『真夏日とセーラー服(仮)』朝曇り1

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 まだ蝉時雨もない早朝から部活動の為に開放されている校門を抜け、校舎へと向かう香澄の足取りはおぼつかないものだった。
 所謂名家子女が大半を占める珍しい私立共学のものとしてだけでなく、その優雅なデザインで香澄の通う高校の制服は内外で人気がある。殆ど白に近い淡いグレーのワンピース型にセーラー襟、腰周りからふわりと広がるフレアスカートとは対象的に、フィットした胸元からウエストにかけては女子生徒のシルエットがかなりはっきりと出る制服は在校生内では「太れない制服」という微妙で深刻な評価を受けているが、体形の心配をした事がない香澄は気に入っていた。
 だが今はその胸元が気になって仕方がない。グレーの布地は透けにくい素材ではあるもののやはり夏服は布が薄く、ブラジャーなどのレース模様を透かす程ではないが全体のシルエットは若干判らなくもないだろう。下着さえ着けていればなだらかな曲線で済むのだが、下着の着用を許されていない香澄の胸元は硬くしこった乳首とニップルリングが不自然な形に布地を突き上げてしまっていた。
 ちりんとかすかに鈴の音が鳴るたびに香澄の肩がびくりと震えた。
 下着をつける前提の制服の素材は敏感な肌に密着するには若干粗く、豊かに突き出す乳房の先端が一歩進むたびに揺れて擦れて香澄の乳首を刺激する。下着を着用していない状況に緊張し否でも応でも意識してしまう上に、ニップルリングを付けている肉体的刺激は始終乳首とクリトリスを強く摘ままれた感覚に陥らせ、香澄の頬を桜色に染めさせていた。
 ふぅとちいさく漏れる吐息は甘く切なげで、大きな瞳が潤みきったままの憂鬱な表情は扇情的ですらある。クリトリスの刺激を堪える歩みは自然と腰を中途半端にくねらせては抑える動きを繰り返す事になり、制服の胸と腰が妙に人目を引いてしまう悪循環に香澄本人は気付いていない。
 部活動の早朝練習は正門からは見えないグラウンドが主であり、昇降口への歩道には誰の姿もなく香澄は安堵の息を漏らす。
 早朝の空はやや曇り、浅い海中に似た鈍い光で少女の視界を満たし、映画か何かのワンシーンに紛れ込んでしまった様な錯覚を与える。夢か作り事の世界の出来事ならばどれだけよいだろうか。
 いや世界は現実として継続している中、香澄本人がもう幽霊か何かでこの世界に居続けていると思い込んでいるだけなのではないだろうか? 本当はまだ昨日の朝のままで、自分は悪い夢をずっと見続けているのか…こうして外出出来る自分は神経が太いのかもしれない、膝を抱えて部屋に篭っているのが普通なのかもしれない、だが膝を抱えて不安と向き合うだけの勇気すらないまま、やるべき事命じられた事だけを考えもせずなぞっているだけの中途半端な現実否定が香澄の唯一の自衛手段だった。
 朝一番で開いた事務所に学生証紛失の手続きを済ませるのは、男達に取り上げられた学生証が返された制服一式に含まれていない為だった。恐らくは男達に返すつもりはないだろう。自分はこのまま男達の慰みもののままなのだろうか…ただ家族や周囲に知られずに済む事だけが救いなのかもしれない。このまま息を潜めて堪え続ければいつか男達も飽きてくれるだろう、そう香澄は考えてしまっていた。
 事務所で眠たげな当直に学生証再発行手続きを依頼し、生徒用昇降口へ戻りかけた香澄は聞き慣れた話し声に思わず立ちどまり、そして凍りつく。
「ホントにエロかったんだよ!言いなりでさ、嫌いや言いながら何でもするんだその女」
「AVの販促か何かじゃないか?」
「いやあれ若いよ。俺達と同世代じゃないか?」
「動画保存誰かしてないのか?」
「それが妙に対策してる所でスクリーンショットがやっと」
「どのシーン?回せまわせ」
「指二本突っ込んでるどアップ」
「そんなのエロ本で十分だろ! ――あの子なら乳から口元映った時のが一番エロかったのになー、涎垂らして乳揉んでー…あのおっぱいエロかったなーあー揉みたいっ」
