『誘惑〜Deduction〜 STAGE-1』

表TOP 裏TOP 裏NOV BBS Induction20<Deduction1>2

「反吐が出る」
 私を見ながら、その人は言った。

 何故そんなに苦しそうなのか、何がこの人を傷つけているのかを問いたい衝動に駆られながら、少女は何一つ言えないまま目蓋を伏せる。愛しい女性の居る人だと判っていて自宅に上がり込む自分の浅ましさに消えたくなる…それなのに何故医師は自分に接吻したのだろうか。男と女の営みにおいて接吻は欠かせぬもので除外するのが殊の外疎ましいのかもしれない。――医師が少しでも自分に興味を示していてくれているなどと誤解してはならなかった。
 浴室の床の上で、舌を絡め取られる。
 頭上から降り注ぐ湯をその身で受け止める人の髪が背中が影を落とす中で、くちゅりと舌が音を鳴らす。微かな、ほんの僅かな、染み付いている煙草の苦み。出会った時には喫煙していたのに最近は数を減らしているのかもしれない。何処が美味しいのか何が良いのか判らない…それでもそれがこの大人を構成していると感じるだけで身体の芯から蕩けて崩れ落ちそうになっていく。――夢中になってはいけない人に溺れそうな自分が怖くなる。
 同い年…せめて十歳差だったのならば意識の隅にでも存在出来たのだろうか、それともやはりあの美しい看護婦に捧げられた愛情は揺るぎもしないのだろうか。どれだけ願っても考えても叶う事のない望みに、胸が悲鳴をあげる。何故あの人は医師に抱かれてくれないのか、抱き締めて差し上げないのか、これ以上この人を苦しめないで欲しい。自分が触れる隙など与えないで欲しい。一時の慰めになれるのではないかと、不相応な夢を見させないで欲しい。
『反吐が出る』
 そう言われた。
 自分の醜く浅ましい思慕を見抜いてしまっているのかもしれない、釘を刺している可能性の高い言葉が胸に刺さる。
 医師に贈られた服が上質な事は判っており、母親に相談しようとは思い、躊躇っている。この日の行程はまるで男女の逢い引きの様であり、患者を労る医者の配慮と受け取るには甘やか過ぎた。下着から鞄までの一式は到底遊びで気軽に費やせる額ではない。ましてや指輪は、老舗宝飾店の中でも奥まった場所にある婚礼用等の最高級品の並びの品であり軽いファッションリングとは全く異なるのも判っていた。お年玉や小遣いからこつこつと貯めた少女の貯金では洋服一式分を返す事が出来ても指輪は無理だろう。――それでも、この指輪は手放したくはなかった。額の問題ではなく医師から贈られた指輪は例え硝子玉であっても特別な宝物である。だが、医師の考えが判らない。まるでシンデレラにかけられた魔法の様な贅沢は何を意味するのだろうか。
「泣くな」組み伏している男の小さな声にぴくりと身体が震え、少女はそっと瞳を向ける。硬質で無機質な彫像の様な端整な顔立ちはいつも気難しげで、深い色の瞳は柔和さとは無縁な鉱石の様だった…深い闇に微かに差し込む光が曹灰長石に似た藍と翠が漂わせる色合いの美しさに思わず見入ってしまう少女に、男がもどかしげに顔を顰める。「――泣くな」
 ぽつりともう一度繰り返した男が少女を引き寄せ抱き締めた。
「せん……」
 何故優しくされるのかが判らず少女は言葉を詰まらせる。嫌悪している相手に優しいのは、愛しい女性への行き場のない思いを自分で発散させる疾しさの為なのだろうか?それとも誰にでも優しいのだろうか?
