2010寒中見舞『2/24・振袖姫始め』(『空中浮遊』より)

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「――え?えっ…と……え?」
 初詣の後、神津君達と須藤君のアパートについて一息ついてた私は皆がテーブルを端に寄せて布団を敷くのを見て戸惑ってしまう。
「どうした槙原」
「あの…振袖なんだけど……」
「……。それは見れば判るが」
 確かに神津君が初詣の時にちょっとその気分になっているのは聞いたけれど、でも裾をからげたりで俗に言う着衣プレイを軽くするのだろうなと考えていたから出せたOKであって、布団を敷くとなると多分その領域を越えてしまうだろう。今日の結びはふくら雀で、これは形をつくっておけば何とか一人で結べる上に振袖OKな結び方で非常に重宝しているのだけれど…悪いけれど須藤君の部屋は現在密度が高いし脱いだ後干せる場所も道具もなく、ここで脱ぐのはかなり勇気がいる。そして目の前の人達はかなりその気になっているらしく、乱れを直す程度なら、とは言いにくい空気になりつつある。
「えっと、あのっ、あのっ、裾あげてとかじゃ駄目?」
「槙原…お前マニアックなプレイしたがってるな」
「え、え、あ、ああぁ…そ、そうじゃなくって」
「やめといた方がいいよ。その振袖、多分かなり高い。帯も高い。精液かかったら洒落にならないし、汗染みもつけたくない。振袖って下手すると百万越えるよ」
 とっちらかってしまって上手に言葉が出てこない私に皆が変な顔をして、そんな中佐々木君が冷静にはっきりと助け船を出してくれた。そう言えば初詣の話をした時に少し着物の話をしたから造詣が深いのか興味があるのかもしれない。尤も今着ているのは晴れ着用に割と安めに誂えて貰えたものだから百万まではいかないけれど、成人式までにはいいのを買って貰える予定だった。
「それ『ふくら雀』だよね。僕、調べておいたから多分結べるから手伝える。脱いだ方がいい」
「……。え……?え…えー?あ、あれ?あの、これ、自分一人でも結べるから大丈夫。でもそんな話じゃなくて、その」
 多分と言うのはどういう事なのだろう、そう言えば着物の話の時に結び方の話をして、その時に今日はふくら雀かなとか話したかもしれない…けれど、でもだからと言って調べておくというのはどういう事なのだろうか。いや、助かりはするのだけれど。でも着物に興味があるなら脱ぎ散らかしておく事への躊躇いは判ってくれそうなものなのだけれど。
 頭がごちゃごちゃになっている私は敷布団の上に招かれ、そして神津君達は値段に尻込みしてしまったのだろうか、缶ビールやジュースを流しに置いて遠巻きに見上げている。
 帯なんて何度も結んで慣れないと綺麗に結べないものなのだけれど、どんな技量なんだろう…と考えている間に、佐々木君は私に絡みつく形で帯締めや帯揚げを解いて抜いていってしまう。襖を開けたままのからっぽに近い押し入れの毛布の上に小物を置いていく佐々木君に翻弄されてしまう私は、不意に神津君の視線を感じて俯いて顔を上げられなくなった。
 しゅるしゅると帯を解かれ、伊達締め、腰帯と徐々に身体が楽になっていくと同時にそれが心許なく頼りなさに繋がっていく。神津君の前で、他の男の子に着物を解かれていく…自分で脱いだ方がいいのかもしれないけれど、どきどきして身体が上手に動かない。
「……、着物、面倒くさー……」
 ぼそっと田中君が漏らす。多分こんなに帯やら何やらあるのを男の子は知らないのだろう。確かに時代劇などでは簡単に悪代官が脱がしている印象があるけれど、そもそも江戸時代の町娘と現代の振袖では着付けが違い過ぎる。
「今着物ハンガー出すから待ってて」
「え?」
 腰帯を解かれた状態で不意に佐々木君が離れ、私は振袖の裾を布団の上に落とさない様に摘まんだまま首を巡らせる。持ち運び用の着物ハンガーらしきプラスチックパイプを組み立てはじめた佐々木君に呆然としてしまう。
「お祖母ちゃんのこっそり借りてきた。これないと駄目だよね」
「佐々木君…凄過ぎる」
「いや、それより槙原、お前何でそんなもこもこさせてるワケ?」
「え?補正でタオルとか巻いてるから……」
 ハンガーを組み立てた佐々木君と一緒に振袖を掛けていると、いつの間にか背後に立っていた神津君が私を引き寄せて敷布団の上に横たわらせた。
「佐々木、もう汚しても平気か?」
「……まぁ、振袖と帯は無事だし、長襦袢洗える奴?」
「そう、だけど……」
 いつも使っている須藤君の部屋なのに、長襦袢姿で神津君に伸し掛かられている状態に頭の中が真っ白になる。まだ脱ぐ工程多いのにとか考えている間に、左右から伸びる手がかなり強引に私の腰帯などを緩め、そしてかなり強引に長襦袢を緩め、今度は肌襦袢の胸元が無理矢理開かれる。
「――っ…あ……!」
 洗えると言っても元旦の深夜にコインランドリーの乾燥機は期待出来ないだろうに、まるで打ち掛けの様に合わせを開かれて纏っただけの長襦袢の下でウエストや胸元を補正していたタオルが強引に抜かれ、そして肌襦袢と裾よけが中途半端に開けられる。ぶるんと乳房が剥き出しになった瞬間、片方を思い切り揉みしだかれ、もう一方の乳首が咥えられて強く吸われる。いつもは皆順番とかを気にしてくれるのに、今日は何故かせわしない。口内を指で弄られ、そして前戯もなしに膣口を指が撫であげ……とても卑猥な粘液音が鳴る。
「槙原ドロドロ」
「あああぁ…いや……はずかしい……っ」
 制服姿で皆に挑まれる事はあっても、今長襦袢姿なのが自分でも変なくらいに恥ずかしくて、衣擦れの感触がするたびに全身がぞくぞくと妖しくざわめいてしまう。タオルを引き抜いたのにそれを押さえていた腰紐が一本残っているから、肌襦袢が妙な形に残って、肩から乳房まで剥き出しにされてしまっているのに脱げ切れない。膣内に突き立てられた指の激しい抽挿でぐちゅんぐちゅんとひっきりなしに沸き立つ濃い愛液の音が緩いものに変わり、内腿の辺りに飛沫が飛ぶ。
「すげぇ興奮してるな」
「槙原ドMだからな」
 押しつけられるままに両手で扱いていると、両方ともどろどろに先端から先走りの露が伝ってきて指が滑りだす。Mなんて認めてはいけないけれど、皆もとってもいやらしくなった…最初の頃は、こんなに先走りの露で根元までどろどろにさせてそれを顔に塗りつけたり、口に塗り込んだりしてこなかった。息が詰まりそうなくらいに男の子のにおいが部屋に篭って、そして、私の甘ったるい淫らなにおいも一緒に紛れている。
「姫始め一番乗り、誰にする?」
 神津君、きて。神津君にして。まだ始めて少ししか経っていないのに頭の芯がもうとろんと蕩けていて、いつでも迎え入れたくて…ううん神津君に貫かれたくて全身が疼いて私は四人がかりの状態のまま身体をくねらせる。言いたい。神津君来てって言いたい。でも言うと恋人気取りの重たい子だと嫌われそうで言えない。
「槙原、誰がいい?」
 楽しそうな田中君の質問に、私は身体を縮こまらせて首を振る。言いたいのに言えないおねだりが辛くて、泣きたい気分になる私の両脚を、誰かが抱え込む。
 ぐちゅっと卑猥な音を立てて、一気に私の中にとても熱いものが押し込まれた。
「はぁああああああああああああああああ!」
 溢れた声を大きな手が塞ぎ、そして私の腰を抱え込んだ人が挿入されただけで達してしまった私の痙攣が収まるのも待たず激しい抽挿を始める。ぞくんと全身に強烈な刺激がはしり、そして甘い痺れと交互に襲って足袋に包まれたままの爪先まで染みていく。知ってる。この身体は、私、知ってる。裾よけごと腰肉を掴む指、引き締まった腰、根元まで貫いた後、ぐりんって腰を揺らす癖、そして須藤君とは違う、でもとっても…とっても…気持ちいい硬くて熱くて大きなもの。
 ぽたぽたと滴るものが裾よけや長襦袢を濡らすのも気にならない。今年始めての、神津君。
 終わった後、とても大変そうなのは予想出来るけれど、でも…何と言うのだろうか。考えてはいけないけれど……。
 縁起がいい、という言葉が頭に浮かんでしまった。

