する社会的支援という政策的問題をなぜ起こさなかったのか。この階層にはすでに税や社会保障負担の増額が現実のものとなっている。谷垣財務相は「統計の数学と人の実感とがある。注意深くみていかないといけない」と言う。ならば実行の以前に「注意深くみる」必要があったのではないか、要するに国民生活の実態は視野の外にあったということである。
 この点、日本経団連の奥田碩会長はいくらか異なった見解を示している。ライブドア問題に関連して、「マネーの世界が一つの産業として作られてしまった以上、それを利用する人がいても一概に否定はできない。ただ、マネーゲームの風潮が最終的に製造業を壊してはいけない」(2月2日、名古屋市で、『朝日』06.2.3)。奥田会長の発言はいくつかの問題を示唆しているようだ。第一に、国民生活を支える「実体経済」、生産および労働の根幹をなす部分が、いまやマネー経済―金融グローバリゼーション!―によって脅かされている危機感である。偶然かどうか、同じ新聞の同号に、松坂屋百貨店(名古屋市)が筆頭株主である「村上ファンド」から、全従業員の解雇や銀座店(東京)の閉鎖などを非公開に打診されていたことが2日に分かったという記事が載っていた。(UM06.2.25)


労働運動研究復刊13号 2006.4.発行

読者だより

 

読  者  便 り

柴山先生

拝啓 春たけなわです。花だよりも聞かれます。が、シベリア風の吹く能登路の桜は、まだツボミ。
 先生にはますます御健勝でご活躍のご様子、心からうれしくお慶び申し上げます。そして今度、「労働運動研究」を御恵贈賜り心から厚くお礼を申し上げます。
 特集、「目次」を見てビックリ。読みたい意欲にかられ宮地さんの「党大会決議中央委報告の分析」を初め、まずはほとんど読了いたしました。特に柴山先生、福田先生、栗栖先生を存じ上げており、また、藤井先生や佐藤一先生 大畑先生の御尊名もずっと以前から存知上げている関係から親しみやすく楽しみながら読ませていただき、勉強させていただきました。
 一方、岡田裕之先生の「わが反戦思想の原点」を興味深く読みました。と、申しますのは現「わだつみの会」理事長の石井茂さんとは、三十余年前からのお交際があるからです。
 また、文中の「青山学院」を懐かしく拝読させていただきました。私の娘(二女)が青山学院卒なんです。その昔、評論家の角間隆さんと車に同乗、たまたま青山学院の話が出て角間さんの事務所が学院前にある―という事でした。予断ですいません。
 栗栖先生は今でも御指導を受けており、藤井先生は隣県(富山大)の教授時代からの反スターリン論文を読み、机上には「ロシア革命史」(トロツキー著)があります。井上さんの「満州事変から現代まで―」は、私は少年時代ソ満国境の衛「東寧」に暮らしたこともあり“満州”は懐かしい文字です。   そんなこんなで、素晴らしい編集で 読む機会を与えて下さった柴山先生に改めて感謝申し上げます。
 同封したのは、私のうれしいい感謝の気持です故。ご笑納の程を。
先生の益々のご健勝と「労働運動研究所」の御発達を心からお祈り申し上げます。
この度は本当にありがとうございました。 

敬具                                                                 

2006.4.11                                                      D.H

 柴山健太郎様

復刊第13号、宮地論文のなかの「新社会党委員長栗原君子は、『生ましめんかな』詩人栗原貞子の娘で、親子とも、一貫して核廃絶運動をしてきた活動家である」(P4)との記述は正しくないのではないでしょうか。
 栗原貞子は夫の唯一(故人、元社会党広島県議)とともに戦前から運動を行い、戦後も占領下で『中国文化』誌に原爆特集号を発行するなどいち早く反核運動に取り組んだ人です。私の知る限りでは、唯一・貞子夫妻には娘が一人おり、名前は真理子といいます。君子が貞子と家族ないし婚姻関係にあるというのは間違いであると思います。
 上記論文はデータごとを独立させて、それぞれ肉付けして展開したら今後に向けて有効な問題提起になると思います(特にデータ1,2)。

                                      一読者                                                                                       

柴山健太郎様

拝啓 「労研」(復刊一三号)をいただきました。まことにありがとうございます。
 早速拝読、内容充実に感服、むしろ恥を覚えます。
 特に、日共史の研究家として著名な東海の宮地健一氏が公式に登場され、優れた実証研究を示され、たいへん学びました。
 また、藤井一行教授も登場していただき、これも歓迎いたします。
さらに、植村邦氏が武健一、脇田憲一両氏著につき紹介をされたのもありがとうごいます。
 それと申しますのも、いいだもも、生田あいの「協同・未来」のティ―ムが、この武、脇田の著作の出版を契機とし、またこれを活用して労働運動の活性化のために努力したいという目的で、三月、岡山、五月二〇日大阪で研究集会を開催する運動を推進しております。
 東京では六月に実施したい(同じ六月、水戸、七月、北海道の企画)と努力中です。つきましては、この六月集会に貴兄はじめ労研の方々にぜひ参加していただきたい。そのため私(栗栖)から勧誘してほしいと要請がありました。
 私は、いいだももとは古い交際で、貴兄が常東時代、いいだは常総同盟、さらに茨城県委員会常任でした。
 そのため、読んでもらうために武・脇田著作を柴山氏に送らねばなるまい、と申しましたら、早速二冊送付してまいりました。すでに植村氏はじめ労研の主要メンバーは当該書は読了されたと存じます。それなら蜂谷氏、山中氏等の研究家にお廻して下さって結構です。
 先般の由井格兄妹の水野津太さん出版記念会でも労研からは貴兄、福田氏、一柳夫人が出席して下さいました。
 六月東京集会の細部が定まりましたら改めて御連絡いたします。どうぞよろしくお願い申し上げます。
右取り急ぎお礼並びにお願いまで。

敬具                                                              

2006年4月9日                                                   栗栖宗孝

(PS)詳細は省きましたが、武健一氏の関西生コン支部は、現在日本で本格的に闘っている唯一といってもよい労組です。
 武・脇田著作の思い出「告発し、逮捕劇の暴露―生コン中小企業運動の戦闘的な挑戦」(安田浩(著)は、三十年以上にわたる関西生コン支部の闘争を書きとめた著作です。つまり、それは、中小、というが実際は小、零細、家内企業であるコンクリート・ミキサー業をいわば労組指導でカルテルを作り、大セメント企業独占資本に対抗しようとしてきた特別な、それ以外はなかった闘争形態でした。
 それだけ大資本とその国家権力としては、上からの協同(生産)組合ではなく、労組がヘゲモニーを握る生産・経営協同組合組織を弾圧する必要があったのです。この大企業(と御用組合)−下に位置する小零細企業―それらの従業員(主として運転手)の組合という重層構造における労働運動という難課題を武健一はほとんど独力で推進し(ついでに     !!)共産党員三百人の細胞を築きつつ除名されたという経歴の持主です。ぜひ、ご理解ご支援下さい。

 

柴山健太郎様

 労働運動研究・復刊13号、ただいま頂き、84−86頁を読みました。有り難うございます。
 私の方からは、雑文、雑資料しか送れず、すみません。情報として何かの役に立ててください。  

             元下関大学学長下山房雄06/04/06

                                                                               

 

労研会員S・T

春暖の候、お元気でお過ごしのことと存じます。

 私は、3月22日に老人ホームに入所し、半月が経過しました。「労働運動研究」誌の原稿を書き上げた翌日から本日まで半月、その間読書できず怠けています。もとはと言えば、家内が持病のウツ病が発症し、3月21日入院したためです。平常から私は糖尿傾向であるのに禁酒することができず、妻の強い請求により入院にいたったものです。当施設は恒久的な老人管理施設であり、高齢者の同室者は退院を予定している。


 新社会党本部 塚元健

拝啓

春といえ、寒い日がときどきやってまいりますが、大兄には御清祥と拝察いたします。このたびは、「労働運動研究’064月号」恵贈賜り、誠にありがとうございました。おもしろいテーマの論文がたくさん並んでいるので、早速よんでみようと思いました。よく、こんなおもしろいテーマの論文を編集できたなと感心しました。