 そっと唇が重ねられ、緩やかに唇を啄む接吻の柔らかさと抱き締める医師の身体の逞しさに身体中が甘くこそばゆい恍惚感に満たされていく。浴室で膝立ちになり大人の異性の腕の中に収まりながらの接吻は恥ずかしいものである筈なのだが、蕩けそうな程の安心感と心臓が破裂してしまうのではなかろうかと不安になる位の胸の高鳴りに少女はそっと息を漏らす。
 同じ人間の身体なのだが造形がまるで異なる撓やかでありつつも鋼を思わせる筋肉は、乙女を怯えさせる程の力強さを感じさせる。今は砕けてしまいそうな力ではなく、そっと真綿で包まれている様な優しげな籠を連想させた。この腕の中にある限りは何を恐れる必要もない、そう医師の身体が無言で伝えてくる。
 ただ、それは一時でも自分に与えられるべきものではない。憂さ晴らしで他の女を求めて後悔する姿を見たくない。何て卑怯なのだろうか自分は。医師の過ちに付け入って一時でも傍らに置いて欲しいなどと……。
 そっと穏やかに口内粘膜を舐る舌先の柔らかさに全身が蕩けそうになる。知らずにいた快楽の芽を曝く時は激しく追い詰める様で、今優しげに抱き締める時はまるで幼子や壊れ物に触れる様で、医師と言う人間が二人いるのではないかと思える程にその様は異なり少女は戸惑う。
 時折漏れる微かな吐息は低く、深く、唇が離れた直後に唾液を舐めとる舌は何処か肉食獣を連想させ、それだけで腰が砕けそうな程に悩ましい。眩暈の様な感覚に反射的に縋り付きそうになった少女は掴まる先が男の身体しかないのに気付き、そのはしたなさに頬を更に染めて僅かに身体を引く。
「逃げるな」
 男の声に少女の身体がびくっと揺れた。傷付いている医師に逆らうつもりはないが、医師が後で悔やむ行為に甘えてはならないと考えてしまう…悩んだ結果の一時の慰めだとしても。
「――裏切って……」
 甘えられればどれだけいいだろうかと無責任な堕落に執着する自分の醜さを医師にだけは知られたくないと願う少女を、男が見据える。その目の鋭さと暗い瞳の底の熱量に瑞穂は言葉を失う。それは灼熱の炎か触れれば傷付くドライアイスか、激しいものが揺らぎもせずに向けられる圧に屈して崩れるのではないかと思った身体は、少女の予想に反する動きをした。
 華奢な手が、男の胸板を押し返す。
 元から非力な上、片手はギプスで封じられている身体では抱き締めている男の身体を押し返すなど数センチも出来はしなかったが、その明らかな抵抗は明確な拒絶であり男にも伝わってしまうものだった。――このまま密かな思慕を叶える過ちを避けられればと思いつつ、これでいいのだと淋しく思う少女の両の手首をギプスの右腕も不意に力任せに掴まれて驚く瞳に、獰猛な、冷え切った男の目が映る。
「言い訳が必要か」何故だろう。突き放す様な医師の声が、何故、胸の軋む音に聞こえるのだろうか。「――ならば、犯してやろう」
 浴槽の床へと押し倒され組み伏された少女に頭上からシャワーの飛沫が降り注ぎ、照明を背にした男の醒めた顔が映る。濡れた髪が額に貼り付いた姿は前髪を軽く流した常より若く見え、そして不遜な暴君の様にも見えた。明らかに医師の機嫌を損ねたのだと判り、足りない言葉を紡ごうとした少女は口を開きかける。
「黙れ。お前はもう何も言うな」
 男の言葉に少女の思考が凍る。拒絶の言葉に胸の奥に秘めた綻びかけた小さな花が硝子細工の様に固まり罅割れそうになるのを感じ、身体が怯えに竦み動けなくなる。
 自分はこの人にとって何なのだろうかと凍った思考の表面で問いが浮かぶが、その答えが見つからない少女の肩に、男が歯を立てた。

 浴室内に甘い微かな悲鳴が籠もる。