 何か、どこかで成人向け映画の鑑賞会か何かをしたのだろうか。その声に香澄は聞き覚えがあった。同級生の男子のものである。今は聞きたくない性的な話題に、すぅっと血の気が引き膝が小刻みに震えだした香澄は反射的に手前のスチール製下駄箱の裏に隠れた。
 今まで意識していなかっただけでもしかしたら教室でも似た様な話題があったのだろうか。同級生の男子にも性欲があって然るべきなのだと今の香澄には判ってしまうが、知りたくはない一面だった。誰にでもあると理性は告げているのだが、今の香澄にはそれを他人事の様に受け流すだけの余裕はない。
「あれ素人だろ、夕方に電車痴漢モノ流してたけど絶対あれ演技じゃないよ」
「マジ調教?犯罪だろそれ」
「でも援交撮影とかならアリか?無茶してセーラー服着るババアAV最悪だし」
「糞っ、あんなメールだから電話貰うまで無視してた…誰があんな怪しいメール踏むかよ」
「でも三年にも一年にもメール届いていたんだろ?」
「んー全校男子なのかは知らないが俺の部はほぼ全員届いてたみたいだ」
「でもあのセーラーはないよな、レイプしてくださいと言わんばかりのあのエロ丈」
「だからさ、誰かその痴漢電車保存してない?部屋のでもいいから」
 血の気が引いているのか青黒く染まる視界の中、どくんどくんと香澄の鼓動が耳のすぐ近くで大きく響いていた。彼らの話す内容が自分の知っているものと近い気がしてならない…あまりにも酷い偶然である、そう思うと同時に悪い予感が全身を絡め取り、香澄を凍りつかせて逃さない。
「一番エグかったのは陸橋だよ」
「何それ」
「セーラー服脱がしてぶっかけ祭り。アーンド精液付指マン+絶頂失禁+剃毛ショー」
「うわそれエグいな。剃毛とかソープでもさせないんじゃないか?」
「セーラー服脱がしたら駄目だろ」
「いやいや脱がしてない。超ミニスカート脱がして、セーラー服は前オープン」
 男子生徒の声に、香澄の頭が真っ白になった。指マンという言葉は確か昨日男達が言っていた指を膣内に挿入する行為であり、そこに精液付き、となるとあの指に精液が付着したまま膣内に挿入されていたのだろうか。それを確認する術は香澄にはない…いやあの時は目隠しなどは施されてはいなかったのだから自分で目視をすればよかったのだが、しかし確認するだけのゆとりなどなかった…いやそれは言い訳なのだろうか?自衛する方法や自由はあったのだろうか?
「じゃあ本番なしでもレイプ済みみたいなもんじゃないか」
「まぁアレで新品と言っていいかは疑問だよなー」
「晒されてる時点で中古だよ。どんな可愛くても中古」
 駅から自宅までの途中、立ち寄らされた建物の一室が香澄の脳裏に過る。コンクリート製の壁に床の寒々しい広い空間とその中の異常な設備。肉食獣が入りそうな金属製の檻、天井から降りる滑車、大きな鏡、そして香澄が再び服を奪われ座らされた見慣れない奇妙な形の椅子。――開脚台という名の椅子の上で男達に見下ろされ全身をまさぐられ、膣内に挿入された器具と薬などは乱暴にされた傷の手当ての為だと香澄は教えられていた。
 まだ異性と結ばれてもいない状態で妊娠の可能性のある行為をされていたと気付き、香澄の身体がぐらりと揺れる。反射的に下駄箱に突いた手がそのまま落ちそうになる少女の瞳が目の前の灰色の下駄箱を映しながら虚ろに泳ぐ。
「中古なんて嫌だよなぁ」
「――え?あ……あぁ……」
 今まで会話に加わっていなかった声に、香澄の身体がびくりと固まる。
 夏休みになる直前、不器用そうに告白をしてくれた知的な顔立ちが香澄の脳裏に浮かぶ。その時渡された返答用のメールアドレスと住所と電話番号が右上がりの少し癖のある涼しげな文字で書かれた一筆箋はまだ机の引き出しの中に収まっている。
「でも中古でいいんじゃないか?やり捨て出来て面倒がないとか最高」
「フェラチオ止まりならOKかな」
「他の男の後でセックスはやっぱり嫌だろう」
「共有は嫌だから動画で十分。俺二回抜いちゃった」
「少ないな、俺は四回」
 すっと血の気が引いている中、不謹慎に香澄の心臓が大きく脈打つ。
 自分のあの生放送を、同級生男子が視聴していた。恐らく、それは確定事項だった。
