2019余所自作23『筆下ろしの相手は誰かって?』

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 胸が高鳴り自分が自分でなくなる感覚に彩音は慌てて幼馴染の胸を押し返す…押し返しているつもりなのに青年の厚い胸板は思いの他その力を受け付けず、仕方なく暫し名残惜しく迷った後、口内に差し入れられている舌を少女は噛む。
「! ――何?」
 軽く噛んだつもりではあったものの少し力を入れ過ぎたのか顔を顰めた公孝に彩音は慌てる。
「え…だ、だって、キス……その、だって、私、そんなつもりなくて…違う!キスが嫌とかそんなのじゃなくって!だって、だって……!」
 もしかして接吻を拒んでいると思われたのではないかと焦る彩音に、幼馴染がくっと笑う。先刻の言葉が嘘でなければ童貞の分際でベッドの上で落ち着き払っているその態度が無性に腹が立ち、少女は頬を膨らませ、そして赤面して目の前の男を睨みつける。
「わ、私がお風呂入ってるのに、公孝、お風呂入ってない」
 援助交際で処女を奪われると思って彩音は念入りに入浴してたが、その間にどうやってか入室していた公孝はスーツ姿なのだからまだシャワーすら浴びていない筈だった。不潔だとは思わないが、結ばれるのだとしたらせめて身奇麗にして貰いたい。金で買われるのだから贅沢を言える身分ではないのだが、幼馴染だから少しは我侭を聞いてくれてもいい気がした。その瞬間、彩音は胸の片隅がちくっと痛んだ気がして戸惑う。何が気になったのだろうか、だがそれがはっきりと意識に浮かんでくれないのは、幼馴染が額や頬に軽く唇を重ねる仕草が優しく愛しげだった為である。堪らなくこそばゆく、胸が高鳴り大人しくしていられない。
「お風呂!」
「――一緒に入るか?」
「え……な、な、何考えてるの…!?」
「恐らく、するだろう?それなら結果は同じだろう?」
 相手が自分とそういう行為に及ぶ前提なのを感じ彩音の顔が耳まで熱くなる。援助交際なのだから覚悟はしていた筈なのに幼馴染の言葉一つ唇一つ腕一つで動揺してしまう自分の不甲斐なさに頭に血が上り、反射的に彩音は青年の頭を枕で横殴りに叩く。大きいものの柔らかく軽い枕はさして当たっている衝撃もなくぽふぽふと気の抜ける感触で跳ね続け、そして暫し叩かれ続けた青年は降参した様に少女の上から身を起こす。怒っている筈だが抱き締めていた腕や身体の重みがなくなってしまった奇妙な淋しさを紛らわす様に彩音は枕を抱き締め青年を睨みつける。
「えっち」
「……。いや、この状況でそれを言われてもな」
 くっくっくと困った様に笑いながらスーツの上着を脱いで椅子の背に掛ける青年の背中を拗ねて見つめていた彩音は、思っていた通りに広い肩幅や引き締まった体格に慌てて視線を逸らした。抱き締められてずっと接吻されていた時も感じた大人の男の逞しさはどこか怖い。母親の入院費を稼ぐ為に覚悟を決めていたのに…きっと見ず知らずの小父様相手ならばもう諦めて身体を許していたのだろうと思うと、現れたのが幼馴染で助けられた気がするが、だが、買われた身なのだから彩音に結局は選択肢などない……。
 ちくん。
 先刻と同じ胸の痛みに、彩音は枕を抱き締めたまま小首を傾げる。何なのだろう、この突発的な胸の痛みは。
「公た……ふにゃあ!」
 奇妙な胸の痛みから逃げる様に枕から顔を上げた彩音は、それと同時に枕ごとふわりと抱き上げられて思わず悲鳴をあげる。何時の間に脱いでしまったのか下着一枚になっている青年に横抱きに抱えられてしまうと、スーツ姿よりもはっきりとその身体を感じてしまう。もう社会人なのだから身体を鍛える時間を作るのも大変な筈なのだが引き締まった肌は生白くなく、肌も張りがあって皮下脂肪が薄いから硬く思える…そして何よりも筋肉がしっかりとついている。軽々と抱き上げられてしまった衝撃と、ほぼ全裸の男の身体に恐慌状態になった彩音は幼馴染の腕の中で枕をぎゅっと抱き締めて顔を埋めた。
「えっちー!」
「……。だから、な……。反則だぞ、それ」

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