 膣内と窄まりを同時に指で捏ねられぐちゅぐちゅと下品な音を立て少女を耳から辱めていた。他の異性も行為も知らない少女にとって医師だけが性的な行為の全てだったが、今の行為はそれまでの経験とは異なる鮮烈過ぎる快楽に全身から汗が滴り落ちガクガクと震え続けて止まらない。頭の芯から爪先までを引っ切りなしに白い火花が飛び散り、肉体の枠が壊れて蕩けて崩れていく…床と医師の身体だけが世界との接点になり縋り付きたくて頭が狂いそうになる。医師に口内を容赦なく舐られ互いの唾液が混ざりあい、喉奥に流し込まれ、零れたものを嚥下される。
 声が、溢れる。
 異性の身体は、男の身体は、鋼の様だった。引き締まった皮膚の下は脂肪を感じさせないしなやかな筋肉のうねりであり、胸板も肩も腕も只管硬い。生白い少女の柔肌と異なり浅い赤香色の肌は健康的だった…晩秋であっても露出している顔だけでなく腰回りも同じ色なのだからそれは日焼けでなく純粋に男の肌の色なのだろう。シャワーの飛沫の中で温められた身体のにおいは流されている筈なのに時折感じる、医師に染み付いた煙草と消毒液と微かに溶ける人の身体のにおいはすっと鼻腔を抜けて染み込んでいく穏やかな沈香の様に清く心地よく少女を酔わせていく。医師の見せる荒ぶりも力強さも清さとは真逆であるにも関わらず、いや、穏やかなにおいの底に漂う重厚な深みが嗅覚からも瑞穂を絡め取ってしまう。
 弱く首を振る少女の膣口からは淫らな愛液がとろとろと溢れかえっていた。男の指をひっきりなしに牝肉と窄まりが喰い締め捏ね回してしまう。男に抱え込まれ、首筋に歯を立てられる。痛みに、鳴く。今までも歯跡が残される事は多々あったが、今までよりその力が確かに強く思える…肌が食い破られてしまいそうな痛みが少女に与えるのは、異常な幸福感だった。誰にも見せられない痕は隠さなければ医師に迷惑をかけてしまうだろう、だがそれを秘めてそのまま時が止まってしまえばいいのにと願ってしまう。
 腹部に当たる医師のモノは萎える兆しなどなく猛り続け少女の薄い腹部に先走りの汁を時折塗り付けて伸ばしていく。愛液の量に比べ僅かなそれだが、男も興奮している確かな証に思え少女の身体の芯がじわりと熱く潤む。そして、混乱が深まっていく。美しい女性を愛している人が自分にこうして触れて愉しめるのか、疎まれているのに傍にいるのを許されるのは何故か。――その結果は、簡単に辿り着いてしまう。愛しているが故に、辛いのだろう。不快な存在で性的欲望を晴らしてしまう程に、これは医師の内圧を発散するもので、そして自虐行為なのだ。
 男の手が頬に触れ、そっと撫でる。静かな表情の目は確かな熱情を帯びており、そこに映る自分を見定めている様で、少女は瞼を伏せてしまう…自分では到底敵わない大人の女性を愛している人に身の程知らずに浅ましく寄せる思いは不快でしかないだろう。それとも子供の麻疹みたいなものだと受け流されてしまうのか、いや、恐らく気付かれればもう触れては貰えなくなるだろう。遊びと本気を上手に使い分ける事が出来ない人に思えた。何故か、悲しい位に、確実に。愛する人以外は無価値なのだろう、蔑んでしまう程に。それだけ傷付いているのだろう。愛する人の……。
 医師の唇が少女を軽く啄む。男女の営みはこうも多く唇を重ねるのだろうか、一生分をされている様な繰り返しの接吻は全てが腰が蕩けてしまう位に甘い。軽く重ねるだけですらそっと触れる唇に全神経が集中し、微かに擦れる刺激だけで心地良さにうっとりとしてしまう。あ……っぁぁ…っと微かに零れてしまうはしたない声に、お仕置きの様に男の指に窄まりが圧し開かれる。不浄な場所を三本の指で犯されているのに、最初苦しさしかなかったそれが妖しい疼きに変わってしまったはしたなさに少女は鳴く。ふしだらな娘だと医師に思われたくないのに、揃えられた三本の指が根本まで送り込まれる苦しい快楽に全身が震え汗が滲む。医師を汚してしまうかもしれない恐怖に竦む身体を、逃がすまいとする様に男の腕が絡め取る。
