2019余所自作22『円光の最初の相手が昔好きだった男』

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「――何で、公孝なの?」
「何でって言われてもな」
 援助交際でリゾートホテルのスイートルームなんてお金持ちの小父様相手なのだろうなと考えていた彩音は、ベッドの縁に腰を下ろしている青年に愕然とする。リゾートホテルに無縁な人生は送っていない、ついこの前父親の会社が経営不振に陥るまでは社長令嬢としてそこそこ贅沢な暮らしをしていた彩音だった。
「で。彩音は何してるんだ」
「見れば判るでしょ?お母様が…入院費かかるから少しでも自分でお金を稼がないといけないのよ」
 援助交際は話には聞いていたものの初めてであり、何をどうすれば良かったのか判らない彩音がインターネットで検索して何やらそれらしいサイトを見つけて暫し悩んだ結果申し込んだのが、今回の初仕事だった。ホテルに到着する前に喫茶店で恭しい紳士に渡された袋には半透明素材のいやらしい下着だけが入っており、ずっと身体を洗い続けて下着だけを着用して浴室を出た所で、幼馴染である公孝が居るのを見つけてしまったのが今の状態である。
「見ないでよ」
 乳首も下腹部も透けきっておりパンティの横も紐を結んでいるだけの下着は淫ら極まりなく、下手をすれば全裸よりも性器を強調しているのを思い出し、彩音は顔を逸らす。見ず知らずの小父様ならばまだしも、幼い頃から園遊会などで顔を合わせる度に遊んでいた幼馴染に見られたくない姿だった。公孝はスーツ姿で、自分は売春婦の衣装である差が惨めで堪らなく恥ずかしい。
「本気で、売りたいのか?」
「本気も何も…。会社がどうなっているかは知ってるでしょう?」
「だとしたら……」
 不意に幼馴染が手首を掴み、ベッドへと引き寄せたと感じた瞬間、ダブルベッドの上で彩音は青年に唇を奪われていた。結婚までは貞操を守る古臭かった娘の瞳が大きく見開かれ、淫らな売春婦の姿をした豊かな胸の奥がどきりと鳴る。唇もだが、幼馴染の手が昔より大きくしっかりとした大人の男の手であり、自分を組み伏している身体が逞しく均整が取れているのにも驚いてしまう。何時の間にこんなに凛々しくなったのだろう…たった数年前はまだ格好いいとしか思わなかったのに。いつの間にか、すっかり大人の、自分をこんなにあっさりと押し倒せてしまう異性になってしまっている。
 唇が、動く。初めての接吻はぎこちなく、重なった唇に戸惑う様な動きの後、やがて初めて自ら獲物を仕留めた若い肉食獣の様な落ち着きのない動きで重なりあい、舌をぐちょぐちょと絡めあい、ベッドの上で激しく抱き合う様になる。そのまま身体を愛撫しあう事もなく、抱き締めあうだけの状態で落ち着きのない接吻が執拗に繰り返され、二つの乱れた呼吸が部屋に籠もる。
『公孝…大きくなってる……』
 恐らく体重をかけない様に意識してくれているが重なっている身体のそこがぎちぎちと硬く漲っているのを感じ、彩音は耳まで真っ赤に染まる。何故幼馴染がここにいるのか結局判っていないままだが、もし誰かに処女を捧げるのならばこの青年がいいな、とぽつりと考え、彩音は大きく首を振った。
「俺だと嫌か?」
「そ、そんな意味じゃない……!」
 接吻を強引に中断してしまったのだと気付き、何だか苦い表情をしている幼馴染に彩音は慌てて首を振る。
「た…ただ……その、私…初めてだし……」
「……。俺もだ」
「……。はい?」
 自分が何を言ってるのか判らない上に相手の言ってる事も判らない。直前まで交わしていた接吻の名残で蕩けている彩音の目の前で、幼馴染がしゅるっとネクタイを片手で弛めた。
「三日間宿泊している間に、彩音がその気になってくれればいい」
「え?み、三日……?」
「聞いていないのか?お前が変な事を考えているらしいから小日向が手配したが」
「小日向…あー!爺やさん!先刻の!」
 自分にこのいやらしい下着を渡してきた紳士が昔から幼馴染の父親に付き従っていた初老の秘書と重なり思わず彩音は大きな声をあげてしまう。
 処女の援助交際としてはもしかして法外かもしれない設定金額もだがこの下着の選択といい使用人に準備を整えられてしまっているこの状況はかなりに恥ずかしい。恥ずかしいが、どこか嫌な気分になれないのは何故だろう。少々困った様な表情の幼馴染を拗ねた顔で見上げ、彩音は唇を尖らせる。三日間このスイートルームで二人きりという事なのだろうが、三日の間でいつかお相手をすればいいと言われても困る。
「……。優しくしてくれる?」
「……。自信がない」
「なにそれ!」
「彩音の身体は…育ち過ぎだ」
 昔からの困らせた時の癖のまま少し顔を逸らす幼馴染に、全身がかぁっと熱くなるのを感じながら彩音は誤魔化す様に青年の首に腕を絡みつかせて抱き寄せる。
「優しくしてくれないと、お話してあげない」
 スーツ姿の幼馴染から漂う品のいい男性用コロンの香りにどきどきしながら、彩音は昔から幼馴染を屈服させる魔法の呪文を口にした。この言葉は絶対で、幼馴染は自分には逆らえない……。
「――この先ずっと口を利かないつもりか?」
 そう言い彩音の唇に唇を重ねる幼馴染の顔は、もう大人の異性のものだった。

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