2019余所自作37『泡で隠しての撮影』

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 頑張らなきゃ。
 あまり自分がモデル向きだとは考えていなかった少女は突然学校の先輩経由から齎された機会に緊張していた。親兄弟や親戚や友達にはとても可愛いと言われるものの、どちらかと言えばおっとりとしていて同級生でも遊び歩いている子達と比べれば華やかさもない。母親譲りの漆黒の質のいい髪とほくろもない白い肌と色素の薄い瞳が印象的だとは言われるが、活発には見えないし、同級生の中でもプロポーションはかなり良いらしいがいかんせん身長が小さい。自己評価は、少し低かった。
 有名な海外のバス用品メーカーの新作石鹸のティーン向け雑誌の広告モデル…それはどこか胡散臭くは思えたが、有名女優の写真集なども出しているTVで見た事のある有名写真家が実際に現れて少女の緊張はピークになる。
 スタジオの一角に設営された西洋の浴室としか思えない洒落た猫脚のバスタブの前で肌色のビキニの上にガウンを見に着けていた少女は、それを取る様に指示されてさっと青褪めた。写真家以外にもメイクやアシスタントがいるが全員男性である時点で強張っていた身体が、その言葉に膝が震えだす。スタジオ内は適温だったが急に寒く思い始めた少女に、営業スタッフらしい名刺をくれた男が水筒から注いだお茶を差し出してきた。有名写真家の仕事なのだから完璧主義で、バスバブルで満たした風呂の中で脱げば判らないから、と説得されて少女は漸く頷く。――お茶は妙に癖が強くて濃くて美味しいとは言い難かったが、これも海外メーカーの為なのだろうか。バスバブルの匂いも相当に強いが、鼻の奥がくらっとする程匂いの残るお茶で、そしてどこか薬の様な慣れない苦味と大量の蜂蜜で味付けした様な甘味で口内から胃までじわじわと熱さが広がっていく気がした。
 バスタブの中の湯は湯あたり対策なのか温めで、そして撮影の邪魔にならない様になのか1/3の湯に2/3が泡といった感じだった。新作のバスバブルはとても泡が細かく身体にクリームの様に絡み付いてくる。それなりには興味があるもののまだバス用品に凝れる年頃ではない為に物珍しさはあってもそれを評価するだけの知識は少女にはない。ふわりと絡みつき纏わり付く泡の中で、少女はスタッフに見られない様にこっそりとビキニを脱いだ。
「準備、出来ました……」
 頬がかあっと熱くなる。お茶を飲んだばかりなのに喉が酷く渇いている気がした。恥ずかしさで身体中が熱い。
「まずは膝立ちになって」
「え?は、はいっ!」
 膝立ちになれば泡からかなり身体が出てしまうだろう。胸元にたっぷりと泡を乗せて乳房が見えなくなっているのを確認してからそろそろと少女はバスタブの中で膝立ちになる。様々な方向から照らし出す照明とカメラの大きなシャッター音に身体が竦みそうになる少女に、写真家の賛辞の言葉が浴びせられる。まるで自分がプロのモデルにでもなった様なひっきりなしの賛美の言葉に少女は戸惑い、そして徐々に乗せられていく。泡を気にして乳房に乗せてはポーズをし、笑顔をつくり、褒められ、時折先刻のお茶を飲み、また泡を乗せ…緊張する余裕がなくなる程の指示と賛美に慌しくポーズを決めている間に少女の笑顔は自然なものになり、そして賛美に応え上手にポーズを決めようとする事に熱中していく少女の泡への配慮はほんの少しずつ疎かになっていく。
「バスタブに手を突いて仰け反ってこっち見て!可愛い猫みたいに反る感じ!そう!可愛いよ!凄くいい!」
「首の後ろで両手を組んでちょっと悪戯っぽく!小悪魔な笑み!いいよいいよ!」
「立って両腿に手を当てて挑発的にお尻突き出してこっち見て!もうちょっとこっち!そう!お尻振って!」
 場の空気に、写真家の賛美とシャッター音と照明と怪しいお茶と強いバスバブルの匂いに酔った様に、少女は泡以外は身に纏っていない姿で求められるポーズを熱心に取り続ける。最初は胸元から下を覆っていた細やかな泡が徐々に落ち、それを直す余裕もない状態で熱心に動き、そして止まる少女の乳房から下は斑に泡が残っていた。まだ異性には見せていないさくらんぼの様な可憐な色の乳輪や乳首が、髪に似た艶やかな…だが量が少なく湯に濡れた後では下腹部にうっすらと纏わりついているだけの柔毛も、その奥の丘も、丘からほんの僅かに垣間見える薄く小さな襞も、突き出す滑らかで小振りな尻肉の底の肌色のままの窄まりも、泡に時折隠されては顕わになりを繰り返しながらその場にいる全員の目に晒され何百枚もの画像として記録されていく。
 どくんどくんと身体の芯が脈打つのは高揚している為だろうか…時折思い出して泡を浴びる様に両手でかけるものの、少女はカメラへの視線を意識していて自らの身体を見下ろす余裕はもうなくなってしまっていた。少女の意識の中ではきっちりと自分は泡を纏っている筈であり、手元も見ないで乗せた泡が見当違いの場所にしか残っていない状態だと気付けば少女は悲鳴をあげてバスタブに身を沈めてしまっていただろう。妙に癖が強く不思議とおかわりが欲しくなるお茶を飲む度に身体が火照り、そして上手にポーズが取れている気分になっていく。ぬるりとする湯が柔肌を滑らせ、少女の華奢な腕に挟まれた白い乳房がむにゅりむにゅりと扇情的に捏ねられ、泡が薄い腹部や内腿を流れ落ちていく。
『モデルって…大変だけど気持ちいい……』
 運動をしている様な身体の火照りにはぁっと息をつき、可憐な乳首がぴんと突き出しむず痒さを訴えているのにも気付かず少女はバスタブに手を乗せ笑顔をつくる…いや、人に期待され応える事の気持ちよさからなのか、愛らしい顔には自然な笑みが零れていた。

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