2019余所自作36『処女を奪われた後の少女』

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「指輪は、どうだろう?」
 ブランチで食べたフレンチトーストの余韻に浸りながらホテルの一階のブランド店の前を歩いていた私に、不意に公孝が声をかけてきた。気付けば確かにフランスの王族御用達宝飾店の前で、少しも気にならないと言えば嘘になるけれどでも今の私は指輪を見ても目の毒なだけである。
「いらないかな」
 ぽつりと返して、素っ気なかったかもしれないと少し笑顔を作ってみた私は通路の先にいる人物に瞳を見開く。
「――彩音ちゃん?」
「三島先輩!お久しぶりです」
 大学のゼミで世話になっていた先輩に久々に会えて思わず大きな声をあげてしまった私は慌てて口元に手を当て、そして先輩に礼をする。ゼミでも目立つ存在だった先輩は憧れる人も多く中々親しく話す事はなかったけれど、それでも尊敬に値する人と久々に会えた嬉しさに顔は綻んでしまう。
「元気にしていた?」
「え…え、あ、はい」
 久々に会ったのだからこそ先輩は私の家が没落してしまった噂を聞いていないのかもしれない。もう退学するしかない経済状態や母の介護等知られたくない話でもあり、つい口は鈍ってしまう。と、先輩の目が公孝に向き、そして明るく誠実な笑みが浮かぶ。
「初めまして。大学で彩音さんと同じゼミに所属していました三島です。――お兄さんですか?」

 何だろう。先輩に会ってから公孝が一言も話さないのが妙に気になりちらちらと見上げるのだけれど、いつもなら何もなかったと安心させる様に笑みを浮かべる人がまるで無機質なマネキンの様に無表情に前を見ているだけで何の反応も示さない。ホテル上層階行きの専用エレベータは途中で止まる事はなく、静かな空間が堪らなく居心地が悪かった。軽やかなチャイムの後、通路を歩いている足が鈍くなる。でも立ち止まれない。一晩、公孝に抱かれ続けていた身体は、特に腰はまだ鈍痛が治まらない上に内腿や腰の筋肉痛が酷い。
 また、抱かれるのかな。
 十分な対価を支払われている三日間の援助交際だけでなく、この人は私をこれからも援助してくれる意思があるらしい。つまりは、愛人契約なのだろうか。指輪は契約書代わりの意味があったのかもしれない。でも気持ちがまだそれに追いついていない…昨夜処女を捧げていても、一生囲われ者になる決心なんて簡単には出来なかった。それしか道がなくても。
 まだ昼下がり。窓の外は初秋の綺麗な青空が広がっていてホテルの庭園を歩けばさぞや気持ちがいいだろう…でも私が向かうのはベッドの上だった。抱かれると言えば響きはいいけれど公孝の大きなモノはかなりきつく、しかも多分、絶倫と言うものなのだと思う。夜早めからのセックスで空が明るくなるまでずっと殆どの時間公孝のモノは私の中にあり続けていた。昼近くまでの熟睡でまた抱けるのかな?と思うけれど、あまり楽観的には考えない方がいいだろう。
 かしゃっと音が鳴り、スイートルームのオートロックが外れ幼馴染に促されて私はまたこの部屋へと足を踏み入れ、そして扉が閉まると同時に荒々しく唇を奪われて激しく抱き締められた。
 痛い。力任せの抱擁に骨が軋む。二十センチ以上の身長差で強引に抱き上げられた体勢に踵が浮いて、でもよろめくだけの身体の自由はなかった。ぐちゅっと舌が捩込まれて私の舌を絡め取りエスプレッソの苦い味が口内に広がり、公孝の舌はきっと私の食べたフレンチトーストの甘い味を感じているのだろう。通路から厚い扉一枚隔てて私は唇を貪られ、そして、身体が熱くなる。どくどくと身体の芯が熱くなって、腰の奥の鈍い痛みともどかしさが混ざり合う。ファーストキスも知らなかった私を公孝は一晩ずっと貪り続けて、処女喪失の痛みにはまだ慣れられないのに、接吻の美味しさだけははっきりと刻み付けられてしまっていた。抵抗は立場上考えられない。いや、止めたくない。
 でもどこか違う。
 とても甘いのに、怖い。
 ぐい、と不意に私を抱きかかえて幼馴染がベッドへと荒々しく歩いた後、綺麗にベッドメイクされたその上へ乱暴に下ろされたと思った瞬間、釦が引き千切れる勢いでブラウスの前を肌蹴させた。
「ひ……」
 初めての乱暴な動きに思わず悲鳴をあげそうになってしまう私を公孝が見下ろしている。穏やかとは違う無機質な読めない表情が自分の知っている幼馴染と思えなくて、判っているのに大人の男の人で、そしてこれから何をされるのか判っていて…。公孝の手が荒々しくパンティを脱がして脚の間に身を割り込ませるのを、私は魅入る様に見上げていた。