 バイオハザード予防市民センター代表幹事 本庄重男
拝啓 
 桜も散り始め、あっと言う間の人生を感じます。昨日は、労研4月号を御恵贈下まして、誠に有り難うございました。魅力的な論文の数々で何から読み始めようかと一考。岡田裕之氏の「わが反戦思想の原点」を先ず読みました。小生より一年年長の方で、とても共感を覚える文章でした。B29米兵捕虜の話は感心一入、岡田さんのヒューマニズムの芯の強さを知りました。「共産党大会の真相データ」「コミンテルンと天皇制」も興味深く読みました。
 いずれにせよ、読み応えのある論稿を、かくも沢山集められる大兄の才覚と人柄の素晴らしさに感服いたします。どうかますますのご活躍を!!
 右御取り急ぎ御礼まで。
 くれぐれも大事になさって下さい。                                                                                                

                                        敬具

 


労働運動研究復刊第12号 2005.12

焦点 9条護憲の議論を推し拡げよう

特集 敗戦の60周年の総選挙と日本の進路

優勢労働者の現場                池田 実

持続可能で安定的な年金制度をどう構築するか   斉藤市朗

労働契約法制定の動向と問題点 中野麻美

鉄建公団訴訟9.15判決と国鉄闘争今後の課題()  川副詔三

日韓共通歴史教材  

―朝鮮通信使―豊臣秀吉の朝鮮侵略から友好へ―小早川健

新たな流動局面に入ったドイツ   

―波乱含みのメンケル連立政権―        小野 一

ドイツ連邦議会選挙における左翼党躍進の政治的背景   労働運動研究所 柴山健太郎  

―躍進の勢いは今後も持続するか?―      

正念場に立ったイタリア中道左派      

 ―問われるポロディと左翼の政治力―     茜ヶ久保徹朗

史上初の「欧州憲法」草案を読む()

―その人権と安全保障の思想を中心に―     中野徹三

立憲法治国家への廣造改革

―小泉独裁を導いた司法―           野村光司

小泉構造改革と9.11衆議院選挙がもたらしたもの

―「岐路に立つ日本を考える」シンポジュウムより―  植村 邦

酒井博さんと大須事件             鈴木 正

『山本正美治安維持法裁判陳述集・続裁判関係記録・論文集』に寄せて()  栗栖宗孝 

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労働運動研究復刊号第11号 2005.8
焦点 敗戦60周年を迎えて―「大日本帝国」の興亡から何を学ぶか
特集 日本帝国主義の敗戦60周年

60年目のレイエム(鎮魂曲)  吉村 励

―憲法第9条は私たちのほこり― 

 

インドネシアで敗戦を迎えて

―『馬南歌集残響』―     福田玲三

 

「改憲」「護憲」の神学論議を超えた憲法理念実現の共同戦線を    大郷武史

作り上げられた「板橋高校卒業式刑事弾圧事件」   板橋高校元教員 藤田勝久

東アジア情勢と朝鮮半島                      大畑龍次

DV(ドメスティク・バイオレンス)の基本計画策定を         亀井かな

BSE問題と市民の運動                       本庄重男

ドイツ・赤緑連語、7年で幕か?

―失敗・連敗続きのシュレーダー政権、繰り上げ総選挙へ―      小野 一

総選挙の準備進むイタリア・オリーブの木 首相の予備選挙で分裂危機を回避  茜ヶ久保徹郎

イラク戦争反対の逆風の中のブレア労働党の苦い勝利   柴山健太郎

ヨーロッパ憲法条約を否認したフランス  危機感を深める左翼論調   福田玲三

史上初の「欧州憲法」草案を読む(中)

―その人権と安全保障の思想を中心として―              中野徹三 

世界化のなかの現代中国  ポスト毛沢東・改革の道          植村 邦

新空想的社会主義―不破未来社会論批判(下)         日産自動車元労働者 田嶋知来

和やかに「松江 澄さんを偲ぶ会」開く―広島・サンプラザに各地から参加
編集後記





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編集後記
民主主義とは多数決による議決あるいは選出だけを意味するのではない。インドの経済学者アマルティア・センは、つとに、強調している。民主主義とはまず第一に「公共的なことがらに関する開かれた議論(パブリック・デベート)」である。パブリック・デベートを通じて、人びとは対象とするテーマについて情報を広め、あるいは自己の見解を変え,変えなお場合でも「多様な考え方(プルラリズム)」の存在にも寛容となることができる。
 小泉首相は「郵政」に執念を燃やしたが、議会で多数決をすれば済む問題であるかのようであった。テロ、貧困、地球環境などの複雑な世界的問題も、堡塁に囲まれた「首脳」会議によっては解決できない。パブリック・デベートとしての民主主義、「デベートによる統治」のビジョンは、世界的水準にまで広げねばならない。A・セン等の主張するように民主主義を広いビジョンとして捉え、崩れかけている「現代民主主義の公共的文化」(J・ロールス)を保全し展開することが緊切にもとめられている。



労働運動研究復刊第10号 2005.4

焦点 地球環境問題の深層を議論しよう

あなたのしあわせ=わたしのしあわせ?
―「家族の価値」をおしつける24条改悪論の危機―   本山 央子

特集 労働・生活・社会の人間化をめざして

均等法改正の動向と課題  中野麻美

増加する過労死・過労自殺の労災補償の問題点
―「病める経済大国」日本の脅かされる労働者の健康と生命―  玉木 一成

東芝府中工場の人権擁護の闘い     上野 仁
―――――――――
「東アジア共同体」を展望する(下)
―経済統合から多層的展開へ―  蜂谷 隆

島根県議会の「竹島の日」条例によせて   吉田 英夫

竹島領有権問題試論   野村 光司

未来に向けた国際労働運動のグローバル化の構築をめざして
―第18回国際自由労連(ICFTU)世界大会―  労研編集部

イラク戦争2周年で市民集会と抗議デモ  吉田 英夫

新空想的社会主義―不破未来社会論批判(上)  田嶋知来

綿花生産農民の実状
―マリ共和国カッディオロKadiolo県ミセニMisseni郡の実例から― 溝口 大助

「新しいオリーブの木」(FED)誕生で優位に立つ中道左派
―来春の国政選挙に向けベルルスコー二政権の危機深まる―  茜ヶ久保徹郎

EU憲法の議論と社会的現実
―諸国民統合の経験に学ぶこと―  植村 邦


日中戦争下の台湾・朝鮮人学徒兵のこなど(下)  小島 晋冶

<松江 澄さんを偲ぶ>
 原水禁運動の先駆者・松江 澄さん逝く   柴山健太郎

 また一つの星が消えた  米沢 鐵志

 松江さんさんの真摯さ  宇仁宏幸

 前へ!前へ!明日に向かって闘いつづけた松江 澄さん  田中 寿 


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労働運動研究復刊第9号 200412

焦点
   
 新潟県中越地震の教訓を活かそう

 2004年は日本列島が度重なる自然災害に見舞われた年として記憶されるであろう。酷暑の夏の後に連続した10個の大型台風が各地で人身や市民施設に深刻な被害をもたらし、その復旧がままならないうちに余震を伴う強震度の中越地震が発生した(1023)。列島の形成に由来して水文・地質学的に脆弱なわが国で、人間社会と自然との「共生」のあり方を見直そうとは、阪神淡路大震災(95年)を待たずとも、常に唱えられてはきた。だが、「共生」のための具体的な行動はまたまた厳しい反省を求められている。
 第一に、地震発生に伴う緊急の救援体制システムの問題(いわゆるソフトの問題)がある。この点は、阪神淡路大震災の経験から一定の進歩は認められた。だが、現場の市民および自治体の行動に対して公共機関の広域的な連携行動を即座に効果的に組織するシステムには不足が指摘される。上部(国家、都道府県)公共機関のいわゆる「縦割り」組織の欠陥は十分解消されていない。この問題に際して、自然災害は局地的な自治体および個人、ならびに個別のインフラ施設の「防災力」ではまったく対処できないということから、出発しなければならない。ソフト面でも、ハード面(防災施設)でも共同的・総合的な活動が必要である。
 次に、新幹線や高速道路、その他のインフラ施設は地震動による直接的な被害に加えて、地滑り、斜面崩壊、土砂流出によっても甚大な拐壌を被った。かつて新幹線、高速道柘等は「国土の均衡ある発展」をスローガンに国営・公営事業として建設された。「均衡ある発展」という目標は多くの人々に受け入れられた。今日はどうか。今日は「均衡」ではなく個人の、自治体の、諸団体の間の「競争」が声高く叫ばれる時代である。一体、「均衡」や「共生」の実績に対してどんな批判がなされたのであろうか。熊が人間生活の領域に出没する現象は、こうした反省欠如のシンボルというべきである。
「国土の均衡ある発展」のスローガンのもとで、「土建型」公共事業が行われたことは確かである。一口に、政官業学の「癒着」、官僚組織の肥大化と予算執行の弛緩・不正、談合(民間、官製)の蔓延などが指摘される。
それは正しいとしても、いかにしてそうした経緯をたどったのか、そこに問題がある。もっと個々に、具体的に追及されねばならない。
こうした追及はいくつかのダム・河口堰の建設や干拓地造成等の事業をめぐって住民組織や環境団体からなされている。そこから判明することは、「癒着」や談合によって「うまみのある」事業に公共予算が食い尽くされ、基礎的な治水・地山事業などには人手も資力も回らなかったということである。
 いま、小泉政権と自民党、財界は財政再建ならびに「宮から民へ」の掛け声で「道路」私営化、「三位一体」、「郵政」私営化を進めている。「自己責任」の名のもとで「均衡」と「共生」とに関する予算は削減される。人々の生活の安全、「均衡」、「共生」のために必要なことは「民営化」(=私営化)ではなく、人々が社会生活における「私」と「公」との分担を吟味し直し、必要な「公営」部分を再建させ事業(人の力と資力の結合)の運営方法に合意することである。(UMO41110