 まるで子供の様に膝に乗せてくれている神津君の上で、緊縛などもあってすっかり汗まみれ粘液まみれになってしまった襦袢セットやタオルなどを眺め、私は途方に暮れていた。
 須藤君は朝のランニングで、田中君達は高鼾で気持ちよく寝ていて、佐々木君は先刻から何だか機嫌よさそうに、何故かそれだけは流しで手洗いした腰紐に携帯用アイロンを丁寧にかけてくれている…本当に準備万端な人で怖いくらいである。
「コインランドリー、今日開くのか?」
「気にしないでいいよ。長襦袢なら持って来てるから」
「……。お祖母さんの?」
「まさか。新品だよ」
「え……でも…何で」
 着物の知識があってハンガーを持ってくるまではあっても、まさか長襦袢までいつもの道具類やコスプレ衣装の様に買って準備していたのだろうかと思うと焦ってしまう。安いものは確かに安いけれどでも一万円前後はするだろう。
「お年玉って事でどう?」
「お年玉って、そんな私貰う権利ないから」
「でもこの長襦袢着て帰るの無理だよ?」
「俺がその新品を買う」
 いつも通りに佐々木君にやんわり押し切られそうになった私に、背後から神津君が急に口を挟んだ。
「……」
「俺が買う。――そうだな、姫始め一番乗り代だと思えばいい」
 そんなの無料です、と言うか逆でいいくらいで。そう言いたい私の下腹部に乗せられていた手が、濡れきった粘膜へと伸びる。クリトリスを撫でられてびくんと全身を跳ねさせてしまう私の首筋を、神津君が背後から軽く噛む。年の初めからこの人はたくさん痕をつけてちょっと困るけど…嬉しいからまた別の意味で困ってしまう。くにくにとクリトリスを捏ねられて縮こまる私に悪戯を続ける神津君が、やがて私をまた布団の上に組み伏せた。
「佐々木、もう一戦やるか?」
 無理だと思う。神津君と須藤君は底なしだけれど、佐々木君も田中君達も恐らく普通の人達で、そして佐々木君は多分もうアイロン掛けているのが不思議なくらい疲れ切ってる筈で。
「……。僕は遠慮しておくよ」
 そして私もかなり疲れているのにな、とちょっと贅沢な事を考えながら、私は神津君のキスを待って瞳を閉じた。

2010寒中見舞Special Fin
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