■自循論::視点の無償性
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世界とは無作為に選ばれた視点の一つである。
この世界だけに、何か特別な「神」や「究極原理」や「時間の始まり」 を不自然に仮定する必要は無い。 そのような大袈裟な対価を払わずとも、宇宙とは、 無限に存在し得る視点のうちの一つであるに過ぎないわけで、 他の視点同様、存在することには理由も意志も不要である。
「存在」とは、取りも直さず「かたより」のことである。 「ズレ」とか「不完全」と言っても良い。 裏返せば、「均等」「完全」は「無」を意味する。 つまり、世界や宇宙は、その成り立ちからして 一種の
誤差
(エラー)である。
完全な調和・平静状態は、存在として成立せず、 全く同様に完璧な無秩序・乱雑状態も、無意味である。 即ち、「世界が現に有意味に存在している」ということは、 「世界が完璧に綺麗なものでは無い」ということの全くの同語反復である。 ………このことは、真理の求道者にとっては、 理屈では自明のことでも、感情的には受け入れ難いことかもしれない。
とにもかくにも、対称性は崩壊して宇宙は形作られてしまったし、
自循
構造から
派生
した、 「観測者かつ被観測物」である生命は、現にこうして宇宙に存在しているし、 そして私は、自分の意志とは無関係に現にここに生まれてしまった。 存在している以上、私は「誤差の落とし子」であり、 この宇宙の「イチバン最初の誤差」「遡及可能なギリギリの意味の素粒子」 「神の最初の一撃」「自循」が持っている意味と限界を、そのまま
継承
している。 現に私の知力・体力・記憶力・想像力には限界があり、 私に限らずあらゆる生命にとって有意味な物理量というのは 全て有限であり………人生は、その全ての可能性を表現し尽くし、 可能性の海に溶け込んで無意味になるよりだいぶ前に、 幕を閉じるように仕組まれている。 むしろこれらは、意味が発生するための前提条件とも言える。 例えば、寿命が無限の生命体で溢れている宇宙は、 最初から存在していないのと同値であり、無意味である。
完全に何も無い………主体的な無と、全てが無秩序に含まれている場、
無限乱雑空間
は、同義である。 私達には、「何もない」と「全てがある」を区別することは出来ない。 どちらも等しく全くの無意味であるからだ。 以上を総括すると、「意味」と「制限」は、一対のものであり、 同じ物の両側面(別名)ということになる。「陰-陽」「光-影」「正-負」 といった対(つい)と同様に、 「
意味-制限
」という対を捉えることが出来る。 何か「意味」があるならば、必ず等質等量の「制限」がある。 私達の毎日の生活の「うれしいこと」という意味は、 何らかの「制限」「制約」「限界性」を前提として存在する。 愛が壊れやすくなければ、愛を得ても嬉しくない。 金が無限に入手可能なら、給料など欲しくはない。 腹が減らなければ食事は楽しくないし、 眠くならないなら睡眠は快楽には成り得ない。 生き抜こうと思うのは、人は誰でもいつかは死ぬからである。 逆に言えば、制限が存在すれば、意味も自ずと生まれるのである。 良く出来たルールは、面白いゲームを形作る。 テレビゲームや、サラリーマン社会などが、好例であろう。
基本的に、全ての「意味」は、「制限」とペアで存在する。 では、無限乱雑空間から、ポロっとイチバン最初の「意味-制限対」が 対生成したのはどうしてだろうか。その「誤差」「ウソ」「不自然さ」が、 雪崩れのように様々な「意味-制限対」を生み出して、 全体として安定を図ろうとするのであるが……… それは、ウソを取り繕うために、 より多くのウソをつかなければならなくなる理由と同じ原理である……… その諸悪の根源たる最初の「ウソ」は、どうして生じたのであろうか。 この宇宙は、ご覧の通り、かたよっており、有意味であり、存在しており、 ウソでウソを塗り固めたような慌てぶりを曝け出している。 私の部屋の乱れ具合、無計画に伸びる街路、惑星や恒星や銀河団の、 整然としてもいなければ乱雑でもない、なんとかウソを誤魔化そうとしつつ 存在している姿を見るにつけ、 最初のウソはどのようなものであったのか、思いを馳せずにはいられない。 いずれにせよ、「最初の意味-制限対」(自循)は、無から対生成し、 増殖し、ウソの修繕が終わった所から部分的に対消滅を始め、 完全に辻褄が合って最後に宇宙の「意味」は消え去る。(宇宙は終わる。)
「光あれ!」………神が最初についた嘘。有意味の種。 その後、世界は、神の気紛れの嘘を一生懸命後始末するために、 増殖し、複雑化し、順次簡略化され、そのうち綺麗に消え去る。 ………ところで、この「考え方」には、暗黙のうちに、 生成から消滅へ、という「時間」が仮定されている。 実は、
時間
というのは、 物事を比較し、ズレを認識し、意味を生じさせるための
方便に過ぎない