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労働運動研究』復刊第8号  発行  2004年8月
  目次
2004年8月 復刊第8号(通巻392号)ISSN O910−5875
労働運動研究
ー人権・共生・福祉・環境のためにー
焦点 政党は「理念」をもって政策を議論せよ
特集 政局を転換しうる野党連合を築くために

004年8月 復刊第8号(通巻392号)ISSN O910−5875
労働運動研究
ー人権・共生・福祉・環境のためにー

焦点 政党は「理念」をもって政策を議論せよ

 正常ならば今後3年ほど大規模な国政選挙はない。この間に実行すべき内政・外政に関して、今回の選挙で明確な方針が議論され選択されたとは言えない。いつものように、いずれも具体的な内容は先送りされた。 たしかに年金制度に関して多くの人々に制度そのものの存立への不信、国会における政府、議員、官僚の「いい加減な」姿勢に対する不満が高まっていた。これに対して自民・公明の与党はもっぱら制度の会計的な必要性(それも正確な計数を隠して)を強調し、内容の改革は先送った。民主党、社民党は「あるべき」給付水準を提案した割には、増税も見込むと言うほか財源には具体性が欠けていた。
 共産党(チラシ『共産党です』など)は、軍事費の「半減」、公共事業の「生活・福祉・防災・環境」中心へのきり変えによって、社会保障を「税金の使い方」の「主役」に据える。他方で、「税金の集め方」は「大企業と高額所得者」に「ヨーロッパなみに応分の負担」を求める。この政策提案は、与党、民主党・社民党が報酬比例部分年金(厚生、公務員共済から議員年金や基金にいたる)の改革(いわゆる一元化など)を提唱しているとき、第三の勢力としての提案であるとしても、多数派の形成を期する提案ではなかった。
 すでに幾人かの専門家は注目に値する提案をしている。神野直彦・金子勝は現行の年金保険料を所得に比例する社会保障税に転換する、企業は従業員の拠出負担に代えて賃金税を払う方式を提案している。森永卓郎(『中央公論』04.7)は、財源の拡充を提唱する(制度間の均整化は必要である)。a保険料算定の上限を撤廃する、b法人税を米国並みに引き上げる、c世帯あたり1500万円を超える金融資産に一律1%課税する、d年収1400万円以上の人に対する所得税の実効課税率を2倍にする(最も高い人の税率は54%程度になる、84年まで所得税の最高税率は70%であったという)。
 これらの提案をめぐっては種々の側面から問題が議論されねばならないであろう。まず根本的な問題は、これらの提案の指向する社会保障政策が、「社会的連帯(相互扶助)」を求める点にあると考える。この基礎的な「理念」に広く人々の大綱的な合意を獲得するための議論が必要である。特に国政選挙はこうした機会のはずであった。
 次に、今日の社会において、こうした社会保障制度が果たす社会的、経済的、政治的あるいは文化的な意義を掘り下げて検討する。
それは今日の経済システムに一定の限度において「配分の経済」を確立することである。すなわち、国民所得の配分および再配分が政治の議論と実行との対象とされる。
 ここで重要な問題は、マクロの水準としては同じ再配分を結果するしても、「所得形成」時の配分(賃金闘争など)と「二次的な」配分(課税と拠出)とでは、さらには、課税と拠出とでは、その社会的、経済的、政治的意義・機能が異なることである。 こうした議論を深めることによって、政策=政治的行動として一層具体的な処方が策定されるであろう。欧州ではこれらの課題を追求する勢力は左翼と呼ばれるが、「支配的な潮流」(ネオリベラリズム)のなかでやはり困難な局面に遭遇している。その経験は学ぶことができる。(UMO4.7.11)
    
特集 政局を転換しうる野党連合を築くために

有権者にレッドカードを突きつけられた小泉政権
 ー年金・多国籍軍で逆風下の参議院選挙ー            労研編集部

未完の年金改革
 ー多くの課題残して見切り発車ー           政治アナリスト大郷武史

年金生活者の生活水準保障をめざすEU年金制度改革
 ー適切で持続可能な年金制度を義務づける共通目標の設定ー  女性労働評論家 柴山 恵美子

人権と平和の日本外交
 ー再び拉致問題を契機に北朝鮮と世界を考えるー      行政評論家 野村光司

政治と社会との溝を埋めるために
 ー政党、マニフェスト、支持者層ー            労働運動研究所 植村 邦

イラク臨時政権への「主権移譲」は成功するか
  NGO「公正な社会のための国際運動(JUST)」会長     チャンンドラ・ムザファール

韓国総選挙と民主労働党 朝鮮問題研究者大畑龍次

政権党に不満が噴出したEUの欧州議会選挙
 ーイラク派兵、福祉政策、総合過濃期にうず巻く不安ー 労働運動研究所 柴山健太郎

左派の勝利 社会党の圧勝
 ーフランスにおける欧州議会選挙結果ー 労働運動研究所 福田玲三

欧州規模における共産主義者の新組織
 ー「ヨーロッパ左翼党」結成されるー 労働運動研究所 福田玲三
 

揺らぎ始めたベルルスコーニ政権
 ー政権獲得へ地歩を囲めた中道左派ー     在ローマジャーナリスト 茜ケ久保徹郎

脇田憲一著『朝彙羊戦争と吹田・枚方事件』に寄せて
 ー日本共産党の極左冒険主義に直面した日朝人民の大衆闘争ー 労研編集部

(書評)
評者 加藤哲郎: 中野徴三・藤井一行 編著『拉致・国家・人権ー北朝鮮独裁体制を国際法廷の場へ』
評者 中野麻美: 柴山恵美子・中曽根佐織 編著『EUの男女均等政策』日本評論社
            柴山恵美子・中曽根佐織 編著『EU男女均等法・判例集』日本評論社近刊
評者 川口 章:   宇仁宏幸・坂口明義・遠山弘徳・鍋島直樹 著『入門社会経済学』ナカニシヤ出版

本の紹介 宇仁宏幸: 植村 邦 著『イラク侵攻に揺れるヨーロッパ』新泉社
世界と日本(1) 
世界と日本(2)
ニュース『山本正美公判記録」発刊準備進む

ニュース 広島・地方行政研究所からのお知らせ

ニュース 広行研からのお知らせ      l
 広島県で活動している広島・地方行政研究所(略称 広行研、山口氏康理事長)は雑誌『市民生活』を発行しています。購読希望の方は労研編集部まで。

 2004年VOL.19の『市民生活』目次
土地開発公社の損失額 広島・地方行政研究所理事長山口氏康1
市議会報告一広島高速道路公社 広島市議会議員 南区 松坂知恒8
県議会報告一広島南道路の整備 広島県議会議員 南区 中原好治12
認知されて5年 広行研・事務局長 松井邦雄15
開発公社の監査請求事件「続編」 行研・常務理事 中本秀智19
いま学校では−こどもの方が‥‥‥ 学校事務職員 舛岡恵子26
ひろしまという街 滝恭鳥 28
私の生い立ち〜ヒロシマもう一つの顔より 山口氏康33
老いを考える−第二の人生、貴方は幸せですか?ジエロントロジスト 青山裕三朗39
山陰からの便り           ぴい−すうお−く松江・事務局長 田英夫41
私の新幹線時代 多羅善幸42
「私の市政コラム」一突然起こった介護 山口氏康44
投書「NPO活動に思う」 麻生静雄45
公開講座のお知らせ