 ぁ……!あぁ……っ!と浴室に反響する声は苦しげでありながら確かに快感に濡れたもので少女は耳を塞ぎたくなる。逃げ出したい。羞恥に涙が溢れながら膣口からは窄まり側から押された愛液がとぷとぷと溢れていく。ずぐりと深く差し入れられた指が引き戻される度に汚れていないか怯え、指が医師に見える位置まで戻されずに再び突き入れられてしまう事に安堵してしまう。抜かないで欲しいと願ってしまうのは、見られたくない為であり、窄まりに医師を感じる事すら後ろ暗い悦びを憶えている事を少女はまだ認識出来ずにいる。――その白い身体の反応は排泄孔での快感を確かに開花させられていると男には探るまでもない程に判る状態だと、解れきった身体が淫らに無防備に男を強請っている濃厚な色香が、限界まで肉槍を猛らせている事に。

 何度か繰り返された浣腸とその飛沫に構わず続けられた愛撫等に何も考えられなくなり、逞しい腕に抱かれて寝室に運ばれた少女の窄まりを、医師の舌が抉っていた。
 零れる喘ぎ声は泣きじゃくる幼女の様である。何も考えられないまま反射的に脚の間に顔を埋めてる男の髪に触れ、押し返すにも蕩けた身体にはもう力が入らず、ただ濡れた髪を頼りなく撫でるでもなく抱えるでもなく揺れ動き、そして跳ねる。すぐに汗で濡れてしまうと考えられたのかおざなりに拭かれた身体からはもう少女の甘い匂いが漂い、ベッドの上に卑猥な湿った熱気が籠もり始めていた。解れきった窄まりを医師の舌と指が執拗になぞり、白い尻肉と内腿がひくひくと痙攣し、大きく広げられ高く掲げられた脚が男の手の中で淫らに揺れる。
 やがて、顔を上げた男が身を起こし近くに転がしていた容器を手に取り開けている間に、緩やかに眠りに落ちてゆきそうだった少女は、窄まりに触れた違和感にびくっと身を震わせた。ただの医師の指とは異なるぬちゃぬちゃとした粘液は若干冷たく、だが異常なぬるつきに意識が引き戻されていく。愛撫と言うより何かをたっぷりと塗り込まれる感覚は浣腸の薬液を連想させ、ベッドの上でのその行為に思わず上へと逃れようとしてしまうが、身体は思うままに動いてはくれない。
「せん……」
 何を伝えればいいのか判らないまま小さな声を紡ぎかけた少女は、医師の姿に凍りつく。
 臍の辺りにまで反り返っている長大な肉槍に、男が白い粘液状の物をたっぷりと絡ませている。いや粘液と言うより軟膏状の方が近いだろうか、滴り落ちるまではいかず塗られた場所にそのまま留まるそれが潤滑剤であり自分の窄まりにも塗られた意味を本能的に察し、少女はベッドの上で身動ぎしてしまう。腰の下に差し入れられている枕は少女も腰の位置を高くさせており、ただ身体を重ねるだけではないこれからの行為の予兆に、少女の瞳が期待ではなく不安と戸惑いに揺れる。
「怖いか」
 怖くて当然である。執拗な愛撫に浴室で洗い流され拭われてきたが愛液は既にねっとりと少女の尻肉を濡らしベッドのシーツに染み込んでしまっている…だがそんなはしたない状態でも潤滑剤は膣の為の物であり窄まりを保護してはくれない。その為の粘液なのだろう。三本の指で解され切っている窄まりだが、それよりも医師の傘は太い。求められるままに応えようとしても肉体的限界はある。何より、医師を穢したくない上に、異常な場所での性交は医師を後悔させないだろうか。
 ああ。少女の中でことりとパズルのピースの様に結論が収まる。異常な性交は疎まれているからであり、愛しい人への不貞を避ける意味もあるのだろう。それが快楽に繋がるのか貞節を守れるのかは判らないがぼんやりと理解出来てしまった現実の悲しさに、少女は泣きそうになる。
「……」少女は小さく首を振る。所詮疎ましい存在であっても、自分の身体が医師の慰めになれるのならばそれでいいではないか。一生思慕を伝えられなくても、負の衝動でも医師に願われたのならばそれを叶えたい。「――どうか…、犯して下さい……」