。 本来、3次元空間の人間には、円錐を「徐々に大きく(小さく)なる円」 といった意味に観測する必要が無いのと同様に、 4次元空間の観測者には、この宇宙や人生や一切の意味を、 生まれて死ぬもの、と観測する必然性は全く無い。 観測者は、能力が無限ではないから ………宇宙の全時間・全空間の状態をバラバラのものとして一気に記憶し、 丸ごと実感してしまい完結する能力が無いから……… 理解の方便として、何らかの比較軸………時間が必要なのである。
神が最初についた嘘は、意味と制限の対が変化していく方向性を同時に定めた。 神が、最初の嘘を、東南東の方角に向って叫んだのならば、 過去は西北西になり、未来が東南東になる。 しかし、神は無数に存在する。無限乱雑空間のあらゆる場所で、 あらゆる方向に向けて、神は嘘を叫ぶ。 私達の宇宙なり世界は、そのうちの一つに過ぎない。 その「嘘の派生物」としてのこの宇宙が、比較的良く出来ている方なのか、 全くの出来損ないなのかはワカラナイ。 ともかく、神は無制限にある。つまり、総体としての神という概念は無意味である。 私達の 《この宇宙》 の諸悪の根源である 《唯一の神》 は、 私達にとってのみ極めて有意味に見えるが、 その神というのは、無限乱雑空間に無数に存在する視点の一つであり、 視点には神という自覚もなく、そもそも『視点そのものは存在ですら無い』。 部屋を入り口から見ると何とも思わなかったのが、 大掃除の時にテレビの裏に回って眺めたら、 途端に違った「意味」を持つように感じたとしても、 その「視点」は、あなたがテレビの裏に回ろうが、 一生そうしなかった場合であろうが、その部屋には無償で存在するのであり、 そして部屋には無数の潜在的な視点が無料で存在している。
ある世界、宇宙は、無数の「視点」の内の一つに過ぎない。 そして、視点そのものは、意志や神の存在とは無関係に 無償で転がっているものである。 こうして、この唯一の宇宙の特異性は消え去る。 ビッグバンの特異性の除去、ベビーユニバース、 量子力学の多世界解釈といった、 私達の見ている時間や宇宙の特別性、唯一性を除去する試みは、 「視点の無償性」の科学上の詩的表現である。 時間も宇宙も、ほかに幾らでもあるのだ。
無限乱雑空間に於いて、「ある視点に着目する」という 「制限」を受け入れることによって、 意味は生じ、時間の概念が必要とされ、宇宙は時間方向に膨張し、 そして複雑性の交差点に生命という自循構造の派生物が浮かび上がり、 世の中は「価値」や「意味」で溢れかえる。 宇宙の根本原因(意味の素粒子)としての、「神の最初のウソ」 それ自体は、無償の、何の意味のない視点であるにしても、 その視点から眺めた乱雑な部屋には、確かに「視線方向」という時間が流れ、 「意味-制限対」が対生成・対消滅を繰り返す壮大な「世界」が 立体映像のように浮かび上がる。
視点は、無料(タダ)で転がっているものである。 そして、視野内の全ての「意味」には、 それと同量同質の「制限」が付随している。 全て足し上げれば、どこにも「仕掛け」や「有償性」は無い。 何ら、不自然なところは無く、究極のゼロサム・ゲームの図式が完成する。 視点は与件であり、それに向って文句を言っても始まらない。 どうしても文句を言いたい人が、それに 「神の最初の一撃」とか「自循」とか「意味の素粒子」とか 「究極の
ピボット
」とか「最初の意味制限対」とか 「時間の始まり」とかいうレッテルを貼って考察し、 何か救いは無いものか………自分だけが死なずに済む方法は無いものか、 と腐心するのである。
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視点が無償に転がっており、無数の可能性の中から選択されたものに 特段の意味が無いとしたら、 何故、自循を継承するものは、無数の可能性の中から 「何かを選択してしまう」のであろう? (何故、波束は観測行為によって崩壊するのだろう?)
定義から、自循を継承するものは、有限性を内包する。 実は、「選択」「崩壊」「決断」「具体化」は、 有限のうちに終わる必要性から生じる現象である。 言い換えると、これらは、いつか終わるという性質の発現形態である。 「原因と結果」という
カテゴリー
で 「選択」と「終わり」を考えるのでなく、 これらは同じ概念の言い換え(異なる表現)だと考えるべできある。
有限原理
において、 いつか終わるという有限性が、 その自循構造における意味の根源(究極の根拠)となるが、 いつか終わるという有限性は、個々の瞬間(ステップ)においては、 視点を選択するという表現形を取る。 視点を選択しなければ、時間のステップは進行しない。 「視点を選択するという行為」と「時間の概念および時間の有限性」は 同時に立ち現われる。(“選択”というステップが時間概念の基礎にあり、 “なぜ選択してしまうか”という根拠に時間の有限性がある。)