2008-9年末年始『第八夜・銀色』(『休暇便り』より)

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 今年も雪が深い。大学の近くや寮なら除雪されていて苦にならないけれど、こんな僻地のアパートだとそれは少しも期待出来ない。借りてきた4WDの後部座席にトランクを放り込み、私はアパートを見上げる。
「悔しい、かな」
 大学教授のお嬢様となると結構周囲はちやほやしてくれるもので私はそれに慣れていた。少しは物心ついてからは親の七光りだと気づいて、思春期の頃にはそれでも人生得した者勝ちだと思う様になって…そして大学で貴柾にあった。父の研究室に早くから出入りしている貴柾とはすぐに男と女になって、いつかそれなりの関係になれるかもしれないと期待していないと言えば嘘だった。休みになるとやってくる幼なじみの子はまだまだ小さくて、まぁ、面倒見の悪くない男は将来楽でいいなと思っていたけれど。
 結局、私は勝てなかった。
 いつまで経っても私の位置は二番目。あの子が来るとなると簡単に私はお払い箱になる。――いいやそれは卑怯な例えかもしれない。元から私は貴柾にとってセックスフレンドなのだから、大切な妹分を優先するのは当然…でも休暇は日常があるからこその休暇で、その日常の中ではいつも貴柾は私に優しかった、多分、独占していたと言ってもいいくらいに。とても紳士的に、とても卑猥に、私は開発されていった。
 そんな扱いをされたら期待しない方がおかしい。
 それでもやっぱり休暇になると私は一人。悔しいから少し…かなり遊びもしたけれど、でも身体が貴柾を欲しがってしまう。あんなにいやらしくて意地悪で激しい人は簡単には現われない。そしてたまに遠目に見るたびに、あの小さな『葵ちゃん』は大きくなっていき……。

「私、結婚するの」
「……。お幸せに」

 少し驚いた後、貴柾はあっさりと祝福した。少しも残念そうな顔をしないのが悔しくて思わず頬を叩いた後、ようやく私の気持ちに貴柾は気づいたのかもしれない。それでも結婚するなともごめんとも言わないのが悔しくて、悔しくて、アパートを飛び出した。
 でも、幸せにはなれなかった。
 抱かれても少しも嬉しくない。好かれている実感はあってもどうしても身体が満足しない。演技に騙される主人が馬鹿に思えて、自分が惨めで、貴柾が憎くて…恋しくて、行き場のない苛立ちが積もっていく。気持ちだけではどうにもならない、いや、気持ちが本当にそこにあると言い切れない。すべてが嘘の様で、終には、主人への不満に変わってしまう。いや、そもそも主人が貴柾以上ならこんなに身体を持て余す事はなかった筈なのに!――それは、一番考えてはいけない事だと、判っていても止められない。
 一つ真新しい銀色の鍵を失って、一つ古ぼけた銀色の鍵をまた手に入れる。
 理由は言わずにまた貴柾に抱かれる。きっとだらしない女だと思われる…いいや貴柾はそんな考え方はしないで、ただ自分の調教した女に求められれば抱くだけ。それでも独占出来るなら構わない。堕ちてる自分に馬鹿みたいに笑いたくなる。
「貪欲だな、早夜さんは」
 汗を吸った布団の上で仰向けになっている貴柾の上で、私は激しく喘いで叫びながら腰を激しく振りたくる。まだ剥がしていない蝋が乳房や下腹部やお尻の穴にたっぷりと残っていて、ようやく許された挿入に気が狂いそうになっていた。とっても太くて長くて気持ちよくて、子宮口にごりごりと傘が擦れて、叫ぶ。どうせ誰もいないアパートだし、堪える事なんてもう出来ない。ぐちゃぐちゃと結合部を鳴らせて、騎上位で乱れる私を貴柾が見ている。とても優しくて、でもいやらしい私を蔑む、発情した牝犬の飼主の目。
 最高で、最低で、セックスしか考えられない。
 でも牝犬だけがどれだけ頑張っても御主人様の責めがないと完璧な絶頂はやってこない。
「誰がこんな女にしたの…意地悪な人。あぁ…ん、焦らさないでぇ……っ」
 快楽に叫びながら訴える。どんな体位で責めてもいい、後背位でも松葉崩しでも前でも後ろでも何でもいい、バイブレータでもう一方の穴と同時責めでもいい、いや、それも大好き、とにかく責めて、苛めて、完璧に狂わせて欲しい。
 こうしている時だけは、貴柾は私のもの。
 ――その直後に、廊下で大きな音が鳴って、牝の時間は終わった。

 あの子の御機嫌を取る貴柾の姿が見たくなくて職員寮の空き部屋へ逃げる…そう、私は逃げてしまう。大きくなったあの子を抱いたら貴柾は多分二度と私を抱かなくなってしまう。醜い嫉妬、あんな小さかった子に、女として負けるなんてあり得ない。どれだけ貴柾好みの女になる為に自分が努力したか、化粧も服も会話も知識も料理も何もかも、出会ってからずっと。
 貴柾はいいお兄ちゃんなどではない。あんなに酷い男はいない。お子様が耐えられる様な男ではない。
 返す予定の古ぼけた銀色の鍵と新しい銀色の鍵を握り締めながら、最後に一度、アパートを見上げる。
「……。そっちから抱きにきてよね」

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