編集後記
参議院議員選挙(7,11)
の1ケ月ほど前、拡大されたヨーロッパで初めての欧州議会選挙が行われた。これらの選挙をめぐる情勢のデータ収集や分析評価の検討で発刊が大きく遅れたことをお詫びします。
●これから12月にかけても(特にアメリカで)諸国民が世界の将来情勢に重大な要因となるであろう選択をせまられる。こうした見通しの上で、本誌12月号においては「世界情勢の中の日本の課題」という議論を特集する予定である。
 イラクで人質にされた3人の日本人が解放されたときの、外国人の一つの発言が想起される。「在欧イラク人指導者を通して解放を働きかけてきた『グローバル・ウォッチ/パリ』(コリン・コバヤシ代表)は3人の解放を喜びながらも、新たに2人が拉致されたことに軽念を表明。『フアルージャ周辺で罪のない市民が殺零箕されて最中に日本人だけを助けてといえない』と戒め、『市民社会の連帯』を訴えている」(『朝日』04.4.16)。われわれ日本人の運動に「世界市民的な」視野が霞んでいるのではなかろうか。
 いずれの国家においてもこうした傾向が存在するとすれば、その根源には、「国民益」(あるいは「社会益」)を「国家益」(「国益」と呼ばれる)に従属させようとする国家権力であるところの支配的な勢力の活動がある。
●経済占領(CH・ムザフアール、本号P.43)すなわち「戦争ビジネス」によってしか人々に労働をあてがうことのできない国家は、ワークフェアーであってもウェルフェアーの国家ではない。(UMO4.7.25)    

労研読者・会員懇親会


日時 9月4日(土)午後2−3時30分 労研8月号の論文・
                        記事の検討         
               
                       その後レセプション
会費 2000円 出席希望の方は、事務局までご連絡ください。TEL:(042)388-8115


編集後記
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   労働運動研究所


労働運動研究復刊第7号 2004.4



 人々は生存の条件がいよいよ不安定、不安全になっていると感じる。戦争や内戦、社会的ないしは人種的な暴力、家庭内暴力、生活の経済的基盤(雇用と所得の機会)の不安・不全、生活の基礎的資瀬(食物、水、疫病対策など)の不安・不全、地球環境の危機……。生存の権利を侵害するこれらの諸要因は、人々の間に極めて不公平に配分される。
人々の「尊厳と権利について平等」(同第1条)を保証できない「この世界」は不正な社会である。「もうひとつの異なる世界」があるはずだ。 世界各地から、いわゆる「グローバリゼーション」ではない、「異なる世界化」を求めて種々の団体や個人が数年前から「世界社会フォーラムWSF)」に集まって、実態を語り、討論し、課題を明らかにするなどの活動を始めた。ボルト・アレグレ(ブラジル)がWSFの発祥地であったのは、02年10月ルラ大統領を当選させるにいたったブラジル左翼勢力の活動の経験が特に参照されたからである。ここからWSFは討論と問題究明の「空間」であって、特定の行動方針を設定した「運動体」ではないと自己を規定した。 そうして今年1月、第4回WSFがムンパイ(インド)で開催された。第1回から第3回までの開催地はボルト・アレグレであった。この間、ヨーロッパで2回、アフリカとインドでそれぞれ1回、大陸地域別社会フォーラムが行われている。 ムンパイに参加した北沢洋子(「世界は地の底から揺れている」、『世界』04.3)によれば、WS Fインド組織委員会にはインドの主要なNGO,労組、農民運動、女性組織、社会運動等の代表が結集したが、「中でも非常にインド的であったのは、ダリットと呼ばれるアウトカースト、それに2000地域を越える山岳民族の参加」であった。かくして、参加者は「土地、水、食べ物」という人間の基本的なニーズを主要なテーマとして議論を交わし、「もう一つの世界は可能だ」という確信を深めた。この確信が世界に広まる度合いに応じて、諸国家を揺り動かし、国連の改革を前進させる。
 アジアおよび世界の社会フォーラムがインド(ハイデラバードとムンバイ)で開催されたことは、この活動に対するアジアの一つの現実を表している。北沢は前掲の論文の終わりで、日本でグローバリゼーションに対する抗議デモはない、「ムンバイの世界社会フォーラムを報じたマスコミはなかった。……なぜ日本の市民社会はおとなしいのだろうか。日本の市民が自ら考え、議論し、行動することを止めた」と述べている[注]。 小泉首相は自衛隊のイラク派兵の正当性がアナン国連事務総長の国会演説(2月24日)によって確認されたと言いたいようだ。だが、イラク侵攻をめぐって「集団安全保障体制について、根本的な問題」(事務総長)が提起されたことは、ほおかぶりすることができない。あのとき日本政府は国連中心主義を放棄し、アメリカの有志連合に加担する道を選択したのではなかったか。今、日本の政治と「市民社会が‥…・議論を起こす」(前掲、北沢)必要のある一つは、この「梶本的な問題」である。(UMO4.3.1)
[注]『朝日新聞』(2月12日)は武者小路公秀(中部大学教撃、元国連大学副学長)の論説「人間安全保障 ムンパイが教えた日本の道」を掲載している。

−1−


特集  混迷と停滞を打開する政局転換へ

長期停滞の隘路から抜け出せない日本経済    蜂谷 隆
男女賃金差別撤廃の課題
  兼松男女差別事件東京地裁判決に触れて      弁護士 中野麻美

何のための司法審査か                   弁護士 齋藤 驍

拉致(強権的失踪)と北朝鮮問題について
  ー野村光司氏に質問するー              社会主義研究家 中野徹三

米国のイラク占領の目的は何か    元神奈川大学教員 白石忠夫
アフガニスタン「国際戦犯」民衆法廷から「イラク国際戦犯法廷」へ 
  ー法の空洞化状態に対抗する運動をー  広島県原水禁前事務局長 横原由起夫

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
動き出した朝鮮半島情勢   日韓民衆連帯全国ネットワーク会員  大畑龍次
ブッシュ軍事戦略に対抗するEU「欧州安全保障戦略」
 ー「グローバルな脅威」に対処するもうひとつの選択ー   労働運動研究所 柴山健太郎

ジョセフ・ステイグッツ インタビュー
 「世界文化を改革する必要があり、ボンベイのフォーラムはそれに貢献できる」  訳 福田玲三

フランスでの社会運動
 ーヨーロッパ社会党とフランス共産党が保守と闘う「連絡委員会」を発足させる
   フランス日刊紙『ルモンド』1月24日付 訳 福田玲三

<研究資料>経済的繁栄と社会的不安定
    王紹光(香港中文大学教授 胡鞍綱(精華大学教授) 丁元竹(北京大学教授)

冷静で「科学的な」議論は有益
 ー日本共産党員の公開討論集にみる国際情勢の認識ー  労働運動研究所 植村 邦

より良い世界の中の安全な欧州 ー欧州安全保障戦略(全文)ー
 ブリュセル、2003年12月12日EU首脳会議において採択 労働運動研究所 柴山健太郎 訳
変わったことより変わらないものが問題(下)
 ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』を考える  占領・戦後史研究会 佐藤 一


「書評」 植村 邦著『フランス社会党と第三の道を読んで  労働運動研究家  脇田憲一


発行所 労働運動研究所  郵便番号184ー8691 東京都小金井郵便局私書箱第34号
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2003年11月 復刊第6号(通巻390号)ISSN O910−5875

焦点 軍備拡張競争は加速されている

特集 右傾化する小泉政権への対抗運動の結集に向けて

 地殻変動的な政界再編成に発展したマニフエスト選挙
 ー求心力を失なった小泉政権ー     労働運動研究所

古い教条とあたらしい現実との谷間で
 ー日本共産党の紳領改定案を検討するー  社会主義研究家 中野徹三

平和運動を見直そう
  《職争犯罪を民衆が裁く≫運動を  有事立法はイケン(違憲) 横原由妃夫
                   広島県市民連絡会共同代表

労働運動再生の幾論のために  
    労働の権利の挟護と社会的連帯の組立てを目指して  労働運動研究所 植村 邦

日朝平壌宣言に復帰し、東アジア共同の家へ
 柳美里「八月の果て」と姜尚中「日朝関係の克服」     行政評論家野村光司
 
人権教育を軸にした徹底した教育改革を
 ー日教組の「母と女性教職員の会」の女性労働分科会の討議からー 労研編集部

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イタリアの新たな政局
 ー中道左派連合の再結集はなるかー  在口一マ・ジャーナリスト茜ケ久保徹郎