 微笑めたか自信のない自分を見下ろす男の表情が読み取れず、少女は戸惑う。怒りと不快と、それより大きな、まるで傷付いた様な歯痒そうな眉間の皺と顰められた眉。その様な表情をさせるつもりはないのに、もしかしてやはり声も聞きたくないのに言葉を口にしたのがいけなかったのかもしれない。言葉のやりとりも不要な、ただ肉欲の捌け口であれと望まれる惨めさが胸に氷の楔を打ち込まれる…だがそれが医師を本当に楽にさせられるならばいいと願ってしまった少女はぎこちなく微笑む。
「愚かな小娘だ。その言葉、忘れるなよ」
 冷えた声で蔑みながら医師は手についた潤滑剤をバスタオルで拭い、そして少女の両脚を更に割り開いた。窄まりであっても初めて男に身体を捧げる時が来たのだと緊張しながら、侮蔑の言葉であっても医師が応えてくれた喜びに少女は僅かに甘えてしまう。
「あ、あの……っ、部屋を…部屋を暗くして……いただいてよろしいでしょうか……」
 照明はベッドの枕元のサイドテーブルの上の照明だけだったが、それは男と女の身体に煽情的な陰影を落とすものであり少女にとっては明る過ぎた。自分は瞳を閉じていればいいとしても、医師に見られるのは酷く恥ずかしい…もしかして汚してしまいそうな時も気付かれる前に逃げ出せるかもしれない。
「凌辱は相手を辱めるものだ」
 冷えた口調で答える男がゆっくりと腰を重ねた瞬間、びくっと少女の身体が震える。ぬろりと異常なぬめりが窄まりを撫で、医師の剛直が傘から袋までが綻んだ窄まりを滑る。反射的に見てしまった下腹部に白濁した粘液をたっぷりと絡み付かせている大きな傘が映る。
「――っ……!」
 他の異性と比べられはしないものの医師のモノが大きいとは感じていたが、今まさに迎え入れるのだと実感してしまった乙女を純粋な恐怖が絡め取る。女性の腰は出産可能なのだから結ばれる事も可能な筈だが、未成熟とまでは言わないが少女の腰は細く安産型と評された事は一度もない。医師の身体は巨体ではないが長身に相応しく肩も胸板も広く若干着痩せする整った筋肉質であり、禁欲的にすら感じる大人の異性の悩ましい色香が少女を圧倒する。
 受け入れる事が出来るだろうか?と不安になり身を縮込まらせてシーツを左手の指先で握ってしまう少女を嘲う様に男がじっくりと腰を遣う。傘を綻んだ窄まりに軽く突き付けてからぬろりと滑らせ、袋に辿り着くまでの長さを教え込む様に時間をかける男に少女の身体が小刻みに震える。怖い。少女の細腕を捩じ込む様なものである。怖れ怯えているのにその被虐は何処か甘く、少女の膣口が男の肉槍の陰でくぷくぷと物欲しげに揺れ動き少女の甘い体臭と濃い愛液のにおいがベッドの上に籠もる中、男の腰だけがゆっくりと大きな動きを繰り返す。もしも窄まりでなく膣でなら少しは正常に迎え入れられるのだろうか、医師に求めては貰えないと判っていても密かに変更を期待してしまう。異性の前で、いや特にたった一人医師の前でだらしなく脚を開いている体勢の恥ずかしさに少女は首を振りたくる。
「ぃ……ゃぁ…っ、はずか……し……」
 涙を零しながらの哀願する少女の両方の膝の裏に男の手が当てられ、ぐいと更に左右に大きく割り開かれた。せめて秘めやかにと願うのとは逆の行為の衝撃に、白い身体がかくんと跳ね牝肉が妖しくうねり今何も挿入されていない状態であるのも関わらず軽い絶頂が少女を襲う。あっああああっと感極まった声が唇を割り、愛液塗れの小さな腰がぶるぶると震える。
「お前には恥辱が似合う」
 静かな部屋にぽつりと零された男の言葉に少女の瞳から涙が溢れる。それは酷い言葉である筈なのに、広い寝室の薄闇の中の声音はまるでじっと耳を傾けている音楽の中のささやかな独奏の様に心を捉えて離さない。ひくひくと牝肉の痙攣も止まないまま少女は虚ろに医師を見上げ、整った彫像を思わせる引き締まった男の身体に身を竦める。異性をまるで知らない少女にとって知る全てが医師だったが、好ましいと考えて良いであろう。広い肩幅も着痩せする胸板の厚みも腕の逞しさも何もかもが頼もしさを感じさせる…それなのに怖いと思ってしまうのは何故だろう。
