2019余所自作21『寂れた混浴の温泉に・その後』

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  宿屋の従業員が敷いていった布団は一部屋に一つだけ…初音と男の部屋は別である為、当然並んで敷かれてはいない。枕は一つだけ。男の部屋で、仮の宿で、初音は男と身体を重ねて互いを貪りあっていた。
 もう何度膣内射精されているだろうか、混浴露天風呂で、洗い場で、森の境で、互いに名前も知らないまま初音と男は激しく交わりあっている。それでも男はまだ萎えない。今も初音の膣内でごつごつと膣奥を突き上げる男の逞しいモノはまるで擂粉木の様に硬く、熱く、荒々しく初音の牝肉を犯し続けていた。はぁっと淫らな息を漏らしている初音は自分の身体がここまで長々と応え続ける事を信じがたく思いながら、だが男の首に縋りつく腕を解く事など思いつきもせずに膣奥への突き上げを受け止めていた。
 名前も知らない。年齢も、住まいも、電話番号も何もかも知らない。会話すらさほどなかった。そんな状態で混浴露天風呂で犯されてから数時間。まるで溶け合った様に男は初音を犯し続け、初音も拒まずにいる。――初体験ではない。だが経験豊富でもない。友達の様に合コンなどで遊べない、どちらかと言えば地味な女…そんな自分が見ず知らずの男と互いを貪りあっている状況に初音は困惑しながら、だが溺れていた。
 ウエストを抱き締める男の硬い胸板に重なり潰れる豊かな乳房には無数の歯と唇の痕がついている。そして男の背中には初音のつけた爪痕がある。痕をつけるのは行きずりの行為ではマナー違反だと以前友達が言っていたのを思い出し…胸がちくりと痛む。行きずり以外の何物でもない行為に溺れている自分が信じられなかった。これが身体の相性と言うものなのか、それとも初音にはふしだらな素養があり自暴自棄としか思えない凌辱と膣内射精を悦んでしまっているか判らない。判らないのは、男の心も、だった。
 それは悪戯だったのかもしれない。今も悪戯なのかもしれない。行きずりの、どんな女相手でも男はこうも愛しげに濃厚に身体を重ねるのだろうか。
 ぐいと身体を引き起こされ、初音は布団の上で胡坐を掻く男の上に乗る体勢に変えられた。それでも、互いに舌を絡めあう事は止まらない。ぐちょっぐちょっと鳴り続けるあからさまな潤滑液の音が更に初音を昂ぶらせ、白い身体が浅黒く日焼けした男の身体に蛇の様に絡みつかせる。繰り返しの膣内射精の後も拭わずにいた愛液と精液は白濁とした粘液ではなく既に執拗な攪拌し続けられた結果大小の泡も潰れクリーム状に近くなっていた。男の交わりはいつもこうなのか、他の女にもこうも愛しげに貪るのか。全身が汗に濡れ、喘ぐ初音の唇を深く男が塞ぎ、唾液と舌が口内で卑猥に絡み合う。
 もう体力の限界はとうに越えている筈だが、惜しむ様に初音は男に縋りつく。混浴露天風呂から後、男の身体以外は何も初音の肌を撫でていない。バスタオルで湯を拭いすらせず、ただ、男だけが初音を包み、貪っていた。

 明け方、だろう。閉ざしたままの障子の向こうが青い。
 男の腕枕で眠っていた初音は僅かに首を巡らせたままゆっくりと息をつく。晩夏であっても山間の古びた宿では明け方は冷え込む…だが男と肌が重なっている部分だけが温かい。
 まだ名前も知らない。呼べないから、声もかけられない。
 遊びだと言われる事が、怖かった。
 避妊もせず、ただひたすら男の精液を全て膣奥で受け止め続ける愚かさを何故か後悔出来ずにいる。妊娠の可能性はゼロではない。もしも妊娠してしまっていたらどうすればよいのだろうか。男は…それを配慮しない手合いなのだろうか。何も知らない。名前だけですらなく、どの様な人物なのかも。それなのに涙は出なかった。
 腰の下が冷たい。汗か、精液か、愛液か。恥ずかしいと思いながら、初音は男に更に身を寄せる。

 従業員が到着する前に風呂に入り、身形を整え、朝食を食べ、そしてチェックアウトの時間になった。
 昨日到着した時とは異なり何処か別世界に紛れ込んでしまった様な空虚な感覚に、呼吸をしているのすら判らないまま初音は一日二便だけのバス停に立つ。もう出立したかと思っていた男のバイクが脇に止まり、そして会話を交わす事もないまま、男と初音は唇を重ねる。山間の寒村とは言え一日たった二便のバスなのだから誰か他の乗客が来るかもしれないバス停で、まるで昨夜の続きの様に強く身体を抱き締めあいながら、舌を絡め、身体をまさぐられる。いとも簡単に身体が蕩けていくのを感じる初音の全てを弁えた様に、男の膝が腿を割り、下腹部を脚が擦る。既に濡れている。男も、勃っている。従業員が到着するまで更に貪りあった後なのに、まだ身体が求めていた。
 どうすればいいのかが判らない。名乗っても応えて貰えないかもしれない。遊びだと、やはり男は言うのだろうか。
 はぁっと僅かに熱く蕩けた吐息を漏らした後、初音は自ら男に唇を重ねた。
 もうすぐ、バスが来る。

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