深まるプレア労働党のジレンマ
 ーイラク職争と「第三の道」のはざまで−イギリス労鴇党の年次大会の示したもの− 労働運動研究所 柴山健太郎

米国とどう付き合うか       前フランス外相 ユベール・ヴェドリン

フランス社会党の動静
  ーデイジョン大会からジョスパン論文発表までー  労働運動研究所 福田玲三

スウェ−デンのユーロ不参加が問いかけるもの
 ー経済グローバル化の中での「社会的ヨーロッパ」の可能性ー  工学院大学助教授 小野 一

拡大EUの新憲法草案に見る新たな挑戦
 ー21世妃における「男女平等政策の本流化」をめざしてー  女性労働評論家 柴山恵美子

核と人類は共存できない
 一被爆者の想い                京都府原爆被災者の会宇治支部会員米渾繊志

「ぴ−すうお−く松江」2年間の歩み       「ぴ−すうお−く松江』事務局長吉田英夫

JR労働戦線の混乱の早急な克服を       JR労働者 藤野浩一

「ゴーン改革」と勤労者運動   日産自動車元労働者 田嶋知来

      
変ったことより変らないものが問題(中)
 ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』を考える   占領・職後史研究会佐藤 一
 
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労働運動研究復刊第6号 2003.12
焦点
 ブッシュ政権がアフガンに侵攻した名分はタリバン・テロ集団を壊滅させ、その「首領」とされるオマル師やビン・ラデインを逮捕することであった。この名分は達せられていない。アメリカの石油会社ウノカルに関わったカルザイを首班に暫定政府が発足したが、首都の外部では地方軍閥が割拠し、その隙をぬってタリバンも勢力を温存しつつある。
 イラクに対する侵攻の名分であった大量破壊兵器は発見されていない。旧フセイン政権とイスラム原理主義的テロリストとの関係も確認されていない。独裁者フセインは倒されたが、イラク国民はアメリカ式「民主主義」を決して受け入れない。国連を「無視」して侵攻に踏み切ったブッシュ政権は、今や、諸国家(日本を始めとして)に軍隊派遣と「復興」資金供出とを求める。自らは石油と「復興」事業とに専念するというわけだ。
 ブッシュ政権の目標はそれだけだったのか。いな。両戦争におけるアメリカの成果はもっと外部の「地政学的」戦略にある。
 ロシア国防相は10月2日、戦略核兵器による予防的な先制攻撃権を明記した「ロシア軍近代化ドクトリン」を発表した(『朝日』、10.3)。この理由は明々白々である。ブッシュ政権が「紛争地域」での核使用を伴う先制攻撃権を宣言し、現に実行しているからである(劣化ウラン弾は核兵器だ)。さらに追随する諸国家の出現をいかに抑えられるのか。
 これで、前世紀の70年代から80年代にかけて、当時の米ソ両国家を始めとする諸国家・諸国民が努力して達成した、一定の核軍縮(から全面的な軍縮)への世界的潮流は全面的に水泡に帰する。90年代における米政権の「新戦略概念」の追求は、この事態を予測させるものであったが、極めて深刻な事態であることを銘記せねばなるまい。
 ロシアは「中央アジアとアフガニスタンが潜在的な危険地帯」であると特に説明する。アフガン戦争によって、カスピ海、中東(アフガンを含む)、中国に連なる一帯の旧ソ連邦構成諸国における「勢力圏」が大きく変化した。カスピ海西側のグルジアとアゼルパイジャンとはアフガン戦争の以前から、アメリカの「勢力圏」に入っている(奇態なこと、ここの元首は二人とも旧ソ連共産党政治局員であった)。戦後新たに、ウズベキスタン、トルクメニスタン、キルギスが基地提供など戦争協力の「見返り」の形でアメリカの「勢力圏」に入った。キルギスはイスラム過激集団対策の見地からロシアの同盟国であっただけに、この変化の影響は大きい。 この地域は民族的に複雑な社会の上に、経済的にも政治的にも脆弱な専制的政権を抱
え、他方では「地政学的」にも、黒海・カスピ海週域の石油・天然ガスの通路(将来的に)としても、また、アフガンからヨーロッパにいたる、ロシア、アゼルバイジャン、グルジア、チェチェンのマフィア集団による麻薬の流路としても、幾重にも「危険に晒されやすい」不安定な地域である。
 このような問題を一国家の単独行動主義で、しかも主として軍事的な方法で解決しようとすることは、地球社会にとって「破局的」な事態を引き起こすことになるであろう。世界の人々にとって国際的な場(国連を通じても)で、地域的な集団安全保障と、今日の保有国を含めて大量破壊(核、生物化学、宇宙)兵器の段階的削減とに向けた取り組みが緊切である。(UMO3・10・14)     

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2003年7月 復刊第5号(通巻389号)ISSN O910−5875

焦点 自衛隊はブッシュ政権のイラク占領の傭兵ではない

労働運動研究復刊第5号 2003,8
 政府・与党は、ついに広範な世論の反対を押しきってイラク派兵法案の参院通過を強行した。これまでの法案の国会審議を通じて明らかになったことは、わが国の市民が戦後半世紀以上にわたって築き上げてきた平和憲法に基づく輝かしい反戦平和の伝統が、小泉政権の数を頼んだ暴走によって踏みにじられようとしていることである。その伝統とは、戦後日本が国権の発動たる戦争により他国人民を一人も殺傷したことのないという事実である。 しかもこの法案で許しがたいことは、ブッシュ、プレア両政権のイラク侵攻の大義名分であり、小泉政権も無条件に支持してきた「イラクの大量破壊兵器保有」の虚構性が白日の下に暴露されたのに、国民に一言の反省も説明もなしに詭弁を重ねてイラク派兵を強行しようとしていることである。
 さらに国会論戦では、自衛隊の「非戦闘地域への派遣」という政府の主張が全く根拠のないことが明らかになった。ブッシュ大統領の「イラクでの戦闘終結宣言」から3カ月近くなるのに、米英占領軍兵士や輸送車両、石油パイプラインを狙った「古典的なゲリラ戦」(アビザイド米中央軍司令官)は跡を絶たないどころか日を追って組織的になり、しかもイラク全域に拡がり始めていることである。最近では安全とされていたバグダッド空港に直陸しようとしていた米軍のC130輸送機が地対空ミサイルで攻撃される事態まで生じている。野党からこの法案の「安全確保支援活動」 の内容を追及された石破防衛庁長官は、派遣された自衛隊の活動には「米軍の掃討作戦支援、旧フセイン政権要員の捕縛・摸索・攻撃・武装解除のための攻撃」まで含まれることを認めている。まさにこれは憲法の禁ずる「交戦権」の行使そのもではないのか!
 最近発足したイラク統治評議会の一員であるイラクのシーア派の最大組織のイスラム革命最高評議会(SCIRI)の最高指導者ムハンマド・ハキーム師は、最近の朝日新聞者との会見で「占領軍の早期撤退」を要求し、さらに自術隊派遣については「国連の平和維持活動など国連の管轄下で派遣されない限、日本の利益にはならない」と警告している。
 米軍の自衛隊派遣要求の狙いは、米兵の犠牲者がすでに湾岸戦争を越えてなおも増え続けるのに歯止めをかけるために、自衛隊に危険任務を肩代わりさせるとともに、湾岸地域に15万人の兵力を駐留させることで生ずる1週間10億ドルという巨大な失責の一部を日本に負担させることである。いったい、政府はいつから「国連中心主義」、「専守防術原則」を投げ捨てて、自衛隊の「ブッシュの傭兵」化政策に乗り換えたのか。
 小泉政権は、イラク侵攻支持が朝鮮問題の解決のために必要であるという宣伝を広げているが、朝鮮問題の平和的解決の鍵は米国の武力にはない。それは韓国、中国など東アジア諸国との対話と意思統一に基づく北朝餅の説得にある。
 イラク派兵は、戦後の日本国民がアラブ諸国で築き上げてきた国際連帯と友好を憎しみと敵意に変え、日本国憲法の根斡を揺るがし、国民の利益を踏みにじるもので断じて許してはならない。
 
                         