 そっと手を伸ばした男が少女の頬に手で触れる。脆い壊れ物を扱う様な力加減の指先は少女の華奢なそれと異なり、硬く、長い。これは性差なのだと医師を感じれば感じる程に少女の胸に深く異性として存在が刻み込まれていく。クリスマスイルミネーションの青白い光の手前で気難しく通りを見ている横顔も、微かな白い息も、少女の手には大きなホットワインのカップを指先で軽く持てる指も、病院では軽く撫で付けてある前髪がはらりと揺れる様も、元から食の細い自分を気遣い料理を勧める時のぽつりぽつりと話す硬質な声での命令形の言葉の思いやりも、胸の奥深くまで見透かして射抜く様な目の鋭さも、何もかもが、胸が痛くなる位に愛おしい。
 それでも、この思いは届かない。
「希望通りに犯してやろう」
 医師の胸に住まうのは、あの美しい女性だから。

 ぐいと押し込まれる傘に少女の全身が強張る。何度力を抜けと言われても抜く事が出来ない白い身体は汗に塗れていた。適当にしか拭われなかった湯は既にシーツに吸われているであろう。濡れたシーツは冷たくなる事もなく、生暖かく、少女の火照った身体に接する部分は蒸れる程熱くなっていた。
 入らない。既に皺が伸びた状態で医師の傘を迎え入れている窄まりだが、あと少し、いやまだ一番張り出した反り返る鰓とその手前で少女の孔は限界を訴えて男を拒んでいた。たっぷりと絡ませている白濁の潤滑剤が窄まりと傘の結合部に溜まり、僅かに男が腰を戻す度に傘に再び塗り込まれては、またぎちりと送り込まれていく。少女は知らないがワセリンとローションを混ぜた潤滑剤は垂れて流れるには硬く、だが執拗な抽挿を阻害しない程度に緩い。その滑らかさは多少の無理でも十分に通せる筈だったが、三本の指で馴染ませた拡がりはまだ男の肉槍の最も太い部分を捩じ込ませる迄には至れなかった。
 はくっと少女の口が揺れて酸素を求める。苦しさが酷い。裂けてしまうのではないかと恐怖する苦痛が止む事なく続き、これは男女の営みではなく拷問なのではないかと頭の中に生存本能的な危険信号が瞬く。やはり疎まれている自分を苦しめる事が医師の目的なのかもしれない、だがそれは不貞を避ける為ならば選択肢として正しいのであろう。我を失いかける痛みの中、不意に盗み見てしまう医師の表情は苦痛を与える罪悪感でなく、冷淡な、だが狂熱を孕んだ愉悦を漂わせている。
 声にならない苦悶を溢れさせる少女の窄まりに当てられた肉槍は勢いを失うどころか、びきびきと弾ける間際の腸詰めか鋼で作られたモノの様にもう長い時間猛り続けていた。本能的に逃れようとじわりと動く華奢な身体を男の腕が捉え、仕置きの様にずんと引き戻し、押し付ける圧が増す。
「楽にしろ」
 何度も繰り返された言葉だが息をするのもやっとの少女にそれに従う余裕はない。ひりつく喉に、何度か医師が甘い蜂蜜酒を口移しに飲ませてくれるお陰で焼き付く痛みが和らぎはしても、窄まりの苦痛は一切消えずに与えられ続けていた。生物的に不可能なのかもしれない。年齢的には少女は結婚も出来る筈で、それはつまり性交も可能な筈だが、自分は未成熟なのだろうか、それとも医師が立派過ぎるのか、いやあの女性と行えるのだから医師の身体に問題はない。つまり自分がおかしいのである。恐慌状態に近い中の推論に、少女は怯える。医師なのだから異常に気付けば即座に手を引かれてしまう、その後はただ職業的に労られてしまうだけだろう。二度と女性として扱われる事はない…疎ましい上に行き場のない憤りをぶつける対象ですらなくなってしまう。苦痛と不安に、少女は男の下で呼吸もままならない状態で身を強張らせ続ける。
 だが、そんな不安と限界と恐慌の中、少女の身体は精神を裏切る。