 同級生の男子が自分を自慰に使った事実は十七歳の少女にとって衝撃的で嫌悪感を伴うものだった。だが、男達に責めたてられていない今の香澄の意識の大半を占める理性のその奥で、一日で残酷に塗り替えられてしまった被虐的な牝の部分がぞくぞくと疼き始めているのにまだ少女は気付いていない。朝のシャワーで自ら整えた無毛状態の丘の奥で、綺麗に拭ったニップルリングに挟まれたクリトリスのその奥で、膣口からとろりと愛液が滴り落ちている現実にも。
 制服のポケットには今も盗聴器が几帳面に収められており、まだ早朝で聞かれてはいないかもしれない…だが男が気まぐれに携帯電話を鳴らせば男子生徒達に呼び出し音が届いてしまうだろう。マナーモードにしていないのに気付き、香澄はそろそろと鞄へ手を伸ばす。
 ちりん。
 不意にかすかに鳴った鈴の音に、香澄の身体が凍りついた。
 その音はかすかで男子生徒に届いていない筈だが、今の状態が非常に危険なものであると少女に知らせる。いや、今の香澄と同級生が会ってもそれはただ普通に挨拶をすればいいだけの状態なのだが、しかし顔は見ていないだけで命令されるままに晒した自慰行為をすべて見てしまった同級生に何食わぬ顔で挨拶するだけの度胸も勇気も香澄にはなかった。下着も付けていない。鈴の音は響く。恐らく何も応える事が出来ず無様に震え、そして彼らに目の前の人物が何故その様な状態なのかを悟られてしまうだろう。何を言われるか判らない。昨夜に自分達が視聴した生放送であられもない姿を晒していたのが目の前の同級生だと知ってしまえば、彼らは軽蔑するだろう。男達と同じ様に淫乱と罵るのだろうか、それとも憐れみの目で見るのだろうか。
 膝の震えが激しくなる中、香澄は足元に落としていた視線を虚ろに通路へと彷徨わせた。
『離れないと……』
 男子生徒の会話が続く中、この場から離れようとそっと足を運ぶ香澄の祈りを嘲笑うかの様に小刻みに鈴の音が響き、小さいが確実に続くその音は焦る香澄の瞳を更に頼りなく虚ろにさせる。まだ夢の中にいるのではないか、そんな曖昧な感覚になるのは青いフィルターがかけられた様な早朝の光景の為だろうか、それとも人気の少な過ぎる校舎内の為だろうか。
「――今、あの鈴の音しなかったか?」
「お前あの動画気に入り過ぎだよ」
 昇降口に面した階段の非常扉の裏に隠れた香澄の耳に、わずかに近づいた男子生徒の声が届いた。下駄箱の辺りにいた生徒が廊下に来たのか、その声の反響は少ない。緊張しどくんどくんと脈打つたびに香澄の乳首とクリトリスのニップルリングが締まる錯覚に、青ざめた顔が複雑に歪む。かすかに震える身体を制服の布地が撫で上げ、乳首を擦る感触が昨日から残り続け少女を苛む痛痒感を蘇らせる。今思い出してはならない快楽の余韻は緊張すればする程身体の芯を燻らせ、徐々に全身へと伝わっていくのが判り、香澄は絶望感に仰のく。
 どこまで淫らな身体なのだろうか、それとも女という生き物は皆こうなのだろうか…いや母を見ても誰を見てもこんな面を感じた事は香澄にはない。ならば自分だけがこうも淫蕩な性質なのかもしれない、だからそれを見抜いた男達に責めたてられてしまうのかもしれない。誰にも命令されてはいない、それなのに乳首とクリトリスのむず痒さに自慰に耽りたくなってしまい、ニップルリングで刺激され続けているのだから仕方ないと割り切れないまま香澄はかすかに身をくねらせる。
 上品なフレアスカート部分の内側ですらりとした脚が揺れるその付け根で、小さな突起を挟むピンクゴールドのニップルリングが幼児の様な初々しい丘のわずかな動きに合わせて揺れ動く。ちりちりとかすかに鳴る音に誰も触れていないにも関らず紛れるかすかな粘液の水音は、今は閉じた状態の丘の割れ目の間で薄い襞が溜まりきった愛液を掻き混ぜるものだった。
 徐々に近づいてくる足音を聞きながら、淫らな色を帯びた香澄の虚ろな瞳は階段の踊り場の填め殺しの大窓の向こうの空を映していた。

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