特集 イラク戦争後、激動する世界と日本

日朝緊張下の人権確保
ー 拉致被害者と在日コリアンー 行政評論家 野村 光司

イラク侵略戦争後の新事態  元神素川大学教員 白石 忠夫
 
イラク戦争後の朝弊半島情勢  日韓民衆連帯全国ネットワーク・会員 大畑龍次

「米国売り」を加速させたイラク戦争
 ーイラク戦後処理をめぐる「米欧対立」の意味するものー  労働運動研究所 柴山 健太郎

無党派、市民派、政党と「対抗理念」
 一野党連合を推進する議論のためにー     労働運動研究所 植 村  邦

新たな人権政策の確立をめざして
  ー部落解放同盟第60回大会ー  部落解放同盟中央本部書記次長 谷元 昭信

日本は、21世紀の世界秩序ー男女平等の「主流化」に逆行するのか
 −中央教育審議会「答申」の「男女共学」規定の削除に反対するー
                          女性労働評論家 柴山 恵美子
混沌の中の沖縄2003
 一宜野湾市長選挙の勝利の背景ー         那覇市 ジャーナリスト 由井 晶子

プリンス・日産労働運動(下)
  ー日産自動車元労働者の手記ー              田嶋 知来

欧州における右翼ポピユリズムの台頭と現代社会民主主義の危機(下)
  ー近代化の敗者の反乱か、持てる人々の反乱か−     ミヒヤエル・エールケ

変ったことより変らないものが問題(上)
 −ジョン・ダワー『敗北を抱きしめて』を考えるー  占領・戦後史研究会 佐 藤  一

党史上初めて対案提出
  ー時麻然とした討議 フランス共産党32回大会終わるー
  労働運動研究所 福田 玲三

新型肺炎SARSと情報市民社会
  一現代中国の政治社会と市民社会−  評論家 夏木 耕作

  韓 国 訪 問 記 ー女子中学生追悼集会と民族統一大祝典ー
                 韓国良心囚を支援する会全国会議代表 渡辺 一夫
絵本で語りつぐムラの誇り
  一絵本『おたまさんのおかいさん』講談社出版文化賞・絵本賞を受賞ー
               日之出の絵本制作実行委員会 事務局長 大賀 喜子

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2003年4月 復刊第4号(通巻388号)ISSN O910−5875

焦点 アナザー・ワールド(Another World)に向けて
ーいま問われる「冷戦後」の10年ー

          労働運動研究復刊第4号 2003.4

     −いま闘われる「冷戦後」の10年−

  アメリカ・ブッシュ政権はなぜイラクに 対する武力侵攻に執着したのか。ある知識 人は言っているo「現在のイラク問題につい て、非はイラクの方にあるという点につい て、国際社会は一致している。イラクが自ら 大量破壊兵器を完全に破壊し、それを証明す べきだという点についても、ほとんどの国が 一致している。イラクとアメリカとの私闘と いう見方は誤りだ」(北岡伸一、『朝日新聞』 03・3・5)o「非」、「国際社会」、「ほとんどの国 という表現は曖昧であるが、ここでは問わな い。要するのこの主張では、「イラクが自ら 大量破壊兵器を完全に破壊し、それを証明す べきだ」、さもなければアメリカは「公開」 を発動するという筋道になる。 このような筋道を措いてみせることが、歴 史的な事実に合致するのかを吟味しなければならない03月3日の衆院予算委員会で、前原誠司議員は米政府が湾岸戦争時の決議でイラク攻撃が可能と考えていることについて見解を質した。外相は「米国が考える法的梱拠は全く承知していない」、「米国はまだ決めていない」などと答えた。だが、アメリカの「考えはパウエル国務長官が先月の訪日時に与党幹部らに伝え、外務省でも周知のことだ」という(『朝日』03・03・4)。湾岸域争時の決議とは、イラクに対して経済封鎖(制裁)を纏続し、大量破壊兵器および長距離ミサイルの破秦を義務づける決議687(91年4月)であり、これに基づいて国連大量破壊兵器廃棄特別委員会(UNSCOM)が設けられた。
 02年の後半、米英の侵攻が世界の人々に差し迫って感じられたのは、両国が武力行使の正当性をこの決議(新たな決議ではなく)に求めていたからであることは、種々の報道から明らかであった。
 決議687および特別委員会UNSCOMはい かなる経緯をたどったのか。制裁制度の面か ら見ても、この制裁は極めて複雑であるよう だ。この点については、同委員会の元査察宮 S・リッターの著書(共著、合同出版)、彼の 証言その他を総合したM・ライ(非暴力反 戦団体ARROWの設立メンバー)の著書(N HK出版)などで詳しく論証されている。条 項(第22項など)の解釈でも諸国の対立が あった。だが、決定的な問題は、アメリカの 態度である。クリストフアー国務長官(94年4月)は、イラクが決議687第22項に応じても、禁輸解除するべきだとは思わないと言い、オルブライト国務長官(97年3月)は、イラクが兵器を破棄しても、フセインが権力の座にあるかぎり経済制裁は解除され ないと主張した。かくしてUNSCOMの存在は「根底から揺るが」された(リッター)。UNSCOMの査察活動はねじ曲げられアメリカのスパイ活動に利用され、遂には途中でうち切られた。この経緯はコソボ戦争の場合(N・チョムスキー等の論証)とよく似ている。
「冷戦後」はアメリカの「新戦略概念」、一極支配、単独行動主義の数年間であった。いま世界の多くの人々は、同時行動デーへの参加に現れているように、「異なる世界(アナザー・ワールド)」、ポスト「冷戦後」の「新しい国際株序作りを模索」している(木村伊量、『朝日新聞』03・02・23)。誰もアメリカを閉じ込めよなどとは言わない。アメリカ政府は、国際協調政策に転換することによって、「国際社会」で有意義な地位を占めることができるであろう。    (UMO3.3.10)

特集 日本労働運動の反転攻勢の道を考える

座談会 地域に拡がる不当解雇、人権の闘いの連帯の輪
ー神東川シティユニオン、埼京ユニオンに見る−
                 出席者 神奈川シティユニオン書記長 村山 敏
                       埼京ユニオン委員長 嘉山 将夫
本誌編集部
プリンス・日産労鋤運動
 −日産自動車元労働者の手記ー 田嶋 知来

労働分野における新たな規制緩和       弁護士 中野 麻美

激孫る過労死事件と裁判闘争の成果
                   過労死弁護団全国連絡会議事務局長 玉木一成
東京地裁の勝訴判決に思う
一昭和シェル男女賃金差別勝訴一   均等待遇アクション2003会員 野崎 光枝

目標は何か? 成長か、豊かさか    労働運動研究所 植村 邦

破綻した小泉構造改革政治の墓堀人は野党の責任
  ー無党派層の支援があれば政局の転換は可能ー 政治アナリスト 大郷武史


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緊迫の朝群半島情勢と私たち
  −カギ握る慮武鉉新政権ー  日韓民衆連帯全国ネットワーク 大畑 龍次

欧州における右翼ポピュリズムの台頭と現代民主主義の危機(中)
 −近代化の敗北者の反乱か、持てる人々の反乱かー     労働運動研究所 柴山 健太郎

大統領選挙と総選挙敗北後のフランスの社会党と共産党
                        労働運動研究所 福田 玲三
リヒアルト・ゾルゲ研究 第3回国際シンポジウム報告
                        元東海大学教授 来楢 宗孝
北朝群、朝鮮戦争中に韓国市民8万人以上を拉致
 −「朝鮮戦争拉北人士家康協議会」(KWAFU)の世界への訴えを紹介するー
                         社会主義研究家 中野 徹三


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2002年12月 復刊第3号(適巻387号)ISSN O910-5875