 全身から汗を滲ませるその張り詰めた窄まりのすぐ上で本来得るべき牡を求めて牝肉がいやらしく愛液を溢れ返し、ひくひくと膣奥から膣口までを波打たせる。男が何十何百と小刻みに穿ち続ける肉槍の揺さぶりに、仰向けになりほんの僅かに形を重みに撓ませた乳房は少女の怯えと真逆に撓わな膨らみを牡に食べ頃を唆す様に卑猥に揺れ動き、頂の可憐な乳首は愛撫をたっぷりと強請り硬くしこり、初々しくも艶めかしい鴇色の乳輪の周囲に無数に着けられた赤黒い歯形と吸い痕は男も所有物である事を誇る様ですらある。平時は透き通る様な白い肌が、男も執拗な責め苦に桃色に染まり、愛液と汗のにおいがベッドの上に漂い僅かな動きに攪拌された。思い違える事など出来ようもない程に、華奢な身体は発情しきっている。
 限界点は全く動かない様でいて、じわりじわりと進んでいく。だが確かに肉体的限度があり窄まりは引き伸ばされきった薄いゴムの様に頼りない。
 不意に、男の親指が少女の下腹部に伸び膨れきった肉芽を撫でた。
「――ひ……あ!」
 緊張しきった身体を駆け巡った強烈な刺激にびくっと少女の身体が跳ねる。今までも敏感な突起を弄ばれれば良過ぎる感度に電気を流された様な強い刺激に驚かされたが、苦悶の中のそれは一瞬で少女の意識を弾けさせる。何も迎え入れられていない牝肉がぎゅっと限界まで引き絞られ、白い腰と内腿が痙攣するその奥で、伸びた窄まりを穿ちかけている肉槍の鰓はあと指の横幅程度が残されているだけになる。だがその最後の鰓の部分は牝の中に溢れた精液を一滴も漏らさず確実に孕ませようとする牡の象徴の様に猛々しく大きく張り出し反り返っていた。処女のしかも窄まりには残忍な凶器に等しい。
 医師の用いる白濁の潤滑剤とは異なる粘度の少女の愛液は様々な体勢に変えられている間に柔毛までをねっとりと濡らしていた。それが医師の指の一撫でだけでぐちゅりと卑猥な音を大きく鳴らせ、異性の指が玩具の様に一捏ねする度に応え共に数を数える様にあからさまに淫水の音が連続する。
「ぁ…!ぁあっ、あっ…あ、ああぁ…っ、ゃ…っ、や…ぁあっ」
 ぎちぎちと窄まりを広げられながらの愛撫に少女の身体がベッドと男の間で跳ねる。枕で高くさせられている上に医師に開かれ身体へと曲げられた脚に、少女の腰は男を強請る様に突き出した形にされていた。強張り、痙攣する腰に一瞬ほんの僅かに医師の傘の圧迫から逃れられたと感じる間もなく、密着している凶器は再び突き立てられる。
 この痛みと苦しさは医師も同じなのではなかろうか、そんな当然の疑問に思わずこの場の支配者を見た少女は、男の表情に凍り付く。薄い、満足げな嗤い。苦痛に感じているのは自分だけなのだろうか、狭過ぎる孔を穿つのは牡にとっては負担にならないのだろうか。ぞくりと込み上げる性差の溝に少女は怖じ気付く。
「瑞穂」
 医師の声が聞こえる。冷淡な声に含まれているのは、愛玩動物の名を撫でながら囁く飼い主に似た滑らかな満足感だった。
 ぐちりと男の指がクリトリスを軽く押し潰しながら芯を捏ねる。苦しみに固まる身体に一気に鋭い刺激が駆け抜け、少女は思わず甲高い悲鳴をあげてしまう。静かな寝室に響く悲鳴に、マンションの隣人に届きはしないかと声を抑えようと手の甲で口を隠す少女の指で指輪が光る。華やかな駅前から近く都市の大動脈の国道に面しているが小高い丘にあるマンションの一画は閑静な住宅地であり、夜中は外界から切り離された様に静かだった。迷惑をかけまいとする仕草に、少女の意識が白くなる。
 この指輪は何なのだろう。あの美しい人にはもっと素晴らしい指輪が捧げられているのだろう。左手の薬指にあるのも偶然で、それなのに、華奢で繊細な意匠は優美で、そして婚約指輪の定番の石は小粒ではあるがとても存在感のある輝きで…期待をするなと言う方が無理だろう。
「せんせ……」