 腰が激しく打ち付けられる。
 まだ服を脱いでいないのに、公孝は腿の半ばまでスラックスとパンツを下ろしただけで、私は乱暴に肌蹴たブラウスと捲り上げたスカートと無理矢理ずらされたブラジャーを身に纏っていて、脱がされたのはパンティだけで、まだパンプスも片方脱げただけで、ベッドの上で幼馴染に激しく膣奥を突き上げられていた。昨夜は出血対策にバスタオルを腰の下に敷いていたのに今はそれすらしていない。それなのに、公孝が穿ち続ける結合部からは赤裸々な濡れた音がひっきりなしに鳴り、そして私の尻肉に粘液が伝って広がって腰の下を濡らしている感触がしていた。一突き毎に仰向けの乳房がぶるんと弾み、私は鈍痛ともどかしさに首を振りたくる。熱い。身体の中が堪らなく熱くて痛くて、そしてもどかしさに狂いそうになる。公孝が中にいる。私の初めての男。昨夜から何度も膣内射精をした私を支配する存在。きつい。苦しい。また避妊具を着けていない。昨日は安全日だったけれどそれは何日間有効なのだろうか?まさか一晩だけではなかったとは思わなかったので調べていないのが悔やまれるけれど、でも何故か拒む意思が芽生えない…それが愛人と言う存在なのだろうか?判らない。ただ、ただ、公孝が、私を支配していた。
「ぁ……ぐ…っ、んっ、んぅ…っ、ん……っ!」
 嬌声とは多分異なる苦痛を含んだ声が唇から漏れる。全身に汗が滲んで、一突き毎にベッドの上で跳ねた。背広とネクタイは脱いだYシャツ姿の公孝の身体が動く。私の両脚を持つ手。ぐちょっぐちょっと鳴る淫猥な水音。昨日と同じ体位。だけど、服装と目だけが違う。無表情…いいや、やるせない、顔。不意に私の手を取り結合部へ導き、そして触らせる。太い。膣奥にぎっちりと突き上げたままだから一番太い鰓は膣内にあって、公孝の幹が私の指に触れているのだけれど、とても太い。私の手首よりも確実に太くて、指先でなぞらされる膣口はまるで限界まで引き伸ばした輪ゴムの様に張り詰めている。もしもう少し太ければ裂けてしまったのではなかろうか?それを激しい抽挿に耐えさせてくれる潤滑液は、私の愛液だった。昨日はこんな真似させられなくてよかった。どう考えても処女喪失の出血など触りたくない。でも、多分まだ出血は収まっていないのではなかろうか?優しく扱ってくれればまだ平気かもしれないけれどいつの間に少しだけ濡れていた場所に強引に公孝のモノを突き入れられた時にはあまりの痛みに涙が出た。いや今も痛いけれど。でも、何故だろう。痛みの質が少し違う気がする。
「どう?」
 ぽつりと公孝が質問してきた。何を質問されているのか判らず途方に暮れる私の指先で、ぬろりと幹が動き、膣奥から傘が引き戻されていき、私の全身がびくびくと痙攣する。痛い、苦しい、それなのに、もどかしい。何を言えばいいのか判らないまま公孝を見上げたまま私の身体が勝手にくねる。ぶるんぶるんと乳房が揺れて、膣内の男のモノをより一層強く感じて、声が漏れる。意味のない、変な声。
「……。何で、笑わせられないんだろう」ぽつりと公孝が呟いた。「大人になって笑顔が変わったかと思ったのに、彩音は昔のままだった」
 何を言ってるのか判らない。ここは笑う所だったのだろうか?恋人同士の情交なら必要のない変なプレイの要望なのだろうか?戸惑う私に、公孝が苦い笑みを浮かべる。何があったのかが判らない。――淋しがらないで欲しいと、変なずれた事を思うのは、私の身体の深い場所がこの男を抱えているからなのだろうか。

 暗い。まだ夕方6時近くまでは明るい筈なのに既に窓の外は階下の街明かりが判る夜になっていた。
 どろりと膣奥から溢れる液体の恥ずかしさに脚を閉じたいのにもうぴくりとも動いてくれない。考えてみればやっと一日経過したのかもしれない。その間に何回膣内射精されたのだろう…恥ずかしくて数えていられなかったし、数える余裕も途中からなくなっていた。まだ服を中途半端に身に纏ったままなのに、乳房にも肩にも項にも、多分公孝の歯型や唇の痕がたっぷりとついている。皮膚の下に綿が詰まったぬいぐるみか人形になってしまったみたいに全身がふわふわしていて、それなのにまるで蜂蜜がかけられたみたいに甘くだるく、特に膣内が蕩けそうになっている。まだ鈍痛は残っているのに、多分快感がそれを誤魔化してしまっている気がした。気持ちいい…そう、多分、気持ちいい。訳の判らない心地よい眩暈みたいな、公孝の指が最初に教えたあの火花の一番大きなものが全身で弾ける強烈な刺激みたいな、堪らなく恥ずかしい感覚を、憶え始めている。今公孝がシャワーを浴びているのはダイニングにルームサービスを迎える為と私の休憩を兼ねてだった。どうやら今夜はレストランにも行かずここで夕食を済ませるらしい。出来れば今のうちに私もシャワーを浴びたいけれど、手足が全く動かない。
 どろっと伝っていく液体に、私は真っ赤になりながら指先で何とかシーツを掻く。
 怖い。公孝にとって私は童貞を捨てる為の便利な幼馴染でしかなくて、取り敢えず三日間思うままに扱える女に過ぎないのに、私の中で公孝の存在が特別になっていく気がする。特別にならない筈がない。処女を捧げた人、それだけでなく、多分、女としての快楽を刻みつけた人…あと丸一日以上あるから、きっと私は女の快楽を憶えてしまうだろう。それが恋人ならばいい。愛人。ただの愛人。いいやそれは肉体の繋がりとして十分なのかもしれない、三日間限りで捨てられないのだと安心していいのかもしれない。でも、私はそれに納得出来るのだろうか?それに満足出来るのだろうか?
 触って。抱き締めて。撫でて。接吻して。腕枕して。――貫いて、貪って。
 怖い。自分が、判らなくなる。

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