焦点「平和と人権」の帝国主義を許すな

労働運動研究復刊第3号 2002.12

「現実味を増す米国のイラク侵攻を前に、一時なりをひそめていたリベラル派アーチストたちが、盛んに異議申し立てをしている。
6日、ニューヨークのセントラルパークに、主催者発表で2万人以上が集まり、反戦デモを繰り広げた。シカゴ、サンフランシスコでも大規模なデモが組織された.主催したのは”Not In Our Name”というグループ。・・・今夏、 自然発生的にできあがった市民グループといわれる。ニューヨーク・タイムズ紙などに、イラク侵攻に反対する声明を載せてきた。声明では”われわれもまた9月11日の悲惨な事件を目撃し、涙した。しかしこの国の指導者は、復讐という精神を堰から放ち、絶対悪という単純なシナリオを用いている”」” ”政府が終わりなき戦争を宣言したとき、米国民が何もしなかったと言われることなきよう、われわれは立ち上がろう”などと呼びかけている・・・」『朝日新聞』(02.10.10)。「イラクとの戦争に反対する集会が26日、米国の首都ワシントン中心部で開かれ、主催者側発表によると10万人以上が参加、ベトナム戦争以来の規模の反戦デモとなった。‥・デモを主催したのは、反戦団体の連絡組織である”戦争を止め人種差別を終わらせるために今行動しよう”(ANSWER)で、参加した反戦団体の幹部は”ブッシュ大統領は米国民は団結しているというが、我々は戦争を欲しない””軍事専門家も戦争には慎重だ。大統領は判断を間違っている”などと語った」(同10.28)。
 この反戦デモの規模もさることながら、そのスローガンや主張は我々にいくつかのことを考えさせる。ブッシュ政権はいま国連で多数派工作に熱心だ。だが、これは明白な脅迫のもとでのことである、アーミテージ国務副長官は述べていた(同2.25)。「多国間主義は結構だが、米国は第一に国益が脅かされる 場合には一方的に行動する権利を留保する」。
  NATOはすでに98年11月、つまり、ユー ゴスラビアに「新軍事的人道主義」(N・チョ ムスキー)の攻撃を開始する前夜、「欧州・ 大西洋安全保障を再編成する決議」を採択し ている。ここには特筆すべき「新戦略概念」(99年4月)が記されていた。NATOは固有の域内の外にも介入する「最も広範な国際的正当性」を確保するとともに、安全保障理事会が平和と国際的安全とを維持する本来の任務の遂行に当たって「妨害に出会うときに」迅速に行動しなければならないという。この決議は、社会民主党政権も含めてどの加盟国からも反対されなかった。 ブッシュ政権等が掲げる「平和と人権」は「普遍的な」価値を有するのか。これはユーゴスラビア、パレスチナ・イスラエル、アフガニスタン、その他アメリカ国家の介入した諸地域における事実の分析から判断される。多くの調査研究を参考にすれば、評価は全く否定的である。だが、これが今日の世界的な力関係の現実である。
 このとき、国家ではなく諸国民・諸民族はいかするのか。はじめにあげたアメリカの反戦デモは一つの答えを示唆している。「市民社会」の「我々」はノーだ。そのうえで「市民社会」の人々に広く議論を呼びかける(デモの意味)。少なくとも「市民社会」が一致して政権を支持しているのではないという現実を、政治社会に反映させる。「世界経済フォーラム」(ダボス会議)その他の「首脳会議」に対抗する「世界社会フォーラム」(今年2月、ブラジルのボルト・アレグレ)は、こうした活動を国際的交流に拡大し、「市民社会」を国際化する運動の一つと位置づけられる。ヨーロッパの地域「社会フォーラム」は11月フィレンツェで開かれる(UMO2.11)。

特集 西欧における右傾化とその国民的・国際的深層

ドイツ・連邦議会選挙で赤緑連合勝利
 選挙結果分析と第一次シュレーダー政権の政策評価  工学院大学講師小 野 一

欧州における右翼ポピユリズムの台頭と現代社会民主主義の危機(上)
 ー近代化の敗者の反乱か、持てる人々の反乱かー 労働運動研究所 柴山 健太郎

侵略性むき出しのブッシュの新世界軍事戦略
ー国達意睾違反のイラク攻撃と地域紛争介入− 元神奈川大学教員 白石 忠夫

「東アジア経済共同体」構想の現実性 経済ジャーナリスト 蜂谷 隆

仮想「憲法の木」綱領(案)−「護憲魂」を政策にする−
 −拉致被害者とその家族の人権ー        行政評論家 野村 光司

「グローパル・スタンダード」型モデルの破綻、ヨーロッパ型モデルのへの教訓
                         労働運動研究所  植村 邦

拉致被害者の救済と予防のため「ローマ条約」(「国際刑事裁判所規程」)の早急な批准を
                         社会主義研究家 中 野 徹 三

パキスタン・カラチから‥‥子ども達の暮らし   千葉県松戸市小児科医師 池亀 卯女
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岐阜県徳山ダム計画を中止し、揖斐川流域の森林保水力強化を
 −ダムの対案としての揖斐川流域の森林保水力強化プロジェクトー
                     法政大学名誉教授 力石 定一

農水省は有明海の腎臓を返せ!
−長期開門調査を即時実施し、前面堤防工事を中止せよー
   第5回有明潅・不知火海フォーラム実行委員長 まえ海を守る鹿島の会代表 谷口 良隆

均等法下の女性労働の実態
−2002年・母と女教師の会「女性労働部会」に見る一
                               本誌編集部

7月定例研究会
2002年6月22日(土) 14:00から17時
場所  大阪経済法科大学東京セミナーハウス4階会議室   地下鉄日比谷線神谷町下車徒歩5分
報告者 川副詔三    日本経済の危機と労働運動
     植村 邦    ポスト『三月危機』経済政策の政治的議論のために
     柴山健太郎  日本ー先進国から脱落の危機と再生への戦略ー榊原英資の『国家改造論』の批判的検討
     野村光司   国体の本義と日本国憲法の国家像

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2002年7月 復刊第2号(通巻386号)ISSN O910−5875

           労働運動研究復刊第2号 2002.7
焦点 国会は法の執行を厳正に検証せよ

 6月19日に会期延長された国会では、有事法制案、個人情報保護法案、郵政関連法案、健康保険法改正案などの重要法案の審議が混乱を極めた。
 第一に政府・与党は国会の議論に耐えるような十分明確で整合的な法案を提出できない。政府・与党の内部で主旨の統一できない法案さえ提出される。「郵政関連法案は郵政民営化の一里塚」と首相がいえば、担当の片山総務相は「総理の願望で政府見解ではない」という。首相は「願望」を語って何が悪いかといった口振りだ。ともかくも多数で押し切ってそれぞれの面子を立てようという政府・与党の姿勢には、これが国家の法制定の在り方かと野党議員も国民も憤激の他はない。
 個人情報保護法案では提案直後から修正の議論になり、有事関連法案では憲法を超える議論を持ち出し、野党から疑義を追及されるごとに「必要な場合」大臣が方針を示すと「逃げ」に終始する。これらの法をなぜそそくさと制定しようとするのか。その政治的あるいは経済的な背景は、本論でいくつか示唆されている。
 これとは異なる水準の問題、すなわち、民主主義社会にける法の制定及び執行という形式的な問題もゆるがせにできない。
 法の制定においては、法の規定が目的とする執行状態に関して国家及び社会に明瞭な行動を指示するにたる、曖昧さのない文言で述べられていなければならない。当然、国会はそうした文言(による規定)をめぐって、つまり、明瞭に表現された内容をめぐって議論を交わし、最終的には評決する。法の制定が国会に属するこのような要件を欠くならば、法の執行が、現実によくあるように、官僚部局によって(法令・省令から行政指導、通達ことは必至である。法の執行そのものは国会の機能ではない。しかし、国民を「代表」して自らが制定した法の執行に関して、いかなる責任を負うのか。
 この問題が、今回の国会会期が混乱した第二の要因である。防衛庁が情報公開請求者リストを作成していた事実は、個人情報保護法案が審議されているときに、そもそも「個人情報保護」の梶本的な主旨に関して法案に疑義を抱かせた。さらに、防衝庁が国民の情報、すなわち国民そのものを自身との関係でどのように理解しているのかが暴露され、これまた有事関連法案を据えるべき「国家と国民との関係」に相本的な疑念を引き起こした。 リスト問題は現行の「行政機関の保有する
電算処理に係る個人情報保護法」の執行の問題である。国会は常々法の執行を事後的に検証(コントロール)しなければならない。官僚部局の悪意的な解釈を許してはならない。もしン法が社会的生活に相応していないことが判明したならば、国会は法の改定を国民の前に具体的に提起し議論を喚起すべきである。これは民主主義の初等的原理である。
 国会は鈴木宗男議員が「口きき」、「談合」、公金の不正な使途等に直接・間接に関与した旋惑をめぐって多大のエネルギーを責やした。辻元清美前議員は秘書給与流用とかいわれた問題で辞職に追い込まれた。田中真紀子議員には外相当時に自ら提起した機密責・外務省改革、また周りからから提出された秘書給与の疑惑などが残っている。共通する本質的な政治的問題は、現行法律の執行が厳正に検証されないでいることである。
 法の執行に関しては社会からの追求(運動)もある。制度と運動とは民主主義の両輪である。社会からの追求を阻む議員は、資格喪失にいたる)窓意的に拡大あるいは縮小される  と判定されるであろう(UMO2.6)。