 鳴きながら救いを求める様に呼んでしまう少女に、更に屈位を押し込めながら覆い被さった男が左手の腹を軽く噛む。至近距離の大人の男の濡れて解れた前髪が少女を撫で、そして指を舐る舌の動きの淫らさに喘ぐ。窄まりを犯され裂けてしまうのではないかと思う程の痛みに呼吸が苦しいのに、医師の舌遣いは儀式めいて感じる位に恭しく、根刮ぎ理性を剥ぎ取る卑猥さで少女を支配する。ぬちゅりと男の口が指を咥え温かな口内粘膜に包まれた指を舌に舐られた瞬間、瑞穂の背筋が甘く妖しくざわめく。ひんっと小さく声が零れてしまう少女の指をゆっくりと男の口が舐る…まるで自分の指が医師の口を犯してしまっている様な、いややはり自分の指は犯されておりそのまま食べられてしまいそうで、それすら受け入れるのが自然に思えてしまう少女の膣奥がどろどろに蕩けていく。ぬろりと舌が滑るだけで達しかけてしまう。
 解され切っていてもなお窄まりに許容限界を僅かに超えた大き過ぎる傘の鰓を迎え入れられずにいる結合部が、少女のひくひくと戦慄く膣口から垂れる愛液に照る。苦しさに喘ぎながら至近距離で指を舐る男を少女は涙で滲む瞳で見つめてしまう。近過ぎる顔に殆ど光は回り込まない影の中、暗い色の瞳の微かな色合いと整った切れ長の目。すぐに逃げて逸らしてしまう少女と正反対に医師の目は全てを見透かしてしまっている様に注がれ続けている…いつも。
「ぁ…ぁぁぁ……っ」
 浅ましい物思いも持て余してしまう身体の疼きも、あの美しい女性の思いも医師自身の気持ちも全て飲み込んで望まれているのなら、許されるのではないかと少女の中の悪魔が囁く。責任を押し付けてはいけない、そう思う理性の細い糸が切れてしまいそうな苦しさに瑞穂は息を詰まらせる。息が出来ない。苦しさと気持ちの良さで全てが壊れてしまいそうになる。助けて欲しい。――誰に。一人しか、存在しない。思い浮かばない。誰かではなく、世界にただ一人。
「せんせ……ぃ……っ」
 鳴いた声が溶ける前に、指を咥えていた男がそれを解き、少女の指と指の間に舌を差し入れてきた。接吻を求められていると感じた少女の手が下がり、唇と唇が重なる。それが当然の様に、あるべき姿の様に男の唇がより深く重ねられ、少女の口内に舌が捻じ込まれ、小さな舌が絡め取られた。小鼻から官能の声が漏れ、ぐちゅぐちゅといやらしい水音を立てて男の舌が少女を舐る。ベッドと男の間で切なく僅かにくねる華奢な白い身体を男の腕が絡め取り、激しく抱き締める。
「――っ!」
 骨が軋む程の男の腕の力に、少女の意識がぱつんと弾けた。
 苦しさと快楽が医師の腕に抱かれている幸福感に溶かされ、膣奥の熱く蕩けきった塊と頭の芯が一気に開放される。全身が白く弾け、男の腰に左右に大きく割られている両脚の爪先まで火花が散り、小さな足の指が限界まで縮込まり逆に足は伸び、びくっびくっと激しく痙攣してしまう。男の口内で絶頂の嬌声が貪られ、仕留めた獲物を逃さない肉食獣の手が白い肌に痕が残りそうな程強く食い込む。
 ずぶ
 絶頂の激しい弛緩と収縮のその一瞬、強く突き立てていた肉槍の一番太い鰓の部分が少女の限界まで伸ばされている窄まりを超えた。重ねかけていた腰がぐいと押し出され、医師の長大な牡肉が瑞穂の中へと一気に送り込まれる。鰓は確かに一番太い箇所だが幹も基本的には少女の窄まりには太過ぎ、窄まりが限界まで引き伸ばされたゴムの様に張り詰め切っていた。白い処女孔を赤黒い幹がこじ開け、そして根本まで押し込んだ証の様に袋がひたりと尻肉の谷間に重なる。
 直前の抱擁の恍惚を砕かれた少女の瞳から、光が失われた。

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改訂版2212270425

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