2019余所自作11『寂れた混浴の温泉に』

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 ぴちゃんと何処かで湯が弾ける音を聞きながら初音は身体を強張らせたまま俯いていた。
 先刻まで心地よく浸かっていた湯が急に息苦しいものに変わっている。山深い集落の秘湯であまり有名でないその温泉を教えてくれた男性が初音のすぐ横にいた。バスは一日二便で事前に電話をかけて宿の予約は出来ていたものの、まさか宿の従業員が宿に泊まらず下山してしまうと思っていなかった上に、宿にはもう一人だけ宿泊客がおり、それが男性とは思ってもみなかった…ましてや、男湯女湯に分かれていない混浴風呂のみで、すぐ隣に浸かられるとは。
『どうしよう……』
 頬が熱くなり、戸惑う初音は時折男を避けて周囲を見回しては視線を落とし、そして、すぐ横の男のモノが湯の中で勃起しているのに気付く。薄暗い露天風呂は男と女の身体を淫猥な影で強調していた。
「あのさ……」
「え?あ。はい?」
「髪の毛、纏めた方がいいよ。ここの湯は髪に悪いかもしれない」
「え?あ、ああっ」
 男が混浴に踏み込んできたのに慌てて長い漆黒の髪を纏めていなかった初音は慌てて洗い場近くに置いたままだった髪留めを取ろうとして、そして凍りつく。何の為にずっとお湯に浸かっていたのか。それはタオルも持たず全裸で浸かっていた為で、今初音の身体を隠すものは何もない。男に背を向けて数歩進みかけた初音は恥ずかしさに固まり、動けなくなってしまった。お湯が初音の身体を伝った湯が、ぴちょんと滴る。豊か過ぎる乳房を、男に突き出した体勢の尻を、そして、柔らかな陰毛を貼りつかせている下腹部の奥の丘を伝った湯が、ぴちょんと、落ちる。
 歩きかけの脚は、開いていた。
 ずっと男の退出を待っていた為に湯あたりしかけている初音の下腹部を、湯が滑る。薄暗い混浴露天風呂の照明に、湯が揺れる度に淡い光がゆらめき、そして、桜色に染まった柔肌を伝う湯が滑らかな腹部から下腹部へ伝い、丘の一番下で、落ちる。
 それは最初自然な湯の一滴だったが、徐々に粘りを帯び、やがて糸を引いて垂れる様になっていく。
 その変化を薄々感じ、身を縮込まらせる初音の背後で男が動く。たった数歩だけ離れた男が自分へと向き、そして手が伸びてくるのを湯の微かな反射の中に見、初音の呼吸が熱くなる。
 ぴちゃん。
 垂れた雫が、水面より上の位置で男の手に受け止められた。
「ぬるぬるしているから、洗ってあげようか」
「だいじょうぶ…です」
 声が上擦り、何とか返事をするものの初音の身体は動かない。まるで誘っている様な姿勢の自分が男にはどう見られているのか考えるだけで頭の中が真っ白になる。しかもこの温泉宿にいるのは朝まで男と初音だけ…スマートフォンの電波も通らない秘境で、しかも点在する民家はとても遠い。どくどくとこめかみが脈打つ。少しだけ男の姿は確認している…バイク乗りらしい日に焼けた肌と引き締まった身体のまだ二十代半ばといった所だろうか、好意的な笑顔で会釈していたが、あの時初音はまさかその男と二人きりになるとは考えていなかった。だが、嫌悪の対象になる様な容姿ではない。
 つぅっと、雫が糸を伸ばして垂れ、そして下腹部のすぐ真下にある男の指に乗る。
 男の指が、指に絡みついた雫を中指と親指を重ねて擦り合わせて確認し、指を離すと濃い粘液の糸が伸びた。にちゃにちゃと響く粘着音に、初音の肌がざわめき腰から背中に甘い疼きが這い登る。男の指が伸びてくる、そう感じながら震えるしか出来ない初音の下腹部の底に男の指が触れ、そしてそのままねっとりと愛液を溢れさせている膣内へとゆっくり沈み込んでくる。
「あ…あああああぁ……っ」
 愛撫も何もなしで挿入される指に初音の身体が立ったままがくがくと震え、大きな乳房が重たく前後に揺れる。節張った男の指が根元まで挿入され、他の指などが下腹部でぬるりと滑る感触は、男の勃起を見てしまう前から初音が反応しきっていた証だった。
 膣内で男の指が探る様に曲げられては伸ばされ、そして、ゆっくりと始まった抽挿はやがてリズミカルなものへと移っていく。いつの間にか零れていた初音の甘い声が山間の虫の音や細やかな湯の音に混ざり、立ったまま堪えがたい狂熱に初音は白い身体の前で重ねた腕を滑らせ、乱れる細腕に持ち上げられ挟み込む豊かな乳房がぐねぐねと淫らに形を歪ませる。ぐちょっぐちょっとあからさまに鳴り響く愛液の攪拌音の恥ずかしさが初音を更に乱れさせ、逃れたい衝動が腰を振らせる。逃れたい。どうにかしたい。耐えられない。
 ――何に?
 指が二本に増えても、そして避妊具もないまま男のモノに貫かれても、初音は抵抗の言葉を一つも言えなかった。
 山間の誰もいない混浴露天風呂で外界の全てをかなぐり捨てた様な原始的な、それでいて初音の牝の部分を暴く様な執拗な交わりが続く。湯の中で、洗い場で、森との境で、執拗に、執拗に。
 何度爆ぜたかもう判らない精液を膣奥で受けとめながら、初音は男に縋りつく。
 ――温かい。

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