                          特集 小泉構造改革の破綻と日本再生戦略

深化の一途・銀行経営危機と破綻寸前の小泉構造改革
                        労働運動研究所 川副 詔三

日本一先進国から脱落の危機と再生への戦略
 ー榊原英資の「国家改造論」の批判的検討ー   労働運動研究所 柴山 健太郎

ポスト「3月危機」経済政策の政治的議論のために
                          労働運動研究所 植村 邦

国家像:「国体の本義」と日本国憲法     行政評論家 野村 光司

復帰30年、虚脱感を超えて     那覇市 ジャーナリスト 由井 晶子


ベルルスコーニ政権成立後1年のイタリア政治
                        在ローマ・ジャナリスト 茜ケ久保 徹朗

極右の進出から共産党の党史上最大の敗北まで
−保守化傾向を強めたフランス大統簡選・国民議会選挙一 労働運動研究所 福田 玲三

小田急高架事業と藤山判決 小田急訴訟弁護団良弁護士 斎藤 驍


人権の21世紀に向け人間解放の大道を!
  ー部落解放同盟第59回大会ー 部落解放同盟本部書記次長 谷元 昭信

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『労働運動研究』が再刊されました

『労働運動研究』が再刊されました。臨時特集号

労働運動研究臨時特集号 2002.3
焦点 アフガニスタン侵攻が提起する諸問題


 月刊『労働運動研究』が01年10号をもっ て、32年の活動に終止符を打たねばならな かった経緯については同号で述べてある。この際、多くの読者から「この重要な時期に休刊せざるをえないことは残念だ。何らかの情報交換の手段を再建したい」とのメッセージが寄せられた。この臨時特集号は今後の活動の一つの試みである。読者諸氏のご支援をお願いしたい。
 「この重要な時期」の第一の課題は、アメリカ、イギリスを先達とする諸国家のアフガニスタン侵攻によって提起されていた。「テロリストの側に立つか、われわれの側に立つか。世界はどちらかを選べ」とブッシュは言った。アメリカの単独行動主義「ユニラテラリズム」は外政だけの抑圧ではない。E・W・サイード(『戦争とプロパガンダ』、みすず書房)によれば、1月29日のブッシュ大統領の演説は国内の「思想統一や均質化」の極致である。「大統領は、アメリカの敵とみなす相手に対して、終わりのない戦争を表明した。言いかえると、軍事的占領への旋問やアメリカ外交への批判がいっさい捨てられたのだ」。だから「政治的な発言の締め付けがきびしく・・・・・・私やN・チョムスキーのような一部の人間を除くと、政府と異なる意見を発表するのは非常に難しい」。旧ユーゴスラビアでの空爆や湾岸戦争のときのような反戦運動は見られない。以上の発言は『朝日新聞』(02年2月12日)で取りあげられている。ブッシュは日本でも号砲をとどろかせた。
 チョムスキーの見解に関しては、本特集のなかでやや詳しい検討がある。その見解には同意できるところが多い。われわれは自身への課題として、さらに検討を要すると考えるいくつかのテーマを挙げておきたい。
 チョムスキーが述べているように、アメリカ国家は第二次世界大戦後の初期の時代か
ら、そのユニラテラリズムを全面的に展開する機会を窺っていた。ソ連圏(「実現された社会主義」)の「崩壊」は、そのように意図された「崩壊」であった。まず、いわゆる冷戦の時代、平和と「平等・互恵」との国際関係を目指した諸勢力の運動の成果と欠陥とを「歴史的記憶」から消去してはならない。むしろ、さらに一層研究されねばならない。この時代にも、深刻な「南北間題」の解消、「南の発展」を求める提案・活動があった。その発展はいかに阻害されたのか。
 次に、80年代後半におけるM・ゴルバチョフの寄与の評価である。彼の「新思考」の基本的着想は『ベレストロイカ』(田中直毅訳、講談社、87年)に見られる。ある人は、これをプロパガンダだという。だが、新しい「世界秩序」に関してこれだけ包括的な理念及び政策の提唱をした政治家はいない。そうであってもなくても、「理念」を実現するのは、その「理念」に共鳴した世界の大勢の人々の実践である。この視点からわれわれはゴルバチョフ「新思考」を想起し吟味し直すことが必要である。湾岸戦争(91年)を阻止する活動は、彼の最後の闘争であった。「新思考」は彼の特使E・プリマコフの言葉(『誰が湾
岸戦争を望んだか』、日本放送出版協会)によく現れている。「多くの人からこんな旋問が出るかもしれない。このチャンス[国連憲章第36〜42条の主旨に沿った活動]を利用する価値はいったいあったのだろうか、侵略を止めさせるという観点からは軍事的結末が最適ではなかったか、と」。プリマコフは答えている。「このような結論に私は賛成しない。なによりもまず、亡くなった一人一人こそが悲劇だ。何百、何千、何万という命を失った人々、身体の自由を奪われた人々についても言うまでもない」。(UM、02.2.18)

特集 アフガン侵攻とブッシュ政権ノ世界戦略

米国ノアフガン侵攻トシルクロード  宮島信夫

「9月11日」以降ノドイツ赤・緑連合  小野 一

ドキュメント・同時多発テロとEU中道左派政権
芝山 健太郎

さらば自由よー「ルモンド・ディポマティスク」の社説よりー福田玲三

「歴史から教訓を得ることはできない」のかーN・チュムスキーの批判的論拠ー  植村 邦

日本経済の危機と再生
蜂谷 隆

真紀子外相の解任と行きずまる?小泉政局 大郷武史

全税関最高裁勝訴と野村文書 野村光司

一柳茂次さんを偲ぶ会

本の紹介
大矢恒子遺稿集『ホウセンカ』
植村 邦著『フランス社会党と”第三の道”』

神山茂夫の文献遺産について  津田道夫

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「労働運動研究」
5月号 No.379 の案内

焦点 戦後最大の激震に見舞われる自民党
特集 多田謡子反権力人権受賞シンポジュウムーーー「東芝府中働くネットワーク」


   団結権は個人の権利                         上野人権裁判弁護士 宮里邦雄

  ーーー広がる全国的ネットワークーーー

  「美は乱調にあり」             『堀のなかの民主主義』著者  小笠原 信之

  ーーー反権力人権賞の意義ーーー

  職場における人権                        甲南大学教授 熊沢 誠

 ーー個人の受難にみる体制の問題ーーー

会場からの発言    投稿多聞・西山薫・田中秀幸

新聞報道にみる「東芝府中働くネットワーク」 のあゆみ

多田謡子人権受賞式における挨拶         松野哲二・上野 仁

「多田謡子反権力人権基金設立趣意書
                 
第12回「多田謡子反権力人権賞受賞者選考理由
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

低額回答を越えてーーーー2001春闘状況ーーーー
    編集部

21世紀を人権の世紀にーーーー部落l解放同盟第58回大会ーーー編集部

恐牛病危機とEU共通農業政策の転換   フリードリッヒ・エーベルト財団ボン本部研究員 ミヒヤエル・エールケ

ーーー集約的化学農業と大量家畜飼育の危険性ーーー

英国だより(41)                         在英国  山本光子

読者拡大へ取り組み確認ーー労研第2回理事会開くーー

ポスト民主主義に対する道(2)              欧州大学研究所・社会学教授 ユーりン・クローチ

ーーーグローバル企業:ポスト民主主義の中核ーーー

ヨーロッパ社会主義ーーーーその生けるものと死せるもの(中)  労働運動研究所   芝山健太郎
ーーーー新しい多数派をめざしてーーーーー

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労働運動研究」 4月号 No.378 の案内

焦点 「侵略・差別」か「平和・人権史観」か
特集 国内の反動とたたかい、アジア諸民族との友好を

   市民型教育基本法を臣民型教育勅語へ逆行させるな    郷土史家 高野源治

 <資料>日本のあり方を誤る歴史教科書に反対する声明

 <資料>アピール 平和、 人権、 民主主義の教育が危ない

海兵隊の削減に沸く沖縄                        由井 晶子

南京事件について                 東京大学出版会名誉顧問 石井 和夫
  ーーーー『南京戦史』が問う真の戦争責任ーーーーーー

「国連・障害の10年を契機に基金が発足   ナイスハート基金副理事長 足立房夫 
ーーーーー「アジアプロジェクト21」の展開へーーーーーー

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ポスト民主主義に対する道(1)               ユーりン・クローチ

ヨーロッパ社会主義ーーーーその生けるものと死せるもの(上)  労働運動研究所   芝山健太郎
ーーーー新しい多数派をめざしてーーーーー

私がアルジェリアで見た拷問                  『ヌーヴェル・オプセルヴァトール

春闘をめぐる情勢                         編集部

英国だより(40)首相、ルール違反の質問時間      在英国  山本光子

札幌のみどりと景観を守る市民運動の一経験から   社会主義研究家 中野徹三
ーーーーー市民社会的自治をめざしてーーー

 

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